一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- Gold Standardとは
1-1.Gold Standardの概要
1-2.Gold Standard立ち上げの背景 - Gold Standardの特徴
2-1.環境NGOによるサポート
2-2.4つのスクリーニング
2-3.市場での流通状況 - Gold Standardの認証プログラム詳細
- まとめ
「Gold Standard(ゴールドスタンダード)」とは、スイスのジュネーブに本部を置く国際環境NGOのことで、世界中の温室効果ガスの削減につながるプロジェクトを認証することによって、カーボンオフセットに利用可能なクレジットの発行を行っている組織です。
Gold Standardは、現在世界で最も市場に流通している民間認証クレジットである「VCS(Verified Carbon Standard)」に続くクレジットシェア第二位を誇る認証基準となっており、カーボンクレジットマーケットの規模拡大に伴って、近年ますます大きな関心を集めています。
そこで今回は、民間カーボンクレジット「Gold Standard(ゴールドスタンダード)」について、その特徴や認証プログラムなどを詳しく解説していきます。
①Gold Standardとは
1-1.Gold Standardの概要
「Gold Standard」は、2003年に「WWF(世界自然保護基金)」を始めとする国際NGOにより設立されました。この基準は、「CDM(クリーン開発メカニズム)」や「JI(共同実施)」プロジェクトの高品質を保証するものとして知られています。
脱炭素社会を目指すサスティナブルな開発の推進に力を入れ、一定の基準を満たすプロジェクトのみを認証しています。信頼性の高いカーボンクレジットの発行のための明確な基準や測定ツールを提供しており、2030年までに1,000億ドル相当のクレジットの創出を目標に掲げています。さらに、カーボンマーケットのアクセスをより容易にする取り組みも進めており、企業のサステナビリティの促進を支援しています。
また、環境影響を正確に測定できるツールやプロジェクト開発に関する明確な基準を作成することによって、信頼性の高いカーボンクレジットの発行を実現しており、こうした取り組みを通して2030年までに1,000億ドル相当のクレジットを創出することを目指しています。
このほか、これまでは複雑で分かりにくいとされてきたカーボンマーケットへの参入障壁を取り除き、「環境市場(environmental markets)」、「企業のサステナビリティ(corporate sustainability)」、「気候変動と開発金融(climate + development finance)」という 3 つの戦略を柱として、企業の行動変容を促進することに尽力しています。
1-2.Gold Standard立ち上げの背景
Gold Standard立ち上げの背景には、「京都議定書」の存在があります。
京都議定書は、1997年に京都で開催された「国際連合気候変動枠組条約(UNFCCC)」の「第3回締約国会議(COP3)」で採択され、2005年に発効しました。この議定書には、先進国の温室効果ガス排出の削減目標が定められ、その一環として「CDM」が導入されました。CDMは、先進国が発展途上国の排出削減活動を支援し、その成果を共有する制度です。
しかし、CDMプロジェクトの中には、環境保全の効果が十分でないものもありました。そのため、これらのプロジェクトが真に環境への利益をもたらすことを確認するための認証基準として、Gold Standardが生まれました。この基準は、CDMだけでなく、JIにも適用可能で、その柔軟性から多くの関心を引きつけています。
②Gold Standardの特徴
2-1.環境NGOによるサポート
Gold StandardはWWFのイニシアチブで始まり、その認証基準は政府、企業、NGOとの協議を通じて策定されました。環境NGOからの強い支持を受けており、多くのNGOがこのスタンダードを支持しています。Gold Standardの基準は時代に合わせて定期的に更新され、多くの場面で採用されています。
2-2.4つのスクリーニング
Gold Standardの認証を受けるプロジェクトは、通常のCDM審査に加え、以下の4つのスクリーニングを通過する必要があります。
① プロジェクトの適格性
