カーボンクレジット取引の最前線:JCEXの概要と特徴

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世界がカーボンニュートラルに向けて動く中、カーボンクレジット市場も急速に拡大しています。特に、日本のJCEX(Japan Climate Exchange:日本気候取引所)は、国内外の環境価値を取引できるプラットフォームとして注目を集めています。

JCEXは、国内のJ-クレジットや非化石証書、海外のボランタリークレジットをオンライン上で売買できるマーケットプレイスとして、2023年12月に大規模なアップデートを実施。ユーザーフレンドリーな設計と取引の透明性を強化し、企業がカーボンニュートラルを目指すための有力な取引基盤を提供しています。

本記事では、進化したJCEXの概要や特徴を解説し、企業が環境価値を取引する意義についても詳しく紹介していきます。

目次

  1. JCEXとは
    1-1. JCEXの概要
    1-2. 運営元の株式会社enechain
  2. JCEXの特徴
  3. 環境価値を取引する意義
  4. 最新の動向
    4-1. あおぞら銀行との協業
    4-2. ゼロボードとの協業
  5. まとめ

1. JCEXとは

1-1. JCEXの概要

引用:JCEX

JCEXは、enechainが運営する環境価値を売買する環境価値取引マーケットプレイスです。JCEXは誰でも直感的に操作ができ、操作マニュアルがなくても画面の指示に従うことで環境価値の売買注文を行うことができるように設計されているなど、ユーザーフレンドリーなプラットフォームとなっています。

JCEXは、J-クレジットや非化石証書といった国内の環境価値および海外ボランタリークレジットをオンライン上で売り買いできるマーケットプレイスとして注目を集めており、環境価値取引の流動化を通じて、気候変動の緩和や日本におけるカーボンニュートラルの実現に大きく貢献しています。2024年2月22日には、非FIT非化石証書とJ-クレジットなどの累計取扱高がCO2排出量換算10万トンを突破したことを発表しており、今後もその規模をさらに拡大していくことが期待されています。

1-2. 運営元の株式会社enechain

JCEXの運営を行っている株式会社enechainは、電力やエネルギー、環境価値の取引仲介および取引の場であるマーケットプレイスの運営などを行うスタートアップ企業として知られています。enechainは、「Building Energy Markets, Coloring Our Society(エネルギー市場を構築し、社会を彩る)」というミッションを掲げています。誰もに開かれた、あらゆるエネルギーの価値を交換できるフェアなマーケットを通じて「Social Good」を実現することを目指しています。

具体的には、日本最大のエネルギー取引所の運営者として、卸電力や環境価値の取引機会を提供しています。また、決済サポート機能、取引支援アプリケーション、データサービスといった、エネルギー取引を支援する付加サービスを通して市場参加者のニーズに応えています。主力となる卸電力の出来高は累計1兆円を超えており、国全体の「エネルギー価格の変動による影響の最小化」や「経済の安定化」に貢献しています。さらに、環境価値の取り扱いによって、脱炭素社会の実現にも注力しています。

enechainは、マーケットの力によって日本の経済をより豊かにするとともに、社会をサステナブルにすることを目指しています。エネルギーマーケットという日々の当たり前を支える基盤を通じて、社会に貢献しています。

2. JCEXの特徴

多様な環境価値の取引が可能

JCEXでは、J-クレジットや非FIT非化石証書など、国内の環境価値商品だけでなく、海外ボランタリークレジットなど、世界中のあらゆる環境価値を取引することが可能です。

また、上記のような流動性の比較的高い環境価値だけでなく、REC(再エネ証書)やグリーン電力証書などのほか、ニーズに応じて、再エネPPAやRE100電力のマッチングも可能です。JCEXを利用すれば、取引したい環境価値を一元的に取引することができます。

独自のマッチング機能

環境価値の取引においては、自社の取引先に限定した場合、選択肢が制約され、希望の条件を備えた相手を見つけることが難しくなっているという現状があります。しかし、JCEXには独自のマッチング機能が搭載されているため、取引相手を探す手間を軽減することが可能です。

例えば、環境価値を購入する企業の中には、カーボンオフセット商品の組成を目的として、二酸化炭素を排出した地域と同じ地域に由来する環境価値でオフセットしたい、といった地産地消のニーズがあります。取引したい環境価値の属性に合わせたマッチング機能がとても好評だと説明されています。

