今回は、パブリックブロックチェーンのKogarashiについて、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- 「株式会社インバース」とは
1-1.「株式会社インバース」の概要
1-2.「株式会社インバース」の事業内容 - 「Kogarashi」とは
2-1.「Kogarashi」の概要
2-2.「Kogarashi」開発の背景 - 「Kogarashi」の特徴
3-1.秘匿送金が可能
3-2.署名スキーム「Redsa」を採用
3-3.分散型アプリ上における非金融データの取扱いが可能 - 今後の展開
- まとめ
2023年の5月30日に、日本のブロックチェーン開発企業、株式会社インバースが新プロジェクト「Kogarashi」を発表しました。これは、インターネット上のデータを活用する分散型アプリ(Dapp)のプラットフォームを、パブリックブロックチェーンの形で提供するというものです。非金融データの取り扱いが可能になるというこの新たな試みは、大きな注目を集めています。
この記事では、そんな注目の「Kogarashi」について、概要や特徴、そしてこれからの展開予定を深掘りしていきます。
1.「株式会社インバース」とは
1-1.「株式会社インバース」の概要
株式会社インバースは、2022年11月に設立された、東京を拠点にするブロックチェーン関連企業です。設立から日が浅いにもかかわらず、すでに全世界規模でのサービス展開を進めており、大手企業や団体とも幅広く取引を行っています。株式会社博報堂DYホールディングスやイーサリアム財団、Web3財団などといった名だたる組織がその一例です。
インバースは、ブロックチェーンを通じて「暗号学で未来の可能性を開拓する」というビジョンを掲げています。その一環として、ブロックチェーン上での秘匿性とスケーリングをバランスよく実現し、使いやすさを追求したWeb3.0の世界創造に全力を注いでいます。そのため、最新の暗号技術開発やブロックチェーンの改良を行い、Web3.0領域の先駆者として業界から期待されているのがインバースです。
1-2.「株式会社インバース」の事業内容
インバースの主な事業は、ブロックチェーン技術の開発と暗号技術の基礎研究です。ここでは、その中で注目されている主要なサービスをご紹介します。
Zero Network
インバースが開発している「ゼロ知識証明(Zero-Knowledge Proof)」を活用したプロダクトが、Zero Networkです。これは、ブロックチェーンのメインチェーンで秘匿性とスケーリングを両立することを可能にします。
ゼロ知識証明とは、一方の当事者が特定の主張を証明する際に、それが正しいということ以外の情報を相手方に明かさずに証明する手法のことを指します。このテクノロジーは、公開型ブロックチェーンネットワークの透明性とプライバシー保護を両立させるメリットがあり、ブロックチェーン技術全体において幅広く活用されています。
Artree NFT API
Artree NFT APIは、ブロックチェーンに関する知識がなくても、コントラクトの作成からNFT(非代替性トークン)の発行が可能なAPIサービスです。
研究補助金の活用
インバースは、Web3財団の補助金を利用して研究開発を行い、イーサリアム財団での楕円曲線とゼロ知識証明に関する研究を進めています。
2.「Kogarashi」とは
2-1.「Kogarashi」の概要
「Kogarashi」は、株式会社インバースが開発した日本発のブロックチェーンです。
前述の通り、Kogarashiはインターネット上のデータを利用できる「分散型アプリ(Dapp)」のプラットフォームをパブリックブロックチェーンとして提供しています。これにより、非金融データの取り扱いが分散型アプリ上で可能となります。
さらに、ブロックチェーンの特性を活用し、インターネットにアクセスしてブロックチェーン外部で行われた取引の正当性を検証することができる機能を追加。これにより一般ユーザーにとって利便性の高いブロックチェーンを目指しています。
Kogarashiは、そのスケーラブルなプライバシー保護送金システムにより、送金者が送金額を他のネットワークユーザーに知られることなく、スムーズに送金を実行できるという画期的なシステムです。その多様な利用シーンに対する期待が高まっています。
2-2.「Kogarashi」開発の背景
ブロックチェーンでは基本的に記録された情報は全て公開され、全てのユーザーが他のユーザーの送金履歴や購買履歴などを確認できる仕組みとなっています。そうした特徴をもつ一方、ブロックチェーンのトランザクション(取引)の処理速度は、既存の決済システムと比較してかなり低く、さらに最近のユーザー数の増加により、処理の遅延がますます問題となっています。
