今回は、カーボンマーケット「ClimateTrade」について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- Climatetrade(クライメートトレード)とは
1-1.Climatetrade(クライメートトレード)の概要
1-2.大規模な資金調達 - カーボンオフセットに特化したマーケットプレイス
2-1.マーケットプレイスの概要
2-2.カーボンマーケット「ClimateTrade」が解決する課題 - カーボンマーケット「ClimateTrade」の特徴
3-1.二種類のマーケットに対応している
3-2.ブロックチェーンの特性を最大限に活用している
3-3.ニーズに合った実証済みのプロジェクトのみを提供している
3-4.カテゴライズによってニーズに合ったプロジェクトを選別できる
3-5.利用方法がシンプルで分かりやすい - APIの提供徴
4-1.ClimateTradeが提供するAPIの概要
4-2.APIの利用手順
4-3.APIのユースケース - まとめ
近年、世界において気候変動問題が大きく取り上げられている中、CO2などの温室効果ガスの削減効果(削減量や吸収量)を「カーボンクレジット(排出権)」として発行することで、他の企業や個人などとの間で取引できるようにする仕組みが拡がっています。
そんな中、「Climatetrade(クライメートトレード)」はブロックチェーン技術を駆使することによって、より安全で効率の良いカーボンマーケットを展開しており、世界中の企業から大きな注目を集めています。
そこで今回は、カーボンマーケット「ClimateTrade」の取り組みについて、その概要や特徴などを詳しく解説していきます。
①Climatetrade(クライメートトレード)とは
1-1.Climatetrade(クライメートトレード)の概要
「Climatetrade(クライメートトレード)」とは、17年に設立された、スペインに拠点を構える気候変動マーケットプレイスのスタートアップ企業のことを指します。
ClimateTradeは「気候ソリューションのパイオニア」として、継続したイノベーションを通した大規模な脱炭素化を推進することを目指しており、気候変動に取り組む方法を探している個人や企業に画期的なソリューションを提供することで、気候変動対策に対して積極的なアプローチを行っています。
具体的には、トークン化されたカーボンクレジットの取引を行うマーケットプレイスを展開しており、それぞれの自治体などが発足させた森林プロジェクトなどから、直接的に炭素やプラスチックなどのオフセットと再生可能エネルギー使用証明書を購入することが可能なブロックチェーンベースのマーケットを構築しています。
ClimateTradeは23年2月現在までにシリーズAラウンドの資金調達を実施しており、調達総額はおよそ900万ユーロ(およそ13億円弱)と、かなり大規模になっています。このほか、22年7月には事業範囲の拡大に伴って本社をフロリダ州マイアミへと移転し、現在はアメリカ、スペイン、イギリス、韓国においてグローバルな事業展開を行っています。
1-2.大規模な資金調達
ClimateTradeのシリーズAラウンドでは超過応募となり、90を超える投資ファンドから関心が示されるなど、注目度の高さを伺わせました。
また、21年後半に実施された欧州でのプレシリーズAでは、700万ユーロの資金調達を完了しました。この700万ユーロは、スペインの投資会社の「GED」、アメリカの電力技術・ファンドの「ClearSky」、ブロックチェーン投資家の「Borderless Capital」および「Algorand」、スイスの金融インフラ企業「SIX Group」のVC部門である「SIXフィンテック・ベンチャーズ」、スペインの「Telefónica」、日本の「オムロンベンチャーズ」の投資部門、気候VCの「Amasia」、決済サービスのユニコーン企業「フライワイヤ」の創業者のIker Macaideが支援するバレンシアのインパクトファンド「Zubi Capital」から調達されたということです。
このような資金調達状況からも分かるように、ClimateTradeは業界から大きな注目を集めており、その取り組みやプロジェクトに対しての関心がますます高まっています。
②カーボンオフセットに特化したマーケットプレイス
2-1.マーケットプレイスの概要
ClimateTradeが展開しているカーボンオフセットに特化したマーケットプレイスでは、トークン化されたカーボンクレジットの取引を自由に行うことが可能です。
具体的には、企業や個人が、それぞれの森林プロジェクトなどの開発者から直接炭素やプラスチック、生物多様性のオフセットを購入することによって、気候変動に対して直接的なアプローチを行うことができる仕組みとなっています。企業はClimateTradeを用いることによって、自社の環境資本をどこに投資するかを完全にコントロールできるだけでなく、ブロックチェーン技術を駆使したシンプルなシステムによって、より安心で分かりやすい環境でのカーボンオフセットが可能となります。ClimateTradeではすべての品質保証基準を満たす実証済みのプロジェクトのみを提供しています。運営チームがそれらすべてのプロジェクトのレビューを行っているため、安全がしっかりと担保されていることもメリットの一つとなっています。
