脱炭素化のカギを握る森林投資、成長を後押しする「林業テック」とは?

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世界的な脱炭素への取り組みを追い風に、「森林投資(Timberland Investment)」への関心が広範囲に高まっています。森林投資の促進はサステナビリティを加速させる一方で、森林の潜在的な価値を高め、林業の発展にもつながるなど、さまざまなメリットをもたらすと期待されている領域です。

本稿では森林投資が注目されている背景と、森林投資市場の成長を促進する上で欠かせない存在として期待が高まっている「林業テック(Forestry Tech)」についてレポートします。

※本記事は2023年6月15日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 森林投資とは?
  2. 森林投資が注目されている4つの理由
    2-1.脱炭素社会への移行
    2-2.「カーボンクレジットオフセット」制度の普及
    2-3.環境負担の少ない建築資材の需要拡大
    2-4.耐インフレ資産としての魅力
  3. 林業テックとは?
  4. 林業テック市場をリードするスタートアップ3社
    4-1.Zulu Forest Science
    4-2.Dendra Systems
    4-3.Collective Crunch
  5. 森林投資市場の成長と課題
  6. まとめ

1.森林投資とは?

森林投資とは、生産性の高い林業用の森林地や木材製品、関連技術・サービスを提供する企業などへの投資を行うことです。森林投資の方法は直接投資やETF(上場投資信託)、REIT(不動産投資信託)のほか、近年は「森林ファンド」や「森林カーボンクレジットファンド」など、ESG(環境・社会・ガバナンス)の要素を配慮した森林投資商品も多数販売されています。

森林投資では苗木の段階から育てた材木を売却し、利益を得るまでに10~15年を要します。そのため、長期保有に適した投資対象とされており、公的・私的年金基金などの長期的なスパンで資産を運用している、大規模な機関投資家にも活用されています。因みに、機関投資家による森林投資は1980年代に北米で始まり、世界各国に広がったとされています。

参考:Investopedia「Timberland Investment
参考:National Library of Medicine「Research trends:Forest investments as a financial asset class

2.「森林投資」が注目されている4つの理由

近年、森林投資への関心が広範囲に渡り高まっているのには、以下の4つの理由が挙げられます。

2-1.脱炭素社会への移行

森林は二酸化炭素の吸収や水源のかん養、生物多様性の保全など、脱炭素で重要な役割を果たしており、世界各地で企業に森林整備及び再生への貢献を促す動きが活発化しています。日本においても、森林整備活動を通して脱炭素社会の実現に貢献している企業や団体を顕彰する「森林×脱炭素チャレンジ」を林野庁が主宰し、アサヒビールが2022年のグランプリに輝きました。

参考:アサヒビール・グループホールディングス「『森林×脱炭素チャレンジ』でグランプリ『農林水産大臣賞』受賞」

2-2.「カーボンクレジットオフセット制度」の普及

カーボンクレジットを利用した「森林カーボンクレジットオフセット制度」も注目されています。カーボンクレジットとは、温室効果ガスの排出量をクレジットとして企業などの間で売買する仕組みを指します。

販売側は森林の炭素吸収量をクレジットとして販売することにより利益を得、購入側は自社の事業が排出する温室効果ガスの量を相殺することができます。

参考:NORDSIP「Carbon-focused investment is poised for significant growth

2-3.環境負担の少ない建築資材の需要拡大

近年、コンクリートや鉄鋼といった環境負担の大きい建築資材に代わり、材木が再び注目されていることも追い風となっています。

「木材の使用→森林伐採→環境負担が大きい」というイメージがあるかもしれません。しかし、木材そのものは無毒性でCO2(二酸化炭素)の貯蔵や排出抑制効果があり、地球温暖化の防止に有効とされています。

参考:International Timber「How Can Timber Be Used To Reduce Environmental Impact Of A New Building?

2-4.耐インフレ資産としての魅力

世界的な不況リスクが高まっている現在、森林投資はインフレ環境下においても長期的に安定したリターンを期待できる実物資産として魅力です。

JPモルガン・チェースが1991~2021年のパフォーマンスを分析したところ、森林投資の年率リターンは8.9%と米国REIT(7.9%)や米国債券(5.7%)、国際コモディティ(0.4%)を上回っています。一方で、標準偏差(*過去の最高リターンと最低リターンの幅)は6.9%と米国REIT(18.9%)や米国株式(15.7%)、国際コモディティ(23.7%)より遙かに低かったことが明らかになっています。

参考:JPモルガン・チェース「Timber investment:The new branch of real assets

3.林業テックとは?

