米ウォルマートが行っているブロックチェーンを利用したトレーサビリティとは

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今回は、米ウォルマートが行っているトレーサビリティの取り組みについて、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. ウォルマートとは
    1-1. ウォルマートの概要
    1-2. ウォルマートの抱える課題
  2. ブロックチェーンが解決するウォルマートの品質問題
    2-1. トレーサビリティの確保
    2-2. 食品偽装問題の解決
    2-3. 食品の調達時間を改善し効率化できる
  3. 「IBM Food Trust(フードトラスト)」とは
  4. 「IBM Food Trust(フードトラスト)」のメリット
    4-1. サプライチェーンのさらなる効率が可能
    4-2. ブランドの信頼性を確保することができる
    4-3. 食品の安全性を向上させることができる
    4-4. サスティナビリティの実現
    4-5. 食品の鮮度をより正確に把握することができる
    4-6. 食品偽装の早期発見と防止
  5. まとめ

近年、世界中で食品安全問題が注目され、原材料の調達から生産、消費、そして廃棄までのプロセス全体を追跡可能にする「トレーサビリティ」への関心が高まっています。

アメリカを拠点とする大手スーパーマーケットチェーン「ウォルマート(Walmart)」では、ブロックチェーン技術を活用して食品のトレーサビリティを確立し、安心で安全な食品購入環境を提供しています。今回は、ウォルマートが取り組むブロックチェーンを利用した食品トレーサビリティについて、その概要や仕組みをわかりやすく解説していきます。

①ウォルマートとは

1-1.ウォルマートの概要

Walmart
「ウォルマート(Walmart)」は、アメリカ・アーカンソー州に本社を構える世界最大の小売企業で、1962年に創業者サム・ウォルトンによって設立されました。現在、アメリカを中心に世界各国に店舗を展開し、食料品から家電製品、衣料品、スポーツ用品など幅広い商品を取り扱っています。

ウォルマートは、低価格戦略を採用し、大量仕入れと効率的な物流システムで競合他社との差別化を図っています。また、労働力コスト削減のため、パートタイム社員を多く雇用しており、アメリカ国内の従業員数は200万人を超える大規模企業です。

1-2.ウォルマートの抱える課題

ウォルマートは「Everyday Low Price(毎日低価格)」を掲げ、全世界の市場から商品を調達しています。しかし、その結果、調達経路が複雑化し、食品のトレーサビリティが困難になっていました。品質問題が発生した際、調達経路の追跡に時間がかかり、安全性が証明できないサプライヤーからの商品回収に手間とコストがかかる問題がありました。

これらの課題を解決するため、ウォルマートはブロックチェーン技術の導入に着手しました。

②ブロックチェーンが解決するウォルマートの品質問題

ここでは、ブロックチェーン技術がどのようにウォルマートの品質問題を解決するのか、具体的な解説を行っていきます。

2-1.トレーサビリティの確保

近年、アメリカで食品の品質汚染が問題になっており、2018年にはロメインレタスが原因で大腸菌感染が拡大し、200人以上が感染したと報じられました。これにより多くの業者が大量のレタスを廃棄せざるを得なくなるなど、大きな損失が生じました。その他にも、卵やシリアルからサルモネラ菌が見つかるなど、食品に対する不信感が高まっています。

そんな中、ウォルマートはブロックチェーン技術を導入し、食品の調達経路の透明性を確保しました。これにより、生産地から店舗までの全経路を追跡できるようになりました。ウォルマートは、IBMが開発した「IBM Food Trust」技術を取り入れ、徹底的なトレーサビリティを実現しています。これにより、バーコードを読み取るだけで経路を特定できるようになり、以前の7日かかっていた調達経路特定作業が短縮されました。

2-2.食品偽装問題の解決

ブロックチェーン技術の特徴の1つは、改ざんが困難であることです。これは食品のトレーサビリティにおいても有効です。実際、ウォルマートは2016年に中国の豚肉に関するトレーサビリティ実験を行い、偽装問題に対処する大きな成果を上げました。ウォルマートはこのようにブロックチェーン技術を活用して、食品に関する正確な情報を記録し、食品偽装問題の解決に取り組んでいます。

2-3.食品の調達時間を改善し効率化できる

ウォルマートはブロックチェーン技術により、サプライチェーンの各段階でリアルタイムの情報が把握できるようになり、流通経路の効率化が可能になりました。具体的には、「ボトルネック」を簡単に特定し、調達時間を大幅に改善できるようになりました。また、品質チェックを都度実施し、その結果をブロックチェーン上に記録することで、効率的な品質管理が可能になり、調達コストの削減も実現しました。

