「林業を、自然資本の守り手にしたい」 GREEN FORESTERS 中井代表にインタビュー

戦後の復興期から高度経済成長期にかけて、増加した木材需要を支えていたのは、林業でした。しかし、安価な輸入木材が入ってくるようになり、日本の林業経営が苦しくなった結果、林業就業者は減少し続けています。森林に人の手が入らず荒れることで、土砂災害のリスクが高まるなどの課題も出てきています。

林業を魅力的な産業に変え、従事する人を増やそうと取り組んでいるのが、植林・育林に特化した企業「GREEN FORESTERS」です。

「自然の中で体を動かし、森をつくっていく育林の仕事は、本来とても魅力的なんです。」

そう語るのは、代表取締役の中井照大郎さんです。今回は中井さんに、これからの林業のあり方についてお話を伺いました。

話し手:株式会社GREEN FORESTERS代表取締役 中井 照大郎(なかい しょうたろう)さん

大学卒業後、2011年に総合商社に入社しインドネシアのLNG(液化天然ガス)プロジェクトへの投資業務やオペレーションに従事。その後、再生可能エネルギーのベンチャー企業である自然電力を経て、2017年4月西粟倉村へ移住。同年10月、森林管理専門会社である株式会社百森を創業、代表取締役共同代表に就任(現任)。
2020年7月、東京へ戻り、育林事業で全国展開を目指す株式会社GREEN FORESTERSを創業、代表取締役に就任。

1 GREEN FORESTERSの創業経緯を教えてください。

大学時代にインドネシアの元紛争地でインターンをしていたときから紛争問題に興味があり、卒業後は総合商社で海外の天然ガスなどの事業投資に関わっていました。学生時代の経験や仕事をしていくうちに、資源の奪い合いで起こる紛争をなくすことに貢献したいと思うようになりました。

エネルギーを取り巻く課題を抜本的に変えることは難しいですが、何か少しでも良くできるような取り組みをしたい、という思いがありました。そのためにはまず「身の回りの資源をちゃんと使っていく」ということが必要だと思ったのです。

日本にある資源といえば豊かな森林ですが、使われていない森林が様々な課題を引き起こしているという現状があります。目の前に豊かな資源があるのに、なぜ活用されていないのか。その理由は、経済的合理性がとれないことにあるのではないか、と考えました。

せっかく持っている良いものを活用できないことって、すごくもったいないですよね。しかも、活用を進めることで、様々な課題も解決できるかもしれない。これはなんとかする価値がありそうだと可能性を感じました。

GREEN FORESTERSを始める3年前の2017年に、岡山県西粟倉村という人口1400人にも満たない村で百森という森林管理専門の企業を立ち上げました。そこで林業に携わるうちに、林業を取り巻く課題は複雑に絡み合っていることがわかりました。

森林が放置されている理由は、特に根深いです。山の所有者が不明であったり、従事者の労働環境が充実していないことも理由の1つです。従事者の労働環境については特に深刻で、伐採など生死を左右しうるような場所で高い集中力が求められる現場にも関わらず労働時間が長く、労災発生率は全産業トップです。従事者の給料がとても安い、その結果従事者がどんどん減っているなど、課題は山積しています。

いろんな問題が絡まっている中で、まずどこを解決すれば林業全体の課題解決に繋がるか。自分の中で一つの結論に辿り着いたのが、木を植えて育てる「植林・育林」の担い手不足の解消です。森林の放置が進むのは、森林を経済価値に変換できる人がいないから。

自分たちがそのポジションを担えれば、日本の森林がちゃんと活用されて放置林も減り、持続的に循環させていくことができると考え、植林・育林事業を専門におこなうGREEN FORESTERSを立ち上げました。

2 GREEN FORESTERSでは、林業のどのような部分を変えたいとお考えなのでしょうか。

僕たちは、林業の定義を変えたいと思っているんです。

林業はこれまで、森林から木材の価値を取り出す、ということをやってきました。木材需要は今もありますが、海外から調達した方が安いケースが多いのが現状です。日本の森林には、木材としての優位性はそれほどないのかもしれません。

しかし森林は、木材だけではなくて色々な価値を持っているんです。たとえば、生物の多様性を守る、CO2を吸収する、水源を守る、災害を抑制する、といったことです。いわゆる自然資本というものですね。

僕たちは林業を「自然資本の守り手」にしたいと思っていて、それが今後長い時間をかけてやっていく自分の仕事かなと感じています。

3 林業の定義を変えることができたら、林業を取り巻く環境はどのように変わるでしょうか。

育林従事者は、2000年から2020年の間で、58%も減少(※総務省「国勢調査」)しました。背景には、育林の現場作業がきつく危険で、かつ賃金も低いということがあります。

育林従事者の賃金が低いのは、林業が儲からない産業だからだ、と言われます。ではなぜ林業が儲からないのかというと、単なる「木材を提供する産業」に留まってしまっているからだと思うのです。

森林には、自然資本としてのたくさんの価値があるのに、木材以外の価値はこれまで注目されていなかったのではないでしょうか。林業が生み出す自然資本に対する報酬という概念すらなかったように感じます。

