ブロックチェーン技術が革新する科学の未来:DeSci(分散型科学)とは?

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今回は、DeSci(分散型科学)について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. DeSci(分散型科学)とは
    1-1. DeSci(分散型科学)の概要
    1-2. オープンサイエンスとは
  2. DeSci(分散型科学)とブロックチェーン
    2-1. 過度な権力集中の防止
    2-2. 資金調達の効率化
  3. DeSci(分散型科学)の事例
    3-1. DeSci.Tokyo
    3-2. VitaDAO
  4. DeSci(分散型科学)の今後の課題
    4-1. 認知度の向上
    4-2. 導入における技術的な障壁
  5. 関連リソース
  6. まとめ

科学の世界でも、分散型技術が革新的な変化をもたらしつつあります。今回は、その一つである「DeSci(分散型科学)」について紹介します。この新しいムーブメントは、ブロックチェーン技術を用いて、科学研究のオープンアクセス化や効率化を目指しています。本記事では、DeSciの概要や、実際に取り組まれている事例、そして今後の課題について紹介します。

1. DeSci(分散型科学)とは

1-1. DeSci(分散型科学)の概要

ディセントライズドサイエンス(DeSci)は、ブロックチェーン技術を用いて科学の資金調達、知識の共有、コラボレーションを改善しようとする新しいムーブメントです。DeSciは、オープンサイエンスと同様に、科学をよりアクセスしやすくすることを目指していますが、独自の目標とブロックチェーンツールの使用が特徴です。

DeSciは、資金調達、ピアレビュー、知識アクセス、インセンティブ、ペースなど、科学研究の特定の側面を対象とした分散型自律組織(DAO)のネットワークです。ディセントライズドサイエンスは、スマートコントラクトを使用して、著者とピアレビュアー間の直接的な仲介を可能にし、トークンで報酬を得ることができます。また、NFTやトークンを使って、研究資金を調達する試みも行われています。

また、DeSciの目的は、ブロックチェーン技術を活用して研究者や専門家がデータや知識を共有し、迅速かつ効果的な科学研究を実現することです。資金調達や創造、レビュー、クレジット付与、保管、普及に関連する公共インフラストラクチャーの構築を目指し、オープンなエコシステムを実現するために取り組んでいます。

従来の商業企業主導の科学とは異なり、DeSciでは科学者コミュニティが自律的でオープンな形で科学を実践することに焦点を当てており、近年世界中で大きな注目を集めている概念です。

1-2. オープンサイエンスとは

DeSciの目標の一つは、分散型ガバナンスに基づいた「オープンサイエンス」の構築です。

オープンサイエンスとは、研究結果やデータ、ソフトウェア、ツール、方法論など、科学研究に関連する情報を広く共有し、アクセスしやすい状態を作る取り組みを指します。オープンサイエンスは、従来の学術出版の枠を超えて、透明性と効率性を高めることを目指しています。

オープンアクセスによる研究成果の公開は、誰もがその成果にアクセスできるようになり、世界中の科学者や研究者が情報を自由に共有し、知識の普及と発展が促進されます。また、研究結果やデータの公開が、研究の再現性や信頼性を向上させると期待されています。

さらに、オープンサイエンスによって研究の社会的影響力も高まります。公開された情報が誰もが利用できるため、産業界や政府、市民社会などの利害関係者が活用し、社会問題の解決やイノベーションを推進できます。オープンサイエンスは、科学研究のあり方を変える可能性を持っており、世界中で注目されています。

2. DeSci(分散型科学)とブロックチェーン

現代では科学技術の成果が社会の隅々まで浸透しており、私たちの生活のあらゆるシーンで科学技術の影響を受けています。しかし、現代科学には様々な課題が残されています。この項では、現代科学が抱える課題を紹介し、ブロックチェーン技術を用いてこれらの課題にどのようなアプローチができるかについて解説します。

2-1. 過度な権力集中の防止

オープンサイエンスの動きが活発化していますが、出版社への権力集中という問題も存在します。オープンサイエンスの登場により、研究者は論文掲載に対して金銭的対価を支払わなければならなくなりました。例えばNature誌は、1紙あたり11,000 ドル以上の料金を請求します。

DeSciでは、ブロックチェーン技術を用いて研究者の評価を行う新たなシステムを構築しています。分散型の研究コミュニティが研究者の活動を評価し、価値が認められた研究者にはNFT(非代替性トークン)を付与します。NFTを多数保有している研究者は、優れた研究を残した者とみなされ、新たな形での評価を獲得できます。NFTはブロックチェーン上に記録されるため、検証可能なデジタル評価として半永久的に残ります。

DeSciは、ブロックチェーン技術を活用して出版社に集中していた権力を分散し、研究者自身に検証可能な評価を与えることを可能にしています。このアプローチにより、過度な権力集中を防ぎ、研究者が公平で透明な評価を受けることができる環境が整備されます。

2-2. 資金調達の効率化

科学研究には多額の費用がかかり、研究資金の調達が研究成果に大きく関わっています。研究者は資金調達のために書類作成に多くの時間と労力を費やし、資金獲得の保証もありません。これが、研究内容に偏りが生じる原因となっています。

