今回は、アントグループのブロックチェーン事業について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- アントグループとは
1-1.アントグループの概要
1-2.アントグループの事業内容 - アントグループとブロックチェーン
2-1.ブロックチェーン部門であるアントチェーン
2-2.主なブロックチェーンプロジェクト - 高所作業車のリース事業の概要
3-1.高所作業車のリース事業展開の背景
3-2.高所作業車の稼働データの管理
3-3.稼働データに基づいた保険料の算出 - まとめ
中国を拠点とするアントグループ(螞蟻集団、Ant Group)は、中国のアリババグループ(阿里巴巴集団)の金融関連会社です。アントグループはブロックチェーン特許に関する指標で世界トップであり、同社のブロックチェーン部門であるアントチェーン(螞蟻鏈)では、ブロックチェーンを駆使したさまざまなソリューションを展開して注目を集めています。
そこで今回は、中国のアントグループの概要、及びブロックチェーン事業、さらには作業車のリース事業にブロックチェーンを利用する事例について、詳しく解説していきます。
①アントグループとは
1-1.アントグループの概要
アントグループとは、中国を代表する世界的なテクノロジー企業として知られるアリババグループのEコマース部門より、その決済機能のセクターを分離する形で独立した企業です。アントグループは「あらゆるビジネスの可能性を広げる力になる」というミッションを掲げ、世界最大のモバイルおよびオンライン決済プラットフォームであるアリペイ(Alipay、支付宝)や、世界最大のMMF(マネー・マーケット・ファンド)である余額宝(ユエバオ)など、数々の巨大プロジェクトを運営しています。
アントグループは世界各地におけるウォレットパートナーと提携しており、便利なクロスボーダー決済およびデジタルマーケティングツールを通して、アジアのおよそ10億人にも上るモバイル決済ユーザーによるインバウンド消費を促進。同時に、世界中のマーチャントをサポートしています。
このように、アントグループは時代の変化に即した利便性の高い製品やテクノロジーを継続的に提供し続けることによって、企業のさらなるデジタル化をサポートすることに尽力しています。
1-2.アントグループの事業内容
電子決済
アントグループでは、電子決済テクノロジーとアプリケーションシナリオの革新に注力しています。
具体的には、パソコンやスマートフォン、IoTデバイスなどに基づき、マーチャントにスピード決済やバーコード決済、顔認証決済、QRコード決済といった多岐にわたる電子決済テクノロジーを提供し、事業経営や生活サービス、交通手段などをはじめとするさまざまなシーンにおけるニーズに対応してます。
デジタルネットワーク
アントグループでは、デジタル製品やインターフェース技術、プラットフォームリソースなどによってマーチャントや企業のデジタル化を促進し、実体経済のコスト削減と効率向上実現のためのサポートを行っています。
実際、アリペイはおよそ11,000社を超えるプロバ イダーに製品およびサービス・インターフェースを提供しており、それらのプロバイダー企業と共に、マーチャントに対して、経営支援デジタルツールによる効率的な経営サポートを行っています。
デジタルファイナンス
アントグループでは技術革新を通して、中国全土における約2,000以上の金融機関にサービスを提供しており、金融機関がマイクロクレジットや消費者金融、資産運用、保険などと言った金融サービスを消費者や中小企業により便利に提供できるようサポートを行っています。
さらには、螞蟻保(AntInsurance)、や螞蟻財富(AntFortune)、BNPLサービス(後払い式決済手段)である花唄(huabei)や、ローンサービスの借唄(Jiebei)など、さまざまな金融サービスを提供しています。
デジタルテクノロジー
アントグループではデジタルテクノロジーの革新と応用に注力し、ブロックチェーンやプライバシー保護、セキュリティー技術や分散データベースといった分野で、アントチェーン(螞蟻鏈)やOceanBase、SOFAStack、mPaaSなどの主要な技術製品の研究開発を行っています。さらには、自社のプロダクトおよびサービスを業界と社会に向けて全面的に開放し、各機構との積極的な協業を進めることによって、中小金融機関のデジタル化やサービス産業中小企業のデジタル経営、産業地域におけるデジタル・コラボレーションを促進しています。
このように、アントグループでは企業全体を通して世界中のマーチャントが一度にさまざまな種類のデジタル決済を利用できるようにすることで、世界中の消費者とのつながりを確立できるようにサポートしています。
We’re excited to share @Fidelity will launch its first mutual fund in China and enhance digital operations via our Ant Fortune platform on April 3. Ant Fortune has made its platform and technologies available to asset management companies since 2017. #investment #openplatform pic.twitter.com/6aNvXpAPU7
