運送業界のサステナビリティ取り組みは?実際の事例や企業についても解説

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コロナ禍を経て、オンラインショッピングがますます身近になりました。頻繁にオンライン配送を利用される方もいるのではないでしょうか。届くスピードも速くなり、物流の進歩を実感することが増えていると思います。

一方で、道路を行き交う配送のトラックを眺めていると、環境に対する影響が気になります。サステナビリティが叫ばれる今、運送業界で行われている環境に対する取り組みをご紹介します。


※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年10月6日時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。

目次

  1. 運送される荷物の数はここ十数年で急増
  2. 政府主導の取り組み
  3. 企業の取り組みーヤマトホールディングスの事例
    3-1 環境に配慮した車両の導入
    3-2 大型トレーラを活用した協業
    3-3 PUDOを活用したサービス
    3-4 受け取り方法を選べるサービス、EAZY
  4. 私たちにできる取り組み
  5. まとめ

1 運送される荷物の数はここ十数年で急増

近年、宅配便などで送られる荷物の数が増加しているといわれていますが、具体的にどのくらい増加しているのでしょうか。

国土交通省によると、平成20年度(2008年度)の宅配便取扱個数は32億1,166万個、令和3年度(2021年度)については49億5,323万個です。13年間で5割以上も増加していることがわかります。なお、トラック輸送が全体で占める割合は、両年とも9割以上です。

(※参照:国土交通省「平成20年度宅配便等取扱実績について」、「令和3年度 宅配便取扱実績について」)

2 政府主導の取り組み

2015年に「パリ協定」が採択され、世界の平均気温上昇を2℃未満にするという世界共通の目標が打ち出されました。これを受け、日本政府主導で「COOL CHOICE」と呼ばれるキャンペーンがスタートしました。有名な「COOL BIZ」もこの一環ですが、宅配に関しては平成29年(2017年)から「できるだけ1回で受け取りませんかキャンペーン」が行われています。再配達によるCO2排出量を減らすための運動で、時間指定や宅配ボックスの設置などが呼びかけられています。

取り組みの効果を具体的な数字で見てみましょう。宅配便再配達率は、キャンペーンが開始された平成29年の10月においては15.5%でした。令和5年(2023年)4月の調査では11.4%となっており、少しずつですが取り組みの成果があらわれていると考えられます。

(※参照:国土交通省「平成29年10月期の宅配便再配達率について」、「令和5年4月の宅配便の再配達率が約11.4%に減少」)

3 企業の取り組みーヤマトホールディングスの事例

ヤマトホールディングスは、ヤマト運輸などを子会社に持つ運送会社です。同社は2023年7月、ESG投資指数「MSCI ESG Leaders Indexes」「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」の構成銘柄に選定されました。「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」に選定されたことで、同社は年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が採用するESG国内株式指数6つすべてに選定されたことになります。

それでは、外部からも評価を得ている同社の取り組みをご紹介します。

(※参照:ヤマトホールディングス「ESG投資指数『MSCI ESG Leaders Indexes』『MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数』の構成銘柄に選定」)

3-1 環境に配慮した車両の導入

ヤマトホールディングスは、2050年までに自社排出(Scope1とScope2)の温室効果ガスを実質ゼロにするという目標を掲げています。

そのための主要な施策の一つは、2030年までにEVを2万台導入するというものです。同社保有する車両数は約5万7千台(2021年時点)ですので、車両の3分の1強をEVに置き換える計画ということになります。

新車両は、環境負荷の軽減効果や使い勝手などを実用性の検証などで確認したうえで導入されます。現在は、首都圏を中心に500台を順次導入している状態にとどまりますが、2023年度の導入目標は1,500台とされており、今後の進捗が期待されます。

(※参照:ヤマトホールディングス「総合レポート2022」、「Hondaとヤマト運輸 新型軽商用EVの集配業務における実用性の検証を2023年6月から開始」、「エネルギー・気候 ~気候変動を緩和する~」)

3-2 大型トレーラを活用した協業

他社との協業による取り組みとして、幹線輸送(拠点から拠点への長距離輸送)の共同輸送を行っています。「スーパーフルトレーラ25」と呼ばれる車両長25mの連結トレーラを活用しており、1台で運べる荷物は大型トラック2台分と輸送効率が高くなります。またその分、温室効果ガスの排出量削減が見込めます。

(※参照:ヤマトホールディングス「社会と企業のレジリエンス ~環境変化に負けない社会を支える~」)

3-3 PUDOを活用したサービス

再配達率を抑える取り組みの例として、PUDO(Pick Up & Drop Off station)とは、Pack City Japan(パックシティジャパン)が運営する宅配便ロッカーが挙げられます。駅、スーパー、ドラッグストア、駐車場などに設置されており、好きな時間・好きなロッカーで受け取りや発送が可能です。受け取りは佐川急便・日本郵便・DHLも対応していますが、対象サービスであれば発送も行えるのはヤマト運輸のみです。

受け取りの対象は、ヤマト運輸のサービスについては100サイズ(縦・横・高さの三辺計が100cm以内かつ重量が10kg以内)までの宅急便・パソコン宅急便・国際宅急便と、宅急便コンパクト(すべてのサイズ)です。クロネコメンバーズへ登録後、スマホなどからロッカーの場所を指定し、納品完了通知が届いたら受け取りに行く流れです。また、一部ECサイトからの受け取りの場合、クロネコメンバーズへの加入が不要の場合もあります。

