一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- 福岡市のカーボンニュートラル経営促進事業補助金とは
1-1. カーボンニュートラル経営促進事業補助金の概要
1-2. 福岡市のカーボンニュートラルへの取り組み - カーボンニュートラル経営促進事業補助金の詳細
2-1. 申請受付期間および補助枠
2-2. 補助金の交付対象者
2-3. 補助金の交付要件
2-4. 申請手続きの流れ - 地方自治体の動向
3-1. 都市行政におけるカーボンニュートラルに向けた取り組みの背景
3-2. 二酸化炭素排出実質ゼロ表明 - 地方自治体の具体的な取り組み
4-1. 札幌市
4-2. 宇都宮市 - まとめ
2024年5月7日、福岡市は、金融機関と連携してカーボンニュートラル経営促進事業補助金の取り扱いを開始したと発表しました。
この補助金は、金融機関が提供する「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」に関連して、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出削減を目的とした融資の手数料を一部助成するものです。この取り組みは、福岡市のカーボンニュートラルへの努力をさらに加速させることが期待されています。
以下では、福岡市が進めるカーボンニュートラル経営促進事業補助金の概要と詳細、さらに最近の地方自治体の取り組みの動向について詳しく解説していきます。
1. 福岡市のカーボンニュートラル経営促進事業補助金とは
1-1. カーボンニュートラル経営促進事業補助金の概要
福岡市の「カーボンニュートラル経営促進事業補助金」は、金融機関が提供する「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」を対象とした2024年度から開始された補助事業です。
この補助金は、金融機関が独自に策定した融資フレームワークに対して、外部評価機関が「サステナビリティ・リンク・ローン原則」との整合性を評価し、商品化されたSLLフレームワークで融資を受ける事業者を対象としています。特に、温室効果ガスの排出量削減に貢献する「主要取り組み指標(KPI)」または「野心的なサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)」を設定する融資が補助対象となり、融資申込みにかかる融資手数料の一部を助成します。
「サステナビリティ・リンク・ローン(SLL)」とは、借り手のサステナビリティ・パフォーマンスの向上を促進するため、借り手のESG戦略に沿った「野心的なサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)」を設定し、達成状況に応じてインセンティブやディスインセンティブが発生するローンのことです。
近年、ESG投資の拡大に伴い、サステナビリティ・リンク・ローンの普及が進んでいます。福岡市もこの補助金制度を通じて、事業者が脱炭素経営にシフトする動きを支援しています。
1-2. 福岡市のカーボンニュートラルへの取り組み
カーボンニュートラル経営促進事業補助金の詳細について解説する前に、一度、福岡市におけるこれまでのカーボンニュートラルへの取り組みを紹介していきます。
福岡市では、脱炭素社会の実現に向けて「2040年度 温室効果ガス排出量実質ゼロ」のチャレンジを掲げており、2022年7月1日には、気候変動の影響への危機感と温暖化のもたらす深刻な状況を改めてあらゆる主体と共有し、連携・協力しながら、脱炭素社会の実現に向けて行動を加速させていく「脱炭素社会の実現に向けた福岡市行動宣言」を行いました。
また、2022年8月には、温暖化対策を総合的・計画的に推進するため、「福岡市環境審議会」および「福岡市地球温暖化対策実行計画協議会」における議論も踏まえながら改定作業を進め、「福岡市地球温暖化対策実行計画」を策定したことを発表しています。
なお、改定された「福岡市地球温暖化対策実行計画」においては、2030年度における温室効果ガス削減目標を「2013年度比で国の46%を上回る50%削減」とするなど、脱炭素化を目指して積極的な取り組みを行う姿勢を見せました。
さらに、2024年5月には、前述した目標を達成するには一人一人、一社一社の取り組みが不可欠であるとし、幅広い補助や支援などを含む「カーボンニュートラルパッケージ」を策定・実施することによって、市民や事業者の脱炭素行動を後押しすることを発表しました。
なお、カーボンニュートラルパッケージには「市民向けメニュー」と「事業者向けメニュー」が設けられており、市民向けメニューには、市民の脱炭素行動に対して交通系ICカードへ最大5,000円相当のポイントを付与する「ECOチャレンジ応援事業」や、太陽光パネルの導入等にかかる資金を補助する「住宅用エネルギーシステム導入支援事業」などが用意されているということです。
一方で、事業者向けメニューには、事業所に専門家を派遣し、省エネ対策等の助言・提案等を無料で実施する「事業所の省エネ支援事業」や、照明・空調・換気といった省エネ設備の導入にかかる資金を補助する「事業所の省エネ設備導入支援事業」などが用意されているということで、市民や事業者の脱炭素行動をより身近な形で後押ししています。
