アウディが廃棄自動車の循環経済性にブロックチェーントレーサビリティシステムを利用!車業界でトレーサビリティの透明性確保へ

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今回は、アウディのブロックチェーントレーサビリティシステムについて、一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。

目次

  1. アウディがブロックチェーンを使い廃棄自動車の循環経済性を検証
    1-1.ブロックチェーントレーサビリティシステム
    1-2.サーキュライズが独自開発した「Smart Questioning」技術
  2. BMWが製造に関する主要なESGにブロックチェーンを導入
    2-1.両社の提携により低炭素アルミニウム供給
    2-2.トレーサビリティプラットフォーム「START(スタート)」
  3. 日本企業とサーキュライズの提携と技術の活用
  4. ブロックチェーンの利用はCO2排出量を抑える
  5. 国連のブロックチェーンプロジェクト「Climate Chain Coalition」
  6. まとめ

2018年にWFF(世界経済フォーラム)において、地球環境が直面している環境問題をブロックチェーンが解決する可能性があるとして報告書が発表されています。製品の製造においてブロックチェーンを使用することで、材料に対しても責任を持って調達・生産、その後の供給を「見える化」させることが可能です。大手自動車メーカーアウディでは廃棄自動車の循環経済性を検証するためにブロックチェーンの利用を発表しました。

ここでは自動車業界でブロックチェーンを利用したトレーサビリティの透明性の実例について解説します。

①アウディがブロックチェーンを使い廃棄自動車の循環経済性を検証

海外の自動車メーカーアウディ(Audi)がサーキュライズと連携し、廃棄自動車の循環経済性を検証する「マテリアルループプロジェクト(MaterialLoop project)」において、蘭サーキュライズ(Circularise)のブロックチェーントレーサビリティシステムを利用したことを3月3日発表しました。

1-1.ブロックチェーントレーサビリティシステム

ブロックチェーン・トレーサビリティ・スタートアップのサーキュライズ(Circularise)は、ブロックチェーンを活用したトレーサビリティシステムを開発しています。当システムによって、個別の商品に関する原材料調達からリサイクルに至るまでライフサイクル全体に、アクセスできるデータ「デジタル製品パスポート」を企業に対し提供しています。

サーキュライズの蘭サーキュライズ(Circularise)は、車体がスチール・アルミニウム・プラスチック・ガラスなどの材料群に解体されてからのリサイクル、そして新車への再利用するまでの動きを追跡するため、アウディのプロジェクトへ提供しました。

サーキュライズによると今回実施された検証は、廃棄車両に使われている使用後の材料を新車の生産に再利用する可能性の調査を目的とした試験プロジェクトとのことです。また、材料のダウンサイクル(元々の製品より価値を下げた再利用)を回避して持続可能な廃棄車両のリサイクル方法を実現することを目的に、アウディの他に研究・リサイクル・サプライヤー分野における14のパートナーがプロジェクトに参加したとのことです。

1-2.サーキュライズが独自開発した「Smart Questioning」技術

サーキュライズのトレーサビリティシステムは、ブロックチェーン技術とゼロ知識証明をベースにサーキュライズが独自開発した「Smart Questioning」技術です。これにより製品の設計・仕様、加工条件、リサイクル履歴等のトレーサビリティ関連情報やカーボンフットプリント、リサイクル比率等の資源効率を示すデータ、企業のSDGs対応情報、第三者認証情報といった環境対応指標を、機密性を保ちながら選択的に開示することでサプライチェーンの透明化に貢献します。

②BMWが製造に関する主要なESGにブロックチェーンを導入

独BMWグループが、英豪資源会社リオティント(Rio Tinto)との提携を2月21日発表しました。これによりBMWは、リオティント製品の製造に関する主要なESG(環境・社会・ガバナンス)情報をブロックチェーン技術を使用して「見える化」するトレーサビリティプラットフォーム「START(スタート)」の導入を検討するとしています。

2-1.両社の提携により低炭素アルミニウム供給

今回の両社の提携によりBMWは、米国サウスカロライナ州スパータンバーグにある車体組み立て工場向けに、低炭素アルミニウムの供給を2024年より受ける予定です。

低炭素アルミニウムは、オティントがカナダで水力発電を利用して生産し、さらにリサイクル原料と組み合わされたアルミニウムです。低炭素アルミニウムは、BMWグループがアルミニウム部品に関して定めている現行基準値と比較して、温室効果ガス排出量を最大70%削減することが可能とのことです。

さらに両社は、BMWグループのサプライチェーンにリオティントの「ELYSIS」技術を用いて製造されたアルミニウムを組み込むための覚書も締結しています。「ELYSIS」はアルミニウムの製錬工程で温室効果ガスを直接排出せず、酸素のみを生み出す世界初のカーボンフリーなアルミニウム製錬技術です。

