シュローダーはサステナブル投資に使用する「SustainEx」と「CONTEXT」という2つのツールをついて「欧州でのサステナブル投資、3年の教訓」と題したレポートを発表した。2つのツールを用いて行ったサステナブル投資の事例とそこから得た教訓について紹介しており、シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社(シュローダーIM)が3月11日付で日本語版を公開した。
SustainExとCONTEXTのうち、SustainExは企業が社会に与えるプラスまたはマイナスの影響を、CONTEXTは企業とステークホルダーとの関係性から生じる機会とリスクをそれぞれ評価する。このうち、SustainExは2019年に独自のESG評価ツールとして開発され、企業業績に反映されていない、企業が社会に与えるポジティブ・ネガティブな社会的インパクトの評価を目的に構築されている。2つを利用することで、一連の投資検討段階にサステナビリティの観点を組み込むことができる。同社は、2つのツールによって過去3年の経験からサステナブル投資の重要な教訓を3つ導き出すことができたと説明する。
最初に挙げられているのが医療機器・ライフサイエンス企業であるスウェーデンのゲティンゲ。20年初めに同社に初めて注目した時、2つのツールは異なる答えを示していた。SustainExでは医療品の提供と給与水準を背景とした良い結果、反対にCONTEXTでは競合他社平均をはるかに下回る結果だった。「コスト削減を積極的に推し進めていた前経営陣の下で規制当局と良好な関係を築けていなかったことが主な理由」とシュローダーは説明する。
シュローダーはゲディンゲ社の品質・規制コンプライアンス責任者とエンゲージメントを実施し、米国食品医薬品局(FDA)から品質管理問題に関して出された警告書に対応済みであることや、刷新した品質基準が組織全体に導入されたことを知った。この新しい品質基準が事業構造の見直しの土台となり、生産プロセスにおける無駄の削減と効率化に繋がった。このことは、より成長性が高い事業領域に注力する新しい投資決定プロセスにも結びついた。
経緯について、シュローダーは「企業文化の改善や組織改編がまだ株価に適正に反映されていないと感じた。この事例はサステナブル投資をベスト・イン・クラスの銘柄のみに限るべきではないという従来からの考え方を強めることにもなった。転換期、イノベーション期、重大な変化を遂げている途中にある企業も投資対象になり得る」と主張している。サステナビリティの観点から、自社のツールが投資判断の強みになると感じた領域として、同社はE(環境)、S(社会)、G(ガバナンス)のバランスを挙げる。「比較的測定しやすく、目に見えやすい環境が、サステナビリティに関する話題の主役になるのは当然だが、ガバナンスが優れ社会に対する意識が高いから環境にも優しいと思い込むのは禁物」と主張する。
例えば、ある風力タービンメーカーは、クリーンエネルギーへの移行、排出量削減への貢献という意味で環境に関する信頼度は高かった。だが、すべてのステークホルダーを加味して見直すと、一貫した品質管理や将来の保証コストに関わる課題、サプライチェーンや原材料の問題などが浮上したという。経営陣の実績のなさが懸念材料になったケースもいくつかあった。
そのうえで「サステナビリティは環境だけではないことを再認識すべき。ESGに関する議論は常に進化しており、コロナ禍では労働力とサプライチェーンの脆弱性が浮き彫りになった。私たちはサステナビリティに焦点を当てた投資でも、株価水準に重点的にフォーカスを当てることがすべての正しい判断の支えになると考える」と説く。
企業やクライアントに対して付加価値を提供できるもうひとつの領域として、同社は企業に変化を促すエンゲージメント活動を挙げる。独自のサステナビリティツールから導き出された細かな結果を活かし、それを土台に狙いを絞ったエンゲージメント活動を行うことができる。企業戦略や報酬から気候変動、人的資本管理、論争への対応など。
一例が、15年にガバナンス危機に陥ったドイツの自動車メーカー、フォルクスワーゲンだ。いわゆる「ディーゼルゲート」事件として露呈した不正問題では、組織全体でサステナビリティに反する行為が行われていたことが明らかになった。
シュローダーのアナリストチームは進展を注視しながら、この過程のすべての段階で同社に働きかけることによって前向きな変化を促し、過去のリスクを将来の機会に変える支援を行った。シンプルな変化としては、ドイツ語以外の言語での内部告発を可能にした。反対に中国、新疆ウイグル自治区にある工場の管理や、機械生産ラインから電気部品生産ラインに至るまで電気自動車の製造に関わる全従業員の再教育の実施、組織再編や非中核資産の売却といった複雑な変化もあった。「信頼回復の道のりは長く険しいものだったが、最大の痛みは最大の変化につながるチャンスでもある」(同社)。
「エンゲージメント活動の課題は適切なバランスを見つけること。その企業にとっての最重要事項に着目することで最も有意義な変化を促すことができ、同時に将来の論争の芽を綿密に網羅することもできる。過去の経験から学び、将来のエンゲージメント活動に活かす姿勢を大切することで、精度の高い投資判断が可能になる」とレポートは結ばれている。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
最新記事 by HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム (全て見る)
- TBWA HAKUHODOが子会社「地球中心デザイン研究所」設立。マルチスピーシーズ視点で持続可能なデザインへ - 2024年10月5日
- 【9/19開催】サーキュラーエコノミー特化型スタートアップ創業支援プログラム「CIRCULAR STARTUP TOKYO」第二期説明会 - 2024年9月25日
- 【10/8開催】東京・赤坂からサーキュラーシティの未来像を模索するカンファレンス&ツアー「Akasaka Circular City Conference & Tourism」 - 2024年9月19日
- 【9/19開催】サーキュラーエコノミー特化型スタートアップ創業支援プログラム「CIRCULAR STARTUP TOKYO」第二期説明会 - 2024年9月10日
- PRI(責任投資原則)がインパクト志向金融宣言の賛同機関に参加 - 2024年8月5日