一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- 「Verra(ベラ)」とは
1-1.「Verra(ベラ)」の概要
1-2.「Verra(ベラ)」立ち上げの背景 - 「Verra(ベラ)」の主な活動と特徴
2-1.主要なカーボンクレジット「VCS(Verified Carbon Standard)」の発行
2-2.Verraの多岐にわたる取り組み
2-3.自主的炭素市場グローバルダイアログ(VCMGD) - 「Verra(ベラ)」の認証プログラム
- まとめ
アメリカを拠点とする「Verra(ベラ)」は、民間カーボンクレジット認証の大手プロバイダーとして、脱炭素社会を目指す多様な取り組みを推進しています。特に、2022年11月11日には、Verraの認証カーボン基準「VCS」プログラムが認証クレジット数10億クレジットを突破したとの発表があり、注目を浴びています。
カーボンマーケットの関心が高まる中、Verraの取り組みや認証プログラムにも多くの関心が集まっています。この記事では、その特徴やプログラムの詳細をご紹介します。
①「Verra(ベラ)」とは
1-1.「Verra(ベラ)」の概要
「Verra(ベラ)」とは、民間カーボンクレジット認証プロバイダーの最大手としてさまざまな取り組みを行っている、国際的な非営利認証機関のことを指します。
アメリカに拠点を構えるVerraは、主にカーボンクレジットやその他の環境サービスの発行・取引における透明性、信頼性、および品質を確保することを目的として、世界中の企業や団体のサスティナブルな開発を促進しています。また、気候変動対策における企業やプロジェクトの貢献を評価する活動なども積極的に行っています。
Verraは2009年3月に最初のクレジットを認証したことで知られていますが、それ以来、世界中における多くのクレジットを認証しており、冒頭でも触れた通り、2022年11月11日にはVerraが運営を手がけている認証カーボン基準「VCS」プログラムでの認証クレジット数が10億クレジットを突破したことが発表されました。
このように、Verraはおよそ13年間で合計1億トン弱にもおよぶクレジットを生み出すなど、カーボンクレジットマーケットにおいて大きな存在感を放っており、今後その規模はますます拡大していくことが予想されています。
1-2.「Verra(ベラ)」立ち上げの背景
「Verra(ベラ)」の設立は、1997年に京都で行われた「気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)」で採択された「京都議定書」を背景にしています。
具体的には、2005年、アメリカのカーボンマーケット投資アドバイザー「Climate Wedge社」とその協力企業「Cheyne Capital」が、自主的カーボン基準「VCS(Verified Carbon Standard) : version1.0」を設立。その背景には、京都議定書での発展途上国向け「クリーン開発メカニズム(CDM)」の採用と、先進国のプロジェクトの排除がありました。VCSは先進国のクレジット事業を取引対象とし、削減プロジェクトを促進。2006年には、多くの非営利団体の支援のもと、「VCM version1.0」の運営を開始。2018年には名称を「Verified Carbon Standard」から「Verra」に変更し、現在の形に至りました。
Verraは当初、カーボンクレジット認証の体系的な基準を構築することを目指して設立されましたが、時が経つにつれて、多岐にわたる環境サービスの認証プログラムを手がけるようになっています。
②「Verra(ベラ)」の主な活動と特徴
2-1.主要なカーボンクレジット「VCS(Verified Carbon Standard)」の発行
Verraは、世界で広く流通する民間認証クレジット「VCS(Verified Carbon Standard)」を提供しています。2018年のデータによれば、民間認証クレジットの年間取引量のうち、VCSが66%を占めており、その次に続く「GS(Gold Standard)」の20%、そして「CAR(Climate Action Reserve)」の3.2%、さらに「ACR(American Carbon Registry)」の1.6%と、VCSが圧倒的なシェアを有していることが確認されています。そのため、Verraとその発行するVCSは、カーボンクレジット業界で非常に注目されているのです。
2-2.Verraの多岐にわたる取り組み
Verraは気候変動に関連する多様な分野での取り組みを進めています。
2021年2月には、プラスチック廃棄物削減を目指す「Initiative」と連携し、プラスチックの管理と削減のための新たな枠組みを公開しました。また、Verraは沿岸の環境保護団体「Enaleia」と提携。Enaleiaは陸上と海洋でのプラスチック回収を通じて、環境汚染を軽減し、海の生物の多様性の保護を目指しています。この提携を通じ、VerraはEnaleiaのケニアでの海洋ゴミ回収プロジェクトを支援しています。
さらに、2023年8月1日に、渋谷ブレンドグリーンエナジー株式会社と一般社団法人Coは、株式会社REMAREと連携し、日本で初めてVerraのプラスチッククレジットを用いたプロジェクトを開始しました。プラスチッククレジットの現行の取引価格は、1トンあたり$200。売上の一部は、海洋プラスチックの回収に従事する漁師への報酬として還元されます。この仕組みにより、環境保護だけでなく、漁業者への適正な報酬支払いなども実現し、持続可能な社会の構築への寄与が期待されています。
2-3.自主的炭素市場グローバルダイアログ(VCMGD)