DeSciでは、ブロックチェーン技術を活用してトークンやNFTの発行を通じて、資金調達の問題を解決できるとされています。科学分野に特化したプラットフォームやプロトコルを構築し、トークン発行による資金調達を行ったり、研究主体がNFTをNFTマーケットプレイスに出品し、売上を資金として利用することが可能です。

研究者個人で資金調達が難しい場合でも、科学領域に特化したDAOが存在し、DAO主体で資金調達を行う流れが拡大しています。これにより、研究者は確実性の高いルートで資金調達ができ、膨大な時間や労力を費やす必要がなく、研究に集中できる環境が整いつつあります。

例えば、DeSciでは、ブロックチェーン技術を活用して査読システムを改善する方法が提案されています。査読とは、研究論文をその学問分野の専門家が読み、誤りの有無や掲載の適否といった内容の査定を行うことを指します。現在の科学業界においては、この査読は基本的に科学者自身が無償で行うことがほとんどですが、仮想通貨やトークンを報酬として提供することで、査読者に適切な報酬を与え、査読の質や速度を向上させることができます。ブロックチェーンを活用することで、査読プロセスが公開され、誰でも査読結果や査読の履歴を追跡できるようになります。これにより、偏見や不公平さを排除し、査読の質を向上させることができます。

3. DeSci(分散型科学)の事例

3-1. DeSci.Tokyo

DeSci.Tokyo
「DeSci.Tokyo」は、濱田太陽氏や伊山京助氏、佐藤究氏をコアメンバーとして立ち上げられた日本発のDeSciプロジェクトで、人間の知識の境界を押し広げることを目指しています。DeSciと研究分野との相性についてはまだ議論が必要ですが、DeSci.Tokyoでは研究者や有識者のネットワーク構築を進め、課題や思いを共有する人々をつなぐ場を提供し、世界とつながるハブとして機能させたいとしています。

DeSci.Tokyoでは、参加者同士が交流できる場を提供し、出会いのチャンスを提供するとともに「Discord」を通じた継続的なコミュニケーション環境も構築するなど、より良い研究システム構築を目指す人たちが次の一歩を踏み出すきっかけを提供していくことを目指しています。

3-2. VitaDAO

VitaDAO「VitaDAO」とは、ブロックチェーン技術を活用し、バイオテクノロジー研究を推進するためのサイエンスコミュニティDAOです。VitaDAOは、老化を克服し寿命を延ばすことを目指す「長寿研究」に焦点を当てており、人類の健康寿命や寿命そのものを延長することを目標に掲げています。

これまで医薬品の研究開発は、膨大な費用と時間がかかるため、大規模な研究機関や富裕層だけが取り組むことができる分野でした。しかし、VitaDAOは長寿研究を支援するために、オープンで協力的なコミュニティを通じて、誰もがアクセスできる環境を提供しています。さらに、ブロックチェーン技術を利用して資金のやり取りや研究データのデジタル化を行うことで、より効率的で利便性の高いシステムを実現しています。この取り組みにより、長寿研究が促進され、多くの人にとって理解しやすくアクセスしやすい環境が整っています。

4. DeSci(分散型科学)の今後の課題

DeSciムーブメントが成形されるにつれて、いくつかの未知の問題や議論が浮かび上がっています。

4-1. 認知度の向上

DeSciはまだ新しい概念であるため、認知度が十分でなく、多くの人がその潜在的なメリットやシステムを知らないという課題があります。また、DeSciの導入は拡大していますが、完全に普及したとは言い難く、新しいテクノロジーを受け入れることに抵抗のある研究者も少なくありません。

今後は認知度の向上を目指し、DeSciの考え方が業界で広く受け入れられる環境を整えることが重要です。また、個別のテーマごとに立ち上げられているDAOを互いにつなぐことで、利便性の高いシステムを構築することも期待されています。

4-2. 導入における技術的な障壁

DeSciはブロックチェーン技術を活用しているため、コンピューターサイエンスの知識がない研究者にとっては導入に障壁を感じることがあります。また、ブロックチェーンの商業化から生じるバイアスや科学の品質、多様な参加者の問題も解決しなければなりません。

今後は、誰もが気軽に利用できるデザインが求められると考えられ、DeSciの普及がさらに進むと見られています。

5. 関連リソース

DeSciが成功するためには、DeSciのツールが科学者の日常業務にシームレスに統合され、科学者が良い科学を行うことを支援することが重要です。DeSciに関心がある場合、以下のリソースを使って、ムーブメントの最新ニュースを追跡したり、DAOに参加したりできます。

6. まとめ

DeSciは、ブロックチェーン技術を用いて現代科学の問題を解決する可能性を秘めており、世界中から注目を集めています。トークンやNFTを活用することで出版社への権力集中を防ぎ、研究者の権利を守ることができます。日本では「DeSci.Tokyo」が立ち上がるなど、この分野の動きがさまざまな形で現れてきており、今後の展開が期待されています。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12