市場の成長とともに、注目が高まっている領域が林業テックです。

近年、欧米を中心に、さまざまな手段を用いて林業にイノベーションを起こす動きが活発化しています。そのようなトレンドの1つである林業テックは、人工知能(AI)やリモートセンシング技術、ドローンなどを活用したデータ駆動型のアプローチで、森林の管理や再生プロジェクト、製材商品の取引などの効率化を図るための新興技術です。

森林や泥炭地の再生を介して地球と社会に貢献すると同時に、効率的かつ低コストな森林管理を実現させ、投資家により魅力的なリターンの機会を提供することを目標としています。

4.市場をリードする林業テック・スタートアップ3社

以下、林業市場のデジタル化を目指すスタートアップ3社を見てみましょう。

4-1.森林再生&カーボンクレジット・プラットフォーム「Zulu Forest Science」

英国のZulu Forest Science(ズールー・フォレスト・サイエンス)は、持続可能な森林投資を促進する上で重要な要素の1つであるカーボンクレジットから利益を創出する機会を提供しています。

高度な科学と高解像度の衛星画像、リモートセンシング技術、土地分析を融合させた同社のプラットフォームは、森林地・泥沼地の潜在的な自然資本価値や適合性をわずか数分で評価し、最適な森林再生プロジェクト計画を設計します。

これにより、林業業者や企業、投資家は、敷地条件からリスクモデル、炭素吸収量、種の選択、再生プロジェクトのコストや資金調達要件、カーボンクレジットによる利益まで、多様なシミュレーションに基づいて意思決定を行うことが出来ます。

参考:Zulu Forest Science HP「Zulu Forest Science

4-2.AI・データ駆動型植林ドローン「Dendra Systems」

英国のDendra Systems(デンドラ・システムズ/旧BioCarbon Engineering )は、高度なデータサイエンスや機械学習技術、ドローンを活用し、多様性のある生態系を大規模に復元するという使命を掲げています。

同社のシステムは、機械学習アルゴリズムが処理・生成した高精度な植栽パターンに基づき、自動播種(種まき)用ドローンで生分解性のポッドで覆われた地面に種子を直接発射するというものです。このドローンは1日最大60ヘクタールの種まきと700キログラム相当の物質を運ぶこと可能で、従来の森林再生方法より11倍速く、コストを3分の1に抑えられます。

また、同社の管理プラットフォームは高精度なインサイト(土壌侵食リスクの測定、植物の健康状態など)を介して、再生プロジェクトの効率と透明性を高めるように設計されています。

参考:Dendra Systems HP「Dendra Systems
参考:世界経済フォーラム「BioCarbon Engineering

4-3.リアルタイムな森林資源管理プラットフォーム「Collective Crunch」

国土の75%以上が森林で覆われたフィンランドは、早くから積極的に森林再生に取り組んできた国の1つです。同国においては過去50年間にわたり、胸高直径が一定以上の生木(成長中の木)が増加しており、近年は森林の成長率が年間伐採量を30%上回っています。

それとともに、国内の林業の生産量と材木の使用量も大幅に増加しており、将来の発展に向けてより効率的で持続可能な森林管理が課題となっています。

ヘルシンキを拠点とするCollective Crunch(コレクティブ・クランチ)は対応策として、AIやリモートセンシング技術(衛星画像、LiDARなど)を活用し、地理データや気象データを収集・解析し、森林資源の質や量などを精緻に、かつ予測するプラットフォームを提供しています。データセットはほぼリアルタイムで更新されるため、常に最新の予測を得ることが可能です。

参考:Collective Crunch HP「Collective Crunch
参考:Metsateollisuus「Facts about Finnish Forest

5.森林投資市場の成長と課題

Global Impact Investment Network(国際インパクト投資ネットワーク)の『2020年インパクト投資家年次調査』によると、インパクト投資としての森林・林業セクターへの資金流入はエネルギーと金融に次いで3番目に多く、224億400万ドル(約3兆586億円)に達していました。

参考:The GIN「2020 Annual Inpact Investor Survey

森林投資が活発化する一方で、問題点も指摘されています。

その1つが、脱炭素化や人口の増加、経済成長、特に新興国における都市化などを背景とする、材木需要の急増です。米市場調査企業Research And Markets(リサーチ・アンド・マーケット)は、世界の木材・木材製品の市場規模は2021年からCAGR(年平均成長率)6.11%のペースで成長を続け、2027年までに8,440億ドル(約115兆270億円)に達する見込みです。

また、世界銀行は2050年までに世界の木材の消費量が4倍に急増すると予測しており、発展途上国における違法伐採が大幅に増加する可能性が懸念されています。

参考:Investment Monitor「Net zero could drive up the global demand for timber, putting at risk the world’s forest

6.まとめ

持続可能な森林投資は、脱炭素社会の実現や長期的な経済発展、地域社会の活性化など、さまざまな機会をもたらすと期待されています。その一方で、発展に向けた課題にどのように対応していくかが、持続可能な森林投資の未来に大きく影響することが予想されます。

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アレン琴子

英メディアや国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、マネーライターに転身。英国を基盤に、複数の金融メディアにて執筆活動中。国際経済・金融、FinTech、オルタナティブ投資、ビジネス、行動経済学、ESG/サステナビリティなど、多様な分野において情報のアンテナを張っている。