最近、専門誌・一般誌を問わずESG(環境・社会・ガバナンス)という用語についての関連記事が頻繁に出てきます。しかし、具体的にESGのさまざまな問題に取り組んでいる企業は限られています。
今回は、本業を通じた先進的なESGの取り組みを行っている会社として、化粧品の製造・販売の「資生堂」を取り上げて行きます。今後の株価動向の見通しも解説していきます。
※2022年8月17日時点の情報をもとに執筆しています。最新の情報は、ご自身でもご確認をお願い致します。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定のサービス・金融商品への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
目次
- 資生堂とは・企業概要
- 資生堂のESG経営
2-1.GPIFのESG指数構成銘柄に選定
2-2.TCFDへの賛同を表明
2-3.グループ調達方針について - 対話を深め、社会と向き合う
3-1.がん患者との対話
3-2.動物実験に対する意見の相違をはっきりさせる - 近年の株価動向は?
- まとめ
1 資生堂とは・企業概要
資生堂は、1872年、明治時代に東京の銀座で創業者の福原有信氏によって創業された歴史ある企業です。社名は「易経」という中国の古典から命名されています。易経には、「大地の徳の素晴らしさを称え、世の中のものすべては大地から生まれる」という一節があります。
資生堂はスキンケア、メイクアップ、フレグランスなどの「化粧品」を中心とした事業展開を行いながらも、そのほか「レストラン事業」「教育・保育事業」など幅広く展開しています。 本業の化粧品だけにとどまらず、世界中のお客さまの生活に新しい価値を創造し、「ビューティーイノベーション」で社会に貢献したいと考えている企業です。
では、ESGの取り組みについて詳しく見ていきましょう。
2 資生堂のESG経営
資生堂は「企業活動は経済価値のみならず、社会価値の創出も重視される。企業が発展していくためには社会の継続性に寄与していかなければならない」という信念のもと、より良い社会課題を解決すべく多様な活動に取り組んでいます。
ESG経営においては、サステナビリティを経営戦略の中心に据え2030年に向けた長期的な視野でサステナビリティアクションを策定しており、「For People」「For Society」「For the Planet」の3つからなる独自のフレームワークを掲げています。
資生堂のESG経営を評価する上では、以下の3つの特徴が挙げられます。
- GPIFのESG指数構成銘柄に選定
- TCFDへの賛同を表明
- グループ調達方針
それぞれの特徴について詳しく見ていきましょう。
2-1 GPIFのESG指数構成銘柄に選定
資生堂は、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資のために採用している以下5つのESG指数に選定されています。
- FTSE Blossom Japan Index
- FTSE Blossom Japan Sector Relative Index
- MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数
- MSCI 日本株女性活躍指数(WIN)
- S&P/JPX CARBON EFFICIENT INDEX
GPIFがESG指数を採用以降、国内株式を対象としたすべてのESG指数の構成銘柄に継続選定されているのです。
2-2 TCFDへの賛同を表明
資生堂は、金融安定理事会(FSB)(※)により設置された「気候関連財務情報開示タスクフォース(以下TCFD)」の提言へ賛同を表明しています。気候変動に関する対応を優先事項の一つとして捉え、CO2排出削減を含む様々な環境対応策に積極的に取り組み、サステナブルな社会の実現に貢献しているのです。
気候変動が資生堂の事業活動に及ぼす影響を特定、評価し、TCFDの推奨する「ガバナンス」、「戦略」、「リスクマネジメント」、「指標と目標」の観点から、気候変動対応を推進し、TCFDに即した情報開示を積極的に行っています。
2-3 グループ調達方針
資生堂は「責任ある調達」(※)の方針に基づき、差別・虐待・ハラスメント・強制労働・人身売買・児童労働の禁止・安全な職場環境や健康的な施設の提供など、幅広い基準でサプライヤーに同意を求めています。詳細は、「資生堂グループ 調達方針」に記載されています。
また、生物多様性保全・廃棄物削減・省資源・リサイクル・汚染防止などの環境保護に関する基準や、サプライヤーと協力したCO2排出量削減も約束しています。
(※)各国の金融関連省庁及び中央銀行からなり、国際金融に関する監督業務を行う機関
新規サプライヤーとの取引に先立っては、高リスクと判断されたサプライヤーには、一定の不適合是正期間を設け、期間以降も是正しない場合は取引停止を検討することになっています。
