エネルギーを選ぶことが、未来を変える デジタルグリッド株式会社 豊田代表にインタビュー

日本はものづくりの国と言われていますが、ものづくりには多くのエネルギーが必要です。一方で、昨今のエネルギー価格高騰が、企業を経済的に圧迫しつつあります。それにも関らず、再生可能エネルギー(以下、再エネ)により発電された電気が、使われずに余っているということを、ご存じでしょうか。

発電したのに電気が使われていないという再エネの課題に挑戦するのが、デジタルグリッド株式会社です。

従来、電気を使う企業は、電力会社が決めたプランに従って電力調達を行っていました。そのため、価格は電力会社によって設定され、また火力発電か再エネかなどの電源を選択することもできませんでした。

しかし、同社が提供する「デジタルグリッドプラットフォーム(以下、DGP)」を使うと、デジタルグリッドが仲介役となり、どういった電力を調達するかを、電力を買う企業が主体的に決定できるようになります。

「エネルギーを自由に選べるようになり再エネが普及すれば、エネルギーに関する多くの問題が解消できます。」と、代表の豊田さんは話します。

エネルギーを使う側が主体的にエネルギーを選べるようになることがどんな未来につながるのか、お話を伺いました。

話し手:デジタルグリッド株式会社 豊田祐介さん

2012年東京大学大学院工学系研究科修了。大学・大学院時代は、デジタルグリッドを提唱した阿部力也教授のもとで研究を行う。卒業後、ゴールドマンサックス証券に入社し、メガソーラーの開発や投資業務にも携わる。2018年よりデジタルグリッドに参画。2019年7月、デジタルグリッド株式会社代表取締役社長に就任。

1 「余る再エネ」の状況についてお聞かせください。

日本の再エネの発電設備容量は世界で第6位、再エネ電力比率は19.8%(2020年時点)と、まだまだ推進が求められる水準にあります。しかし国内の電力需給バランスを見ると、太陽光を含む再エネは、発電しても電気が使われず余剰になっているという矛盾した状況が起きているのです。

再エネが余剰になっている背景は大きく分けて2つあります。

1つ目は、2012年にFIT制度(再エネの固定価格買取制度。再エネで発電した電気は、小売電気事業者あるいは送配電事業者が国の定める固定価格で買い取ることが義務付けられた)が始まり、太陽光発電を行う事業者や個人が大幅に増えたことです。2020年時点で、太陽光発電設備の導入量において、日本は世界第3位となっています。

2つ目は、需要家が特定の事業者を選んで電力を購入する仕組みがなかったことです。

日本には多くの発電事業者(発電家)が存在しますが、発電した電気の買い手は大手の電力会社が主流です。電気事業法では、小売電気事業者の資格を持っていないと電気を使う側(以下、需要家)に直接電気を販売できない規則になっています。小売電気事業者は取引情報などを細かく記録し、報告しなければなりません。実務の複雑さも要因となり、資格を持つ発電家は多くありません。結果、大手の電力会社が小規模な発電家の発電した電気をまとめて買い上げ、需要家は大手の電力会社から電気を買うという構造になるのです。

再エネが余っている状況は、企業向けの電気料金を見るとよくわかります。企業向けの電気は、需要と供給のバランスによって30分単位で料金が決められていますが、晴れた日中は太陽光による発電量が多く、無料に近い電力価格になることがあります。(例えば、2023年11月8日、九州地方における13:00−13:30の電気の価格は、0.01円/kWh)。この状態は、作ったエネルギーが使いきれず『捨てられている』ことを示しています。

せっかく再エネで電気を作っても、使われなくてはもったいない。太陽光発電の事業者が儲からなくなってしまい、再エネ推進が滞ることにもつながりかねません。

2023年4月に、大手電力会社も日中の電力価格が安くなるような電力市場に連動する契約プランを展開し始めていますが、デジタルグリッドはそれに先駆け、2020年2月にデジタルグリッドプラットフォームという電力の民主化に向けたサービスを開始しました。

(※参照:資源エネルギー庁「日本のエネルギー 2022年度版 『エネルギーの今を知る10の質問』」、「第1節 固定価格買取制度の在り方⚪︎資源エネルギー庁」)
(※参照:JPEX「Enechange insight markets」)

