デジタルデータ保管に伴う環境課題は?解決に取り組む企業と私たちにできること

コロナ禍を経て、データを紙からデジタルへ移行するペーパーレス化の動きが加速しました。ペーパーレス化することで、資料を紛失するリスクの軽減、保管場所の省スペース化、リモートワークを行う際の利便性などメリットがたくさんあります。また、デジタル化することで紙の使用を抑えられるため、「ペーパーレスはエコ」という認識を持っている方も多いのではないでしょうか。

しかし、エコなイメージとは裏腹に、データのデジタル化もまた環境負荷をかけているという実態があります。この記事では、デジタルデータ保管に伴う環境課題と、その解決に向けて取り組む企業の活動、個人ができるアクションをご紹介します。


※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年10月6日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

目次

  1. デジタルデータによる環境負荷
    1-1 デジタルデータの保管方法
    1-2 近年のデータ量増加
    1-3 データの保管が環境に及ぼす影響
  2. 省エネルギーなデータ保管技術とは
    2-1 LTOテープストレージ
    2-2 LTOテープのメリットとデメリット
    2-3 LTOテープの活用方法
  3. 富士フイルムの取り組み
  4. 私たちにできること
  5. まとめ

1 デジタルデータによる環境負荷

デジタルデータを保管することが、なぜ環境に負担をかけるのでしょうか。その理由を解説します。

1-1 デジタルデータの保管方法

大量のデジタルデータは、多くの場合データセンターに集約して管理されます。クラウドサービスを活用する場合もありますが、その際もクラウドサービスを運営する会社のデータセンターで管理されています。データセンターには、ハードディスク(HDD)やソリッドステートドライブ(SSD)などのストレージメディアが常時稼働しており、いつでも情報を呼び出せるようにスタンバイしています。使う側としては、データを保管している場所を意識することはありませんが、実際はこのように物理的な場所が必要なのです。

1-2 近年のデータ量増加

ここ数年で、デジタルデータは増加しています。調査会社のIDCによると、2020年に全世界で保存されたデータ量は約4ZB(ゼタバイト)で、2015年比で2倍以上となっています。1ZBは10億TB(テラバイト)になりますので、40億TBとイメージするとその膨大さが感じられるでしょう。

さらに、技術の進歩によって1つあたりの画像や動画のデータ量自体が大きくなること、収集できるデータ量が増えること、一度に大量のデータが送れるようになることなどにより、データの量はさらに増加する見込みです。IDCによると、データの保存量は2025年には約11ZBに増大すると予想されています。

(※参照:富士フイルム「IDC 持続可能性重視のストレージ戦略で加速する グリーンデータセンターへの転換」)

1-3 データの保管が環境に及ぼす影響

デジタルデータを保管することは、環境にどのような影響を及ぼすのでしょうか。

先述の通り、保管される大量のデータは、多くの場合データセンターに集約されます。データセンターではデータ保存のためのストレージメディアが常に動いています。それだけでも電力を消費しますが、たくさんのコンピュータが稼働することで施設内は高温となるため、冷却に多くの電力を必要とします。

経済産業省が2022年に発表した資料によると、2018年における国内のデータセンターの消費電力量は約140億kWhと推計され、日本全体の消費電力量(9,815 億 kWh)の約 1.4%を占めています。データ量の増加に伴い消費する電力量も増えていくと考えられており、同省によると2030年には2018年比で約6倍以上に増加するとの分析もあります。

このように、デジタルデータ保管によるエネルギーの消費量は大きく、それに伴うCO2排出などによって地球温暖化の一因になっているといえます。

さらに、HDDやSSDなどの記録メディアの寿命はそれほど長くなく、10年に満たないといわれています。そのためE-waste(電気電子機器廃棄物)が発生する問題もあります。

(※参照:NEC「SSD の耐用寿命について」)

2 省エネルギーなデータ保管技術

環境への負荷を抑えながら、大量のデジタルデータを保管する方法が模索されています。データセンターで使用する電力を再生可能エネルギーに変えることも解決策の一つですが、消費電力量自体を抑えられるデータ保管技術として挙げられるのが、LTOテープストレージ(以下LTOテープ)と呼ばれる記録メディアです。

2-1 LTOテープストレージとは

テープストレージ自体は1950年代に登場し長い歴史を持っていますが、環境負荷の低い記録メディアとして近年改めて注目されています。仕組みとしては、一昔前に家庭で使われていたビデオテープなどと同じで、磁気テープでデータを記録するものです。

現在は身の回りでテープを使った記録メディアを見かけることはほとんどなくなりましたが、2000年に入ってLTO(Linear Tape-Open)という規格が登場し、LTOテープとしてBtoB向けに進化を続けてきました。

(※参照:一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)「テープストレージ専門委員会」)

2-2 LTOテープのメリットとデメリット

それでは、LTOテープはどのような使い方ができるのでしょうか。まず、メリットとデメリットを見ていきましょう。

メリット

一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)・テープストレージ専門委員会の調査によると、LTOテープはHDD等のディスク型ストレージと比較し、トータルコストを3割から7割程抑える他(容量によって異なる)、消費電力量とCO2排出量を約9割抑えられます。この理由として、LTOテープはデータの読み書き実行時が主な電力消費のタイミングであるのに対し、ディスク型ストレージはアイドリング時にも通電され一定量の電力が消費されるためです。

また、LTOテープは長寿命で、50年以上も安定して保管できると言われています。廃棄物の量もHDDをLTOテープに置き換えた場合、80%削減できるとされています。

(※参照:富士フイルム「富士フイルムが目指すGreen Digitalとは?」)