僕は、「自然資本の守り手」としての林業の価値が認められることが、育林従事者の賃金を上げる第一歩だと考えています。賃金上昇は、育林従事者を増やす材料の1つになり、林業の活性化につながると思います。

4 GREEN FORESTERSは、植林・育林をもっと働きやすい仕事にするために取り組んでいると伺いました。具体的にやっていることを教えてください。

実は、林業の古くからのやり方を踏襲している部分もあります。

昔の林業は日給制が主流でしたが、近代化の流れで月給制にしているところも増えています。でも僕は、林業には日給制の方が合っていると思い、古くからの日給制を採用しました。

理由は、日給制の方が休みやすいからです。僕たちの仕事は、雨だとあまり活動ができないなど、天気に非常に左右されるんですね。日給制だと調整がしやすいというメリットがあって、それが林業には合っていると思うんです。

安全面でも、休みやすいことはメリットです。僕たちの仕事は、体を使うし危険も伴うので、少しの体調不良が大きな事故につながってしまうことがあります。ですので、ちょっと今日は体調が悪いから休みたい、というときに、気軽に休めることがとても重要になってきます。月給制だと、休んだ日も給料が発生してしまうので休みにくいですが、日給制であれば、たとえば「二日酔いだから休みたい」といった突発的な休暇のニーズにも応えやすいんです(笑)。

また、休暇の制度も工夫しています。林業は、週休2日もしくは週休1日でやっているところがとても多いのですが、僕たちは3日働いて1日休むという体制です。

理由としては、肉体労働で体にかかる負担がとても大きいので、5日連続で働いていると本当にしんどいからです。世の中は週休2日の企業が多いですが、僕たちに合った休暇のバランスを見つければいいんじゃないかと、働き方を見つめ直しました。その結果、3日働いて1日休むスタイルが一番やりやすいという結論になりました。土日に休めないと、たとえばお子様の学校の休みと合わないといった不都合も出てきそうですが、日給制なので、土日に休むことも可能です。

柔軟性のある働き方に魅力を感じて入社するメンバーも多いんですよ。

5 メンバーの育成について、意識していることや取り組んでいることを教えてください。

自分の得意な分野や、好きなものごとを探すことを、会社の中で推奨しています。

淡々とストイックに生産性や技術を高めることが好き、という人もいれば、生き物が好きな人もいます。森の中での発見にワクワクする人もいます。みんなでチームワークを高めて、生産性を上げていくことに楽しみを見出す人もいます。

同じ育林という仕事でも、人によって向き合い方は結構違うんだな、と感じています。だとすると、みんなが同じことで均等に高い能力をもつよりは、みんながでこぼこした違うスキルを発揮してもらった方が会社としても面白いし、幅も広がると思っていて。「みんな違うんだから、でこぼこさせていこうぜ!」という話は社内でよくしています。

自分が好きな分野の資格などは、推奨して補助金を出したりもしています。たとえば、森林コーディネーターという認定制度や、狩猟免許については、補助を半額出したりしています。メンバーが好きなことをやろうとした時に会社が背中を押す方法を、試行錯誤をしていますね。

6 様々な企業が環境に対する取り組みに関心を持ち始めています。GREEN FORESTERSには、どういった問い合わせや、協業の事例があるのでしょうか。

石油会社や通信キャリアなど様々な企業からお問い合わせを頂いています。企業活動を通して、工場や鉄塔をつくるなど環境を壊さざるを得ない活動は発生しますし、その過程でその場所にあった生物の生活場所をなくしたり生態系を破壊せざるを得ない場合はあります。

そこで、僕たちの活動ではそういった企業に、森づくりのための資金を拠出いただいて、生物多様性を高めるような取り組みに貢献していただいています。そのため当社では統合報告書など株主向けの資料に記載可能なデータを提供し、いただいた資金がどのようにして生態系の回復につながっているのかお示ししています。

少し変わった事例だと、牧場やスキー場など、森林やその周辺で事業を営んでいる企業様からのお問い合わせもあります。

7 事業を拡大する中で、金融や投資面で課題を感じることはありますか。

社会的インパクトを出していても、金銭的価値としてはまだまだ評価されづらいと感じています。

確かに、社会的インパクトは短期的にお金を生み出すものではないかもしれませんし、長期的に生み出す可能性のある価値を金銭に換算することは難しいと思います。環境価値はCO2削減量によって可視化されていますが、自然資本などの見えづらい価値も、もう少し評価する仕組みが必要だと考えています。

社会的インパクトに対する評価の仕組みが整い、取り組みをおこなう会社に投資した人がきちんとリターンを得ることができる制度ができれば、世の中はもっと変わるのではないか、と思います。

8 金融機関や投資家に対して、林業にこのように関わってほしいというお考えはありますか。

海外では、森林ファンドがリート(不動産投資信託)に近い形で存在すると聞きます。日本でも普及すると良いと思うのですが、実現していないのが現状です。その理由は、多々あると思いますが一つはリターンが低いからだと思っています。

