カーボンクレジットの認証を受けるための方法論とは

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一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. カーボンクレジットの方法論とは
    1-1.カーボンクレジットの概要
    1-2.カーボンクレジットの方法論
    1-3.カーボンクレジットの方法論の分類
  2. 省エネルギー分野の方法論
    2-1.ボイラーの導入
    2-2.自家用発電機の導入
    2-3.水素燃料電池車の導入(非再エネ由来水素利用)
  3. 再生可能エネルギー分野の方法論
    3-1.太陽光発電設備の導入
    3-2.再生可能エネルギー熱を利用する発電設備の導入
    3-3.水素燃料電池車の導入(再エネ由来水素利用)
  4. 工業プロセス分野の方法論
    4-1.機器のメンテナンス等で使用されるダストブロワー缶製品の温室効果ガス削減
    4-2.麻酔用N2Oガス回収・分解システムの導入
    4-3.温室効果ガス不使用絶縁開閉装置などの導入
  5. 農業・廃棄物・森林分野の方法論
    5-1.家畜排せつ物管理方法の変更
    5-2.バイオ潤滑油の使用
    5-3.植林活動
  6. まとめ

カーボンクレジットは、地球温暖化対策の手段として多くのシチュエーションで利用されている注目の分野です。

このカーボンクレジットには、各テクノロジー毎に温室効果ガスの排出削減や吸収の範囲、計算方法、観察方法などを定めた「方法論」が存在します。2023年3月時点で、経済産業省や環境省、農林水産省が運営する「J-クレジット制度」の事務局によれば、69の方法論が承認されています。この方法論を基に、カーボンクレジットを発行したい企業や団体がプロジェクトを推進しています。

今回は、カーボンクレジットの認証に必要な方法論の概要や特徴を詳しく解説します。

1.カーボンクレジットの方法論とは

1-1.カーボンクレジットの概要

カーボンクレジットは、温室効果ガスの排出を削減した組織や個人に「クレジット(排出権)」を発行する仕組みです。これを基に、他の企業や団体と取引が行えます。

カーボンクレジットの発行対象となるプロジェクト例としては、再生可能エネルギーの活用、エネルギー効率の向上、森林の保全や植林があります。これらのプロジェクトが実施されることで、排出削減量や吸収量に基づきクレジットが割り当てられます。

温室効果ガスの完全削減は難しい部分もありますが、そのような場合、カーボンクレジットを購入することで排出量を相殺できます。このシステムは「カーボンオフセット」と呼ばれ、企業や団体の柔軟な温室効果ガス削減活動を支援し、持続可能な開発を促進します。

さらに、排出削減プロジェクトへの資金提供を通じて、新技術の普及やクリーンエネルギーの推進が可能となります。これにより、カーボンクレジットマーケットの規模は今後さらに拡大すると期待されています。

1-2.カーボンクレジットの方法論

カーボンクレジットの方法論は、特定のテクノロジーに応じた温室効果ガスの排出削減や吸収の範囲、計算方法、観察方法などを定めた指南です。

「J-クレジット制度」によれば、方法論を適用するための条件が設定されており、企業や団体がクレジットを発行する際には、これらの条件を満たすことが求められます。したがって、カーボンクレジットの取得を希望する企業や団体は、自らのプロジェクトがどの方法論に合致するかを事前に確認することが重要です。もし、合致する方法論が存在しない場合、新たな方法論の登録が可能な場合もあるため、J-クレジット制度の事務局に相談するのが良いでしょう。

1-3.カーボンクレジットの方法論の分類

カーボンクレジットの方法論は以下のように分類されます。

  • 省エネルギー
  • 再生可能エネルギー
  • 工業プロセス
  • 農業
  • 廃棄物
  • 森林

これらのカテゴリー内での方法論の数は、省エネルギーが42、再生可能エネルギーが11、工業プロセスが5、農業が5、廃棄物が3、森林が3となっています。

以下では、各分野の代表的な方法論を解説します。

2.省エネルギー分野の方法論

2-1.ボイラーの導入


・ソリューション

効率のよいボイラーを導入することにより、化石燃料や電力の使用量を削減する。

・認証に当たる条件

  • 都市ガス、LNG、または電気を動力とする効率の良いボイラーを導入すること。
  • ボイラーで生成された蒸気や温水などの熱を、全部または一部、自家消費すること。

・ベースラインの設定

プロジェクト実施後のボイラーの生成熱量に対応する、ベースラインのボイラーからの二酸化炭素排出量を計算。

・観察内容

  • プロジェクト実施後のボイラーの燃料や電力使用量
  • 実施後のボイラーの効率
  • 更新前のボイラー、または基準となるボイラーの効率

2-2.自家用発電機の導入

・ソリューション

効率のよい自家用発電機を導入することにより、化石燃料の使用量を削減または系統電力を代替する。

・認証に当たる条件

  • 既存の発電機よりも効率の良いものに更新する、または系統電力に比べて低排出の発電機を設置すること。
  • 生成した電力を自ら使用すること。

・ベースラインの設定

導入後の発電機による発電量に対して、既存の発電機や系統電力での二酸化炭素排出量を基準とします。

・観察内容

  • 導入後の発電機の燃料消費量
  • 導入後の発電機の効率
  • 導入前の発電機の効率

2-3.水素燃料電池車の導入(非再エネ由来水素利用)