2 太陽光発電などの再エネがより使われるようにするには、どうしたらよいのでしょうか。

企業が電力を自由に選ぶことができるサービス、「デジタルグリッドプラットフォーム(以下、DGP)」は、「エネルギーの民主化」を掲げるデジタルグリッドの主力事業です。

DGPを活用すれば、特定の発電事業者が発電する再エネを選んで調達することも可能です。活用いただくことで、再エネ利用を促進し、太陽光発電の事業者等の収益を安定させることにつながると考えています。

デジタルグリッド社HPより

DGPの特徴は、実質的に発電家と需要家が直接電力の取引を行える点です。DGPでは、発電家が小売電気事業者の資格を持っていなくても行える「卸売」を、発電家がデジタルグリッドに対して行います。そして、小売電気事業者の資格を持つデジタルグリッドが、発電家と需要家の間に入ることで、実質的に発電家と需要家が直接取引できる仕組みです。

送電線を流れる電気がどこで作られたのかを見分けることはできませんが、DGPではトラッキングで売り手と買い手を紐づけています。

例えると、ATMの振込と似ています。送り主が振り込んだ1万円と、受取人がATMから引き出した1万円は、違う紙幣です。でも、取引記録からは、送り主が振り込んだお金だと確認できますよね。これと似た仕組みで紐付けをしています。

また、DGPは需給調整の効率化にも強みがあります。

電気は貯めておけないため、作る量と使う量が一致している必要があります。使う量が多すぎて停電することはイメージしやすいかもしれませんが、作る量が多すぎてもバランスが崩れて停電してしまいます。

こうした状況を防ぐために、発電事業者は発電の計画を、小売電気事業者は需要の計画を作成する必要があります。計画通りにいかない場合は、送配電事業会社が過不足分の電力を補填してくれる仕組みですが、その代わり過不足を発生させた発電事業者や小売電気事業者は、ペナルティとして通常の料金とは別に設けられたインバランス料金を払わなくてはいけません。

発電事業者や小売電気事業者が需給を予測して計画を作成する際、エクセルなどを使って手動で行われる場合もあります。人手やコストもかかる上、予測の精度が悪いと高いインバランス料金を請求されてしまうため、事業者にとって収益への影響も大きくなります。

DGPでは、AIを使って需給調整を行っています。需給調整にAIを活用して計画が外れるリスクを抑え、かつ低コストでの運用を目指しています。

(※参照:e-gov「電気事業法」)
(※参照:資源エネルギー庁「小売電気事業の登録申請・届出」)
(※参照:電力・ガス取引監視等委員会「事業者の定期報告について(電気)」)

3 需要家側のメリットを教えてください。

電力会社から電力調達をする方法では、電力会社が決めたプランによって料金が決められていましたが、DGPを使うことで、需要家自身が発電所単位で電力の調達先を決められるようになります。また、「60%は太陽光、20%はバイオマス、20%は市場調達」など、調達割合を細かく決めることも可能です。DGPを通し、需要家がより安価な電気を選べるようになることで、支払う電気料金を下げられる可能性があります。

また、DGPを使って電力を調達する場合、需要家が払う費用は電気料金とDGPのシステム利用料です。従来、小売電気事業者のビジネスモデルは、特定の発電所から電力を卸値で仕入れて小売価格で販売するというモデルですが、DGPは発電家と需要家それぞれからシステム利用料を受け取るモデルです。電気料金にはデジタルグリッドの収益分を上乗せしない形で設定しているので、わかりやすい料金体系だと思います。

事業の継続に再エネの活用が必要となり、DGPが活用されるケースもあります。顧客企業からの取引条件に再エネの活用が含まれる事例が増えているそうです。たとえば、再エネを使って製造事業を行っているといった条件ですね。環境への意識が高まる中、DGPを活用して再エネ導入を進めることで、企業にとっては取引機会を維持することにもつながります。

4 では、発電家側のメリットはどのようなものなのでしょうか。

発電家は電気を作っても販売機会が限られています。しかしそれでも、従来はFIT制度により固定価格で売買されており、発電家にとって収益見通しを立てやすい状況が続いていました。

2022年からFIT制度は段階的に終了し、市場価格に連動するFIP制度(フィードインプレミアム、Feed-in Premium)に変わっていきます。さらに、計画通りの発電ができない場合、インバランス料金は発電家の負担になります。