このように、福岡市はカーボンニュートラルの実現を目指してさまざまな取り組みを打ち出しており、自治体の脱炭素化に向けた活動をリードする存在となっています。
2. カーボンニュートラル経営促進事業補助金の詳細
2-1. 申請受付期間および補助枠
申請受付期間は、2024年5月7日(火)~ 2025年1月31日(金)までとなっており、予算がなくなり次第、受付が終了されるということです。
また、全体の補助枠は900万円と定められているほか、補助金の交付額は、補助対象経費の2分の1に相当する金額以内で、その上限は30万円となっています。
なお、補助金を交付する対象のローンは、市内に本店もしくは支店などを有する金融機関が取り扱っているサステナビリティ・リンク・ローンのうち、市が承認し登録されたものとされており、補助金の交付対象となる経費は、補助対象ローンの融資を受ける際に生じる融資手数料(消費税及び地方消費税相当額を除く。)と定められています。
このほか、交付申請については、同一事業所につき同一年度に1回限りとなっています。
2-2. 補助金の交付対象者
補助金の交付対象者は、市内に事業所を有する民間事業者および個人事業主で、具体的には下記のいずれの条件も満たす者とされています。
- 事業者であること。
- 地方自治法施行令(昭和22年政令第16号)第167条の4(一般競争入札の参加者の資格)の規定に該当するものでないこと。
- 本要綱第12条にかかる交付対象申請書提出時において、福岡市競争入札参加停止等措置要領に基づく競争入札参加停止もしくは排除に係る措置を受けていないこと。
- 補助金の交付対象申請の審査時において、福岡市税にかかる徴収金(福岡市税及び延滞金等)に滞納がないこと。
2-3. 補助金の交付要件
補助金は、下記に挙げるすべての要件を満たし、補助金の交付申請を行う事業者に対して、予算の範囲内で交付されるということです。
- サステナビリティ・リンク・ローン契約時の「主要取り組み指標(KPI)」または「野心的なサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPTs)」を、事業所での温室効果ガス(二酸化炭素)排出量の削減目標で設定していること。
ただし、SPTsの達成度評価の対象となる事業所の設定に関して、市内と市外の事業所を含めた複数の事業所を対象としているケースにおいては、次の通りとする。
- (ア) 申請者の住所が市内の場合は、対象事業所に1カ所でも市内の事業所があること
- (イ) 申請者の住所が市外の場合は、対象事業所の半数以上が市内の事業所であること
- 補助金を受領した後、申請者の脱炭素にかかる取り組みを市ホームページなどにおいて公表することに同意すること。
- 申請する補助対象ローンで融資を受ける際の融資手数料について、国などの他機関からの補助金の交付を受けていないこと。
2-4. 申請手続きの流れ
補助金の申請手続きについて、その具体的な流れは下記の通りです。
①補助金交付対象申請
補助金交付対象申請書および添付書類を提出する。
なお、提出期限は融資手数料を支払う日の前日までと定められています。
②審査
次に、内容確認および審査が実施されます。
万が一、不備や不足などがあった場合、申請内容の是正もしくは修正などが指示されます。
このほか、市税納付状況にかかる照会や、暴力団排除照会もこのタイミングで行われます。
③結果通知
その後、審査結果として、「交付対象決定通知書」もしくは「非対象決定通知書」が申請者に通知されます。
なお、審査から結果通知までは、およそ30日程度かかるとされています。
そして、融資手数料の支払いを経て、融資実行となります。
融資手数料の支払いに関しては、「補助金交付対象申請」後に行わなければならないため、審査の期間を考慮して、融資申込を検討する場合には早めに補助金交付対象申請を行う必要があります。
④補助金交付申請
ここまでのステップがすべて完了したら、補助金交付申請を行います。
交付申請には、「補助金交付申請書」および添付書類を提出する必要があり、提出期限は、補助対象ローンの融資手数料を支払った日から起算して45日(土日祝日の場合は、前営業日)または2025年2月28日(金)のいずれか早い日までと定められています。
⑤審査
その後、補助金交付申請の審査が実施されます。
なお、こちらも補助金交付対象申請と同様、内容確認および審査が行われ、万が一、不備や不足などがあった場合、申請内容の是正もしくは修正などが指示されるということです。
⑥結果通知
審査が完了すると、結果通知が行われます。
具体的には、「交付決定通知書」もしくは「不交付決定通知書」として、審査結果が申請者に通知されます。
なお、審査から結果通知までは、およそ30日程度かかるということです。
⑦補助金請求
結果通知が行われ、無事に交付が決定すると、いよいよ補助金の請求が可能となります。
具体的には、「交付決定通知書」に同封されている請求書に必要事項を記入し、2025年3月15日(金)までに提出する必要があります。
⑧補助金交付