・ソリューション

水素燃料電池車を導入することにより、化石燃料や系統電力の使用量を削減する。

・認証に当たる条件

  • 水素燃料電池車を導入すること。
  • ベースラインの設備(=自動車)を特定できること。
  • プロジェクト実施後の水素の充填履歴と充填場所ごとの水素の由来を特定できること。
  • 副生水素を利用する場合、未利用のものであること。


・ベースラインの設定

プロジェクト実施後のFCVの走行距離を、ベースラインの自動車で走行する場合に想定される二酸化炭素排出量

・観察内容

  • 導入後の車の水素消費量(供給元ごと)
  • 供給元や水素の製造過程を考慮した排出係数
  • 導入後の車の走行距離
  • 導入前の自動車や一般的な自動車の燃費

3.再生可能エネルギー分野の方法論

3-1.太陽光発電設備の導入

・ソリューション

太陽光発電設備を導入することにより、系統電力などの使用量を削減する。

・認証に当たる条件

  • 太陽光発電設備を設置すること。
  • 原則として、発電した電力の全部または一部を自家消費すること。
  • 発電した電力が系統電力などを代替するものであること。

・ベースラインの設定

プロジェクトを行った後に自家消費した発電電力量を、ベースラインの系統電力などから獲得する際に想定される二酸化炭素排出量。

・観察内容

  • 太陽光発電設備による発電電力量
  • 発電電力量のうち、他社に提供した電力量

3-2.再生可能エネルギー熱を利用する発電設備の導入


・ソリューション

再生可能エネルギー熱を利用する発電設備を導入することにより、系統電力などの使用量を削減する。

・認証に当たる条件

  • 再生可能エネルギー熱を利用する発電設備を設置すること。
  • 原則として、発電した電力の全部または一部を自家消費すること。
  • 発電した電力が系統電力などを代替するものであること。

・ベースラインの設定

プロジェクト実施後に自家消費した発電電力量を、ベースラインの系統電力などから獲得する際に想定される二酸化炭素排出量

・観察内容

  • 再生可能エネルギー熱を利用する発電設備による発電電力量
  • 発電電力量のうち、他社に提供した電力量

3-3.水素燃料電池車の導入(再エネ由来水素利用)


・ソリューション

水素燃料電池車(再エネ由来水素で駆動)を導入することにより、化石燃料や系統電力の使用量を削減する。

・認証に当たる条件

  • 水素燃料電池車を導入すること。
  • ベースラインの設備(=自動車)を特定できること。
  • プロジェクトを行った後の水素の充填履歴と充填場所ごとの水素の由来を特定できること。
  • 使用される水素燃料は、再生可能エネルギーを主に使用して製造されたもの、または未利用のバイオマスを原料として製造されたものであること。

・ベースラインの設定

プロジェクトを行った後のFCVの走行距離を、ベースラインの自動車で走行する際に想定される二酸化炭素排出量

・観察内容

  • プロジェクトを行った後のFCVにおける水素使用量(充填場所ごと)
  • 水素の製造・運搬を考慮して充填場所ごとまたは水素の製造ロットごとに算定した水素の使用量あたりの排出係数
  • プロジェクトを行った後のFCVの走行距離
  • 更新前の自動車または標準的な自動車のエネルギー消費効率

4.工業プロセス分野の方法論

4-1.機器のメンテナンス等で使用されるダストブロワー缶製品の温室効果ガス削減


・ソリューション

機器メンテナンスなどに使われるダストブロワー缶製品噴射剤を「HFC‐134a」、「HFC‐152a」から、 温室効果のより低いガスに変更する。

・認証に当たる条件

  • 事業実施前に使用していた温室効果ガス(HFC‐134a、HFC‐152a)を噴射剤とするダストブロワー缶製品の利用を、低温室効果ガスを噴射剤として製造されたダストブロワー缶製品の利用へ転換すること。
  • プロジェクト実施前のHFCダストブロワー缶製品の使用量およびメンテナンス等の対象機器台数について原則としてプロジェクト実施前の1年間の累積値が把握可能であること。
  • プロジェクト実施後にメンテナンス等の対象となる機器の種類や大きさなどで大幅な変更を行わないこと。

・ベースラインの設定

同じ台数の機器のメンテナンスなどを、ダストブロワー缶製品の低温室効果ガスへの代替を行わずに実施する場合に想定される排出量

・観察内容

  • プロジェクト実施後の代替ガスを使用したダストブロワー缶製品の年間使用本数
  • プロジェクト実施後の代替ガスを使用したダストブロワー缶製品1本当たりの噴射剤ガス排出量
  • プロジェクト実施後のメンテナンス等の対象機器台数

4-2.麻酔用N2Oガス回収・分解システムの導入


・ソリューション

麻酔用一酸化二窒素(N2O)ガスを用いている医療施設で麻酔用N2Oガス回収および分解システムを導入することによって、プロジェクトを行う前に無処理で放出させていたN2Oガスを回収および分解する。