そんな中で、プライバシーとスケーリング(システムの拡大)に関するこれらの課題を、ゼロ知識証明や準同型暗号などの暗号化手法を用いて解決しようという試みとして、Kogarashiの開発が始まりました。Kogarashiでは、送金額を秘密にする「機密送金」や、トランザクションに関連するアドレスを秘密にする「匿名送金」、さらには、オンチェーン(ブロックチェーン上)でのゼロ知識証明ロールアップを実装することが報告されています。これらの手法により、従来問題視されてきた課題を解決し、大きな注目を集めています。これらの機能を実装することにより、ブロックチェーン上でより速く、手数料が低く、そしてプライバシーが保護された新たな決済システムの構築が可能になると説明されています。
2023年4月には、このKogarashiネットワークが「Parity Technologies」が運営する「Substrate Builder Program」に選ばれました。Kogarashiはこれまでに4回、Web3財団のゼロ知識証明と準同型暗号に関する補助金プログラムに参加してきました。これらの経験を組み合わせて、よりスケーラブルなプライバシー保護送金システムを実装し、最終的には「Polkadot」に接続してPolkadotのパラチェーンとしてリリースすることを目指しています。
3.「Kogarashi」の特徴
3-1.秘匿送金が可能
Kogarashiでは、ブロックチェーン上での送金時に送金額を秘匿する機能が実装されています。これにより、ユーザーは他のユーザーに送金額を知られることなく送金を行うことが可能となっています。
「ZeroNetwork」というプラットフォームを開発しているインバース社の技術は、ユーザーのアドレス残高をデフォルトで暗号化します。これにより、従来の秘匿送金の際に必要だったデポジットの預け入れやL2(レイヤー2)テクノロジーの利用を必要とせず、一般的なブロックチェーンの送金と同じ方法で取引ができます。
また、Kogarashiは使いやすさを考慮し、サイドレイヤーなどの導入をせず、メインチェーンのみとやり取りできるよう設計されています。このように高度な機能を備えたプロジェクトは、世界的に見ても稀有であると言えます。
3-2.署名スキーム「Redsa」を採用
Kogarashiは、「Redsa」と呼ばれる特殊な署名スキームを採用しています。これは楕円曲線を利用したもので、ユーザーは特定の監査機関のみが解読できるトランザクションを生成することができます。これにより、プライバシーを守りつつ、監査可能性も担保した形でブロックチェーンを利用することが可能です。
近年、「トルネードキャッシュ(Tornado Cash)」という事件が引き起こした問題から、プライバシー保護と監査可能性の両立の重要性が注目されています。
トルネードキャッシュとは、仮想通貨の取引を匿名化することが可能なミキシングサービスのことで、ユーザーのプライバシー保護を目的として「イーサリアム(ETH)」チェーン上に開発されました。この事例からも、ブロックチェーンを安全に、また透明性を保った状態で利用するためには、Kogarashiのようなプラットフォームの存在が重要であることが分かります。しかし、近年、トルネードキャッシュが不適切に利用され、ハッキング後の資金洗浄の手段となる事例が増えています。具体的には、2021年8月に「DeFi(分散型金融)」プロトコルから盗まれた約7,100万円(50万ドル)相当の仮想通貨が、翌年の2022年9月9日にトルネードキャッシュに送金されたという事実が明らかになりました。
こうした事例から、プライバシー保護の目的で設計されたサービスが犯罪行為に悪用される現状が浮き彫りになり、プライバシーと監査可能性のバランスを適切に保つシステムの必要性が高まっています。その実現には、効果的な暗号スキームが欠かせません。Kogarashiでは、この問題解決のために「Redsa」の活用を試みています。現行のシステムの課題を解決し、プライバシーと監査可能性の両立を可能にする新たなフレームワークの構築に向けて取り組んでいます。
3-3.分散型アプリ上における非金融データの取扱いが可能
Kogarashiプロジェクトでは、「分散型アプリ(Dapp)」というプラットフォームを通じて、非金融データの取り扱いを可能にしています。これはパブリックブロックチェーンとして機能し、インターネット上のデータを活用することができます。