3 対話を深め、社会と向き合う
ESG経営を実践していく上で、資生堂には社内外において様々な対話を試みるという企業文化があります。
ここでは、丁寧な対話を通じて、社会の期待に応えながら自社の存在意義をより明確化した「がんサバイバー」に対するケアや、積極的に社会課題を採り上げた化粧品の研究開発プロセスにおける「動物実験廃止」の二つの事例を紹介したいと思います。
- がん患者との対話
- 動物実験に対する意見の相違をはっきりさせる
3-1 がん患者との対話
現在、治療技術の進歩や早期発見により、就労をしながら通院しているがん患者も増加しています。そのため、美容上の悩みや外見の変化を意識される方も多く、メイクでカバーするニーズが高まってきています。
資生堂の「資生堂ライフクオリティーメイクアップ」では、やけど跡、傷跡、あざ、白斑、がん治療の副作用による外見変化でお悩みの方の「QOL(生活の質向上)」に取り組んでおり、様々な地域で活動を展開しています
がん治療を終えると、日常生活に戻ったときに直面するのが副作用に伴う悩み、外見上の変化が出てきます。資生堂は、がん治療中の方特有の肌の悩みに対応する個室での対話・アドバイスも行っています。
3-2 動物実験に対する意見の相違をはっきりさせる
もう一つ、資生堂は化粧品の研究開発プロセスにおける動物実験廃止に向けた取り組みをしています。是か非といった二項対立ではなく、社会としての向かうべき方向性や次にそれぞれがやるべきことを明らかにしていきます。
化粧品・医薬部外品における社内外での動物実験は、動物実験代替法を中心とした新安全性保証体系を確立したことにより、廃止しています。研究開発における動物実験の廃止という社会課題については、さまざまな考え方が存在する上、消費者にその問題の所在自体が理解されにくいですが、資生堂では、対話を重ねることによって意見の相違をはっきりさせ、今後の課題を明確にします。
もちろん、資生堂は動物実験の廃止を企業の方針として掲げ、その実現に取り組む当事者ですが、しかし、資生堂が開催した一連の円卓会議は、同社のみならず対話に参加したステークホルダーそれぞれが、当事者として社会課題に向き合えるようつくりこまれた一連の対話の積み重ねを繰り返しています。
製品作成に関する社内外だけでなく、ステークホルダーも企業の方向性について話し合うことができることは、資生堂のESG経営の良さだと考えます。
4 近年の株価動向
2020年後半以降、化粧品業界はコロナ禍での外出控えが続き、また外国人観光客の減少でインバウンド需要が消滅し、総需要はコロナ前の3割減程度が続いています。一旦は首都圏のコロナ感染者数が大幅に減少する中で外出は徐々に増えているものの、リモートワークの定着やマスク常態化もあって、日本人の需要だけを見ても従来水準にはまだ届いていません。
コロナ禍以前は、資生堂はインバウンド需要や中国事業が好調なこともあり、業績は絶好調で株価も大きく上昇していました。しかし、新型コロナ拡大によるインバウンド需要の消滅により業績が悪化、株価も大きく下落しています。
他方、資生堂の事業は、人口が減っていく日本市場だけではなく、売り上げの半分以上は海外市場となっており、特に中国事業の伸びが資生堂の成長を支えています。途上国の経済発展が続く場合は継続的な売り上げがあると考えられ、短期的な調整局面の影響を受けた場合でも、長期的には資生堂の業績や株価に期待していけるでしょう。
5 まとめ
ESGは当初、社会課題への自主的な対応から始まりましたが、のちに機関投資家により、長期収益獲得を図る上での重要な非財務情報として位置づけられるようになりました。その後、国連が責任投資原則(PRI)を公表し、持続可能な社会発展に資する活動としてESGを重要視した投資が広く普及しました。
近年では、日本企業はESGを存在価値向上や将来のビジネスチャンスとして捉えており、ESGが企業にとって株主対応以上の意味合いを持つようになったことがうかがえます。
資生堂は、対話に代表されるように、地域、⼈と⼈とのつながりといった社会の中で誰かの困りごとに対し、「化粧のちから」を通じて解決する営みを事業として成⻑させてきた会社です。社員一人ひとりが、社会課題に向き合い、対話の質と量を高めることは、資生堂の事業そのものをアップデートするまたとない契機ではないでしょうか。
一般には遠いと思われがちである「社会課題」と「事業」ですが、資⽣堂が挑むビジネスは、社会課題解決に直結するものであり、同時に事業拡大のチャンスでもある、という両輪の発想があります。
資生堂が行なっている社会に対する働きかけや対話がますます重要となるでしょう。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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