フェアプライス取引

環境価値の取引においては、その価格が不透明であるため、自社の取引価格の妥当性を判断することが難しい「取引価格のブラックボックス化」が進んでいると言われています。また、環境価値に関連する制度が比較的複雑なうえ、市場価格も日々変動している状況の中、どの環境価値をどの価格で取引するべきかが不透明という懸念もあります。

JCEXでは、売買札や直近の約定価格がリアルタイムで表示される仕様となっています。自社で売りたいもしくは買いたい環境価値の価格動向を瞬時に把握することができるため、環境価値をフェアプライスで取引することが可能です。

伴走サポート

JCEXでは、制度のアップデートや市場の変動に柔軟に対応し、各企業の状況や目的にマッチする環境価値の選定から交渉まで、トータルでのサポートを行っています。

そのため、環境価値取引をしたことがない方でも、できるだけ希望条件で取引が叶うような環境が整備されており、使い勝手のいい取引プラットフォームと言えるでしょう。

GXデータサービス

JCEXでは、環境価値の価格指標など、独自の価格データの提供を行っているため、ユーザーは取引に役立つ情報を手軽に入手することが可能です。具体的な提供データとしては、カーボンインデックスや電力価格指標、マーケットニュースなどが挙げられます。

利用までの流れが簡潔

JCEXには複雑な手続きなどがないため、利用までの流れが簡潔であるというメリットがあります。

具体的には、まず始めにお問い合わせフォームから必要な情報を入力し、デモ画面において、アカウント開設に必要な手続きなどの説明を受けます。その後、必要書類を提出し、指定のURLからアクセスすると、利用開始となります。

3. 環境価値を取引する意義

JCEXでは多岐にわたる環境価値が取り扱われています。こうした環境価値を取引することは、現代社会における気候変動対策やサステナブルな発展を促進するための重要な手段として認識されています。

ここでは、環境価値を取引する意義について、改めて考えていきます。

温室効果ガス削減の促進

環境価値を取引する最も直接的な意義は、温室効果ガスの削減を促進することです。カーボンクレジット取引などの市場メカニズムを通じて、企業や団体は自らの温室効果ガス排出量を削減するための経済的インセンティブを得ることができます。

例えば、企業がカーボンクレジットを購入することで、自社の排出量を削減するとともに、クレジット市場での取引によって資金を得ることができます。これによって削減目標を達成するための効率的な手段が提供され、全体として温室効果ガスの削減が進むことが見込まれます。

市場メカニズムの導入

環境価値の取引は、市場メカニズムを導入することによって、温室効果ガスの削減コストを最適化しています。市場での取引により、排出削減のコストが市場の需要と供給に基づいて決定されるため、最もコスト効率の良い方法で排出量を削減することが可能になります。よって、企業は自社の削減コストを最小限に抑えることができるほか、全体としてもコスト効率の高い削減が促進されます。さらに、競争が進むことにより、より効果的な削減技術や方法が開発される可能性も高まります。

資金の流動性確保

環境価値の取引は、環境保護やサステナブルなプロジェクトへの資金供給を促進します。

例えば、カーボンクレジットを取引することによって、温室効果ガス削減プロジェクトに対する資金が提供され、プロジェクトの実現性が高まります。環境保護活動やサステナブルな技術の開発には多額の資金が必要となりますが、環境価値の取引を通じて資金が流動的に供給されることで、これらの活動促進が期待されます。

環境意識の向上

環境価値を取引することは、企業や一般市民の環境意識を高める効果もあると言えるでしょう。市場での取引が進むことによって、環境保護が経済活動の一部として定着し、多くの人々がサステナブルなアクションを起こすようになることが期待されます。環境価値取引の存在は、企業や消費者に対して環境への配慮を促し、サステナブルな選択肢を選ぶ動機づけとなります。これにより、社会全体の環境意識が向上し、より広範な環境保護活動が展開されるようになると考えられます。

政策の支援

環境価値取引は、政府や国際機関が設定する環境規制や目標を支援する役割も果たします。国際的な気候変動協定や国内の環境規制に基づいて、排出権取引市場やカーボンクレジット市場が設立されることで、規制の実施が効率的に行われます。市場メカニズムを活用することによって、政府や国際機関の環境目標を達成するための手段が提供され、政策の実効性が高まることが期待できます。また、市場メカニズムを通じて、政策の実施が企業や消費者に対しても経済的に受け入れられやすくなるなど、政策の支援という面においても、プラスの影響があると言えるでしょう。

