今回は、PaperTaleで利用されているブロックチェーン技術について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- PaperTale(ペーパーテール)とは
1-1.PaperTale(ペーパーテール)の概要
1-2.PaperTale(ペーパーテール)開発の背景 - PaperTale(ペーパーテール)が解決する問題
2-1.環境問題
2-2.労働問題 - PaperTale(ペーパーテール)の特徴
3-1.製品の透明性を確保できる
3-2.アプリ一つで手軽に利用することができる
3-3.製品を見極めるための判断軸になる
3-4.誰もが労働環境の改善に寄与することができる
3-5.大企業と提携している - PaperTale(ペーパーテール)とブロックチェーン
4-1.サプライチェーンをブロックチェーン上に書き込む
4-2.独自の環境計算機テクノロジー
4-3.スマートコントラクトを用いた適正な労働条件の厳守
4-4.クラウドファンディングプラットフォーム - まとめ
近年、ファストファッションブランドが登場したことによって、消費者はより安い価格でトレンドアイテムを手に入れることができるようになりました。これらのファストファッションブランドは、多くの発展途上国の人々が低賃金で衣服の製造に携わることによって、低価格での販売を実現しています。
ファッション業界は一見華やかに見えがちですが、実はその裏では、低賃金での長時間労働や児童就労といった深刻な労働問題を抱えているだけでなく、製造過程における環境への影響も問題視されています。
そんな中、スウェーデンの企業が手がける「PaperTale(ペーパーテール)」では、ファッション業界におけるこれらの問題を解決すべく、ブロックチェーン技術を用いた画期的なプロジェクトを展開しています。そこで今回は、PaperTaleの概要や特徴、また利用されているブロックチェーン技術の使い方について、詳しく解説していきます。
①PaperTale(ペーパーテール)とは
1-1.PaperTale(ペーパーテール)の概要
「PaperTale(ペーパーテール)」とは、2018年にスウェーデンのクリエーターであるビラル・バッティー氏によって立ち上げられた、ファッション業界における労働問題と環境問題を解決するブロックチェーン・プロジェクトのことを指します。
PaperTaleはスマートフォンやタブレットなどの端末と接続することによって、各端末から衣服についてのさまざまな情報を確認することができる「スマートタグ」となってます。
具体的にはこのスマートタグがついた衣服にスマートフォンを近づけるだけで、専用アプリを介して材料調達の方法や製造方法、労働環境や製造者の情報、輸送の方法まで、ものづくりにおける一連のプロセスを読み取ることが可能です。PaperTaleは読み取った情報を音声つきで教えてくれるため、消費者は購入した衣服がどのようにして誕生したのかというストーリーを垣間見ることができるだけでなく、製品製造過程における水の使用量や二酸化炭素の排出量といった「環境フットプリント」も計算できるなど、これまでにない画期的なプロジェクトとして注目を集めています。
1-2.PaperTale(ペーパーテール)開発の背景
今回のPaperTaleプロジェクトの立ち上げは、前述したスウェーデンのクリエーターであるビラル・バッティー氏が、ファストファッションの製造現場における労働者搾取や環境汚染といった現状を目の当たりにしてきたことがきっかけとなっています。ビラル氏はヨーロッパおよびアジアにおいて豊富な経験を持つエンジニアとして、ファッション業界の杜撰な光景に直面し、業界がより大きく発展していくためにはこれらの現状を変えていかなければならないと考えました。こうした背景からPaperTaleのビジョンが生まれたというわけです。ビラル氏はその後、PaperTaleテクノロジーの開発をスタートし、生産のロールモデルとなる縫製工場を設立しました。
PaperTaleは主に、社会的な不正および環境に多大なる悪影響を及ぼすサプライチェーンに依存している業界を変革することを目的としており、現在は特にファッション業界にフォーカスしたプロジェクト展開を行っていますが、いずれはそれ以外の業界にも活動の域を広げていく予定です。
②PaperTale(ペーパーテール)が解決する問題
2-1.環境問題
PaperTaleによって解決が期待できる問題の一つに、環境問題があります。
ファッション業界は元々、その環境への影響が問題視されており、実際に一着のTシャツを製造するためには、およそ2,720リットルという膨大な水が必要とされています。このほかにも、染色を行う際に使用される水の量なども含めると、限りある資源である水を大量に消費することで衣服が作られていることに気づくでしょう。さらに、服の染色を行う際に発生する重金属や環境ホルモンなどといった化学物質が海へ放流され、海や川を汚染しているというレポートも発表されているなど、その影響は多大なものとなっています。また、衣服を洗濯するごとに細かくなっていく化学繊維は、5mm以下のマイクロプラスチックと呼ばれる細かい粒子へと変化し、継続的に海へと放出され続けています。