- エネルギーテクノロジーによる持続可能な発展の推進
- 追加性とサステナビリティ
- 環境NGOからの幅広いサポート
② 追加性およびベースライン
この審査は、プロジェクトが真に温暖化防止に寄与しているかを確認するものです。Gold Standardは、追加性がないプロジェクトがクレジットを得ないように、厳格な審査を行っています。
③ サスティナブルな開発への貢献
- 持続可能な開発マトリックスを使用した評価
- “Do no harm”評価の実施
- サステナビリティの監視計画の策定
④ ステークホルダーコンサルテーション
地域コミュニティや利害関係者の意見がプロジェクト設計に反映されているかを確認する審査です。
2-3.市場での流通状況
2018年のデータでは、市場で最も流通する民間認証クレジットはVCSで、シェアは66%です。Gold Standardは次いで20%のシェアを有しており、その厳格な基準にもかかわらず、高い信頼性と注目度を持っています。
③Gold Standardの認証プログラム詳細
1. コミュニティベースのエネルギー効率
Gold Standardは、持続可能な方法で気候変動問題に取り組むコミュニティベースのエネルギー効率プロジェクトを認証します。これには、産業、農業、輸送、技術革新などのエネルギー効率向上が含まれます。ただし、化石燃料を主とするプロジェクトは除外されます。
2. 土地利用活動と自然ベースのソリューション
温室効果ガス削減を目的とした土地利用や自然ベースの取り組みがGold Standardの評価基準になっています。特に森林関連のプロジェクトでは、環境や社会への影響を考慮し、新規の伐採は行われません。「REDD+」プロジェクトについては、カーボンクレジットの発行は行われない方針です。
3. 再生可能エネルギー
Gold Standardは、後発開発途上国や小島嶼開発途上国、紛争地域やエネルギー供給課題を持つ国々の送電網接続型再生可能エネルギーのプロジェクトに、特にサポートを行っています。
太陽光や風力のような再生可能エネルギーへの移行を加速するため、Gold Standardは力を入れています。しかし、一部の地域には、気候変化などの障壁が存在します。このような困難を持つ地域に焦点を当て、カーボンクレジットを発行し、温室効果ガス削減をサポートしています。
これまでの認証プロジェクトには、コスタリカのロスサントス風力発電所やトルコのユンダグ風力発電所、ルワンダのバイオマスエネルギー保全プロジェクトなどが含まれます。
4. 廃棄物管理
Gold Standardは、堆肥化、嫌気性消化、焼却などの革新的な廃棄物管理方法をサポートし、エネルギー自給を促進しています。固形廃棄物は環境のリスクではなく、エネルギー源としての潜在力があります。また、リサイクルや再利用は廃棄物量の削減や温室効果ガス排出の低減に寄与します。
埋め立て地、廃水処理施設、肥料管理などの廃棄物管理施設のサポートも積極的に行い、新たなエネルギー源の創出を推進しています。
認証済みのプロジェクト例として、中国の信陽市のガス回収プロジェクトやトルコのアダナの廃棄物管理プロジェクトがあります。
5. きれいな水へのアクセス
Gold Standardは、「The Water Benefit Standard」という水資源プロジェクトの評価基準を制定し、温室効果ガス削減を目指す枠組みを提供しています。
プロジェクト開発者はGold Standardの認証を受け、企業や政府からの資金集めに用いる「Water Benefit Certificates」を取得することができます。これらの証明書を販売することで、更なる資金調達も可能です。
Gold Standardの認証を受けることで、水資源へのアクセスに関わるリスクの管理が可能となり、その導入は世界中で進行中です。
④まとめ
Gold Standardは、国際的な環境NGOとしてカーボンクレジットを発行し、民間認証クレジット「VCS(Verified Carbon Standard)」に次ぐクレジットシェア第二位を誇ります。クレジットの質を重視するGold Standardは、他の認証基準と比べて厳格で、そのクレジットの信頼性が高いと言われています。Gold Standardが提供する多彩な認証プログラムを、この機会に深く知ることをおすすめします。
中島 翔
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