シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社は3月3日、「グリーン補助金競争とその世界経済への影響」と題したレポートを発表。欧米の各国政府がグリーンテクノロジーへの投資を通じて競争力を高めようとしている中で、この産業政策の復活と世界経済への影響について説明している。
サプライチェーンの強化やエネルギーの安全保障の向上のために、先進国ではクリーンエネルギー技術や製造の拡大への注力が進む。2022年8月、米国で気候変動関連法案となる「インフレ抑制法(歳出・歳入法)」が成立した。電気自動車やバッテリー、再生可能エネルギー企業に対する3690億ドル規模の減税と補助金を支給するもので、新たな産業戦略に相当する。
米国と欧州は、より地域に根差したサプライチェーンの重要性と緊急性を認識しており、エネルギー安全保障の強化は、インフレ抑制法およびその後の欧州の対応の主な目的の一つとなる。米国の排出量の軌道を改善すると同時に、この新しい法律は、クリーンエネルギー分野の雇用と投資も支援することになる。
さらに、電気自動車やゼロエミッション車、ヒートポンプのコストを下げ、効率化を促進することにより、エネルギーコストの削減を通じて米国の家計部門にも利益をもたらす。インフレ抑制法は、2030年に米国の年間エネルギー支出を少なくとも4%削減し、家計部門で年間500億ドル近い節約になると推定される。
インフレ抑制法は、特にEUのグリーンテクノロジー産業にとって重要なリスクとなる。補助金が少なく光熱費が米国と比べて相対的に高い欧州から、グリーンエネルギーに対する資本を流出させる可能性があるためだ。EUはクリーンエネルギーにおけるリーダーシップを守るために、米国に競争力を奪われる可能性やエネルギー集約型の産業が移転するリスクに対応する必要がある。
EUは、23年1月にダボス会議で発表されたネットゼロ産業法(Net-Zero Industry Act)を通し、独自のグリーン補助金戦略を検討している。また、調達先を多様化し、第三国からの調達への高い依存度を低下させることによって、重要な鉱物および金属へのアクセスを確保することを目的とした「重要原材料法(Critical Raw Material Act)」を制定する可能性が高いとみられる。
一方、戦略国際問題研究所(CSIS)の調査によると、中国は国内産業を強化するために大量のリソースを投入している。19年の産業政策支出は2400億ドル以上にのぼったとされ、これは米国の3倍、日本の9倍。中国がクリーンエネルギーの分野で世界のリーダー的存在となったことは、グローバル・バリューチェーンに大きな影響を及ぼしている。IEAのデータによると、中国はグリーンテクノロジーの製造に欠かせない多くの鉱物の加工を独占している。コンゴ民主共和国など鉱物資源が豊富な国への投資を行っているほか、持続的な政策支援も行い、世界の大量生産技術の製造を掌握している。
アジアは、ソーラーパネルとバッテリーの世界の生産キャパシティの70%以上を占めている。また、風力発電とヒートポンプの最大の生産エリアでもあり、それぞれ58%、38%を占めている。エネルギー転換が加速する中、クリーンで再生可能なエネルギーを生み出すための機器の生産における中国の役割は、今後10年間で拡大が予想される。IEAの最新レポート「Energy Technology Perspectives 2023」では、30年には中国だけで太陽光発電モジュールの世界市場全体、電解槽の世界市場の3分の1、世界の電気自動車用バッテリーの90%を供給できるとされている。
中国への生産集中は、先進国の脱炭素化計画にとってのリスクだと同社は指摘する。新型コロナウイルスの感染拡大は、サプライチェーンの混乱とそれに伴うボトルネックが大きなインフレ圧力につながる可能性があることから、各国がより弾力性のあるサプライチェーンを構築する必要があることを浮き彫りにした。再生可能エネルギーは無限かつ制約のないエネルギー源であり、多くの国でエネルギー安全保障の強化につながり、最終的にはコストの大幅な低減につながる可能性がある。一方、現在のグローバル・バリューチェーンの構造は、各国が風力や太陽光による電力を享受するために必要なインフラ整備が、地政学的リスクにさらされていることを意味する。
EUは、グリーン支出を増加させるための資金調達方法についてまだ詳細を詰める必要があり、これはおそらく3月下旬の会議での合意が予想されている。その際、フォン・デア・ライエン欧州委員会委員長は加盟国に改革案を提示しなければならず、同社は「もし実施されれば、この地域における産業政策の復活は、EUの競争力と生産性を高めると同時に、ネットゼロへの道を強化することになる」と見ている。
最後に、他の先進国への影響も考えるべきと。同社は注意を促す。英国のようにグリーン補助金競争に参加しない国は海外との競争にさらされることになり、その結果、エネルギー転換がもたらす雇用と投資機会を十分に生かすことができなくなる可能性があるためだ。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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