イノベーションの促進

環境価値の取引は、環境保護技術やサステナブルなビジネスモデルの革新を促進します。取引市場の需要に応じて、企業は新しい技術や方法を開発し、より効率的な削減手段を提供するようになると予想されます。これにより、環境保護技術やサステナブルなビジネスモデルがますます進化し、社会全体の環境対応能力が向上することが見込まれます。

また、こうしたイノベーションが進むことによって、環境保護と経済成長の両立が実現する可能性もより広がっていくでしょう。

国際協力の強化

環境価値の取引を行うことによって、国際的な協力の促進が期待できます。気候変動は地球規模の国際的な問題であり、国境を越えた協力が不可欠です。環境価値取引市場は、異なる国や地域が共通の目標に向かって協力し、温室効果ガスの削減に取り組むためのプラットフォームを提供します。これによって、国際的な気候変動対策が強化され、より広範な協力が実現すると言えます。

4. 最新の動向

4-1. あおぞら銀行との協業

2023年11月1日、JCEXは「株式会社あおぞら銀行」と協業し、カーボンニュートラルを目指して環境価値を購入したい企業や、創出した環境価値を売却したい企業に対して、環境価値の売買やJCEXが提供する市況データサービスの有効活用による取引サポートを行うことを発表しました。

この協業について、JCEXの運営元であるenechainは、電力の取引所を創出する際に培ったノウハウを活用すると説明しています。また、自社で展開している電力や燃料、環境価値といったエネルギー商品をオンライン上で売り買いできるマーケットプレイス「eSquare」にすでに参加している、環境価値の主要な売り手である電力会社からの豊富な供給を活用します。これにより、環境価値においても価格の透明性と取引の流動性を提供し、企業による温室効果ガスの排出削減を後押ししていくとしています。また、今後は、国内外のカーボンクレジットのサプライヤーや二酸化炭素排出量の可視化サービスとの協業、および電力領域で進めてきた海外取引所との連携なども強化していく予定だということです。

一方、あおぞら銀行は、日本全国の約8割の地域金融機関と取引関係があることを強みとするユニークな金融機関として知られています。クライアントの気候変動対応や脱炭素化への移行を積極的にサポートする中で、2022年6月より「あおぞらESG支援フレームワーク」を提供しています。これは、クライアントのESG課題解決を金融および非金融ソリューションの両面でサポートする枠組みです。

この枠組みにおいて、J-クレジット創出支援や二酸化炭素測定支援のほか、J-クレジットおよび非化石証書の取引ですでに実績のあるJCEXを、クライアントや地域金融機関などに紹介することによって、クライアントの環境価値取引をサポートし、脱炭素化を推進すると語っています。

4-2. ゼロボードとの協業

2023年12月27日、JCEXの運営元enechainは、温室効果ガス排出量測定の「株式会社ゼロボード」と協業することを発表しました。

ゼロボードは、「人類共通の未来を切り拓く、持続可能な会社経営のために あらゆる企業を取り残すことなく、世界の第一線を走り続ける。」という使命を掲げています。クライアント企業のサプライチェーン単位での温室効果ガス排出量の算定および可視化を行い、排出量削減を計画していくためのクラウドサービスを提供しています。

今回の協業を受けて、JCEXは、ゼロボードのほかに、同社のクライアント企業も環境価値の買い手として市場に新たに参加することを見込んでいます。参加者を増やすことによって取引の流動性を高めたい考えを示しています。

5. まとめ

JCEXでは、マーケットプレイスに加えて環境価値関連のデータサービスを提供しています。これにより、取引相手を探す手間の低減と環境価値取引におけるフェアプライスの形成をサポートしています。ユーザーは自身のニーズにマッチした商品を柔軟に選択することができるため、脱炭素への取り組みをより効果的に行うことが可能です。

環境価値を取引することは、温室効果ガス削減の促進、市場メカニズムの導入、資金の流動性確保、環境意識の向上、政策の支援、イノベーションの促進、国際協力の強化など、サステナブルな社会の実現にとって多大なる意義を有しています。JCEXは、サステナブル投資やインパクト投資の効果的なプラットフォームとして、今後ますます重要性を増していくことが期待されます。さらに、JCEXの活用は、投資先企業の環境パフォーマンス向上や、ポートフォリオ全体の炭素強度低減にも寄与するでしょう。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12