・認証に当たる条件

  • 新たに麻酔用N2Oガス回収・分解システムを導入すること。


・ベースラインの設定

プロジェクトを行った後のN2Oガスを、麻酔ガスの回収・分解装置を導入せずに放出し続ける際に想定されるN2O排出量。

・観察内容

4-3.温室効果ガス不使用絶縁開閉装置などの導入

  • プロジェクトを行った後におけるN2Oガス使用量
  • プロジェクトを行った後のN2Oガス回収・分解装置における電力使用量

・ソリューション

温室効果ガス不使用の絶縁開閉装置・遮断器を用いることによって、「六フッ化硫黄(SF6)」ガスの使用量を削減する。

・認証に当たる条件

  • 温室効果ガス不使用の絶縁開閉装置・遮断器を導入すること。

・ベースラインの設定

プロジェクトを行った後の絶縁能力(対応電圧および電流)を、プロジェクトを行った後の温室効果ガス不使用の絶縁開閉装置・遮断器ではなく、ベースラインのSF6ガス使用絶縁開閉装置・遮断器を用いて実現する際に想定されるSF6排出量。

・観察内容

  • プロジェクトを行う前におけるSF6ガス充填量
  • 装置更新時におけるSF6ガスの回収量(更新プロジェクトのケース)
  • 装置更新前後のSF6ガス封入部の圧力(更新プロジェクトのケース)

5.農業・廃棄物・森林分野の方法論

5-1.家畜排せつ物管理方法の変更


・ソリューション

家畜の飼養における排せつ物の管理方法を変更することによって、CH4およびN2O排出量を軽減する。

・認証に当たる条件

  • 排せつ物管理方法を、温室効果ガスの排出がより少量なものに変更すること、またプロジェクトを行う前後の排せつ物管理方法が、「日本国温室効果ガスインベントリ報告書」において規定される管理区分に該当していること。
  • プロジェクトを行った前後で、家畜種を変更しないこと。
  • 家畜は、日本国温室効果ガスインベントリ報告書で規定される牛(乳用牛または肉用牛)、豚または鶏(採卵鶏またはブロイラー)であること。

・ベースラインの設定

プロジェクトを行った後の家畜排せつ物を、プロジェクトを行う前の管理方法で処理する際に想定される温室効果ガス排出量。

・観察内容

  • プロジェクトを行った前後の排せつ物管理区分
  • プロジェクトを行った後の排せつ物管理区分ごとの家畜種ごとの飼養頭数および飼養日数
  • 排せつ物管理における燃料使用量および電力使用量

5-2.バイオ潤滑油の使用

・ソリューション

工業用潤滑油として、バイオマス由来成分を含む潤滑油である「バイオ潤滑油」を使用し、使用済みとして廃棄される潤滑油の焼却または原燃料使用に伴う排出を削減する。

・認証に当たる条件

  • 工業用潤滑油としてバイオ潤滑油を使用すること。
  • バイオ液体燃料の原料は、未利用の有機資源、資源作物であること。

・ベースラインの設定

プロジェクトを行った後に使用されるバイオ潤滑油(そのうちのバイオマス由来成分)と同量の化石由来潤滑油を焼却処理した際に想定される二酸化炭素排出量

・観察内容

  • プロジェクトを行った後におけるバイオ潤滑油の使用量
  • プロジェクトを行った後のバイオ潤滑油におけるバイオマス由来成分の割合
  • プロジェクトを行った後の運搬、潤滑油化処理などに使用される燃料使用量および電力使用量
  • ベースラインの化石由来潤滑油における再生潤滑油以外の割合

5-3.植林活動

・ソリューション

森林の定義を満たさない土地において植林活動を実行することで、地上部および地下部バイオマスが増加することによる吸収量の確保を行う。

・認証に当たる条件

  • 地域森林計画や市町村森林整備計画などに含まれる樹種の植林活動であること。
  • 2013年3月31日時点において、森林の定義を満たしていない土地で行われること。
  • 検証申請時までに、プロジェクトを行う場所が森林経営計画に含まれること。

・ベースラインの設定

植林活動前の吸収量を0とみなす。

なぜなら、植林活動前の草地、農地(田、畑地)などは、日本国温室効果ガスインベントリ上、バイオマスの吸収量が計上されないため。

・観察内容

  • 植林活動が行われた樹種・林齢別の面積
  • 植林活動が行われた森林の地位(樹高の計測により特定される、林地の生産力を示す指数)

6.まとめ

カーボンクレジットの方法論とは、温室効果ガスの排出量削減や吸収に資するテクノロジーごとに、その適用範囲や排出削減・吸収量の算定方法および観察方法などを規定したもののことを言います。

そして、これらの方法論には適用するための条件が存在し、企業が団体がクレジットの発行を受けるためにはこれらの条件をすべて満たす必要があります。

今回は全69種類存在する方法論の中からいくつか紹介しましたが、今後クレジットの発行を考えている企業や団体は、プロジェクトからクレジットが確実に認証されるよう、それぞれの方法論をよく理解しておくようにしましょう。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12