新型コロナウイルスの感染拡大により、株主総会への出席が困難になったことから「バーチャル株主総会」を求める声が高まっており、一部では既に永続的な変更を求める声も出ている。バーチャル株主総会は、コロナ収束後も主流になるだろうか。英国の資産運用会社シュローダーグループは「異例の状況下ではバーチャル株主総会は必須なものとなる一方、これまでの株主総会のやり方にも優れた点がある」との見解を示している。
企業とのエンゲージメントや実態調査などサステナビリティへの取り組みを四半期ごとにまとめた「サステナブル・インベストメント・レポート」のテーマにバーチャル株主総会を選んだもので、日本語版は日本法人のシュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社が8月31日に発表した。
株主総会とは、「純粋に技術的な観点から、株主総会は企業が年次決算や取締役の選出といった議題について株主からの承認を得るための場。保有株数を問わず、どのような株主でも企業の経営陣と直接会うことができ、質問をすることができる場でもある」と定義。 だが現在の株主総会に出席する個人投資家は少なく、機関投資家は株主総会に先立って議案に対する投票を行い、企業幹部とも直接会っているため株主総会に出席するケースも少なくなっている。出席率の低さと技術的な進歩を受け、物理的な株式総会は必要かという声が上がっている。新型コロナウイルスの感染拡大を除いても、株主総会を実施することは費用がかかることから、企業側にとってバーチャル株主総会はコストメリットもある。
新型コロナウイルスの感染拡大以前から、米国ではバーチャル株主総会は一般的だった。米国の多くの州では、企業は株主の承諾なしにハイブリッドもしくはバーチャルのみの株主総会を開催することができる。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ドイツやオーストラリアでもバーチャル株主総会が開催できるよう規制が変更された。「ISSアナリティクス」によると、2020年は3900件のバーチャル株主総会が開催され、うち米国が約57%を占めた。19年は、グローバルでのバーチャル株主総会は286件だった。
しかし、同社は「永続的にバーチャルのみの株主総会へ切り替えるには課題がある」と主張する。バーチャル株主総会は、技術的には費用効率が高く、直接参加のすることができない株主に対しても参加を推進することができるようになるという利点がある一方、「バーチャルは補足として活用できるものであって、リアルな参加の完全な代替となるべきものではない」という考え方だ。
同社はさらに、企業が物理的な株主総会を開催する必要がある理由として、①多様な意見の表明、②株主の民主主義、③株主同士のコラボレーション、④企業文化の理解の4点を挙げる。このうち、多様な意見の表明について「物理的な株主総会は、事実上すべての株主に対し質問や懸念を表明すること、そして公の場で広く意見を述べることができる環境を提供する。一方、バーチャル株主総会では、質問や意見が開催する企業側によって管理される可能性があり、このことは編集されていない意見を公の場で記録させる機会が減少することにつながりかねなく、結果として意見の表明を阻害する可能性がある」と懸念を示す。
株主の民主主義については「大手機関投資家は、多くの場合企業幹部や取締役と直接会うキャパシティーとリソースの両方を持ち合わせている。一方、小規模な株主はこのようなミーティングを持ち、株主総会以外で企業幹部と会うことは非常に困難。株主総会は、企業とその取締役全員に株主が会うことができ、企業側にとっては全株主に対し説明責任が生じる唯一の場。シュローダーやその他主要株主がアクセスでき投票できるだけでは十分ではないと考えており、全ての投資家が平等に扱われ、企業が技術の影に隠れることのできない場で質問できることが重要」と訴えている。
外出自粛でとどまった日本に比べ、欧米ではロックダウン(都市封鎖)の措置が取られ、結果、バーチャル株主総会の開催が増えた。同社は「今年は極端な環境。今後はバーチャルと物理的な株主総会を組み合わせるような、より柔軟性の高いアプローチが実現可能と考えている」と折衷的なスタンスを示す。「株主総会は株主が企業に責任を問う場。一堂に会して企業幹部と直接対面することは、例え実際には何も言わなかったとしても、小株主に発言権を与えるということだ」と、株主にとってのメリットを説明する。
【関連サイト】シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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