ロシア・ウクライナ問題で経済の流れはどう変わった?ESG投資への影響も解説

2022年2月、ロシアがヨーロッパ東部の隣国ウクライナに軍事侵攻しました。ロシアによるウクライナ侵攻によってESG関連銘柄の運用成績が低迷するなど、ESG投資自体の持続可能性が問われています。

今回、ロシア・ウクライナ問題を取り上げ、ESG投資の流れがどう変わったか解説します。

※本記事は8月23日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. ロシア・ウクライナ情勢について
  2. ウクライナ攻撃の理由は?
  3. 欧米諸国等による経済制裁について
    3-1.金融機関の事業停止・撤退
    3-2.機関投資家の対応
    3-3.金融市場の変動
    3-4.ESG投資関連の動き
  4. ロシアによる侵攻がESG投資に与えた影響
    4-1.ESG投資でのロシア資産保有
    4-2.グリーンファイナンスへの逆風
    4-3.兵器の取り扱い
    4-4.人権侵害を考慮した投資
    4-5.カーボンニュートラルの行方
  5. まとめ

1 ロシア・ウクライナ情勢について

2022年2月24日、ロシアのプーチン大統領がウクライナ東部での特別軍事作戦の開始を決定、その直後に、首都キーウを含むウクライナ各地への軍事侵攻が開始されました。

約30年前のソ連崩壊後から、ロシアはウクライナを自国の勢力圏の一部と見なしてきました。宗教や言語が近いスラブ民族の兄弟国として、ロシアはウクライナ問題を自分たちの内政だと捉えていきました。

2 ウクライナ攻撃の理由は?

ロシアはなぜウクライナを攻撃したのでしょうか。ウクライナはかつてロシアを中心とするソビエト連邦の構成国でしたが、ソビエト連邦の崩壊に伴い、ウクライナは独立を果たしました。独立後、ウクライナは中立国を宣言し、ロシアや他の独立国家共同体(CIS)諸国と限定的な軍事提携を結びつつ、1994年には北大西洋条約機構(NATO)とも平和のためのパートナーシップを結んでいます。

今のウクライナのゼレンスキー政権は親欧米で、NATOへの加盟を目指していますが、ロシアは武力で排除し、ロシアに従順な国に変えたいという意図が見られます。ウクライナを影響下に置けば、地理的にもNATOに加わっている国々とロシアとの間のクッションにもなります。

プーチン大統領はかねてからウクライナを独立した存在として認めてきませんでしたが、そうした独自の歴史観や国家観が影響した可能性も否定できません。

3 欧米諸国等による経済制裁について

まず欧米諸国の経済制裁について見ていきましょう。

ロシアによるウクライナ攻撃後、欧米諸国を中心に多くの国々がロシアに対して経済制裁を実施しています。今年2月下旬から3月中旬にかけては、ロシアの特定の銀行におけるSWIFT(※)からの排除や中央銀行資産の凍結を含む対ロ経済制裁を相次ぎ発表しています。

(※)SWIFT(Society for Worldwide Interbank Financial Telecommunication SC)…銀行間の国際金融取引に係る事務処理の機械化、合理化および自動処理化を推進するため、参加銀行間の国際金融取引に関するメッセージをコンピュータと通信回線を利用して伝送するネットワークシステム

2月末から3月初旬にかけては、欧米の証券取引所でロシア関連の銘柄や債券、ETFなどの取引を停止する動きもみられています。5月に開催されたG7オンライン首脳会合でも、ロシアからの石油の輸入を段階的、もしくは即時禁止することで一致しています。

さらに内容を深掘りしていきましょう。

  1. 金融機関の事業停止・撤退
  2. 機関投資家の対応
  3. 金融市場の変動
  4. ESG投資関連の動き

3-1 金融機関の事業停止・撤退

金融業界でも事業停止・撤退の動きが広がっています。クレジットカード大手のビザとマスターカードは、ロシア国内で発行されたカードの海外利用や、国外で発行されたカードの国内利用を停止しました。Apple Payなどの決済サービスも提供が停止されています。

