欧州連合(EU)における繊維から繊維へのリサイクル率を10%まで向上させることで、年間44万トンの二酸化炭素(CO2)削減と88億立方メートルの水資源保全が可能になることが、スウェーデン環境研究所(IVL)の研究で明らかになった。EUが掲げる2030年までの循環型繊維戦略の実現に向けて、繊維廃棄物対策への新たな政策的注目が高まっている。
現在、世界の繊維から繊維へのリサイクル率はわずか1%にとどまっている。ファストファッションの環境負荷が問題視される中、多くの繊維廃棄物は断熱材などの低品質製品への「ダウンサイクリング」や、焼却・埋め立て処分されているのが実情だ。しかし、繊維リサイクル技術の開発と拡大により、2030年までにリサイクル率は26%まで向上する可能性があるという。
研究チームは、2035年までにEU域内で繊維リサイクル率を10%に引き上げた場合の環境影響を、モンテカルロ分析を用いて評価した。分析では、リサイクルのための収集・選別の増加、リサイクル率の向上、焼却・埋め立て量の削減、バージン繊維生産の削減、焼却減少に伴うエネルギー生産の補填という5つのプロセスを検証。その結果、気候変動への影響が削減される確率は92%、水資源不足が改善される確率はほぼ100%と算出された。
CO2削減効果は年間44万トン、現在と比較して0.5%の削減に相当する。水資源への影響では3%以上の改善が見込まれ、88億立方メートル相当の水資源が保全される計算となる。特に水資源への好影響は確実性が高く、どのシナリオでも99%以上の確率で改善が期待できるという。
研究では、リサイクル率向上と一次繊維生産の削減が最も重要な要因であることも判明した。また、2035年までのEUエネルギーシステムの脱炭素化進展度合いが、気候変動への影響を左右する重要な要素となることも明らかになった。一方で、リサイクルプロセス自体のエネルギー効率向上や、リサイクル繊維の品質をバージン繊維と同等レベルまで高めることが課題として挙げられている。
EU加盟国では2025年から使用済み繊維の分別回収が義務化される。さらに欧州委員会は、エネルギー効率指令や循環経済行動計画の下で、繊維リサイクルの技術開発支援を検討している。研究チームは、バージン資源への課税などの政策手段により、リサイクル繊維が一次繊維に確実に置き換わることの重要性も指摘した。
EUは持続可能で循環型の繊維戦略において、2030年までにEU市場のすべての繊維製品を耐久性があり、修理可能で、リサイクル可能なものにすることを目標に掲げている。今回の研究結果は、繊維廃棄物問題への取り組みが環境面で大きな成果をもたらす可能性を示しており、政策立案者や産業界にとって重要な指針となりそうだ。
【参照記事】Study highlights positive environmental impacts of increasing textile-to-textile recycling rates in the EU
【参照URL】Exploring the Environmental Impact of Textile Recycling in Europe: A Consequential Life Cycle Assessment

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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