一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- カーボン・クレジット市場とは
1-1.カーボン・クレジット市場の概要
1-2.東京証券取引所とは - カーボン・クレジット市場の特徴
2-1.高い安心性
2-2.参加者制度(登録要件)
2-3.参加者制度(料金等)
2-4.売買約定成立の方法 - クレジットの売買カテゴリー
- カーボン・クレジット市場の利用方法
4-1.登録申請
4-2.IDおよびパスワードの送付
4-3.チェックリストの提出
4-4.クレジットの売買
4-5.呼値 - まとめ
2023年10月11日、日本を代表する証券取引所である東京証券取引所が、二酸化炭素の排出量取引市場を正式に開設したことを発表しました。
東京証券取引所は元々、2022年9月から市場の開設に向けた実証実験をスタートしており、今年6月には10月をめどとして本格的に始動させる方針を示していました。
この市場は「カーボン・クレジット市場」と呼ばれ、主に再生可能エネルギーの活用や森林整備による二酸化炭素排出量の削減分を国が認証する「J-クレジット」の売買を取り扱うということです。
そこで今回は、東京証券取引所が新たにスタートしたカーボン・クレジット市場について、その概要や特徴、また実際の利用方法などを詳しく解説していきます。
1.カーボン・クレジット市場とは
1-1.カーボン・クレジット市場の概要
カーボン・クレジット市場とは、東京証券取引所が2023年10月11日に正式に開設した二酸化炭素の排出量取引市場のことを指します。
日本国内では、脱炭素社会に向けて、2050年までに二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることを目指す「2050年カーボンニュートラル」が提唱されています。そして、この目標実現のため、2023年2月には政府より「GX実現に向けた基本方針」が発表されました。
この方針の中では、カーボンプライシングの制度設計として排出量取引制度の導入が示され、2023年度からの試行取引、2026年度からの本格稼働という予定が明示されました。これを背景として、東京証券取引所は2022年度に経済産業省からの委託を受けてカーボン・クレジット市場の技術的実証等事業を実施しており、この実証実験をもとに今回のカーボン・クレジット市場の正式なオープンに至ったというわけです。
日本取引所グループにおいて取締役兼代表執行役グループCEOを務める山道裕己氏は、今回の取引所オープンについて、「金融商品市場運営の経験と、昨年度のカーボン・クレジット市場の実証事業の知見を活かして、市場参加者や関係者の方々と連携しつつ、政府の排出量取引の進展に合わせて、カーボン・クレジット市場を盛り上げていきたい」と語っています。
なお、11日のオープン初日は、電力会社や金融機関などの民間企業に加え、地方公共団体などの計188者が市場に参加し、3,689トンの売買が成立したことが報告されています。また、今後は参加者のさらなる増加が見込まれており、東証は取引市場の整備を進め、企業などの脱炭素の取り組みを後押ししていく方針です。
1-2.「東京証券取引所」とは
カーボン・クレジット市場の運営元である東京証券取引所とは、金融商品の取引に関わる業務を行う日本取引所グループの一社で、日本最大の証券取引所です。
略して「東証」とも呼ばれている東京証券取引所の株式市場には、国内有数の大企業も多く上場しており、具体的な上場企業数は3,800社を超えているほか、平均取引金額は1日3兆円を突破しているなど、かなり大規模な取引所として知られています。
また、業績や時価総額などを基準として「東証プライム」、「東証スタンダード」、「東証グロース」という3つの市場が開設されており、株式やETF(上場投資信託)などの売買が可能なほか、売買状況の監視や企業の上場審査も受け持っています。東証の経営は証券会社など市場参加者や上場企業からの手数料収入で成り立っています。
なお、今回オープンしたカーボン・クレジット市場は、東証が開設する上場株式などの金融商品市場とは異なる市場となるため、注意が必要です。
2.カーボン・クレジット市場の特徴
ここでは、カーボン・クレジット市場の主な特徴について、いくつか紹介していきます。
2-1.高い信頼性
カーボン・クレジット市場では、安全性を十分に確保するため、クレジットの移転および資金決済の際には、東証が売り方参加者と買い方参加者の間に入ることを定めています。万が一クレジット移転の不履行が発生した場合は、資金決済が不要になるほか、資金決済の不履行が発生した場合は、クレジットの返還を行います。また、利便性を高めるため、システムへのアクセスや注文はインターネット接続となっており、セキュリティ強化のため、ログインの際には二要素認証が必要です。
2-2.参加者制度(登録要件)
カーボン・クレジット市場では、市場に参加するための基準として、「カーボン・クレジット市場参加者」として登録する必要があります。登録を受けることができる方は、下記の①から⑥の要件を満たす方のみと定められています。
- 法人、政府、地方公共団体又は任意団体のいずれかであること。
- 業務を安定的に行う体制が整っていること。
- 当取引所の参加者として十分な社会的信用を有し、社会的信用の欠如している者その他当取引所の目的および市場の運営に鑑みて適当でないと認められる者の支配または影響を受けていないことなど、健全な経営体制であること。
- 債務超過でないこと。
- 登録申込者名義の預貯金口座およびクレジット登録簿の口座(クレジット口座)を持っていること、また、適格請求書発行事業者であること。
- 代表者、役員または重要な使用人のいずれかが以下のどれにも該当しない者であること。
・精神の機能の障害によりその業務を適正に行うに当たって必要な認知、判断および意思疎通を適切に行うことができない者。
・破産手続開始の決定を受けて復権を得ない者、または外国の法令上これと同様に取り扱われている者。
・禁錮以上の刑、または法若しくはこれに相当する外国の法令の規定により罰金の刑に処せられ、その執行の終わった日または執行を受けることがないこととなった日から5年を経過しない者。