リターンを上げるためのポイントは、「再植林にかかるコストを下げること」と「森林の集約化を進めて大規模化すること」だと考えています。

再植林とは、木を伐採したあとに木を植えることです。森をつくる大事な作業ですが、お金にならないという現状があります。木を伐採すれば木材として売れるので収益になりますが、植える部分はコストばかりかかって収益を生まないという課題を解決するための取り組みを進めているところです。

僕たちは、再植林を行ったことによるカーボンクレジットの販売や、ネイチャーポジティブに貢献するような森づくりに賛同してくださる企業様からのスポンサリングを活用し、30年以上の長期受託を前提に森林所有者がコスト負担なく再植林・育林ができるように取り組みを進めています。

そのため、既に大きく育った森林を伐採することによって得られた収入をすべて利益にすることができます。林業を収益化しやすくすることで、林業に対する投資を促進できるのではないかと考えています。

集約化とは、複数の所有者の隣接する森林をとりまとめ、一体的に林業がおこなえるようにすることです。多くの森林は個人が所有していて、細かく所有権が分かれてしまっているという現状があります。森林の資源を活用して、事業規模で収益化させるためには、ある程度まとまった森林面積が必要です。

森林を活用させてもらうためには、森林所有者との契約が必要ですが、所有者1人あたりの所有面積が狭すぎて、1人とだけ契約しても事業にならないんです。広い面積で事業を進めるには、4-5人の森林所有者にまとまって契約をしてもらうことが必要です。そのために集約化が必要なんです。

この集約化が、日本ではあまり進んでいません。そのせいで、森林が手入れをされない状態のままになってしまっているということがよくあるんですよ。集約化を頑張ってくれる人がいれば、森林をまとめて収益化できるようになります。

集約化をもっと大きい規模で行うためのサポートを、金融機関にしてもらえると状況が良くなるのではないかと思っています。海外では、ファンドを作って何万ヘクタールといった規模で森林の集約化を進めてファンドで所有し、伐採や再植林を行い、運用益でリターンを作る、というモデルがあります。

日本でも、再植林のコストの課題と、集約化の課題が解決できれば、収益が見込めるようになり、ファンドとして成立する可能性が出てくるのではないかと思っています。そうなれば、林業がより稼げる産業になって、森づくりがもっと進むと考えています。

9 読者の方にメッセージをお願いします。

林業の仕事というのは、ある意味で新しい産業になり得ます。木材生産という仕事から大きく転換するタイミングに来ていると思うんですよね。

僕は、林業をクリエイティブな仕事にしたいと考えています。

たとえば、人が住む場所に近い森と、人里離れたところにある森の役割って全然違いますし、数ヘクタール単位でその森が持つべき役割は変わるんですよ。役割を細かく分類し、それぞれの価値を定義して、その場所にふさわしい森をつくっていく、ということをしていきたいです。

それぞれの地域に合った森づくりを実現することは、面倒ですが重要です。これからの時代、気候変動の影響で気温は上がるし災害は激甚化していきます。当然、人々の生活圏を下支えする森の役割も変化していきます。解決していかないと今の時代のニーズには応えられないし、応えられないと僕たちも林業従事者としてしっかり収益を上げることが難しくなってくると思っています。

難しさも感じつつ、そこに面白さもすごく感じています。一つ一つの植林現場においてここにどういう要素を配置したら良いか、といったことを考えることって、すごくワクワクします。ここにこういう生き物がいるからこういう場所にしていこうといった森づくりを、面白がりながらやっていきたいですね。

どんなバックグラウンドを持っている人でも、きっと価値が発揮できる領域が、林業にはあると思います。まだ未開拓のところが多い分新しく価値をつくることができる部分は多いと思います(笑)。

興味がある方は、ぜひGREEN FORESTERSにご連絡いただいて、話だけでも聞いてみていただければと思います。

10 編集後記

お話を聞きながら、植林・育林という仕事は、ただ木を植えて育てるというものではなく、その地域に合った形に森林全体をデザインする仕事だということがわかってきました。日々自然と触れ合うことができる魅力と、GREEN FORESTERSの柔軟な働き方の魅力は、都会でのキャリアでは得難いものだとも思いました。

社会的なインパクトに対する価値を可視化することが難しい中、自分自身が「これは価値がある」と感じたものごとを、何かの形で応援する重要性は増しているように思います。お金では測れない価値に対してこそ、自分から積極的にアクションを起こすことを意識したいと感じました。

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松尾 千尋

名前:まつおちひろ 金融機関に14年ほど勤務。大学卒業後は、都市銀行で資産運用コンサル業を担当し、FP1級を取得。外資系保険会社に転職後、クレジットアナリストとして投資先の調査・分析・レポート執筆などを行い証券アナリスト資格を取得。現在はライターとして独立し、金融・ESG・サスティナビリティに関する記事を中心に幅広く執筆活動を行う。別分野では、整理収納アドバイザー・インスタグラマーとしても活動中。/ Instagram : @mer_chip310