NFTというユニークなデジタル資産の活用例のひとつに「証明書」があります。ブロックチェーン技術をベースにしたNFTは、個々の情報を保護しつつ、それらの情報をNFT内に記録することが可能です。その結果、認証が必要な情報でも、第三者による確認を求めることなく、その真偽を判別することが可能となります。この特性を活かして、証明書をNFTとして発行する取り組みが進められています。
株式会社PitPaは、LIFULL Tech Vietnam Co., Ltd.が2022年度の最優秀社員8名に授与する「キャリア証明書」の発行を支援しました。ここでは、NFTのキャリア証明書の概念や、その発行の背景、そして具体的な事例について、詳しくご紹介します。
目次
- LIFULL Tech Vietnamのキャリア証明書とは
- キャリア証明書の4つの特徴
- LIFULL Tech Vietnamがキャリア証明書を発行した理由
- NFTとVCを活用した職務経歴書
- 人材サービス「sakazuki」とは?
- 学修歴証明書をNFTで発行している事例
6-1. 国内の事例
6-2. 国外の事例 - まとめ
①LIFULL Tech Vietnamのキャリア証明書とは
株式会社PitPaは、LIFULL Tech Vietnamのために、「キャリア証明書」を発行しました。この証明書は、一年を通じて優れた業績を上げた2022年度のMVP受賞者8名に与えられました。
このキャリア証明書はNFTとVC(Verifiable Credentials)の二つの技術を用いています。これにより、個々のプライバシーを保ちつつ、社内で得た評価を蓄積し、副業や転職の際に活用することが可能となります。企業としては、人的資源を公にすることでブランド認知度を向上させ、採用力を強化することができます。これは、人材獲得の競争が激しい現代において、企業と個人双方にとってメリットのある仕組みと言えます。
さらに補足しますと、VCとはW3C(World Wide Web Consortium)という国際的な技術標準化団体が提唱する標準規格の一つです。これにより、発行者に直接問い合わせることなく情報の真正性を確認する仕組みが整っています。
②キャリア証明書の4つの特徴
NFTを用いたキャリア証明書には、ビジネスの現場で活用できる特性が四つ存在します。
- 個々のプライバシーを守りつつ、社内での人事評価を蓄積し、副業や転職の際に利用することが可能。
- 成果や経歴を一貫して蓄積することで、国境を越えて利用可能な職務経歴書としての役割を果たす。
- 社内評価の結果が福利厚生の一部として働き、ベトナムの求職者からの認知度を高める効果が見込める。
- 第三者による確認が可能な職務経歴書により、採用時のマッチング精度が上がり、オフショア開発を推進し、人口減少問題に貢献する。
③LIFULL Tech Vietnamがキャリア証明書を発行した理由
LIFULL Tech Vietnamは、2017年にLIFULLグループの子会社として設立され、ソフトウェア開発やアプリケーション開発を手がけてきました。LIFULLグループでは、従業員が働きがいを感じる環境作りに力を入れていますが、その拠点がベトナムということもあり日本のキャリア感との違いが問題となっていました。
その内容とは、「高い離職率」と「人材の過度な流動性」です。この理由の一つには、経済の成長期にあるベトナムでは、将来的なキャリアプランよりも短期的に高収入を得られる仕事を選ぶ傾向が見られ、これが高離職率につながっていることが考えられています。
そこで、LIFULL Tech Vietnamはこれらの課題に対策を練り、個々のキャリアを支援することで、社員のモチベーションや定着率の向上を目指しました。具体的な施策として、1on1の面談を通じて3〜5年後の理想のキャリアを一緒に模索すること、個々のキャリアビジョンに基づいて適切な業務を配分すること、そしてNFT化されたMVP制度などが実施されています。
MVP制度は、一年間で優れた成果を上げた人に与えられるもので、クライアントやチームリーダー、マネージャーからの評価が高い人の中から、会社への貢献度を経営層で議論し、選出されます。今回、MVPの証明書をNFT化するだけでなく、社内の評価を個々に還元する「キャリア証明書」も同時に発行しました。これにより、各々が自身の実績や評価を蓄積・利用し、キャリア形成に活かすことが可能になりました。
今後も、人的資本に関するNFTの発行を通じて、個々のキャリア形成を支援しつつ、企業の認知度や採用力の強化、そして社員のエンゲージメントの向上を追求していく計画です。
④NFTとVCを活用した職務経歴書
LIFULL Tech Vietnamが提供する「キャリア証明書」は、公開性のあるNFTと、公開/非公開設定が可能なVC(Verifiable Credentials)という2つの技術を組み合わせて発行されています。さらに、同社独自システム(sakazuki)を活用することで、これまで孤立していた人事データを、信頼性の高い職歴情報として蓄積します。これらの証明書は、各受領者によってデジタルの職務経歴書として活用されることが可能です。
今回NFT化された証明書は、NFTマーケットプレイスのOpenSeaでも確認できます。
日本国内では少子化によるIT人材不足が問題となっています。こうした背景から、開発業務の一部を海外企業に委託するオフショア開発の需要が高まることが予想されています。しかし、応募者の自己申告だけでは、その人材が自社の業務を遂行できるかどうかの判断は難しいでしょう。採用時のミスマッチは企業にとって大きな損失となり得ます。ここでブロックチェーンを活用したキャリア証明書が登場します。これにより、「企業が保証する」確実性のある職務経歴書が作成可能となり、その重要性は今後ますます高まると考えられます。
⑤人材サービス「sakazuki」とは?