— Alipay (@Alipay) March 3, 2023
また、同時に世界中のテクノロジー企業や金融機関、またマーチャントなどとの提携を進め、現地の規制に準拠したビジネスを展開することで、デジタル決済やデジタルマーケティング、貿易金融、デジタルバンキングなどの分野において世界に大きな革新をもたらしています。
②アントグループとブロックチェーン
2-1.ブロックチェーン部門であるアントチェーン
アントグループには、ブロックチェーン事業に特化したアントチェーンと呼ばれる部門が存在します。このアントチェーンではブロックチェーン技術を駆使したさまざまなソリューションを展開しており、一般的に最も広く知られているNFT(非代替性トークン)とひも付けられたデジタルアート(NFTアート)をはじめ、不正や改ざんが極めて難しく、取引の透明性の高いというブロックチェーンの特性を最大限に生かした商用向けのソリューションを多く手がけています。
Blockchain tech has significant potential for applications beyond #cryptocurrency, in areas such as payments, finance and security. incoPat and IPRdaily's latest global #blockchain patent list show 8,412 patents were applied in 2019 with @AlibabaGroup/@Alipay leading in China. pic.twitter.com/BVUSxPKAQ6
— Ant Group (@AntGroup) April 24, 2020
特許検索・分析ツールを手がけるシンガポールのパットスナップ(PatSnap)が発表したデータによると、21年10月時点においておよそ50の国・地域の7,800社近くがブロックチェーン関連特許を出願しており、国・地域別で見ると中国が約3万3千件の出願で第一位となっており、全体のおよそ63%を占める結果となりました。
中でもアントグループは約7千件の出願でトップに立っていることが報告されています。このように、アントグループはブロックチェーン関連事業が特に盛んな中国においても、圧倒的な存在感を誇っています。
2-2.主なブロックチェーンプロジェクト
ここでは、アントチェーンが展開している主なブロックチェーンプロジェクトについて、紹介していきます。
国際貿易・国際金融サービスプラットフォーム「トラスプル(Trusple)」
アントグループは20年9月25日に、アントチェーンを駆使した国際貿易・金融サービスプラットフォームである「トラスプル(Trusple)」を発表しています。
Ant Group Unveils Blockchain-Enabled Trading Platform for SMEs https://t.co/tU9PvY7i3C @antgroup #fintech #blockchain #China #trading #SMEs pic.twitter.com/FN9maQDhaP
— FintechNews HongKong (@FintechNewsHK) September 29, 2020
「信頼関係の構築をシンプルに(Trust Made Simple)」というコンセプトを掲げるトラスプルでは、買い手と売り手がそれぞれ取引注文をプラットフォーム上にアップロードすると、スマートコントラクトが生成される仕組みとなってます。このスマートコントラクトによって発注や物流、免税オプションなどの主要な情報が自動的にアップデートされます。銀行は買い手と売り手の口座を介して自動的に決済処理を実行します。
こうした自動化されたプロセスによって、取引注文の追跡や確認のための作業を効率化できるだけでなく、情報の改ざんや不正を確実に防止することも可能となります。このほかにも、トラスプル上において取引を完了させることによって、中小企業はアントチェーン上で信用を構築することができ、金融機関からの金融サービスをより受けやすくなるというメリットもあります。
農業用ドローン
アントグループは中国のドローン大手として知られる大疆創新科技(DJI)と農業用ドローンで提携しています。このプロジェクトでは、ブロックチェーン技術を活用することによって、比較的高価だと言われている業務用ドローンを、資本があまりない人であっても借りやすいような環境を実現しています。
具体的には、ブロックチェーン上に記録された過去のドローンについての利用履歴などを与信情報とすることで、銀行やリース会社から与信枠を獲得できる可能性が高まり、ドローンがより借りやすくなる仕組みだということです。