デメリット

その一方で、LTOテープには弱点もあります。まず、アクセスの利便性の問題です。LTOテープは、磁気テープの先頭からデータを保存していきます。テープは物理的なものなので、HDDなどのように必要なデータへダイレクトにアクセスすることはできません。そのため、ビデオテープの早送りや巻き戻しのようなことを繰り返して目的のデータを探すことになります。さらに、ディスク型と異なり上書きができないというデメリットもあります。

以上の理由から、LTOテープは、頻繁に利用したり、書き換えたりするデータの保管には向いていません。

(※参照:パナソニック「LTOとは?基本的な知識や特徴とメリット・デメリットをご紹介」)
(※参照:富士フイルム「LTOテープとハードディスク (HDD)の違いを比較」)

2-3 LTOテープの活用方法

それではLTOテープは、どのように活用するのが良いのでしょうか。

LTOテープの特性が生かせるのは、使用頻度が低いデータ(コールドデータ)の保管です。たとえば、コンプライアンス対応など長期保管が必要なデータや、蓄積データの保管が挙げられます。例として、以下の分野が挙げられます。

  • 大量の映像データを扱う放送局や制作会社
  • 大量の取引データを残す必要のある金融機関
  • 長期間にわたり国民の個人情報を保管する必要のある政府や地方自治体
  • 長期間にわたり医療データを保管する必要のある医療機関
  • 大量のデータを扱うIT企業
  • AIやIoT等に取り組む研究機関や事業会社

また、富士フイルムによると、企業などで保存されるデータの60%から80%はアクセス頻度が低く、コールドデータに分類可能ということです。先述したように、今後ますますデータの取引量・保存量が増加する中、コールドデータの量もますます増えていくでしょう。LTOテープを使ったデータ保管は消費電力が少なく、ランニングコストが安価です。大量のコールドデータの保管を、HDD等のディスク型ではなくLTOテープで行うことで、環境負荷とコストを抑えることにつながります。

(※参照:富士フイルム「容量、速度、コストまで――進化を続けるテープストレージの知られざる実力とは?」)

3 富士フイルムの取り組み

LTOテープの主要企業である富士フイルムは、デジタル分野でCO2排出量削減につながるアクションの一つとして、低エネルギーでデータを保存できるテープ技術の開発・普及に努めています。同社は、CO2排出量削減目標として、「製品ライフサイクル全体で2030年度末までにCO2排出量50%削減(2019年度比)」や「製品・サービスを通じて2030年度までに社会でのCO2排出削減累積量90百万トンに貢献」を掲げています。そして、そのための製品事例の一つとして、テープ普及による省エネルギーを挙げているのです。

2023年10月現在最新のLTOテープ「LTO9」の記録容量は1巻あたり18TBですが、2020年6月に富士フイルムはIBMとの共同開発により、テープ1巻あたり580TBを記録する技術開発に成功したと発表しました。これは、DVD約12万枚分相当のデータ量に値します。こうした技術開発により、今後ますます増加するデジタルデータの長期保管への対応と、顧客企業や社会全体の環境負荷の低減に寄与することを目指しています。

(※参照:富士フイルム「富士フイルムが目指すGreen Digitalとは?」、「LTOテープ」、「サステナビリティレポート」)

4 私たちにできること

保管されているデータは、物理的には私たちの目に映りません。クラウドサービスなどは便利ですが、無限にデータを保管できるように感じてしまい、環境への影響を意識しにくくなる側面もあります。しかし実際には、データを保管するための機械、それを動かす電力、設置するための場所などが必要であり、それぞれが大切な資源です。

今、私たちにできることはなんでしょうか。

個人が所有するデータは、技術の進歩により今後も増えていくことでしょう。データ保管が必要な場面も多くあると思います。データ保管をする際には、多くの資源が使われていることを意識したり、クラウドの容量を増やす代わりにこまめに不要なデータを削除したり、データの保管方法を見直したり、必要以上に大容量のデータを使わないと心がけたりすることが大切です。

5 まとめ

富士フイルムは、世界4か国(日本、アメリカ、ドイツ、中国)の各企業における経営層1,200名に対して、2021年11月に「データ保管における環境課題に関するグローバル意識調査」を行いました。この結果では、企業のCO2排出の一因として「データ保管」を認識している管理職は世界では6割に留まっています。さらに、日本ではわずか37.1%の管理職にしか知られていないということがわかりました。

MicrosoftやGoogleでは、すでにLTOテープを活用し膨大なデータを管理しています。こういった事例を皮切りに、保管するデータ量の増加が環境負荷になっているという事実が広く認知され、企業や個人がデータ管理の在り方を見直す動きが今後活発になることが期待されます。

またデータ管理を見直すことで、コスト面でのメリットも期待できるかもしれません。ぜひ、できることから取り組んでみてください。

(※参照:富士フイルム「世界のプラットフォーマーがデータのバックアップ、アーカイブで頼りにする「テープストレージ」とは」)

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松尾 千尋

名前:まつおちひろ 金融機関に14年ほど勤務。大学卒業後は、都市銀行で資産運用コンサル業を担当し、FP1級を取得。外資系保険会社に転職後、クレジットアナリストとして投資先の調査・分析・レポート執筆などを行い証券アナリスト資格を取得。現在はライターとして独立し、金融・ESG・サスティナビリティに関する記事を中心に幅広く執筆活動を行う。別分野では、整理収納アドバイザー・インスタグラマーとしても活動中。/ Instagram : @mer_chip310