ドイツ連邦経済協力開発省(BMZ)が支援するPREVENT Waste Allianceは5月、低・中所得国における循環経済(サーキュラーエコノミー)への資金調達の課題と解決策をまとめた報告書「Financing Circularity」を発表した。同報告書は、投資家側と事業者側の双方から40件以上の詳細なインタビューを実施し、循環経済への投資を阻む構造的な問題を明らかにした。
報告書によると、循環経済への投資は依然として「サイロ化」された状態にある。循環経済を優先する投資家は少なく、関連資金の大部分は一般的なインパクト投資や気候変動対策ファンドから提供されており、循環経済に特化したファンドはほとんど存在しない。特に低・中所得国では、多くの循環経済関連企業が小規模で初期段階にあり、柔軟なシード資金や成長資本を必要としているが、既存の金融商品は後期段階の拡張可能なプロジェクトに偏重している。
この需給のミスマッチにより、「ミッシングミドル」と呼ばれる資金調達の空白地帯が生じている。ミッシングミドルとは、個人商店向けの小口融資(マイクロファイナンス)と大企業向けの商業融資の間に位置する、中小企業が最も必要とする1000万円から5億円規模の資金調達領域を指す。例えば、アジアのプラスチックリサイクル企業が事業拡大のために3000万円を必要としても、マイクロファイナンスには大きすぎ、商業銀行には小さすぎて融資を受けられない状況が発生している。
報告書は、この課題解決に向けて具体的な提言を行っている。投資家に対しては、循環経済に特化した革新的な資金調達手段の開発を推奨している。具体的には、通常より有利な条件(低金利・長期返済)で提供される「譲許的資金」、少額の公的資金投入で民間投資を呼び込む「触媒的資金」、公的資金と民間資金を組み合わせる「ブレンデッドファイナンス」などが挙げられる。例えば、国際開発機関が初期リスクを負担することで、民間投資家の参入障壁を下げる仕組みが想定されている。
政策立案者やドナーに対しては、気候変動対策や開発資金の中で循環経済を主流化すること、公共調達や税制優遇などを通じた民間投資の促進、知識共有プラットフォームの支援などを提案している。日本でも同様の課題を抱える中小企業は多く、ESG投資の観点からも循環経済への資金供給メカニズムの構築は急務となっている。
PREVENT Waste Allianceは2019年にドイツ政府により設立され、民間企業、学術機関、市民社会、公的機関が循環経済の実現に向けて協働するプラットフォームとして機能している。今回の報告書は、同アライアンスの「循環経済資金調達ワーキンググループ」から生まれたプロジェクトの成果であり、途上国の循環経済ビジネスが直面する資金調達の現実的な課題と解決策を示した点で、投資家にとって重要な指針となることが期待される。

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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