米アップル(ティッカーシンボル:AAPL)は3月4日に開催した株主総会で、会社方針や慣行を監査するとともに、従業員らの人権を促進する提言ができるようにする株主提案を賛成多数で可決した(*1)。同社は十分に対策できているとして議案に反対していたが、ESG(環境・社会・ガバナンス)重視の株主による圧力が高まっている状況だ。
アップルの株主は通常、同社の経営陣の推奨を支持してきた。しかしながら、今回アップルが反対するよう促していた議案が可決されたことから、多くの株主は性別による給与格差や経営陣の多様性、AirTag(エアタグ)のような同社製品の利用に伴うプライバシー問題などに改善の余地があるとみているようだ。人権監査を求める議案に加え、従業員らへのハラスメントや差別をめぐる秘匿条項の利用に関する報告書の作成を求める議案も僅差で可決している。
今回のアップルの株主提案に法的拘束力はない。同社はリスク評価や取締役会の監督、主要株主とのエンゲージメント(建設的な対話)といった現行のさまざまな手法を通じ、すでに議案の目的を果たしていると述べた(*1)。
「アクティビスト(物言う株主)」として知られる米SOCインベストメントグループは、国際サービス従業員労働組合(SEIU)などと協働し、第三者による人権監査を求める議案を提出。今回、同議案が可決されたことを歓迎するとともに、アップルの行動をモニタリングしていく方針を示している。
SOCのエグゼクティブ・ディレクターを務めるディーター・ワイゼネガー氏は、今回議案が承認されたことは、大企業においてガバナンス関連の株主提案に賛成票を投じる機運が高まっていると指摘(*2)。アップルのほかにも、マイクロソフトが21年11月の年次総会で賛成多数となった株主提案に伴う措置として、セクハラ問題に絡む社内規定を見直すために法律事務所と契約を締結している(*3)。
また、秘匿条項関連の議案を支持したNia Impact Capitalは、同議案の可決がアップルにインクルーシブで明確な企業文化の形成を促すとともに、コーポレートガバナンス(企業統治)や従業員への問題に対する株主意識の高まりにつながることに期待していると述べた(*2)。
ESGに関して企業と株主の間でコンフリクション(意見や主張の対立)が生じた際、相手を否定したりどちらか一方の主張を優先させたりするのではなく、お互いを尊重して対話を重ね、目指すべき方向性を一緒に模索し、問題の解決に向けて協働・共創していくことが重要だ。企業側は株主からの提案を頭から否定せず、株主側は「物言う」だけにならないことを期待したい。
【参照記事】*1 アップル「printmgr file」
【参照記事】*2 CNBC「Apple shareholders vote for company to conduct a civil rights audit」
【参照記事】*3 マイクロソフト「MSBoardPolicy.docx」

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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