人々の違った個性や考え方は新たな価値創造を生み出し、企業の持続的な事業成長へと繋がっていきます。人材採用・紹介の面でもESGの考え方を取り入れる企業も増えてきており、中でも人材採用・紹介を主要事業としている人材・転職支援企業は、個性や多様なバックグラウンドを重視した人材紹介や採用を推進しています。
この記事では、人材・転職支援企業のESG・サステナビリティの取り組み事例について紹介しているので、ESG投資などに関心のある方は参考にしてみてください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・銘柄への投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、ご自身のご判断において行われますようお願い致します。
※本記事は2023年7月時点の情報をもとに執筆されています。最新の情報については、ご自身でもよくお調べの上、ご利用ください。
目次
- 人材・転職支援企業のESG・サステナビリティの取り組み内容
- リクルートホールディングス(6098)
2-1 『スタディサプリ』を活用したひとり親世帯支援
2-1 地域雇用活性化に向けた就労支援セミナーの実施
2-2 持続可能な観光の共同研究 - パソナグループ(2168)
3-1 障がい者雇用の促進
3-2 環境保全への取り組み - パーソルホールディングス(2181)
4-1 リスキリングやパラレルキャリア推進などの取り組み
4-2 寄付による社会貢献活動 - まとめ
1 人材・転職支援企業のESG・サステナビリティの取り組み内容
人材・転職支援企業は、就労やキャリア形成の支援などの他、環境面における持続可能な社会の実現に向けたESG活動を行っています。人材・転職業界の中でも大手に位置付けられる、「リクルート」「パソナグループ」「パーソルホールディングス」は、積極的にESG活動の取り組みを行う人材・転職支援企業です。
そこで、上記3社の具体的なESG・サステナビリティの取り組み事例について、いくつか紹介していきたいと思います。
2 リクルートホールディングス(6098)
リクルートホールディングスは、テクノロジーの力で「働く」の進化をリードするグローバルテックカンパニーです。新卒・中途の社員、パート・アルバイトの採用、中途採用の人材紹介などの事業に加えて、住宅・美容・飲食・旅行等の業界に関する販売促進サービスの事業も手がけています。
リクルートの企業グループ全体における2022年3月期の売上は、2兆円を超えており、人材業界でもトップとなっています。(※参照:リクルートホールディングス「2022年3月期 決算短信〔IFRS〕(連結)」)
リクルートは、事業領域に関連する「働き方の進化」「機会格差の解消」「人権の尊重」「多様性の尊重」「環境の保全」を重点テーマとし、持続可能な社会実現への貢献を目指して、以下のESG活動に取り組んでいます。
2-1 『スタディサプリ』を活用したひとり親世帯支援
スタディサプリは株式会社リクルートが提供するオンライン学習サービスです。トップクラスの講師が行う全ての講義を受けることができ、学生向けの学習講座から一般社会人向けの英語講座まで様々な用途で利用できる人気の学習サービスとなっています。
リクルートでは2016年から全国の自治体や支援団体と協働し、スタディサプリを活用した困窮世帯学習支援や不登校学習支援、放課後教室の支援を行っています。2022年からは「ひとり親家庭の高校生」を対象に船橋市と協働の取り組みをスタートしました。(※参照:「ひとり親家庭の高校生の学習支援に『スタディサプリ』を活用 船橋市とリクルートが学習支援・キャリア支援で協働」)
こちらの取り組みでは船橋市内2カ所の公共施設で学習サポート教室「Bridge」を週2回開催し、これまで資金援助や生活補助ではカバーしづらかった「教育格差」の問題解消を目的としています。対面式でオンライン学習サービス『スタディサプリ』と貸出用のタブレット端末が用意され、高校生は苦手克服から先取り学習まで自分に合った学習を受講できます。
またリクルートならではの特徴的な取り組みとして、セミナー型キャリア支援事業も並行して行っている点が挙げられます。学習支援にとどまらず、ひとり親家庭の高校生が将来の夢ややりたいことを主体的に考えるきっかけとして、これまでリクルートが培ってきた「キャリア支援」のノウハウを活用している点が同社ならではの取り組みと言えるでしょう。(※参照:「千葉県船橋市×『スタディサプリ』で取り組む、ひとり親家庭の高校生支援。学習サポートにとどまらない、子どもたちのウエルビーイングを育てる場を目指して」)
2-2 地域雇用活性化に向けた就労支援セミナーの実施
円滑な雇用や人材確保は、人々が安心できる生活環境や企業の持続的な事業成長の実現には欠かせないものです。しかし、人口の過疎化や雇用機会の不足等で、人材確保を円滑に行えない地域もあるなど、就職希望者と企業の双方にとって好ましくありません。
そこで厚生労働省は、上記のような社会的課題の解決のため、雇用や人材確保に関して地域の特性を活かした取り組みを支援する「地域雇用活性化推進事業」を開始しました。