発送の対象は、100サイズまでの宅急便とすべてのサイズの宅急便コンパクトです。メルカリ・ヤフオク・PayPayフリマの提携サービスに限りネコポスも発送可能です。利用方法は、対象サービスの二次元コードを発行しPUDOを操作、指定されたボックスに入れるだけなので、スマホがあれば利用できます。集荷や配送状況などはWebサイトで確認できます。

3-4 受け取り方法を選べるサービス、EAZY

再配達率を抑える取り組みのその他の例として、EAZYが挙げられます。EAZYとは、ヤマト運輸と連携したオンラインショップなどで注文した商品の受け取り方法を指定できるサービスです。

連携しているオンラインショップは以下(2023年9月1日時点)です。

お届け予定通知より受け取り方法の指定が可能なオンラインショップ

  • Amazon(クロネコメンバーズにご登録済みの方宛のお荷物に限る)
  • メルカリ
  • Yahoo!ショッピングの一部ストア
  • ニッセン
  • ヤフオク!
  • PayPayフリマ
  • アンダーアーマー

ご注文時・もしくはお届け予定通知より受け取り方法の指定が可能なオンラインショップ

  • ZOZOTOWN
  • LOHACO
  • .st(ドットエスティ)
  • 再春館製薬所
  • ユニクロ
  • ジーユー
  • ハンコヤドットコム
  • サウンドハウス

受け取り方法は幅広く、対面の他、玄関ドア前、宅配ボックス、ガスメーターボックス、物置、車庫、自転車のかご、建物内受付・管理人預けに対応しています。また、荷物が届く直前まで受け取り方法の変更が可能です。お届け予定通知やヤマト運輸のLINEから手続きでき、急なスケジュールの変更にも対応しています。

また、EAZYでは、オートロック付きのマンションの場合でも、置き配が利用できるサービスを拡充しています。「置き配」指定時にオートロックの解錠に対する同意をすることで、デジタルキー(スマホなどで鍵の施錠・解錠を行う仕組み)を活用して荷物を届けてもらう仕組みです。利用にあたっては、マンションの管理会社やオーナーがデジタルキーの利用を許可しているなど条件がありますが、対応マンションは順次拡大しており、今後の利便性向上が期待されます。

なお、注意点としては、置き配を指定しても事情により不可となるケースがあるという点です。置き配を活用する場合は、お届け予定通知をしっかり確認するなど確実に荷物を受け取れるように注意しましょう。以下に置き配ができないパターンの例を掲載しますので、参考にしてください。

  • 悪天候により配達後の荷物の安全が確保できないと判断される場合
  • 受け取り場所に荷物が安全に収まらないと判断される場合
  • 受け取り場所への立ち入りができないと判断される場合
  • マンションなど集合住宅の建物管理規程その他の規程により、置き配が禁止されていると判断される場合
  • 受け取り場所を確知することができないと判断される場合

4 私たちにできる取り組み

環境省の「COOL CHOICE」のサイトでは、再配達によって排出されるCO2は年間で42万トン、東京ドーム170杯分と発表されています。宅配を利用するにあたって、私たちが環境のためにできることは、まず再配達を減らすことでしょう。

先述のように、運送業者は再配達を抑制するためにさまざまな取り組みをしています。宅配ロッカーの設置の他、受け取り場所をコンビニ等の自宅以外に指定できるサービスもあります。たとえば、コンビニでランチを買うついでに荷物を受け取ることで、自分自身の手間を省くことにもつながります。

置き配については、盗難が心配という場合は、個人用の宅配ボックスの設置といった方法もあるでしょう。ただし、宅配ボックスが設置できる条件の確認や費用面を検討する必要があります。

自分が発送する際は、なるべく送り先の都合を伺って日時指定をすることもおすすめです。再配達になりづらい上、送り先に対しても安心感を与えられ、信頼を得ることにもつながるでしょう。

(※参照:環境省「もっと自由な受け取りで宅配便の再配達を無くそう!」)

5 まとめ

ヤマトホールディングスは、先述した「2050年までに自社排出の温室効果ガスを実質ゼロ」という目標に向けて、短期目標として「2023年までに2021年3月期比10%削減」、中期目標として「2030年までに同48%削減」を掲げています。同社の温室効果ガス排出量は、2019年度をピークに減少傾向にあり、取り組みの効果が現れ始めているといえるでしょう。

同社の取り組み、特に再配達を減らすためのサービスは、私たち生活者の利便性も考慮されています。サービスを賢く活用することで、自分自身の時間を有効活用したり、荷物の受け取りに関わるストレスを減らしたりすることもにもつながります。馴染みのないサービスを使い始めるのは抵抗があるかもしれませんが、活用してみると便利さに驚くかもしれません。ぜひ、ハードルの低いことから取り組んでみてください。

(※参照:ヤマトホールディングス「総合レポート2022」)

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松尾 千尋

名前:まつおちひろ 金融機関に14年ほど勤務。大学卒業後は、都市銀行で資産運用コンサル業を担当し、FP1級を取得。外資系保険会社に転職後、クレジットアナリストとして投資先の調査・分析・レポート執筆などを行い証券アナリスト資格を取得。現在はライターとして独立し、金融・ESG・サスティナビリティに関する記事を中心に幅広く執筆活動を行う。別分野では、整理収納アドバイザー・インスタグラマーとしても活動中。/ Instagram : @mer_chip310