このように、ファッション業界はさまざまな側面から環境に対して悪影響を及ぼしているにも関わらず、トレンドや流行りなどといった観点から、大量の衣服が日々製造されては廃棄されています。
そんな中、PaperTaleのプラットフォームではブロックチェーン・テクノロジーを駆使することによって、衣服を作る工程がすべて記録される仕組みを構築しています。具体的には、サプライチェーン内における資源の利用状況や二酸化炭素の排出量などがブロックチェーン上に記録され、確認できるようになっているため、より環境に配慮した製造方法の推進が可能となっています。
2-2.労働問題
PaperTaleは、ファッション業界の環境問題以外に、労働問題も解決することができると期待されています。
世界中には、推定で3,600万人にものぼる人々が「現代の奴隷制」と言われるような状態に置かれています。その中には大人だけではなく、多くの児童も強制的な労働を強いられているという現状があります。このようにして生まれた労働力は主に綿栽培などに向けられており、生産された綿の供給先は世界中のファッション業界となっています。つまり、簡単に言うと、ファッション業界によって労働力の搾取が行われているとも言える状況であるというわけです。
特に発展途上国では、長時間にわたる労働を強いられているにも関わらず、低い賃金しか受け取ることができないという劣悪な現状があるほか、染色のために身体にとって危険な薬品を扱う場合も少なくありません。また、裁縫工場は低賃金であるだけでなく、出来高制がほとんどとなっているため、長時間労働して衣服を作らなければ、平均的な収入すら得られないというケースが多いようです。
そんな中、PaperTaleではそれぞれの従業員の労働時間や労働条件についてのフィードバックなどをブロックチェーン・テクノロジーを利用して記録しており、これによって事業者によるデータの改ざんや不正を防ぐことができるため、労働環境の改善につながると期待されています。
③PaperTale(ペーパーテール)の特徴
3-1.製品の透明性を確保できる
PaperTaleでは、ブロックチェーンが持つ改ざんや不正が極めて困難であるという特性を活かして、衣服を作る際のすべて工程や製造過程におけるスタッフの労働時間、労働条件についてのフィードバックなどをブロックチェーン上に記録しており、これまで分かりにくかった製品の透明性を確保することに成功しています。
前述の通り、発展途上国のファッション業界における労働問題と環境問題は非常に深刻なものとなっていますが、PaperTaleを利用することによって、これらの問題を解決することができると期待されています。
3-2.アプリ一つで手軽に利用することができる
前述の通り、PaperTaleはスマートタグがついた衣服にスマートフォンを近づけるだけで、専用アプリを介して材料調達の方法や製造方法、労働環境や製造者の情報、輸送の方法まで、ものづくりにおける一連のプロセスを読み取ることが可能です。
そのため、ユーザーはアプリ一つで手軽に各製品についての詳しい情報を手に入れることが可能となっています。
具体的には、ブロックチェーン上のスマートコントラクトアドレスに紐づけられた衣服が表示され、「PRODUCT JOURNEY(プロダクトジャーニー)」という項目では、製品が消費者のもとに届くまでのすべてのステップを確認することが可能です。
また、原材料については、使用されているものとその地球環境への影響を確認することができるほか、製品の製造工程に誰が参加したのかを知ることも可能となっています。
このように、PaperTaleには製品についてのあらゆる情報が集約されており、消費者はスマートフォンのアプリを利用するだけで、これらをいつでも確認することができます。
3-3.製品を見極めるための判断軸になる
私たちは日頃から自身が必要だと感じたものを購入していますが、環境保全や地元経済への貢献につながる製品を選ぼうと意識している人はかなり少ないのではないでしょうか。もし、より多くの人がこのような意識を持って購入する製品を選択することができれば、世界が抱える問題を少しずつ解決していくことができるでしょう。
しかし現状、本当に良い製品とは何なのかという情報が著しく欠如しているのもまた事実です。例えば、衣服のタグを確認することで生産国や素材を知ることはできるものの、その素材がどこから来たのか、また衣服を製造している工場のスタッフの労働実態などを詳しく把握することは極めて困難です。
そんな中、画期的なスマートタグであるPaperTaleを活用することによって、消費者がこれまで知り得なかった製品についてのより詳しい情報を確認することができるようになり、より「良い」製品を選択することが可能となります。
3-4.誰もが労働環境の改善に寄与することができる
消費者はPaperTaleのアプリを介して労働者に直接チップを渡すことができるほか、労働者やその子供が学校教育を受けられるように寄付することもできるなど、誰もが労働環境の改善に直接的に寄与できる仕組みが整備されています。