アントチェーンは、ドローンパイロットの信用スコアと「モノのインターネット(IoT)」、さらにはスマートリスク管理といった技術を組み合わせることで、プライバシーを保護しながらも資金や資産の安全性を強化すると語っており、最新テクノロジーを使った農業の現代化に尽力しています。
③高所作業車のリース事業の概要
アントグループは作業車のリース事業にもブロックチェーンを導入しています。アントグループは浙江省杭州市に拠点を構える「華鉄応急(Huatie Emergency)」という高所作業車や足場のための資材を貸し出す企業と提携し、建設機械に信用データを持たせるための「MaaS(Module as a Service)」端末である「T-box」をリリースしました。
華鉄応急がある浙江省杭州市は上海の隣に位置し、「アリババグループ(阿里巴巴集団)」の企業城下町と言われています。アントグループはこの華鉄応急と協業することで、ブロックチェーン技術を駆使した、より利便性の高い作業車のリースシステムを確立しているというわけです。
具体的には、IoT端末であるT-boxを用いて、車両の動作軌跡や総走行距離などといった高所作業車に関するさまざまなデータをリアルタイムに取得し、サーバーにアップロードします。そして、このアップロードされたデータによって高所作業車がどのように運用されているか、整備が行き届いているかなどの情報が確認できるようになり、これらのデータを根拠としてユーザーが評価される仕組みとなっています。アントグループはこのようなシステムを開発することで、これまで複雑で管理が行き届いていなかった高所作業車のリース事業をより透明性の高いサービスへと生まれ変わらせました。
なお、T-boxには通信ユニットが組み込まれていますが、これにはスマートフォン向けのチップで多くの実績を誇る「紫光展鋭(UNISOC)」が手がける「4G/5Gチップ」が搭載されており、部品レベルでの国産を実現しています。
3-1. 高所作業車のリース事業展開の背景
これまでは中国全土においてリースされている高所作業車の稼働状況について、正確且つ厳密な管理が行われていない状況でした。そのため、金融機関や保険機関などのリスク管理が比較的難しく、資金調達のハードルが高くなっていたほか、保険料も高額になるなどといった問題がありました。そして、このような状況から、作業機材をリースして事業をスタートするためにはかなりの資金力が必要とされていました。
そんな中、アントグループはブロックチェーン技術を用いて高所作業車についての詳しいデータを厳密に管理し、改ざんや不正ができない環境で保存することによって、これらの課題を解決することを目指したというわけです。
3-2. 高所作業車の稼働データの管理
アントグループはブロックチェーン技術を駆使して、高所作業車の稼働データの管理を行っています。
具体的には、下記に挙げるようなデータが記録および管理されています。
- 車両の動作軌跡
- 総走行距離
- 連続動作時間
- 機器の位置
- 持ち上げ時間
- バッテリーの残容量
- 起動時間
アントグループではこれらのデータをリアルタイムに取得しサーバーにアップロードすることによって、高所作業車の運用状況や整備状況といった詳しい稼働データを把握し、それによってユーザーが評価される仕組みを確立しています。
3-3. 稼働データに基づいた保険料の算出
アントグループは、ブロックチェーン技術を駆使することで、高所作業車の稼働データを根拠として保険料を算出する「Usage-based Insurance(UBI)」モデルの採用を可能にしています。
このモデルでは、実際の車両の使用状況に則して価格設定を行うことが可能なほか、従来よりも価格を大幅に低く抑えることができるようになっています。また、事業運営や設備運用などのデータがより明確になるため、金融機関にとってもリスク管理をしやすいというメリットがあります。つまり、融資の前後において評価を行う際に、より正確な根拠を提出することによって、保険会社とクライアントの間の相互不信を解消し、コストとリスクを大幅に削減できるようになるというわけです。
このように、アントグループはブロックチェーン技術を活用することで、作業車のリース事業が抱えていた課題の解消を実現しています。
④まとめ
中国に拠点を構えるアントグループは、「アリペイ(Alipay、支付宝)」や「余額宝(ユエバオ)」など、数々の巨大プロジェクトを運営していることで知られています。そんなアントグループのブロックチェーン部門である「アントチェーン(螞蟻鏈)」では、ブロックチェーン技術を駆使したさまざまなプロジェクトが展開されています。
今回紹介した高所作業車のリース事業では、「MaaS(Module as a Service)」端末である「T-box」によって、高所作業車の詳しい稼働データの記録を可能にしており、これまで懸念されていた数々の課題を克服することに成功しています。アントグループと華鉄応急は今後、T-boxを搭載する高所作業車をさらに増やしていくとともに、他の種類の事業車両のリース事業にもこの技術を活用していきたいということで、その動向は業界からも注目されるでしょう。
中島 翔
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