昨今ではブロックチェーンの採用が進み、パブリックチェーン上に独自システムを構築する国内企業のサービスが増えてきました。
ブロックチェーン技術を基盤とした「顔の見えるライフスタイル」の実現を目指す株式会社UPDATERは22年12月、販売価格のうち280円を東京銀座で都市養蜂を展開するNPO法人「銀座ミツバチプロジェクト」に応援金として送れるクラフトリカー「CRAFT LIQUOR TODOMATSU」の実現をサポートしました。
ブロックチェーンが基盤となっていることで、商品を購入し募金をするだけでなく、募金の行方をたどる「見える化」を実現しています。ここではUPDATERがサポートしたプロジェクト内容や、ブロックチェーンを使うメリットなどを解説します。
目次
- 株式会社UPDATERについて
1-1. UPDATERのブロックチェーン - 応援金の見える化事業
- CRAFT LIQUOR TODOMATSUをサポート
- 銀座ミツバチプロジェクトとマッチング
- EZOUSAGIのクラフトリカー購入方法
- UPDATERのトラッキングシステム
- 第一弾はタドれるチョコ
- まとめ
①株式会社UPDATERについて
UPDATERは、『顔が見えるライフスタイル』で社会問題を解決し、世界をアップデートする」ことをミッションに掲げる企業です。
2011年、大手印刷会社で新規事業を担当していた大石英司氏が、再生可能エネルギー事業会社としてみんな電力株式会社を設立しました。みんな電力は電力業界において、「電力の民主化」というビジョンを描き、2018年にブロックチェーンを活用したP2P電力トラッキングシステムを世界で初めて商用化しました。
同社は青森県横浜町の風力発電でつくった電力を神奈川県横浜市内の15の事業者に供給する「横横プロジェクト」など、ブロックチェーン技術を活用した再エネ電力の需給を通して地域連携に取り組み、2020年11月には顕著な功績があった企業や団体贈られるSDGs推進本部長(内閣総理大臣)賞を受賞しました。その後、2021年10月1日に株式会社UPDATERへ社名変更しており、現在は以下のような事業を手掛けています。
- 発電所オーナーの顔や思い、ストーリーを公開した「顔の見える電力」を特徴とするClimate Tech事業「みんな電力」
- SDGsプラットフォーム及びオウンドメディア運営「TADORi」
- 清潔な空気環境の選択につながる空気環境改善事業「みんなエアー」など
1-1. UPDATERのブロックチェーン
UPDATERは22年2月に、エシカルなサプライチェーン構築を目指す事業者向けブロックチェーンソリューションα版の提供を開始しました。これは再生可能エネルギー事業「みんな電力」の電力取引証明で実績のあるブロックチェーン技術を応用したもので、環境や人権などに配慮したサプライチェーン構築を目指す事業者向けに提供するシステムです。
製品の購入者に対してお金の行き先を証明するという付加価値を提供することで、事業者の「選ばれるブランドづくり」をサポートします。また購入者が自分の支払ったお金がどこに届いているのかを証明することで、消費者と企業が一緒になって社会課題の解決に取り組んでいることを可視化できる仕組み構築を目指します。
②応援金の見える化事業
2022年にUPDATERは電力領域で培ったノウハウを応用し、環境や人権などに配慮したサプライチェーン構築を目指すブロックチェーンソリューションの提供も開始しました。
また、UPDATERは同社のブロックチェーンソリューションを通じて応援金が届いたことを見える化し、正当性と透明性を証明する「タドれる応援プロジェクト」を開始。買った人も寄付した人も寄付された人も当事者意識でつなぎ合わせ、買うだけで終わらない、買うことから始まる、これからの販売の在り方、消費の在り方を提案しています。
製品の生産過程においてどの生産者にいくら支払われたのかなど、お金の取り引きを見える化するものです。将来的にはモバイル決済と連携させ、購入者が使用用途を選択して社会問題解決のために応援金などを送れるようにする予定です。
③CRAFT LIQUOR TODOMATSUをサポート
こうした流れを受けて、同年12月21日には販売価格のうち280円を東京銀座で都市養蜂を展開するNPO法人「銀座ミツバチプロジェクト」に送ることができるクラフトリカー「CRAFT LIQUOR TODOMATSU」の実現をサポートしました。
「CRAFT LIQUOR TODOMATSU」は、北海道下川町を拠点とする一般社団法人EZOUSAGIによる手づくりのお酒です。「CRAFT LIQUOR TODOMATSU」を1本購入することで280円がNPO法人「銀座ハチミツプロジェクト」に送り、ミツバチをはじめとする生物多様性保護活動や環境教育活動を支援されます。
④銀座ミツバチプロジェクトとマッチング
銀座ミツバチプロジェクトは2006年から、銀座の屋上で養蜂をスタートしました。屋上を緑化し養蜂場を作り、緑化した屋上で野菜や果物を作り、収穫祭を実施しています。ミツバチは花の蜜を集めるだけでなく、野菜や果実を含むさまざまな植物の受粉を助けています。しかしここ数十年、世界中でミツバチが減り続けています。活動を通じて多くの人に知ってもらい、一緒に解決の糸口を見つけていきたいという想いが込められているプロジェクトです。
EZOUSAGIは下川町内の養蜂家、農家、林業者などが集まって設立されました。農薬によるミツバチの減少や、蜜源のボダイジュが針葉樹と一緒に伐採されてしまうなど、養蜂、農業、林業で抱える課題の解決を目指しています。EZOUSAGIのクラフトリカー「CRAFT LIQUOR TODOMATSU」は、冬はマイナス30度、町面積の90%が森林、人口約3,200人の北海道下川町の手作りのお酒です。