このように、ClimateTradeはカーボンオフセットに関するより分かりやすい仕組みを構築および提供することによって、脱炭素目標の達成に貢献しています。
2-2.カーボンマーケット「ClimateTrade」が解決する課題
近年、気候変動問題などの観点から、世界中で「サステナビリティ(持続可能性)」への取り組みが活発化しています。
中でも、特にサステナビリティの代表的分野として知られる「脱炭素」においては、CO2をはじめとする温室効果ガスの削減効果(削減量や吸収量)を「カーボンクレジット(排出権)」として発行することで、他の企業や個人などとの間で取引できるようにする仕組みがますます拡がりを見せています。
しかしその一方で、カーボンクレジット市場の課題についてもさまざまな議論が繰り広げられています。現在のカーボンクレジット市場では、特に民間機関が管理しているものを「ボランタリークレジット」と呼び、より高品質なクレジット、つまり信頼性のある計画や方法論によって裏付けされたクレジットを流通させることを目的として、海外では独立機関によるクレジットの測定や認証基準などで認証されたボランタリークレジットの発行および取引が行われています。
このようなボランタリークレジット市場は2030年を目処として、2020年比でおよそ15倍を超える市場規模に成長する必要性があると言われています。その一方で市場の流動性やトレーサビリティの低さや、市場自体が閉鎖的であること、また炭素クレジットの多重カウントや詐欺などといったさまざまな問題を抱えています。
そこで、ClimateTradeではブロックチェーン技術を駆使することによって、より透明性が高く安全性が担保された良質なクレジットの取引を可能にします。加えて、偽造や改ざんが極めて難しいというブロックチェーンの特性を利用して、炭素クレジットの多重カウントや詐欺などの問題解決に取り組んでいます。
③カーボンマーケット「ClimateTrade」の特徴
3-1.二種類のマーケットに対応している
現在、カーボンクレジットの取引を行えるマーケットは大きく分けて二種類存在します。
一つは、国や地域、国際的に炭素削減体制が整備され、規制されているGHG(温室効果ガス)排出削減要件の遵守を目的とした「コンプライアンスマーケット」、そしてもう一つは、企業や個人が自発的にカーボンオフセットを購入することができる「ボランタリーマーケット」となっています。
一般的に、多くのカーボンマーケットはボランタリーマーケットを取り扱っていますが、ClimateTradeは「EU排出量取引スキーム(EU ETS)」で交換することが可能なため、両方のマーケットを取り扱うことができる貴重な存在となっています。つまり、ClimateTradeを駆使することによって、脱炭素化戦略を策定した企業が世界中のプロジェクトとつながるだけでなく、発電所や製造現場、航空会社といった深刻な汚染原因となっている企業がオフセットを購入することで、脱炭素目標の達成に大きく貢献できるというわけです。
3-2.ブロックチェーンの特性を最大限に活用している
カーボンマーケットがさらなる普及を遂げるには、そのクレジットの発行元や取引における透明性の確保が重要だと言われています。
そんな中、ClimateTradeは偽造や改ざんが極めて難しいという特性を持つブロックチェーン技術を活用することによって、高い透明性とトレーサビリティを提供しつつ、高速且つ効率的なトランザクションを実現しています。
3-3.ニーズに合った実証済みのプロジェクトのみを提供している
ClimateTradeではすべての品質保証基準を満たす実証済みのプロジェクトのみを提供しており、運営チームがそれらすべてのプロジェクトのレビューを行っているため、ユーザーは安全がしっかりと担保された環境でプロジェクトを選択することが可能です。
3-4.カテゴライズによってニーズに合ったプロジェクトを選別できる
ClimateTradeでは各プロジェクトをさまざまな側面からカテゴライズしているため、ユーザーは自身のニーズによりマッチしたプロジェクトを見極めることが可能です。
具体的には、プロジェクトの種類や実施されている国、実施期間、価格、ストック、可用性、プロジェクト名、SDGsの観点、特徴、タイプ、影響などによって細かい分類がなされているため、これらの項目を設定することによって、自身の求める条件により近いプロジェクトを絞り込むことができるようになっています。
3-5.利用方法がシンプルで分かりやすい
ClimateTradeはその使用方法がかなりシンプルになっているため、誰もが簡単に利用することが可能です。
具体的には、まずプラットフォームに登録し、ログイン作業を行います。