2-2.トレーサビリティプラットフォーム「START(スタート)」

「START」は顧客と最終製品の購入者に対して、アルミニウムをはじめとしたリオティント製品のサプライチェーンのトレーサビリティ情報を提供するプラットフォームです。

「START」の基盤技術には、エンタープライズ向けブロックチェーンのハイパーレジャーファブリック(Hyperledger Fabric)を採用されており、LCA(ライフサイクルアセスメント)に基づいた温室効果ガスの排出量、水の使用量、安全操業実績、ビジネス倫理規範の順守、コミュニティへの貢献やダイバーシティなど、14のESG指標に関する項目が含まれています。

③日本企業とサーキュライズの提携と技術の活用

2021年2月に、サーキュライズのトレーサビリティシステムは、大手総合商社の丸紅が日本とアジアの化学品市場向けに展開するため、業務提携契約を締結しています。

そして2022年2月7日に、丸紅がリオティントと提携し、英豪資源会社リオティントのアルミニウム製品を国内大手輸送機メーカーへ販売する契約が締結されています。「START」活用によりリオティントが保有する、ニュージーランドのアルミニウム製錬所において、再生可能エネルギーを利用して生産した、第三者認証付き低炭素アルミニウム製品ブランド「RenewAl(リニューアル)が、日本の大手輸送機メーカーへ供給されます。

また2022年11月、サーキュライズはシリーズAラウンドで1,100万ユーロ(約15.9億円)の資金調達を行いました。資金出資には、ブライトランズ・ベンチャー・パートナーズ(Brightlands Venture Partners)を中心に、旭化成、フィンランドのエネルギー企業のネステ(Neste)、オランダに拠点を置くVCファンドのフォーインパクトキャピタル(4impact capital)が参加しました。

旭化成CVCの社長の森下隆史氏は「旭化成はサーキュライズとの協業を通じ、バイオマスやリサイクル原料から作られた製品を利用促進することで、供給者の責任として透明性のあるサプライチェーンの構築と循環型経済への移行に貢献できるものと期待している」と述べています。

④ブロックチェーンの利用はCO2排出量を抑える

このように自動車業界が、自動車の製造や廃車になってからのトレーサビリティにブロックチェーンを採用することで、材料をムダなく再利用できるルートを見える化させることが可能です。ブロックチェーンを利用することで、材料の生産から流通などが効率化され、結果的に環境への負担を抑えることに繋がるのです。

WEF(世界経済フォーラム)は、温室効果ガスを抑制するために、企業や会社の排出量をブロックチェーンを用いて管理する必要があることを提言しました。例えば、製造業者の倉庫から店頭販売までの流通をブロックチェーン技術を用いて一括管理をおこなうことで、効率的に製造・販売ができ、環境破壊やエネルギー消費を抑制できるようになると、述べています。また、ブロックチェーン技術を活用して、二酸化炭素排出量を記録、開示することができれば、製造業者はカーボンタックスを避けるために、CO2排出量を抑えるための商品開発を積極的に行うとも、述べられています。

⑤国連のブロックチェーンプロジェクト「Climate Chain Coalition」

2015年12月に気候変動問題に関する国際合意のパリ協定が結ばれましたが、各国の動きは国によってまちまちです。世界193か国が加盟する国連は、テクノロジーを活用して気候変動問題を解決しようと動いています。国連は、気候変動対策としてのブロックチェーン技術の活用事例を調査するグループ「「Climate Chain Coalition(以下CCC)」を創設しました。

CCCはブロックチェーンを使い、気候変動に影響を与えうる要素を集め、データ検証とレポート作成の精度を高めることを目的としています。具体的には、産業部門から排出される温室効果ガスなど、気候変動にとって重要な情報が世界中から更新され続け、データがオープンな方法で共有されるとのことです。ここで期待されているのがブロックチェーンです。ブロックチェーンの高い透明性と信頼性を生かし、炭素排出権取引の自動化やP2Pのクリーンエネルギー取引プラットフォームの開発を行うことができれば、温室効果ガス排出量と削減量を追跡し、カーボンクレジットの二重計上問題の解決に使うことが可能になります。

⑥まとめ

ブロックチェーン技術はスーパーのトレーサビリティや、金融機関のローン業務に導入されるケースは珍しくありません。海外の大手自動車メーカーが生産のトレーサビリティにブロックチェーンを導入することで、再利用や環境破壊の軽減に繋げる動きを見せています。環境問題は現在地球に住んでいる人たちだけでなく、これから生まれてくる世代に大きな影響を与えます。

ブロックチェーンはまだ新しい技術であり、試験や検証段階にあることも事実で、長期的に見守る分野でもあります。しかし着実にブロックチェーンを使う企業は増えるので、今後も注目していくことが大切です。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12