ECB、気候変動による保険損失が経済全体に波及する可能性を警告

※ このページには広告・PRが含まれています

欧州中央銀行(ECB)は6月9日に公表した最新の金融安定性報告書で、気候変動が引き起こす物理的リスクが保険会社の財務状況を悪化させ、金融システム全体を揺るがすシステミックリスクに発展する可能性があると警告した。自然災害による経済的損失の増大に対し、保険によるカバーが追いついていない現状に強い懸念を示している。

報告書によると、2024年における自然災害による経済損失は暫定値で約300億ユーロにのぼったが、このうち保険で支払われたのはわずか130億ユーロだった。ユーロ圏では歴史的に経済損失の多くが保険でカバーされておらず、この保険のカバー不足は、保険金支払いの増加に伴う保険料の高騰によってさらに拡大する可能性があるとECBは指摘する。保険に加入できなくなるケースが増えれば、保険引受業務そのものが成り立たなくなる恐れもある。

この保険のカバー不足は、金融システム全体へのリスクとなる。気候変動による物理的な損害は資産や不動産の価値を押し下げ、特に異常気象の影響を受けやすい地域では資産価格の再評価が進む可能性がある。また、公的部門の負担増加も避けられないとECBは警告し、「気候変動に関する保険保護ギャップを縮小するための政策措置を講じることの重要性が浮き彫りになっている」と強調した。

この報告に対し、キャンペーン団体ShareActionのシニアEUポリシーオフィサーであるマリカ・カルッチ氏は、報告書が物理的リスクに限定している点を指摘し、保険会社は化石燃料セクターなど、グリーン経済への移行に適応できない分野からの投資損失といった移行リスクにも直面していると述べた。さらに、「保険会社は単に気候変動の受動的な犠牲者ではない。自社の事業、保険契約者、そしてより広範な金融安定性のために、レジリエンスを構築し、気候関連リスクを削減する上で重要な役割を担っている」と主張した。

Finance Watchの調査・アドボカシー責任者ジュリア・サイモン氏は、過去の金融安定性報告書よりもこれらのリスクが強調されている点を「憂慮すべき傾向」とし、気候変動による損失増加を反映していると分析した。ECBが金融システムの他部門への波及効果を検証していることも、気候変動の影響がより大きくなる可能性を示唆していると付け加えた。

Urgewaldの研究員フィオナ・ハウケ氏は、システミックリスクを認識するだけでは不十分だとし、ECBがグリーン金利の導入や金融政策運営への気候変動要因の統合など、利用可能な手段を積極的に活用する必要性を訴えた。

ECBの今回の報告は、EUが持続可能な金融の枠組みに関する議論を進める中で、気候変動リスクが後退するどころか加速しているという厳しい現実を突きつけるものだ。保険セクターには、気候リスクへの耐性を高めるとともに、拡大する保護ギャップ問題の解決に貢献することが求められている。

日本でも、各地で豪雨や台風による災害が相次いでおり、気候変動による自然災害リスクは他人事ではない。Swiss Re Instituteの報告によると、気候関連の保険損害額は年間5-7%の増加傾向が続く見込みで、日本は影響を受ける国ランキングで10位に入っている。保険業界にとっては、気候変動リスクへの対応と保険カバー不足の解消という二重の課題に直面しており、持続可能な金融システムの構築に向けた取り組みが急務となっている。

【参照記事】Insurance losses from climate change could impact wider economy, ECB warns

The following two tabs change content below.

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

HEDGE GUIDE 編集部 ESG・インパクト投資チームは、ESGやインパクト投資に関する最新の動向や先進的な事例、海外のニュース、より良い社会をつくる新しい投資の哲学や考え方などを発信しています。/未来がもっと楽しみになる金融メディア「HEDGE GUIDE」