2-3.参加者制度(料金等)
登録要件のほかに、市場参加に関する料金などの項目も、下記の通り規定されています。
- 登録料 – カーボン・クレジット市場参加者の登録時に納入する。
- 参加者保証金 – 以下③から⑤の手数料などの担保として、カーボン・クレジット市場参加者の登録時に預託する。
- 基本料 – カーボン・クレジット市場参加者ごとに登録を維持するための定額料金。
- 売買手数料 – 1トンごとの売買に応じた料金。
- 決済手数料 – 1トンごとの決済に応じた料金。
なお、早い段階で構成されるべく多くの方の市場参加を促し、市場での取引を増やすことで、市場のさらなる活性化および利便性向上を図ることが望ましいという考えから、市場参加に関する料金などは、当分の間はいずれも無料とされています。
2-4.売買約定成立の方法
具体的な売買の方法などは、下記の通りに定められています。
- 売買の方法
・売買立会による売買は、競争売買により行います。
・売買立会は、午前1回(11:30)および午後1回(15:00)とします。 - 注文受付時間
・9:00~11:29
・12:30~14:59 - 注文の種類
・指値注文のみとします。(※注文値段を指定しない成行注文はできません) - 注文の有効期間
・入力された注文は、当該注文がキャンセルされるまで有効となります。
・また、呼値の制限値幅を超過した注文は、キャンセルされます。
・入力した注文は取り消されない限り、順次、次の立会に持ち越されます。
3.クレジットの売買カテゴリー
前述した通り、カーボン・クレジット市場では主に再生可能エネルギーの活用や森林整備による二酸化炭素排出量の削減分を国が認証するJ-クレジットを取り扱っています。
売買に関しては、下記のような「売買カテゴリー」が設けられています。
取引所市場として、J-クレジットについて23年1月からは、より流動性を集中させる観点から、J-クレジットの活用用途に応じて売買区分を約70種類から6種類に集約しています。、J-クレジットは各移転クレジットが実際に保有する省エネ量、再エネ量(電力)及び再エネ量(熱)に基づき売買の区分を設定しています。
4.カーボン・クレジット市場の利用方法
前述した通り、ここでは実際の利用方法について、詳しく解説していきます。
4-1.登録申請
カーボン・クレジット市場に参加するためには、まず市場参加者の登録の申請を行わなければなりません。
具体的には、下記の書類に必要事項を記載し、指定のメールアドレスに提出する形となります。
- 参加者登録申込書
- 会社概要
- 財務書類(貸借対照表、損益計算書等)
- 預貯金口座およびクレジット口座情報
- クレジット口座を有することを証する書面
- 適格請求書発行事業者であることを証する書面
- 担当者連絡先一覧
また、登録申込者は申請にあたって、マーケットでの取引の決済に用いるための自己名義の預貯金口座およびクレジット口座を指定します。
4-2.IDおよびパスワードの送付
市場参加者の登録の申請が無事終わると、カーボン・クレジット市場システムなどにログインするためのIDおよびパスワードが送付されます。その後は、実際にシステムにログインし、注文発注などの事前の確認を行う「参加者テスト」を実施します。
4-3.チェックリストの提出
ここまでの工程が完了したら、さまざまな項目について最終確認するチェックリストの提出を行います。このチェックリストに問題がなければ、参加者登録および取引スタートに係る手続きはすべて完了となります。
4-4.クレジットの売買
手続きが完了したら、実際に取引ができるようになります。東証が公開している資料によると、システムの画面イメージと主な機能は下記の通りだということです。
具体的には、注文の発注、変更、取消が行えるほか、約定の照会や決済状況の確認、相場情報の確認などが簡単にできるようになっています。
売買立会による取引はカーボン・クレジット市場システムにより行うとしており、競争売買の方式で、午前1回(午前11時30分)および午後1回(午後3時00分)に実施されると規定されています。さらに、売買約定が成立した日から起算して6日目が決済日となっているほか、売買注文の種類に関しては価格を指定した注文(指値注文)に限って有効であり、価格を指定しない成行注文は不可となっているため、注意が必要です。
4-5.呼値
実際にクレジットを取引する際には、「呼値」を行わなければなりません。
呼値とは、参加者が取引所の市場において売買注文を行おうとする際に、その売買注文の内容、例えば、売りか買いか、また購入数量や値段はどのくらいかなどを明確表示することを指します。
なお、参加者が呼値を行う際は、下記に挙げる事項を取引所に対して明らかにすることが定められています。
- 売買のカテゴリー
- 売付けまたは買付けの区別
- 売付けを行おうとする際は、当該売付けが成立したケースにおいて移転するカーボン・クレジットについてのクレジット認証ナンバー
- 注文数量
- 注文値段
そして、これらを全て明示して取引を実行すると、約定が成立した際に、その内容が売り方参加者および買い方参加者に通知される仕組みとなっています。
5.まとめ
世界中で排出量取引市場が盛り上がりを見せている中、日本国内においてもその動きが本格化しています。今回、日本を代表する証券取引所である東京証券取引所が、これまでの実証実験を踏まえたカーボン・クレジット市場の正式なオープンを果たしたことで、今後は市場規模がますます拡大していくと見られています。このカーボン・クレジット市場では、高い安全性が維持された環境で国が認証するJ-クレジットの取引ができるということで、今後は市場を通じて価格が形成されることから、さらなる透明性の向上が期待されています。
多くの方の市場参加を促し、市場の活性化および利便性向上を図るため、市場参加にかかるフィーなどはしばらくの間どれも無料にすると説明されているため、興味のある方は今のうちに市場に参入し、取引を行ってみてはいかがでしょうか。
中島 翔
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