ブロックチェーン技術の医療業界における導入事例について解説

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今回は、ブロックチェーンの医療業界での導入事例について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. ブロックチェーンとは
    1-1.ブロックチェーンの概要
    1-2.ブロックチェーンの特徴
  2. ブロックチェーンが解決する医療業界の課題
    2-1.偽造医薬品対策
    2-2.サービスの品質向上
    2-3.転記業務の効率化
    2-4.臨床試験の効率化
  3. 「Arteryex(アーテリックス)」のヘルスケアアプリ「LEAF」
    3-1.ヘルスケアアプリ「LEAF」の概要
    3-2.「LEAF」開発の背景
    3-3.「LEAF」の特徴
  4. エストニアの医療業界における活用事例
    4-1.エストニアにおけるデジタル化
    4-2.電子処方箋「e-Prescription」
    4-3.自分の医療データを参照できる「e-Patientポータル」
  5. まとめ

近年、医療およびヘルスケア業界において、ブロックチェーン技術を活用した医療変革の動きがますます加速しています。例えば、医薬品の流通や偽造品への対策、また臨床試験における医療データの活用など、多岐にわたるユースケースが試みられており、その可能性に業界からは大きな期待が寄せられています。

そこで今回は、国内外の医療業界で利用されるブロックチェーンの使い方について、実際の事例を紹介しながら詳しく解説していきます。

①ブロックチェーンとは

1-1.ブロックチェーンの概要

ブロックチェーンとは、「ブロック」と呼ばれる単位でデータを管理し、それらを「鎖(チェーン)」のようにつなげてデータを保管するデータベース技術のことを指します。これまでのネットワークは中央集権型の一元管理されたものが主流となっていましたが、ブロックチェーンは「分散型台帳」とも呼ばれているように、参加者が相互に管理する分散型の仕組みを採っています。

また、ブロックチェーンの性質として、不正や改ざんが極めて困難であるという点が挙げられ、その利便性の高さから現在さまざまな分野において活用が進んでいます。なぜブロックチェーンでは不正や改ざんが困難かというと、ブロックチェーンではそれぞれのブロックに直前のブロックの内容を表す「ハッシュ値」というデータが書き込まれており、仮にデータを改ざんした場合には、それによって導き出されるハッシュ値も異なってくるため、それ以降のすべてのブロックのハッシュ値を変更する必要があります。しかし、このような作業は現実的に極めて困難であることから、ブロックチェーンで管理されているデータの改ざんは難しいと言われているわけです。

このブロックチェーン技術の台頭によって、これまでコピーや改ざんが比較的容易だとされてきたデジタルデータに唯一性を持たせ、データの真正性を担保することが可能となり、作業のさらなる効率化が実現されています。

1-2.ブロックチェーンの特徴

①高い信頼性とセキュリティ性
前述の通り、ブロックチェーンはその仕組みから不正や改ざんが極めて困難であるほか、トランザクション(取引)を実行したユーザーを特定することもできないため、ブロックチェーン上に記録されたデータについては非常に高い信頼性とセキュリティ性を担保することが可能です。

②トレーサビリティを有している
ブロックチェーンでは、改ざんが困難な信頼性の高いトランザクションデータが各ブロックに保存されているほか、冗長化などによってデータが失われることもありません。さらに、データは時系列順に格納される仕組みとなっているため、過去に遡ってデータを参照することが可能であるなど、高いトレーサビリティを有しています。

③システムの安定的な維持が可能
ブロックチェーンはこれまでの中央集権的な仕組みとは異なり、ネットワークへの複数の参加者が管理するノード(コンピューター)によって構成されています。中央管理型サーバーがシステムダウンして機能不全に陥るといった心配がなく、システムの安定的な維持が可能となっています。また、何らかの理由によって特定のノードからデータが消失した場合であっても、その他のノードが同様のデータを保有しているため、取引データが消失する心配がないなど、システムダウンへの耐性が高いと言えるでしょう。

④スマートコントラクトによる作業の効率化
スマートコントラクトとは、ブロックチェーン上において信用が担保された取引データを第三者を介さず自動処理できる仕組みのことを指します。ブロックチェーンではこのスマートコントラクトによって、当事者間で交わされる契約書の締結をはじめとするさまざまな作業が不要となるため、作業の効率化と事務コストの大幅な削減を実現することが可能です。

②ブロックチェーンが解決する医療業界の課題

2-1.偽造医薬品対策

医療業界では偽造医薬品の問題がここ10年間でさらに拡大しており、発展途上国においては特に深刻な状況となっています。偽造医薬品は有効成分の含有量が少なかったり全く含まれていないなど、使用すると死に至る可能性も大いにあり、非常に危険な存在であるとされています。