Verraは、「自主的炭素市場グローバルダイアログ(VCMGD)」という取り組みもサポートしています。VCMGDは、ボランタリーマーケットを用いた気候変動対策の方向性を議論する場で、開発途上国のステークホルダーの声を中心に据えています。2021年6月から10月の間、調査チームは350以上のステークホルダーと協議を繰り返し、「ビジョン及びアクション・アジェンダ」という最終報告書を作成しました。
報告書には、ネットゼロ目標達成のための6つの推奨事項がまとめられています。要点として、政府のボランタリーマーケット活用の促進、透明性の高いアカウンティングの実施、ボランタリーマーケット投資の優先化、先住民や地域コミュニティの権利強化、セクターや地域の協力体制の構築、地域・国レベルでのダイアログ実施、などが挙げられています。
③「Verra(ベラ)」の認証プログラム
このセクションでは、「Verra(ベラ)」の5種類の認証プログラムについて解説します。
1. VCS(Verified Carbon Standard)
「VCS(Verified Carbon Standard)」は、カーボンクレジットの認証プログラムとして、世界で広く利用されています。VCSは企業、団体、個人の取り組みのための認証基準で、ボランタリーカーボンマーケットの標準化を推進し、取引されるクレジットの信頼性を向上させる目的を持ちます。この基準は地域やホスト国を限定しないため、幅広く使用できます。VCSで認証されると、事務局からクレジットが発行され、「VCS Program Registry」で管理されます。さらに、各プロジェクトにはシリアル番号が付与され、VCSのウェブサイトで情報が公開されるため、その透明性は高いです。
2. JNR(Jurisdictional & Nested Redd+)
「JNR(Jurisdictional & Nested Redd+)」は、ネスティングされたプロジェクトの認証基準として初めて開発されました。ネスティングとは、複数の枠組み間での排出削減量の重複やクレジットの二重計上を避けるための調整手法です。JNRは特に森林関連の活動を対象とし、クレジットの発行のほか、観光事業や「アグロフォレストリー」の推進、違法伐採の抑制にも貢献しています。
3. CCB(Climate Community & Biodiversity)
2005年5月に確立された「CCB(Climate Community & Biodiversity)」は、炭素緩和プロジェクトの環境影響を評価する基準です。土地利用を中心とした炭素緩和プロジェクトの早期評価を行うための枠組みで、気候変動への対応、地域社会のサポート、生物多様性の保護を重視します。インベスターのリスク軽減や、開発者の財政サポート機会の増加もこの基準の目的の一部です。CCBの認証を受けるためには、提案者がプロジェクト情報を詳細に報告し、その後第三者機関「DOE(Designated Operating Entity)」が認証を行います。認証は15の必須基準と8つの任意基準から成り立ち、15の必須基準をすべて満たすことが必要です。優れたプロジェクトには「金」や「銀」の評価が与えられます。
4.Plastic Program(Plastic Waste Reduction Program)
「Plastic Program(Plastic Waste Reduction Program)」は、プラスチックの収集やリサイクルを目的としたプロジェクトの認証基準を示します。
毎年、3億5,000万トン以上のプラスチックが使用されますが、リサイクルされるのはその一部に過ぎません。この課題は世界中の政府や企業、消費者にとって大きな関心事です。現状を改善するためには新しいインセンティブが必要です。
Plastic Programは、プラスチックの収集やリサイクルに関するプロジェクトに一貫性のある認証基準を提供することで、具体的な削減量を明示します。この基準に基づきクレジットが発行され、プロジェクトへの投資を促進しています。
5.SD VISta(Sustainable Development Verified Impact Standard)
「SD VISta」は、2019年に導入された「国連持続可能な開発目標(SDGs)」に関連するプロジェクトの認証制度です。
この制度では、気候変動以外のSDGsに関連するプロジェクトも申請可能であり、独自の基準によってプロジェクトの質を高め、更なる投資や支援を促進しています。SD VIStaは、プロジェクトが地域のニーズや要望に応じて行われているか、環境や生態系に悪影響を及ぼさないかを評価します。また、申請時にはプロジェクトの予測インパクトと「ベースライン」の情報が必要とされます。
④まとめ
環境保護の取り組みが高まる中、カーボンマーケットは注目を集めており、特に「Verra」は民間カーボンクレジット認証の大手としての役割を果たしています。Verraは多様な認証プログラムを持ち、各プロジェクトに適した認証を提供しています。多くのプロジェクトがVerraの認証を取得しており、今後もその数は増加すると予想されます。カーボンクレジットマーケットに興味のある方は、Verraの取り組みやプログラムをぜひ参考にしてください。
中島 翔
最新記事 by 中島 翔 (全て見る)
- 脱炭素に向けた補助金制度ー東京都・大阪府・千葉県の事例 - 2024年10月22日
- 韓国のカーボンニュートラル政策を解説 2050年に向けた取り組みとは? - 2024年10月7日
- NCCXの特徴と利用方法|ジャスミーが手掛けるカーボンクレジット取引所とは? - 2024年10月4日
- Xpansiv(エクスパンシブ)とは?世界最大の環境価値取引所の特徴と最新動向 - 2024年9月27日
- VCMIが発表したScope 3 Flexibility Claimとは?柔軟なカーボンクレジット活用法を解説 - 2024年9月27日