これまでファッション業界の問題が解決されてこなかった一つの理由として、消費者のこういった問題に対しての知識が不足していることや、身近に捉えにくい内容であるということがありました。
そんな中、PaperTaleでは消費者がこれらの問題を知る機会を与えることで、誰もが問題をより身近に捉えることができ、その結果としてより迅速な解決が期待できるというわけです。
3-5.大企業と提携している
PaperTaleは世界の大企業と提携していることでも知られています。具体的には、大規模なサプライチェーンでの実装を通じて「POC(概念実証)」を行うため、パキスタンにある衣料品工場との提携を果たしているほか、「Crescent Bahuman Limited」 という大手ジーンズメーカーとも契約を結んでいるなど、積極的なプロジェクト展開を行っています。
④PaperTale(ペーパーテール)とブロックチェーン
4-1.サプライチェーンをブロックチェーン上に書き込む
PaperTaleのプラットフォームでは、衣服の製造工場とサプライヤー、労働者、消費者のそれぞれをブロックチェーンプラットフォームでつないでおり、あらゆるトランザクションと検証済みのデータ情報をブロックチェーン上に書き込み、蓄積しています。
具体的には、綿や竹をはじめとする原材料などの注文や受注、支払いはすべてスマートコントラクトを通して実行されます。また、実際にそれらが縫製工場に到着するまでの経路や製品の開発なども、スマートコントラクトにより処理される仕組みとなっています。そして、生地が衣服工場に到着した後、まず最初にPaperTaleのスマートタグが衣服に縫い付けられ、その後はそれぞれの衣服についての情報が継続的に書き込まれ続け、一着ごとに工場内における正確なデータが記録されていくということです。
このように、PaperTaleではブロックチェーン・テクノロジーを用いて衣服の製造に関する工程を細かく書き込むことによって、管理の透明化を実現しています。
4-2.独自の環境計算機テクノロジー
PaperTaleでは製品を製造する過程においてどのくらい環境に配慮ができているのかを確認することができる、独自の環境計算機テクノロジーを有しています。
そして、このテクノロジーによって、サプライチェーン内の下請業者で使用されている材料や実際の節水の実施状況といった細かい生産過程を書き込むことが可能となっており、一般的な生産手法と比較して、どのくらいの水と二酸化炭素の排出が削減されているのかを計算し、数値化したものもブロックチェーン上に記録しています。
4-3.スマートコントラクトを用いた適正な労働条件の厳守
PaperTaleでは、衣服を出荷する際、工場で就労しているスタッフが不正に雇われていないか、雇用契約はきちんと行われているのかといった労働に関する条件が厳しくチェックされます。そして、適正な労働条件を満たしていないと判断された場合、スマートコントラクトによって出荷することができないという仕組みが採られています。
具体的には、スタッフの労働に関する情報をブロックチェーンのスマートコントラクトに組み込み、ブロックチェーンによって管理を行うことで、製造された衣服が奴隷制度や児童労働によるものではなく、雇用契約の安全性が確保できている環境のもと製造された製品であることを消費者に証明できるというわけです。
なお、雇用に関する出荷時の条件には、下記のようなものがあります。
- 各衣服の製造に関わっている労働者の給与は法律に従って支払われている
- 各衣服の製造に関わっているすべての労働者は雇用契約を結んでいる
- すべての労働者は給与明細を受け取っている
4-4.クラウドファンディングプラットフォーム
PaperTaleには「PaperTale教育クラウドファンディングプラットフォーム」と呼ばれる、労働者をサポートするプログラムへの支援をすることができる機能も設けられています。
また、前項でも少し触れましたが、消費者は自身が良いと感じた商品を作った労働者に対して直接チップを送信することもできるようになっており、消費者のみならず、労働者にフォーカスしたサービスも充実しています。
⑤まとめ
近年、ファストファッションブランドが急速に増加しており、驚くほど安い価格で流行りの衣服を手に入れることができるようになりました。しかしその一方で、ファッション業界の裏に存在する環境問題や労働問題もますます深刻化しています。
このような状況の中、PaperTaleではブロックチェーン・テクノロジーを駆使することによってサプライチェーンをすべて記録し、製品の透明性を最大限に確保することによって、これらの問題の解決に尽力しています。
また、今後はファッション業界に留まらず、その他の多岐にわたる業界においてもPaperTaleプロジェクトを推進していきたいということで、その動向からますます目が離せなくなっています。
中島 翔
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