「sakazuki(サカズキ)」は、キャリア証明書の発行を通じて、個々の職歴を還元し、個々の成長を促進すると同時に、その人々の人材市場における評価を企業のブランディングに繋げる、革新的な人材サービスです。現在の日本では、少子高齢化による労働力人口の減少が深刻化しており、特にIT人材については2030年には最大で約79万人の不足が予測されています。このような状況から、今後は人材確保が企業にとっての重大課題となります。
それを解決するためには、国内だけでなく海外からも優秀な人材を探し出し、雇用する必要があります。個々の能力や特性、そして多様性を尊重しつつ、人材の育成を図ることが不可欠です。しかし、求職者が減少する中で、企業側は求職者から「選ばれる」ために、働きがいのある環境を整備する必要があります。特に優秀な求職者はキャリアアップを志向しているため、企業が「個々の人材」への投資に注力するケースが増えています。
企業が発行する第三者証明となる「キャリア証明書」を活用することで、個々の職歴を還元し、企業は自社の認知度を向上させることが可能となります。そして、優秀な人材から「選ばれる」存在となり、持続的な成長へと繋げることができます。
sakazukiを開発・提供する株式会社PitPaとは?
PitPaは「メディアのあり方を再定義し、持続可能な経済性を提供する」をミッションに、最先端のテクノロジーを活用しながらポッドキャスト制作事業やブロックチェーン事業を展開しています。ブロックチェーン事業では、「会員証NFT」の配布から始まり、個人の学歴や職歴、スキルといった人的資本に関わる証明書のNFT化を通じて、個々の可能性を最大化し、新たな機会を創出する人材事業へと発展してきました。
⑥学修歴証明書をNFTで発行している事例
6-1.国内の事例
千葉工業大学と株式会社PitPaは、共同でWeb3時代を見据えたグローバル人材の育成を目指し、様々なツールの開発・推進を行っています。2022年8月には、初めてとして伊藤穰一がセンター長を務める千葉工業大学変革センターで、NFTによる学修歴証明書の発行を開始したことを発表しました。
国境を超えた人材の流動性が増す中で、特定の知識や技能を活用して、プロジェクトごとに人材を雇用するジョブ型雇用が推進されています。このような変革に対応するため、より幅広いキャリア形成を後押しするために、国際規格に準拠したNFTによるデジタル証明書を発行しています。
千葉工業大学のNFT学修歴証明書は以下の4つのポイントで他と差別化しています。
- 学修歴証明書をブロックチェーン上に記録し、改ざんを防ぎつつ、NFTとして活用する証明書の発行は国内初の試みです。
- NFT修得証明書は仮想通貨のウォレットで証明データを管理でき、様々なプラットフォームに接続し学びの成果をワンストップでアピール可能にするため、ジョブ型雇用促進時代にいち早く対応します。
- 記録の改ざんができないブロックチェーン技術の強みを活かしつつ、学生のプライバシーにも配慮した仕様を盛り込むことで、情報漏洩リスクを軽減します。
- 雇用スタイルの変化やweb3時代の到来に備え、世界標準のツールを用意することで、国際人材の輩出を支援します。
6-2.国外の事例
マサチューセッツ工科大学(MIT)
マサチューセッツ工科大学(MIT)は、2017年から学修歴証明書や卒業証書をNFT化し卒業生に配布しています。MITでは2016年からブロックチェーンの開発を始め、これは証明書の発行・共有・認証のためのオープンソースシステムとして設計されました。現在でも、このシステムは世界各地の大学によって学位証明書のNFT化に活用されています。
マサチューセッツ工科大学からは、暗号化された卒業証書のファイルが送信されます。このファイルは、安全なストレージに保管しておくことが可能で、NFT専用のスマートフォンアプリ『Blockcerts Wallet(ブロックサーツ・ウォレット)』で読み取ることによって、卒業証書の内容を確認したり、他人と共有したりできます。
マレーシア教育省
マレーシアでは、深刻な学歴詐称問題が存在しています。それを解決するために、国家主導でマレーシア教育省がNFT学歴証明書を導入しました。その具体的な方法として、『E-Scroll』という暗号資産NEMを用いたブロックチェーン学位証明書がマレーシアの6大学とLuxTag社の協力により作成されました。紙の証明書にはQRコードが付与されており、このコードをスキャンするだけで、学位情報を簡単に確認することができます。
⑧まとめ
まとめとして、キャリア形成は今後のキャリア展開にとって重要で、その証明として職務経歴書が一般的に利用されています。しかし、自作の職務経歴書には偽造の可能性があります。それに対して、NFTによるキャリア証明書はブロックチェーン上に情報が記録され、それが本物の証明書であることを容易に確認できます。
さらに、千葉工業大学のように学修歴証明書がNFT化されると、スマートフォンでいつでも確認可能で、偽造されることがないため、安心して利用できます。Web3の活用は、学習の成果を証明する手段として今後も拡大されていくといえるでしょう。
立花 佑
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