申請が終わると、実際に補助金が交付されます。
なお、交付までにはおよそ2週間程度かかるということです。
3. 地方自治体の動向
ここまで、福岡市が進めるカーボンニュートラル経営促進事業補助金の詳細について見てきましたが、ここからは、日本全国の地方自治体の最新の動きについて紹介していきます。
3-1. 都市行政におけるカーボンニュートラルに向けた取り組みの背景
地方自治体の動向を紹介する前に、まずは、なぜ都市行政におけるカーボンニュートラルに向けた取り組みがますます活発化しているのかについて、その背景を簡単に説明していきます。
そもそも政府は、2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言しており、この全国的な目標に向けてさまざまな政策を打ち出してきました。
そして、その一環として、2021年6月に地域の成長戦略ともなる地域脱炭素の行程と具体策を示す「地域脱炭素ロードマップ」が策定されました。
地域脱炭素ロードマップでは、2030年度までに少なくとも100カ所の「脱炭素先行地域」をつくり、重点対策を実行していくことが示されており、具体的な取り組みとしては、資源循環の高度化を通じた循環経済への移行や、住宅および建築物の省エネ性能等の向上などを行うことが掲げられています。
地域脱炭素は、脱炭素を成長の機会と捉える時代の地域の成長戦略として期待されており、こうした状況を受けて、地方自治体ではそれぞれ独自の取り組みがより積極的に展開されるようになっています。
3-2. 二酸化炭素排出実質ゼロ表明
環境省によると、2024年3月29日時点において二酸化炭素排出実質ゼロ表明を行っている自治体は、東京都・京都市・横浜市をはじめとする1078自治体ということです。
なお、内訳としては、46都道府県、603市、22特別区、352町、55村となっており、すでに多くの自治体がカーボンニュートラルに向けて動き出していることが分かります。
4. 地方自治体の具体的な取り組み
4-1. 札幌市
北海道札幌市は、2020年2月26日、「令和2年第1回定例会」の代表質問において、2050年には札幌市内から排出される温室効果ガス排出量を実質ゼロにすることを目指すとし、市民や事業者と一体となって、脱炭素社会の実現に取り組んでいく考えを表明し、国内で72番目にゼロカーボンシティを宣言した自治体となりました。
札幌市においては、このゼロカーボンシティの実現に向け、2021年3月に策定した「札幌市気候変動対策行動計画」に基づき、気候変動対策に取り組んでいます。
具体的には、「徹底したエネルギー対策」、「再生可能エネルギーの導入拡大」、「移動の脱炭素化」、「資源循環・吸収源対策」および「ライフスタイルの変革・技術革新というの5つの施策を設定し、施策ごとに2030年の温室効果ガスの目標削減量や成果指標といった客観的な数値目標を掲げて、関連するプロジェクトを推し進めています。
4-2. 宇都宮市
栃木県宇都宮市では、2021年3月に策定された「地球温暖化対策実行計画」に基づいて、行政活動における2030年度温室効果ガス排出削減目標45%達成に向けて、着実に取り組んできました。
こうした中、国のカーボンニュートラル宣言や「地球温暖化対策の推進に関する法律」の改正など、環境行政を取り巻く状況は大きく変化していることを受けて、2022年9月には「宇都宮市カーボンニュートラルロードマップ」を策定し、行政活動における2030年度温室効果ガス排出削減目標について、2013年度比45%削減から75%削減と大幅な見直しを実施しました。
こうしたことから、ロードマップとも整合を図りながら、新たに掲げた削減目標の達成と2050年カーボンニュートラルの実現に向け、施策事業を位置付け、計画的に脱炭素化を推進していくため、2024年3月に新たに「宇都宮市役所カーボンニュートラル実行計画」を策定しました。
具体的には、行政活動における温室効果ガスの排出源(電気、燃料、廃棄物)ごとに施策体系を整理し、各取り組みの計画的な推進および効果的な進捗管理を行うとしています。
なお、実際の事業内容としては、全市有施設へのLED照明の導入や、空調設備の高効率化、太陽光発電設備の最大限導入、公用車の電動車化、重油等使用設備の電化・燃料転換などが挙げられています。
5. まとめ
日本政府は「2050年カーボンニュートラル」という目標を達成すべく、「地域脱炭素ロードマップ」を策定し、国だけでなく、都市行政における脱炭素に向けた取り組みについても積極的に推進しています。
実際、2024年5月7日には福岡市が金融機関と連携したカーボンニュートラル経営促進事業補助金の取り扱いを開始したことを発表しており、市民や事業者の脱炭素行動をより身近な形で後押しすることに尽力しています。
また、すでにほとんどの都道府県が二酸化炭素排出実質ゼロ表明を行っており、各自治体では関連する補助金なども提供されて始めているため、ぜひ一度自身の属する自治体の動きについて理解を深め、脱炭素に向けた取り組みを自分事として考えながら、できることから始めていくようにしましょう。
中島 翔
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