ウォルマートは、ブロックチェーン技術を用いて食品調達の効率化やコスト削減を図り、業界の変革に取り組んでいます。

③「IBM Food Trust(フードトラスト)」とは

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ウォルマートは、2016年からIBMと提携し、ブロックチェーン技術に基づくトレーサビリティを食品サプライチェーン全体に適用することを目指しています。ウォルマートが導入したのはIBMが開発した食品供給チェーンのトレーサビリティ・プラットフォーム「IBM Food Trust(フードトラスト)」です。このプラットフォームにより、ブロックチェーン技術を活用して食品のサプライチェーン全体(農家から小売店までの全て)を追跡し、安全性、品質、持続可能性などの管理が可能となりました。

④「IBM Food Trust(フードトラスト)」のメリット

4-1.サプライチェーンのさらなる効率が可能

近年、食品調達システムの非効率性が大きな問題となっており、新型コロナウイルスの影響で顕著になりました。これらの問題は価格設定、温室効果ガス排出量、食品廃棄物、食品の鮮度に悪影響を及ぼすとされています。国連によると、サプライチェーンの非効率性から約14億トンの食品が無駄になっています。

IBM Food Trustは、関係者が協力して食品調達システムを効率化することを目指しています。データ共有によるエコシステムを通じて非効率性を特定し、ボトルネックを解消し、サプライチェーンを最適化しています。また、食品の来歴やリアルタイムの位置、ステータスが分かり、企業は需要と供給の予測モデルを改善し、サプライチェーンを見直すことができます。

4-2.ブランドの信頼性を確保することができる

消費者には食品の購入場所に関して多くの選択肢があり、競争が激しい食品業界ではブランド差別化が不可欠です。また、消費者のサスティナビリティへの意識も高まっています。IBMの調査では、約78%が環境への影響を減らすために食生活を変えることに前向きだとするデータも存在しているといいます。

IBM Food Trustは、食品サプライチェーンの可視化により、問題発生時に迅速かつ積極的に対応できるようになります。食品ブランドは、IBM Food Trustを導入することでサプライチェーン上の問題解決が可能となり、ブランド信頼性を確保できると期待されています。

4-3.食品の安全性を向上させることができる

食品業界では、リコールは食品の安全性と収益性に影響を及ぼします。しかし、すべての企業が食品安全の問題の原因を迅速に特定できるわけではありません。サプライチェーン全体で食品を追跡するのに数日から数週間かかることもあり、企業は複雑で広がり続けるサプライヤーネットワークにおいて、特定に多くの時間と労力が必要です。

IBM Food Trustでは、食品のサプライチェーン情報を把握できるため、食品安全性の問題が報告された場合、影響を受ける人や対策を講じるべき人をすぐに特定できます。また、IBM Food Trustを導入することで、汚染リスクや食品偽装の減少が期待できます。

4-4.サスティナビリティの実現

消費者は、自分が購入する食品の出所や生産方法、労働者や動物の扱いについて関心を持っています。つまり、サプライチェーンの可視化への需要が高まっているとも言い換えられるでしょう。

IBM Food Trustは、トレーサビリティを確保し、情報へのアクセスを容易にすることで、サスティナブルなサプライチェーンの実現に寄与することもできるのです。

4-5.食品の鮮度をより正確に把握することができる

IBM Food Trustを利用すると、生鮮食品の状態や移動期間をリアルタイムで追跡できます。これにより、賞味期限を正確に把握し、期限切れリスクのある製品に警告が届くことがあります。また、取引データや温度データ、在庫状況にアクセスできるため、企業は意思決定を行い、サプライチェーンを効率的に最適化できます。IBM Food Trustでは、正確なデータから鮮度を把握し、消費者に最良の状態で商品を提供できます。

4-6.食品偽装の早期発見と防止

食品業界の偽装は深刻な問題ですが、IBM Food Trustの技術導入により、サプライチェーンが完全に可視化されるため、従来は発見が難しかった食品偽装や詐欺を未然に防止することが可能になります。さらに、すべてのデータが安全に共有される仕組みが整っているため、知らずに不正な食品が取引される心配も軽減されます。

IBM Food Trustの導入によって、食品安全性の向上、サスティナビリティの実現、食品の鮮度の正確な把握、そして食品偽装の早期発見と防止が実現します。

⑤まとめ

世界最大級の小売企業であるウォルマートは、IBMが提供するIBM Food Trustを導入し、食品のトレーサビリティを確保しています。近年、世界中の消費者からサプライチェーンの可視化への関心が高まり、安心して食品を購入できる環境が求められています。

このような状況の中、ウォルマートが取り入れている食品サプライチェーンの追跡ネットワークは、世界的なスーパーマーケットチェーンのカルフールでも導入されており、その活用事例が増えています。今後、企業がどのような工夫をしてサプライチェーンの可視化を進めるか、引き続き注目されるでしょう。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12