ゴールドマン・サックスなどの米大手金融機関もロシア事業の撤退を表明しています。こうした金融業界の動きは消費者や企業などに幅広く影響が及ぶ可能性があります。

3-2 機関投資家の対応

複数の機関投資家も、保有するロシア資産の新規投資停止・売却の方針を公表しています。例えば、ノルウェー政府が、ノルウェー政府年金基金に対してロシア資産の保有資産削減を促す動きもみられています。

また、日本の資産運用会社も、ロシアの国債や株式に投資する投資信託について設定・解約の申込受付を停止しています。

3-3 金融市場の変動

欧米主要国の制裁により、露・ルーブルは一時対ドルで半分程度まで下落しました。もっとも、ロシアによる資本規制を背景に、その後は反転していますが、外貨建てロシア国債の利払い・償還への懸念も強まり、金利やCDSが急騰する場面もみられています。

3-4 ESG投資関連の動き

スチュワードシップ(責任ある機関投資家としての行動)の促進のために支援や助言を行っている国際コーポレートガバナンスネットワーク(ICGN)は、ロシアの軍事侵攻は国際法の重大な違反であり、持続可能な社会を長期的に構築するために必要な責任ある統治や法の支配の重要性を棄損したと批判しています。

参照:一般社団法人スチュワードシップ研究会「戦争と投資の責任(1)

ESG課題を考慮することを求めた投資原則である「責任投資原則(PRI)」は①経済制裁がPRIに与えうる影響、②責任投資とESGのアウトカム側面における影響について分析を進めていることを公表しています。

参照:PRI「ロシアのウクライナ侵攻

4 ロシアによる侵攻がESG投資に与えた影響

ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、ESG投資のあり方を問う声も強まっています。以下では、ロシアによる軍事侵攻後の金融資本市場・投資家の動向を踏まえ、ESG投資に与えた影響について整理していきます。

  1. ESG投資でのロシア資産保有
  2. グリーンファイナンスへの逆風
  3. 兵器の取り扱い
  4. 人権侵害を考慮した投資
  5. カーボンニュートラルの行方

4-1 ESG投資でのロシア資産保有

ESG投資には社会的責任が求められるため、独裁主義国家に投資すべきでないという立場をとるならば、ロシア資産の保有は是認されるべきではありません。一方で、ESG投資を「ESGに係る機会・リスクを考慮することで、投資パフォーマンスの向上を目指す投資手段」と捉えるならば、ロシア資産を多少保有していても、リスクが十分に抑えられるならばESG投資とみなすこともできます。

投資家にとって、ロシアによるウクライナ軍事侵攻は、ロシアのような地政学リスクの高い先への投資の是非を考えるうえで、投資主体全体やファンドにおけるESG投資の目的の再確認を迫るものといえます。

4-2 グリーンファイナンスへの逆風

ロシアに対する経済制裁手段の1つに、ロシアからの化石燃料の輸入制限が挙げられます。

ロシアへのエネルギー依存度が高いEUにおいても、段階的に依存度を下げていく方針を打ち出しています。経済制裁と地域のエネルギーの安定供給を両立するには、ロシアから調達していた分の化石燃料を他の地域からの調達に切り替えていく必要があるためです。

現在EUは米国やアフリカなど、他の産出国からの調達を進めていて、結果として世界各国で化石燃料の増産や化石燃料の輸出入の増加、化石燃料関連のインフラ増設など、脱炭素とは逆行する動きが各国で起きているのです。

4-3 兵器の取り扱い

ロシアのウクライナ侵攻を受け、ESG投資における兵器の取り扱いが議論になっています。日本においてもクラスター弾に関する条約など国際的な枠組みに基づいて製造・利用を禁止する兵器に対しては、投融資対象としないことを明確にする金融機関が複数あります。

EUが掲げるサステナブルファイナンス計画の中でも、持続可能な経済活動を分類するタクソノミー(※)の作成など実施・検討中の様々な施策において、兵器はネガティブなものとして捉えられています。サステナブルファイナンス関係者からは投資先が製造や販売に関与した兵器がどのように使われるかわからないことから、防衛産業をサステナブルなものとして位置づけることに異論を唱える声が挙がっています。

