金融市場の動向が仮想通貨市場に影響を及ぼすのか?【仮想通貨取引所の元トレーダーが解説】

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今回は、現代の金融市場と仮想通貨市場の関係について、大手暗号資産取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では暗号資産コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. 株式市場と仮想通貨市場の相関関係
    1-1.株式市場とビットコイン価格の相関
    1-2.リスクアセットとしてみなされる仮想通貨
  2. 変化しつつある仮想通貨市場のプレイヤー
    2-1.機関投資家による仮想通貨投資の増加
    2-2.さらに広がりそうな機関投資家の仮想通貨市場への進出
    2-3.今後の仮想通貨市場の動向に対する考え方について
  3. まとめ

仮想通貨(暗号資産)市場が成熟するにつれて市場に参加するプレイヤーの顔ぶれも徐々に変化しています。以前は仮想通貨市場の参加者は専門的なファンドや個人投資家に限られていましたが、ここ数年で機関投資家の参加が増えています。

実際に2018年以降は株式市場との相関関係が強くなり、以前はリスク回避資産として見られていた側面の強いビットコインもリスクアセットとして株式と同じような動き方をするようになっています。そこで今回は現代の金融市場が仮想通貨市場に影響する背景と、それを踏まえた考え方について解説します。

①株式市場と仮想通貨市場の相関関係

まずは株式市場と仮想通貨市場の相関関係について解説します。

1-1. 株式市場とビットコイン価格の相関

始めにビットコインと株式市場の関連性について整理したいと思います。ビットコインと株式市場は足元では、近年は順相関となってきています。下図はビットコイン(右軸:青)とNYダウ(左軸:赤)のチャートです。
Finance crypto

2018年のビットコイン・バブルの崩壊以降、株式市場とビットコインのトレンドが同じ方向を向いていることが見て取れます。特に2020年以降は株式市場とビットコインの順相関のその傾向が強まっているといえます。

この2つの市場の相関性を考える上で考慮すべきポイントとしては、仮想通貨の資産区分が変化しつつあるという点とその背景として仮想通貨市場のプレーヤーの変化があるように思います。

1-2. リスクアセットとしてみなされる仮想通貨

以前はビットコインを「リスク回避資産」とみる声も多くありましたが、現在は株式市場と順相関となっているため「リスクアセット」と見るべきかもしれません。

リスク回避資産とは金(ゴールド)に代表される発行元の破綻などの危険性がない資産や、国債などの相対的に破綻するリスクの少ない資産のことを言います。ビットコインは金と同じように発行量の上限が決まっているため、年月が経過するに連れて希少性が高まります。この性質がビットコインを「リスク回避資産」とする根拠の一つとなっています。さらにビットコインは4年毎にマイニング報酬の半減期を迎えるため、需給バランスが引き締まり価格が上がりやすくなると考えられています。

しかし、株式市場との順相関の傾向が強まっているということは市場参加者のビットコインに対する捉え方としてリスクアセットとして認識されていると考えるのが自然でしょう。つまり、ビットコインはリスクオン時に変われリスクオフ時に売られるリスクアセットとして取り扱われていると言えそうです。

また、2021年6月10日には金融機関の国際規制機関であるバーゼル銀行監督委員会によりビットコインが最もリスクが高い資産に分類する案が出されたことなどから考えても、リスクアセットとして捉える必要があるでしょう。

②変化しつつある仮想通貨市場のプレイヤー

次にビットコインがリスクアセットとして取り扱われつつある背景の一つとして考えられる仮想通貨市場のプレーヤーの変化について解説します。

2-1. 機関投資家による仮想通貨投資の増加

ここ2、3年で仮想通貨市場に参加するプレイヤーの顔ぶれに変化が起こっています。今までは機関投資家と呼ばれる大手金融機関やヘッジファンドなどは仮想通貨投資を積極的に行なっていませんでしたが、ここ数年で特にヘッジファンドを中心に仮想通貨投資にも参加するプレイヤーが増えてきたようです。

世界的な会計事務所であるPwCの調査レポート「PwC Annual Global Crypto Hedge Funds Report 2021」によると、回答を寄せた ヘッジファンドのうち92%がビットコインの取引をしているとのことです。また、1日の仮想通貨の取引量の半分以上をビットコインが占めると回答したのは56%、そのうち15%はビットコイン取引に限定したファンドであるとされています。

【関連記事】:世界のヘッジファンドの仮想通貨投資の現状【今後の運用資産の見通し・伝統的ファンドの見解まで網羅】

また、ファンド管理サービスを提供するIntertrust(インタートラスト)によると、ヘッジファンドは5年以内に資産の7.2%を仮想通貨で保有するようになるだろうとされています。
Intertrustの推計によると、7.2%という数値はヘッジファンド全体で約3120億ドル(約34兆4000億円)に相当するとの事です。調査対象となったファンドは、平均72億ドルの資産を管理し、回答のうち17%は、2026年には運用資産の10%以上を仮想通貨に割り当てるようになると考えているとの回答でした。また、北米のファンドに関しては、資産の10.6%を仮想通貨に配分し、イギリスやヨーロッパのファンドに関しては資産の6.8%を仮想通貨に配分するとしています。

今回のレポートでは、仮想通貨投資に特化していない「伝統的な」ヘッジファンドについての調査結果もまとめていますが、既にこれらのヘッジファンドの21%が総資産の平均3%を仮想通貨に投資しているようです。そしてその85%以上が2021年末までにさらに資金を投入する意向を示しています。

2-2. さらに広がりそうな機関投資家の仮想通貨市場への進出

現段階ではヘッジファンドを中心とした機関投資家の仮想通貨市場への進出が目立つようになってきていますが、今後は保守的なヘッジファンドや銀行などの仮想通貨市場への進出が進むことも十分に考えられます。

理由としては仮想通貨取引所と銀行などの提携が進んでいたり、仮想通貨決済を取り入れる大手企業などが増えるにつれて、仮想通貨に対する実需が増えていった場合に銀行としても仮想通貨を売買する必要性が高くなってくることも考えられるからです。

また GameFiやNFTなどのエコシステムが拡大するに伴い、これまでは主に投資対象であった仮想通貨に為替のような実需が発生することも考えられます。

さらに今年の10月にニューヨーク証券取引所にビットコインの先物ETFが誕生したように、今後、ビットコインの現物ETFが誕生した際には保守的な機関投資家の仮想通貨市場への進出傾向がますます促進されると言えるでしょう。

2-3. 今後の仮想通貨市場の動向に対する考え方について

今後の仮想通貨市場の動向を考える上で重要な点は、ビットコインを「リスク回避資産」と捉えずに、「リスクアセット」として捉えて金融政策に対する反応などを考慮することです。テーパリングの終了や政策金利の引き上げなど金融政策が引き締めの方向に動いている時は、リスクアセットからは資金が流出しやすく、資金が流出しているアセットの価格は下がりやすくなります。

現時点でアメリカは2022年に3回の政策金利の引き上げを予定しており、早くて来年春ごろからそれが始まる見通しとなっています。まだ確定したわけではありませんが、アメリカが政策金利をいつから引き上げるのかという点について株式市場や仮想通貨市場に与える影響も大きく、トレーダーとしては非常に注意が必要な情報となります。

③まとめ

2022年に控えているアメリカの政策金利の引き上げは、仮想通貨市場にとっては逆風となる可能性も高いですが、長期的に見れば絶好の買い場となる可能性もあります。いずれにしても未来の事はまだ誰にも分かりませんが、株式市場との相関関係を考えた上でトレードをすることが今年以上に大切となってきそうです。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12