そんな中、ブロックチェーン技術を活用することによって、医薬品が製造工場から患者の手に届くまでのすべての流通を追跡することが可能になり、政府や薬局、患者がこういった情報を自由に参照することができれば、偽造医薬品の流通を防ぐための対策の一つにもなり得ると期待されています。

2-2.サービスの品質向上

ブロックチェーン技術を活用することによって、医師は患者一人一人の診察や施術歴を把握することができるようになり、これまで不透明だった情報が真正性を保ちながらも透明化されることで、医療サービスの品質のさらなる向上につながるとされています。

2-3.転記業務の効率化

21年時点で日本国内にはおよそ18万を超えるの医療機関が存在しており、それぞれの医療機関で保管されている患者データは統合されることなく、各データベースに別々で格納されています。基本的に医療機関間においてのデータの移転なども行われないため、クリニックと薬局で、同一の患者の情報を重複して記載するといった非効率な転記業務が問題視されています。

そんな中、ブロックチェーン技術を活用することによって、それぞれの患者に紐づけられたデータを共有して参照することが可能となり、転記業務の大幅な効率化を図ることができます。さらに、ブロックチェーンの導入によって、これまでは医療機関などが管理していた患者のデータを、患者自身が管理し所有する仕組みも取り入れられていくと見られており、保険支払者や医薬品研究者との関係なども変化する可能性があると予想されています。

2-4.臨床試験の効率化

臨床試験とは、ヒトを対象として、薬や医療機器をはじめとする病気の予防や診断、治療に関連するさまざまな医療手段について、その有効性や安全性などを確認するために行われる試験のことを指します。この臨床試験は医療業界において特に重要とされている側面の一つで、その実施には患者の信頼を得ることが必要不可欠となっています。

そんな中、ブロックチェーン技術を活用することによって、必要なデータを収集して共有しつつ、患者のプライバシーを徹底的に保ち、機密情報を守ることが可能になるというわけです。また、参加基準を満たす患者が極めて少ない希少疾患の臨床試験であっても、ブロックチェーンの導入によって、臨床試験の機密を保持しながらデータを交換することが可能となります。そしてその結果、医薬品開発の時間を短縮できるだけでなく、新たな治療法を患者に対してより早く届けられるようになると期待されています。

③「Arteryex(アーテリックス)」のヘルスケアアプリ「LEAF」

ここからは、医療業界で利用されるブロックチェーンの使い方について、実際の事例を詳しく紹介していきます。

まずは、国内企業である「Arteryex(アーテリックス)」のヘルスケアアプリ「LEAF」について解説します。

3-1.ヘルスケアアプリ「LEAF」の概要

LEAF
「LEAF」とは、18年2月に設立された医療関連の事業展開を行う「Arteryex株式会社」が「岩渕薬品株式会社」と共同で開発した企業向けヘルスケアアプリのことを指します。LEAFは「Life with Exercise And Food」の頭文字を取って名付けられたスマートフォン向けのアプリで、20年9月より一般企業向けに提供がスタートされました。LEAFは主に、一般企業向けの社員の健康管理を行うヘルスケアアプリとして開発されており、従業員一人一人の日々の歩数や歩行距離を管理する機能や従業員同士での歩数勝負ができる「デュエル」と呼ばれる機能、また独自チャット機能などによって、従業員間のコミュニケーション促進にも寄与したアプリとなっています。

なお、開発元であるArteryexはブロックチェーンやAIといった先端技術と医療を組み合わせ、医療情報プラットフォームやアプリ開発、また健康経営サポートなどを行っており、未来につながる医療情報プラットフォームの構築を目指した事業展開を行っています。

そしてこのLEAFにおいても、ブロックチェーン技術を活用し、セキュリティ性が担保されたさまざまな機能を搭載しており、これまでにない利便性の高いサービスを実現しています。

3-2.「LEAF」開発の背景

ArteryexはLEAFを開発した最大の目的として、従業員の健康管理およびコミュニケーションの活性化を挙げています。

実際、三大疾病などによって従業員が離脱することは会社にとって大変大きなダメージとなり得るため、アプリを介した従業員との新しい関わり方を確立することによって、一人一人の健康意識のさらなる向上と生活習慣の改善を促進し、健康維持や病気の早期発見、また重症化予防などにつなげるとともに、健康経営をより一層推進することを狙いとしています。