仮にソーシャルタクソノミーで持続可能なものだと位置づけられたとしても、防衛産業には投資はしないと明言する投資家もいます。ロシアのウクライナ侵攻に限らず、世界各地で紛争が起きており、現実問題として防衛産業が人々の安全な生活を守るために必要とされていますが、長期的に目指すべきは防衛産業を強化する必要性がなくなる(外部からの軍事的脅威にさらされる状況でなくなる)未来なのでしょう。

今後のEUの議論次第ではありますが、投資家からの反対意見とソーシャルタクソノミーのハードルの高さに鑑みると、防衛産業を持続可能なものと位置付ける可能性は低いのではないでしょうか。

(※)タクソノミー(taxonomy)…分類を意味する、物や概念の分類を体系化する考え方を応用し、持続可能性に貢献する経済活動を分類・列挙したもの。元々は生物を分類することを目的とした生物学の一分野を表す用語。

4-4 人権侵害を考慮した投資

人権を尊重しない企業に投資をすることはリスクであるという認識は以前から投資家に広がりつつありましたが、これまで重点が置かれていたのは、児童労働や強制労働、ハラスメントや差別といった、日常的に起きている、起こり得る人権侵害に対する対応でした。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、新規投資の停止、資金の引き揚げを打ち出す金融機関の中には、戦争において起きる人権侵害に対する懸念に言及する企業も少なくありません。

従来ノルウェー政府年金基金など、人権侵害や戦争や紛争の状況下での深刻な個人の権利侵害に加担する、ないしは加担する可能性がある企業を投資除外としているケースもありましたが、必ずしも一般的ではなく、改めて投資家の中に戦争や紛争の際にどのように投融資判断すべきか方針を策定する動きが出ています。

4-5 カーボンニュートラルの行方

世界の国々が2050年カーボンニュートラル(脱炭素)を目指す目標を立てる中で、サステナブルでないものへの投資をやめようという極端な動きが生まれました。ロシアのウクライナ侵攻の前ぐらいから再生可能エネルギー関連銘柄が高騰し、グリーンフレーション(※)という言葉まで出てきていたほどです。

再生可能エネルギーによる発電量が多い国もあれば、石炭がないと生活できない国もあります。サステナブルでないとされたものからみんな一斉にお金を引き上げてきたことで歪みが生じ、市場でその修正が起きています。

ロシアのウクライナ侵攻以降、石油、ガス、石炭の価格が急激に上昇しています。供給不安から資源価格は大幅に上がっていて、これらの分野に携わる企業の業績は改善し、株価の上昇も顕著です。

(※)グリーンフレーション…脱炭素化など、環境に配慮し持続可能な開発・発展の実現を目指す動きを表す「Green(グリーン)」と世の中の価格水準が継続して上昇する状態を指す「Inflation(インフレーション)」を組み合わせた造語。グリーン経済への移行に伴う物価上昇を意味する言葉として、2021年頃より金融市場などにおいて用いられるようになった。

5 まとめ

日本の投資家、企業は今後どう対応していくべきでしょうか。

今回、日本でも資産運用会社がロシア関連資産を含む投資信託の新規設定・解約を停止し、一部の企業は事業を停止・撤退するという決断をしています。一方、過去と今回で状況が違うのは、世界的に投融資判断にESG投資を考慮する必要性が高まっていることです。

PRIは投資家の判断フレームワークを提唱しています。地政学リスクが顕在化した際は、投融資先の売り上げや利益への影響を確認するだけではなく、最終受益者である顧客が何を期待しているか、投融資先のバリューチェーンを通じて戦争・紛争を悪化させる懸念はないか等を確認し、投融資判断に組み込むことを提唱しています。

投資家および企業は、好戦的な国・政府を支援する可能性がある投資を将来的に避けるべきか否か、戦争・紛争に伴う環境や社会、グローバルガバナンスへの影響に対して自分たちが優先して対応すべき事項は何か、これらを踏まえて投資方針等を変更する必要があるか、といったことを検討しておくことが必要です。

また、環境や人権への配慮がなされていない場合はNGOや市民団体、消費者などステークホルダーから批判される可能性があります。持続的な活動のために、今後の対応が重要になるでしょう。

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