下川町には下川産100%の菩提樹百花蜂蜜があります。また林業が基軸産業でも下川町のシンボルの一つトドマツは北海道に広く自生している針葉樹林です。その下川町産の菩提樹百花蜂蜜とトドマツが使用されたCRAFT LIQUOR TODOMATSU は、EZOUSAGIを通して農林養蜂業など産業の各根を超えた関係性を築き、自然や地域に暮らす人々の共存を実現し、継続してくことを目指したお酒となっています。
EZOUSAGIは活動の中でミツバチ減少を感じており、一緒に解決策を見つけていきたいという想いが、UPDATER社によって銀座ミツバチプロジェクトとのマッチングが実現しました。
⑤EZOUSAGIのクラフトリカー購入方法
EZOUSAGI×銀座ミツバチプロジェクトホームページから、CRAFT LIQUOR TODOMATSUのネットショップにアクセスできます。1本3,080円、内容量180ml、アルコール度数24度、数量限定360本です。別途送料がかかります。
EZOUSAGIは、柑橘系の爽やかな香りを持つトドマツの葉をお米のスピリッツに漬け込んで蒸留させ、ほんのりハーブが香る菩提樹百花蜂蜜を加えた、下川町産のクラフトリキュールです。洗練されたパッケージデザインはインテリアにもなり、ギフトにもおすすめです。
⑥UPDATERのトラッキングシステム
UPDATER社が提供するブロックチェーンは、電力事業で商用化したP2P電力トラッキングシステム「ENECTION2.0」を応用して実現しています。商品代に含まれる応援金280円が、いつ、誰が送ったという履歴がブロックチェーンに記録され、見える化を実現しているので、購入した人の貢献記録は後世に残り、EZOUSAGI×銀座ミツバチプロジェクトのホームページから確認することができます。
「ENECTION2.0」は、発電所が発電した電力量(kWh)をトークンに置き換えた上で、法人需要家が消費した電力量に相当するトークンを授受することによって、電力トレーサビリティを実現するトラッキングシステムです。
発電所と法人需要家をマッチングさせるためには、法人需要家はあらかじめ当社を通じてマッチングを希望する発電所を指定しておきます。その希望に可能な限り見合うように、実際に30分単位で発生する発電量、需要量に基づいてマッチング処理を行います。そして、そのマッチング結果をパブリックブロックチェーン上でトークン授受として表現することによって、電気の流れを改ざん不可能な状態で証明しています。
22年3月、「ENECTION2.0」で使用するパブリックブロックチェーンとして、以前のネム(NEM)から、Solana(ソラナ)へと変更しました。これによりブロックチェーンのトランザクションの高速処理が可能になり、P2P電力取引の普及に向けてより多くのデータ量を扱えるシステム体制を構築しました。なお、22年末時点にはStellar(ステラ)を使用しているようです。
「ENECTION2.0」は、発電量と需要量を30分ごとにマッチングして取引として約定し、約定結果をパブリックブロックチェーン上に書き込むことで、「どの電源からどれだけ電気を買ったか」を証明しています。現在、約210社(約1,700契約)の法人需要家が「ENECTION2.0」を利用し、発電所を指定した電力購入を行っています。
⑦第一弾はタドれるチョコ
UPDATERがブロックチェーンを使った応援金のタドれる応援プロジェクトはチョコレートです。開発のステップ1として、販売価格に含まれる応援金などプレミアム価格分の見える化の実証実験が行われました。カカオ生産国の社会課題解決に使われるチョコレート「タドれるチョコ」を発売し、販売価格のうち100円相当の応援金がブロックチェーンソリューションを活用し、指定の団体に支払われたことを改ざんできない状態で証明します。
この実証で用いるブロックチェーンソリューションは、再エネ事業の電力取引証明で使用している「ENECTION2.0」を応用したもので、インターネット上で広く公開されているパブリックチェーン「Stellar(ステラ)」をベースとしています。
UPDATERが胴元アカウントとして、小売事業者、商社、そして応援金を受け取るガーナ、ベネズエラ、フィリピンの団体名でウォレットアドレスを発行します。さらに「TADORiトークン」を発行し、1円=1TADORiトークンに置き換え、各アドレスに送金することで「タドれるチョコ」の販売価格に含まれる応援金の流れをブロックチェーン上で証明します。取引のトランザクション結果は購入者もWEB上で確認できるようになっています。
⑧まとめ
UPDATERが公開しているシステム開発の背景によると、2019年、和歌山市は動物愛護管理センターの設備費として集めた寄付金の一部を、自動車保険料などの異なる用途で使用し、世間から強く批判されました。また、内閣府の「令和元年度 市民の社会貢献に関する実態調査」によると、寄付の妨げになる理由として、「寄付先に対する不信感や信頼度に欠けること」が24.1%、「寄付をしても実際に役に立っていると思えないこと」が22.6%にのぼったそうです。
そこでブロックチェーンの特性を利用することで、寄付金や応援金を扱う企業側は口で信頼性をアピールするだけでなく、技術面からも信頼性と透明性を高めることか可能です。そのためには顧客にもブロックチェーンの特性や利用するメリットを知ってもらう必要があるでしょう。
従来のシステムやサービスには、中央にサーバーがあり管理者によって管理されたデータベースが存在していました。こうした一元管理されているシステムも、ブロックチェーンに置き換えることでデータの真正性が証明され、また、システムダウンがなくなるサービスを提供できるのではないかと、ブロックチェーンの活用が多くなってきました。アイディア×ブロックチェーンによってこれまで難しかったサービスやジャンルにも目が向けられていくのではないでしょうか。
立花 佑
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