発電家にとって収益の見通しが立てづらくなる恐れがある中、DGPを活用することで販売機会を拡大し、需給管理の支援を通してインバランス料金が発生するリスクを抑えることが可能です。

また、DGPを通して発電家が需要家に電気を売れるようになることで、再エネ発電による電気の販売機会が創出され、発電家にとっては収益見通しも立てやすくなるはずです。

5 今後の事業展開について教えてください。

再エネを推進するため、蓄電池の活用にも乗り出し始めています。これまでは、蓄電池の価格や性能の課題がありましたが、状況は大きく変わり始めています。

たとえば、無料に近い晴れた昼間の電力を蓄電池で蓄えて、価格の高い夕方に売れば利益が出ます。しかし、これまでは蓄電池自体の価格が高く、充放電を繰り返すと劣化も早かったため、収益になりにくい点が課題でした。近年、太陽光発電が増えたこと、蓄電池の耐久性が向上して劣化しづらくなってきたこと、(蓄電池の)価格が下がってきたことで、蓄電池を使ったビジネスを始めやすくなっています。

昼間に0.01円で買った電力は、夕方になると2,000倍近い価格になることもあります。デジタルグリッドでは、発電家が蓄電池を導入することで収益性を高めるためのサポートや、蓄電ステーションなどに出資をする計画もあります。今後更に蓄電池の性能が向上し、低価格化が進むことで、蓄電池を活用したビジネスが広がり、再エネの普及が後押しされることが期待できると考えています。

また、海外での展開も視野に入れています。2023年は欧州や米国を視察しました。現地では、日本企業が海外で再エネを調達することに苦戦している印象があったので、海外で日本企業が再エネ調達を行う支援を始めることを視野に入れています。

6 最後に、デジタルグリッドが考える、エネルギーのあり方の理想的な未来像についてお聞かせください。

現在、日本はエネルギー調達を国外に頼っていますが、昨今のエネルギー価格の高騰からもわかるように、この状況はリスクが高いと言えます。

発電家は電気の販売先を選ぶことができて、需要家は電気の購入先を選べる仕組みが一般的になれば、再エネの活用をもっと進めることができると思います。政策によって太陽光発電事業者が各地に増えましたが、このような分散型の電源は、需給調整の難しさなどから活用しづらいという課題があります。エネルギーを国内で地産地消する仕組みが整えば、エネルギーの国外依存を解消していく一助になるのではないでしょうか。

世界に先駆けて、環境負荷が低く低コストでエネルギーを使える状態が実現すれば、企業のコスト負担が抑えられ、日本のものづくりを復活させ、日本経済を盛り上げることもできるのではないかと思います。

生まれてからずっと、失われた30年みたいなことを言われてきていて、とても悲しい気持ちでした。そうした状況を打破したいという思いがあります。

7 編集後記

豊田さんのお話を伺い、エネルギーの地産地消はメリットが多いと感じました。

ロシア・ウクライナ情勢によるエネルギー問題を受け、不可欠な資源を海外に依存していることが大きなリスクであることが顕在化しました。発電に関するエネルギー源を国内で完結できれば国内経済がもっと活性化するのではないでしょうか。

また、再エネは地方創生にも役立ちそうです。現在は、莫大なお金をかけてエネルギーを輸入することで外国を潤している一方で、国内には雇用が生まれず過疎化する地方自治体がたくさんあります。太陽光発電やバイオマス発電で再エネを地方で生産して都市に送電するというモデルが確立・拡大すれば、雇用が生まれ財政も潤い、若者を呼び寄せられるかもしれません。デジタルグリッドの仕組みが広まり、再エネがもっと使われやすい環境が整えば、こうした未来も見えてくるのではないかという希望を感じました。

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松尾 千尋

名前:まつおちひろ 金融機関に14年ほど勤務。大学卒業後は、都市銀行で資産運用コンサル業を担当し、FP1級を取得。外資系保険会社に転職後、クレジットアナリストとして投資先の調査・分析・レポート執筆などを行い証券アナリスト資格を取得。現在はライターとして独立し、金融・ESG・サスティナビリティに関する記事を中心に幅広く執筆活動を行う。別分野では、整理収納アドバイザー・インスタグラマーとしても活動中。/ Instagram : @mer_chip310