また、Arteryexでは健康にハツラツと働くことのできる職場環境を構築すること、また多くの時間を共にする従業員同士の連携を深めていくことが重要であると考え、LEAFのスマートフォン向けのアプリとしての開発に至ったということです。

3-3.「LEAF」の特徴

①コインを獲得することが可能
LEAFには設定された歩数や距離に挑戦する「チャレンジ」機能や従業員間の歩数対決が可能な「デュエル」機能が実装されており、目標に応じてコインを獲得することが可能となっています。このコインは福利厚生として、社内のコンビニやカフェといった場所で利用できるものに変換することもできるため、LEAFを活用することで従業員の運動をさらに促進することが可能です。

②健康管理ができる
LEAFでは、自分の健康状態および運動記録を一目で確認することが可能です。具体的には、日々の歩数や歩行距離、消費カロリーなどが表示されるほか、オプション機能として従業員それぞれの健康診断の結果をグラフ付きで反映させることも可能です。これらのデータは管理画面にて一元管理することができるため、企業がLEAFを導入する際にも、効率的な運用を行うことが可能です。

③コミュニケーションが活性化される
前述した通り、LEAFは従業員同士のコミュニケーションの活性化も期待できます。具体的には、個人間やグループでチャットができるほか、獲得したコインを従業員間で取引することもできるため、社内のコミュニケーションをより促進することが可能です。

④エストニアの医療業界における活用事例

4-1.エストニアにおけるデジタル化

エストニアは行政サービスの大部分をデジタル化していることで知られており、中でも医療分野への恩恵が大きいとされています。

エストニアでは08年に「e-Health」と呼ばれる医療データをデジタル化するプロジェクトを成功させており、現在では病院または医師によって生成されるデータのおよそ95%以上がデジタル化されています。「X-Road」と呼ばれる基盤の上に構築されているこのe-Healthは、ブロックチェーンの活用によってセキュリティ性が担保されているほか、すべての病院や大学、また政府機関が同じ医療データを参照することが可能です。そのため、医療記録に重複がなく、より統合的且つ効率的なシステムとして注目を集めています。

また、エストニアは19年の「The 2019 Annual European eHealth Survey」において、電子医療のロールモデル国としてヨーロッパの第一位に選ばれるなど、あらゆるサービスのデジタル化実現に大きく寄与しています。

4-2.電子処方箋「e-Prescription」

e-Healthプロジェクトの一つとして、「e-Prescription(電子処方箋)」があります。e-Prescriptionでは医師が薬を処方する際、オンラインで情報を入力して処方箋を発行し、患者は薬局に行ってIDカードを提示するだけで薬を受け取ることが可能です。薬剤師はe-Prescriptionのシステムから患者の情報を取得し、薬を用意することができるほか、同じ薬を処方してもらう際には、医師にメールや電話などで連絡を取ることが可能なため、直接医師を尋ねる必要もないということです。このほか、e-Prescriptionでは国の健康保険データが自動で参照され、患者に受け取り資格のある医療補助金が随時適応される仕組みとなっているため、業務の大幅な効率化が可能です。

現在エストニアではおよそ99%もの処方箋がオンライン上で発行されており、患者や医師、薬局それぞれにとって、利便性の高いサービスとなっています。

4-3.自分の医療データを参照できる「e-Patientポータル」

エストニアでは国民それぞれの医療データが生後すぐから亡くなる間際まですべて記録されています。エストニア政府はデジタル化を推進するにあたって、国民にとってインターネットへのアクセスは社会権であり、国民は自らのデータをコントロールできると主張してきました。

実際、IDカードの認証を経て「e-Patientポータル」と呼ばれるプラットフォームにアクセスすることで、国民は自分の医療データだけでなく、他の誰がデータにアクセスしたかを確認することが可能です。また、必要であればデータをシステムから切り離すこともできるなど、この高い透明性とそれを担保するブロックチェーン技術が、国民のサービスに対する信頼へとつながっています。

⑤まとめ

近年、ブロックチェーンという言葉がますます広がりを見せていますが、医療業界においてもその活用が急速に進んでいます。医療業界は元々高い透明性やセキュリティ性が要求される分野であるため、ブロックチェーンとの親和性が比較的高いとされており、実際にブロックチェーン技術を用いたさまざまなサービスが展開されています。ブロックチェーンを導入することによってあらゆる業務をさらに効率化することができるほか、患者のプライバシーを徹底的に守ることも可能になるなど、医療業界の躍進に向け今後もさらに革新が進んでいくと見られています。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12