しかし、元々、インターネット上のデータを正確かつ信頼性高くDappで利用するのは困難でした。その理由としては、データが正当なプロセスを経て取得されたものかどうかの検証が難しい点が挙げられます。特にブロックチェーンにおいては匿名性が尊重されるため、提供されるデータは基本的に自己申告制で誤った情報が書き込まれるリスクが常に存在し、その正確性を保証することは難しいという問題があります。
ブロックチェーン上のデータ信頼性を維持するためには、正確なデータが適切なリソースから取得され、その後適切に加工されたかどうか、これら二つのポイントをしっかりと検証できるシステムが必須です。残念ながら、これまでのサービスではこのような検証が行われていないことが多く、多くの場合、多数決によりデータの正確性が決定されてきました。
データ取得に関しては、ユーザー自身、サービス提供者、あるいは第三者のオフチェーンオラクルサービスが関与することが多いのですが、これがデータ取得者への信頼を必要としています。特に第三者サービスを利用する場合、その利用料はしばしば高額になります。また、過去の分散型アプリで扱うことができたデータは、主に仮想通貨やNFTなどの仮想資産に限られていました。そのため、主に金融領域での利用が前提とされていました。
一方、Kogarashiプロジェクトでは、暗号学とコンピュータ通信の原理を用いて、データが適切なリソースから取得され、適切に加工されたことを検証することが可能なシステムを構築しました。この結果、Kogarashiを使うことで、手頃な価格で信頼性の高い情報をインターネットから分散型アプリへ取り込むことが可能となり、さらには金融データ以外の情報も取り扱えるようになりました。
4.今後の展開
2023年5月末の時点で、Kogarashiは今後一年間で、インタビューで明らかになった様々な課題に対する具体的な解決策を実装する予定だと述べています。それには、インターネットだけでなく、「IoT(モノのインターネット)」からの情報を検証する機能の追加も含まれています。
2023年の予定
第3四半期、第4四半期: Webアプリからの情報取得ニーズの検証、成長戦略の強化、戦略の微修正
- オフチェーンオクラルの構築
- プロバイダーが利用する情報取得デバイスとの通信検証
- 概念実証(Proof of Concept、PoC)版のリリース
2024年の予定
第1四半期
- IoTスマートコントラクトの導入
- プロバイダーが管理するIoTデバイスとの通信検証
第2四半期: IoT・任意デバイスの情報取得ニーズの検証、最もニーズが高い業界へのリソース集中投入
- 検証可能デバイスの設定
- 任意デバイスとの通信検証
- 正式版のリリース
第3四半期、第4四半期: 分散型金融と他機能の組み合わせのニーズの検証
- 流動性の向上
- チェーン間の互換性と法定通貨と連動したステーブルコインのサポート
- 仮想通貨取引所への上場
2025年の予定
第1四半期、第2四半期: 一般機能との組み合わせニーズの検証
- 一般的な機能のサポート
- 送金額を隠蔽する「機密送金」技術と送金処理のロールアップ技術のサポート
第3四半期、第4四半期: 汎用機能のスケーリングのニーズの検証
- 機能の統合
- サイドチェーンを用いたプライバシーとデバイス間の通信検証
Kogarashiは、「FTX」や「トルネードキャッシュ」のような事例を通じて、「分散」システムと「集権」システムそれぞれが持つ課題が明らかになったことを指摘しています。そして、今後はこれらの二つの要素を融合させたような新たなサービスが開発され、我々の生活に深く浸透していくとの見解を示しています。
こうした背景を受け、Kogarashiは分散システムの透明性と集権システムの利便性、この両方の長所を活かす形で、ユーザーが信頼できるスキーマを選択できるような新しいブロックチェーンの開発に取り組むと述べています。
5.まとめ
「Kogarashi」とは、インバースによって開発された日本発のブロックチェーンプロジェクトのことで、暗号学とコンピュータ通信の原理を用いて、非金融データを分散型アプリ上で取り扱うことを可能にする新サービスです。Kogarashiは、従来のブロックチェーンが抱える課題を解決するための新しい取り組みとして注目され、多くのユースケースでの活用が期待されています。その活用範囲は今後さらに広がると予想されています。ロードマップによると、今後の具体的な展開計画も公表されています。ただし、Kogarashiがどのように広く利用されていくのかについては、まだまだ無限大の可能性があるといえるでしょう。
中島 翔
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