例えば、鹿児島県・薩摩國地域が立ち上げた仕事・ライフスタイル・キャリアに関する「夢・未来応援プロジェクト」は地域雇用活性化推進事業の対象に選定されており、リクルートも協働で取り組んでいます。
リクルートは、地元の市町村や経済団体と協働で企業の魅力を向上させる事業者向けセミナーと、人材育成を目的とする求職者向けのセミナーを開催した上、事業者と求職者をマッチングさせる事業を行っているほか、2023年2月には、人材採用や人材紹介等の事業ノウハウを生かした就労支援セミナーを実施し、参加者に適職診断やポータブルスキルなどに関するレクチャーを行いました。(※参照:リクルート「人材紹介事業を展開するリクルートHRエージェント事業、鹿児島県薩摩國地域と連携し、就労支援セミナーを実施」)
リクルートの適職診断では、過去・現在・将来を通じて自分のキャリア像を構築し、その上で自分の適職を考えることが重要であり、さらに職場環境や仕事内容が変わっても活かせるポータブルスキルを発掘することで、多様なキャリア形成を実現できるようになります。実際、セミナーの終了後に実施したアンケート調査では、約90%の参加者が講演内容に満足したと回答しており、求職者の就職やキャリア支援への貢献を果たしています。
2-3 持続可能な観光の共同研究
インバウンド需要の拡大は、国内の経済活性化につながるため、外国人旅行者を持続的に呼び込むことは重要です。一方、ESGの観点から環境・社会等に配慮した持続可能な観光についても考える必要もあります。
観光業におけるサステナブル対応につき、その具体的な内容が不明確な点も多いため、観光事業者が取り組みにくいという課題があります。そこで、リクルートは公益財団法人東京観光財団と共同で持続可能な観光に関する研究に取り組み、サステナブルを軸とした外国人旅行者の顧客増加につながる情報を整備しました。(※参照:リクルート「リクルートと東京観光財団が持続可能な観光に関する共同研究を実施 「サステナブル」を軸にインバウンド旅行者の誘客促進につながる情報を整備」)
例えば、中間富裕層の外国人顧客を持つ海外旅行会社向けに作成された「東京サステナブル情報マニュアル」には、欧米豪のサステナビリティに対する関心の高まりを受け、東京に対する新たな印象や独自性をアピールする項目(「Slow Tokyo」「Rural Tokyo」「Made in Tokyo」「Eco Tokyo」「Responsible Hotels」等)が詳しく記載されています。
その結果、マニュアルを使用した海外旅行会社14社のうち11社が「非常に満足」、残りの3社が「満足」と回答するなど、持続可能な観光に取り組む観光事業者が今後増えてくることも期待されています。(※参照:じゃらんリサーチセンター「「サステナブル」を軸にインバウンド旅行者の誘客促進につながる情報を整備」)
3 パソナグループ(2168)
パソナグループは、東京都港区に本社を置く人材・転職支援企業です。人材派遣・人材紹介・キャリア支援などの事業を行っているほか、外国人の就職やその後の各種支援を行うグローバルソーシングの事業を手掛けているのも特徴です。
パソナグループは、2015年9月の国連サミットで合意された「SDGs(持続可能な開発目標)」の達成を目標とし、事業活動を通してESGにも積極的に取り組んでいます。
3-1 障がい者雇用の促進
持続的な事業成長を実現するため、多様性を認め合いながら受け入れる「ダイバーシティ&インクルージョン」の取り組みを行っている企業が増加しており、年齢、性別、国籍、人種等において多様な人材が集まれば、新しい価値創造につながる可能性も高くなります。
パソナグループのグループ会社であるパソナハートフルでは、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みの一環として、障がい者雇用を促進し、障がい者が生き生きと働ける環境を整えています。(※参照:パソナハートル)
例えば、印刷業務、名刺管理業務、データ入力、資料作成等のオフィス業務を雇用した障がい者に任せているほか、オフィス業務の対応が難しい障がい者向けとして農業人材育成も行っています。
中でも、障がい者の雇用創出や自立支援を目的として取り組みを行っている「ゆめファーム」では、障がい者の人が農家のサポートのもとで、野菜・米・果物の栽培をしながら、農家のプロを目指すことが可能です。
3-2 環境保全への取り組み
環境汚染や気候変動など、持続的な地球環境の維持に対する社会的な課題解決のため、パソナグループは環境保全にも力をいれています。
例えば、パソナグループは、役員・従業員全体で温室効果ガスの削減に取り組んでいます。2014年には、温室効果ガス排出量を削減するため、社有車をガソリン車からハイブリッド車・電気自動車等のエコカーへの切り替えを推進し、2017年には、社員手帳をアプリ化したり、契約書や事務資料を電子化したりし、社内全体で使用する紙資源の削減を推進しました。社員手帳のアプリ化により、削減される紙資源は年間1万冊に相当するため、資源維持や環境保全への貢献に繋がっています。(※参照:パソナグループ「環境への取り組み」)