すると、上の画像のようにさまざまなプロジェクトの一覧が表示されるため、左側のフィルタリング機能を利用しながら、自社の目的と地域に最適なプロジェクトを選択します。そして、条件にあったプロジェクトのカーボンクレジットを購入すると、その投資プロセスを透明性の高い状態で記録するために、証明書が送信される仕組みとなっています。
このように、企業はClimateTradeを利用することによって、より簡単且つ安全に、効率よくカーボンクレジットを購入することが可能になるというわけです。
④APIの提供
4-1.ClimateTradeが提供するAPIの概要
ClimateTradeは環境に対する配慮は企業だけのものではなく、クライアントも同様であると語っており、誰もがカーボンオフセットに関するサービスをシンプル且つ分かりやすい方法で提供することができるAPIを開発しました。ClimateTradeのAPIでは、ユーザーの購買プロセスにおいて、その製品またはサービスによって生み出された正確な二酸化炭素排出量を計算することが可能となっています。
そして、ユーザーはカーボンフットプリントのコストを取得することで、それを相殺するためのプロジェクトを選択することができ、条件にあったプロジェクトのカーボンクレジットを購入すると、その投資プロセスを透明性の高い状態で記録するために、証明書が送信される仕組みとなっています。
このように、ClimateTradeのAPIを介して、ClimateTradeのカーボンマーケットが提供する利便性の高いシステムを各外部サービスと連携することによって、カーボンオフセットの取り組みをますます拡大しています。
4-2.APIの利用手順
ClimateTradeが提供しているAPIの利用手順は、下記の通りです。
①登録
まず、ClimateTradeのウェブサイトにおいてアカウントを作成し、無料の「ソリューションカタログ」にアクセスします。
②パーソナライズ
次に、自身のニーズにマッチしたソリューションを選択し、統合をセットアップして、パーソナライズを実行します。
③応用
ClimateTradeが提供するソリューションは非常に簡単且つ迅速な開発が可能となっているため、APIを利用することでカーボンニュートラルな製品とサービスをシームレスに提供できるようになります。
4-3.APIのユースケース
ClimateTradeが提供しているAPIには、下記のようなユースケースが想定されています。
①航空会社
ClimateTradeでは、フライトの二酸化炭素排出量を自動計算できるだけでなく、APIを介して航空会社のウェブサイトから排出量を直接相殺することも可能となっています。
具体的には、クライアントがフライトによって生成された二酸化炭素排出量のデータを取得し、それを航空会社のウェブサイト上においてそのまま気候変動の緩和を目指すプロジェクトと相殺することができるというわけです。クライアントはクレジットの購入後に、自身がサポートしたプロジェクトの詳細が記載された証明書を受け取ることも可能となっています。
②ホテル・観光
サスティナブルな観光をサポートするために、ClimateTradeでは旅行代理店やホテルといった観光事業者向けにいくつかのカーボンオフセットソリューションを提供しています。
具体的には、ClimateTrade APIを宿泊施設や目的地のウェブサイトに統合することによって、クライアントの休日における二酸化炭素排出量を見える化し、相殺することが可能です。ソリューションを提供する事業者のタイプに応じてさまざまなツールを用意されており、二酸化炭素による影響を自動的且つ正確に評価することができるようになっています。
このほか、ClimateTrade APIを利用することで、観光事業者も自社が積極的に気候変動対策に取り組んでいると主張することができるため、お互いにウィンウィンの関係が築けるというわけです。
③モビリティ
ClimateTradeは、モビリティのウェブサイトやアプリに直接統合できる二酸化炭素排出量計算ツールの開発に成功しており、特定の自動車に関する排出量を計算した後、ClimateTradeのAPIを使用することによって、プロバイダーはカーボンフットプリントを自身で相殺するか選択することができるということです。
⑤まとめ
ClimateTradeはブロックチェーン技術を駆使することによって、これまで複雑で分かりにくかったカーボンマーケットをよりシンプル且つ利用しやすいものへと進化させているほか、課題とされていたプロジェクトの透明性確保やクレジットの二重カウントについても克服することに成功しています。また、ClimateTrade APIを提供することによって、さまざまな分野のプロジェクトが脱炭素に取り組むことができる環境を構築しています。
このように、ClimateTradeはカーボンニュートラルに向けた画期的なサービスを展開しており、そのプロジェクト数は今後も増加していくとみられているため、引き続きその動向に注目していきたいと思います。
中島 翔
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