また、2020年より、自然体験を通じた環境保全活動を全国各地で行っています。約60名のメンバーを中心に「山と海くらぶ」という環境保全活動団体を結成し、これまでに花壇管理や草花の植え付け・海岸清掃、防災・安全保全林の育樹・植樹などの活動を行った実績があります。
4 パーソルホールディングス(2181)
パーソルホールディングスは、人材派遣・転職支援・人材紹介などのサービスを提供する人材・転職支援企業です。事業の中でテクノロジーと人が共存できるサービスを提供したり、自律的な働き方を促進したりするなど、先進的な要素も特徴的です。
パーソルホールディングスは、事業を通じてさまざまな社会的な課題を解決し、顧客・従業員・取引先・株主等のステークホルダーから必要とされる企業を目指しながら、ESG活動に取り組んでいます。
4-1 リスキリングやパラレルキャリア推進などの取り組み
ビジネス環境の変化が激しい中でも活躍できる人材を育てることが、企業の持続的な事業成長の実現に繋がるため、パーソルホールディングスは、中長期的な次世代経営人材を育成すること目的とした「未来志塾」「未来義塾」という管理職に対する選抜型の研修を行っています。(※参照:パーソルグループ「人的資本」)
この研修制度は、多様な価値観から正解を自由に選択するというテーマを題材にして行われており、受講者が自身の視点、視野、視座を超えた思考を養い、将来的に企業の経営を担うための能力を身につけることを目指しています。
リベラルアーツの学習によって、異なる分野の知識やスキルを統合し、問題解決や意思決定能力を高めることが期待されており、その結果、変化の激しいビジネス環境の中でも活躍できる次世代経営人材を育成できるのが特徴です。
このほか、企業の持続的な事業成長のためには、最新のテクノロジーに対応できる人材が必要になります。そこでパーソルホールディングスでは、スキルに見合った適切な報酬を提示したり、働きやすい職場環境を整えたりするほか、従業員のリスキリングによって人材確保を図っています。(※参照:パーソル総合研究所「リスキリング」)
リスキリングとは、新たな技術革新やビジネス環境の変化等にも対応できるビジネススキルを身につけることを言います。パーソルホールディングスは、重要な育成スキルを選別した上、従業員のキャリア設計を踏まえながら、効率的な育成プログラムを実施する形で従業員のテクノロジーの人材育成を行っています。
また、パーソルホールディングスは、「自分のはたらくは、自分で決める」という企業ビジョンのもと、従業員のキャリアオーナーシップを大切にしたり、自律的な働き方を促進したりしています。
従業員のキャリアオーナーシップ育成のためには、従業員自身が描いているキャリア実現に向けて主体的な行動を取ることができるように、非日常的な体験をできる半日ワークショップや地域の課題解決等のプログラムが組まれて実施されています。
さらに自律的な働き方を促進するため、パーソルホールディングスは、従業員に複数の本業を持つ複業(パラレルキャリア)を認めており、年間1000件以上の複業申請を承認しています。その他、フレックス制やテレワーク等を導入し、従業員が自身の都合に合わせて働ける環境も整備しています。(※参照:パーソルグループ「人的資本」)
4-2 寄付による社会貢献活動
世の中で困っている人に対する支援は、人々にとって豊かな社会の実現に繋がります。そのため、パーソルホールディングスはESGの取り組みとして従業員の笑顔の数に応じた金額を寄付する「Work and Smile for Donation」という寄付活動を実施しています。
グループ企業の各オフィスに設置された笑顔測定器が、計測した笑顔の数1回分につき10円が寄付の対象となっており、2020年10月から計16,447回分の笑顔の数が計測され、164,470円が公益社団法人日本ユネスコ協会連盟に寄付されています。この寄付金は、開発途上国の人に対して学びの機会を与えるための支援活動等に役立てられました。(※参照:パーソル「社会貢献活動」)
また、2022年度に行われた社会課題解決に向けたイベント出展のときにも、笑顔測定器を設置し、計測された笑顔の数に応じて、945,650円が寄付金に充てられました。同額の寄付金は、災害支援活動や若者の自立支援活動を行う団体等へ寄付されています。
まとめ
人材・転職支援企業は、就労者支援・雇用促進・人材育成等、主に事業内容に関連する様々なESG活動を行っています。中にはリクルートのように、持続可能な観光に関する共同研究を行い、サステナブルな観光が顧客促進につながることを証明したり、パソナグループのように、環境保全への取り組みを行ったりする形でESG活動を実践する企業もあります。
また、パーソルホールディングスのように寄付を通じて社会貢献活動を行う形で、ESG活動に取り組む人材・転職支援企業も見られます。人材・転職支援企業に関心のある方は、ご自身でもお調べになった上で、検討してみてください。
HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム
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