近年、市場の急速な発展とともに注目を集めているNFT。ブロックチェーン技術により、「一点物の証明付きデジタル資産」という新たな価値を生み出したNFTは、アート、ゲーム、スポーツなど、様々な分野で需要が高まっています。
デジタル上での希少性の実現や、取引時に第三者を必要としないことなど、多くの利点に注目が集まりがちなNFTですが、一方で懸念されていることが環境への影響です。これまでも、テクノロジーの進化は人々に利便性をもたらすと同時に、生態系や気候変動に少なからず影響を与えて来ました。
今回の記事では、NFTが普及することで起こる環境への負荷について詳しく見ていきましょう。
NFTやビットコインは環境に悪いのか
ブロックチェーン技術を使ったNFTやビットコイン(BTC)は、その利便性から新たな取引の手段として期待されていますが、それと同時に懸念されていることが莫大な量の電力消費と二酸化炭素排出です。
ケンブリッジ大学オルタナティブファイナンスセンターの研究によると、ビットコインは年間約110TWh(テラワット)を消費しており、これはマレーシアやスウェーデンなどの年間エネルギー消費量に相当することが判明しています。また、Digiconomist の報告によると、たった一回のビットコインマイニングで排出されるCO2は158トンと言われており、これはVISAカード取引100万回分以上に相当すると言われています。
NFTも例外ではありません。NFTが環境に与えているダメージについては、NFTのカーボンフットプリントを求めることで推定することができます。カーボンフットプリントとは、直訳すると「炭素の足跡」となり、商品やサービスが生産、流通、そして破棄(リサイクル)されるまでのサイクル全体を通して排出されるCO2の量を計算したものです。
デジタルアーティストのMemo Akten氏が約1万8,000のNFTを分析したところ、NFT一つに対する平均的なカーボンフットプリントは、EU(欧州連合)に住む人々の電気使用量の約一か月分以上に相当することが分かっています。
また、NASDAQの調査報告書によると、世界中の銀行業界が消費している電力は、年間約263TWhとされていますが、ブロックチェーンとビットコインだけで、銀行業界全体の半分近くに相当する電力を消費していることが分かっています。
環境問題に対する様々な取り組み
NFTアーティストによるカーボンニュートラルを目指す取り組み
こうした背景から、環境に配慮した取り組みを進めるNFTアーティストも増えています。NFT作品史上最高額で落札された「The First 5000 Days」作者のBeeple氏は、自身の作品をカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることで、実質的に排出量をゼロにする)にすることを表明。Beeple氏は資金の一部を自然保護プロジェクトやCO2削減プロジェクトに充てることで、NFTアートの作成によるCO2排出量を相殺する取り組みを行っています。
Beeple氏をはじめとする環境保護を進めるNFTアーティストらは、カーボンニュートラルなNFTを販売することで資金を集め、その資金を使ってNPO団体「Open Earth Foundation」を設立しました。このNPO団体は、アートと教育を通じて持続可能な社会を創ることを目的としています。具体的な資金の使い道については、ブロックチェーン技術が気候変動に与える影響についてを研究するために充てられています。
PoWからPoSへの移行
環境を保護しようとする動きは、個人の取り組みだけではなく暗号資産プラットフォーム上でも起きています。
現在、ほとんどのNFTはイーサリアム(ETH)上で取引されています。多くのデジタルアーティストがNFT販売にイーサリアムを選ぶ理由は、ビットコインに次いで安定性と信頼性の高い暗号資産であり、さらにスマートコントラクト技術を使うことで簡単かつ安全にデータが取引できるように設計されているためです。
イーサリアムにおけるマイニングは、ビットコインのマイニングと比べれば、半分以下のエネルギーとなっています。それでも、イーサリアムはおよそ45TWhの電気エネルギーを消費しており、これはカタールやハンガリーといった国々の年間電力消費量に相当しています。
イーサリアムはこれまで、ビットコインと同様にProof-of-Work(PoW)と呼ばれるブロックチェーンアルゴリズムを採用してきました。PoWとは、元々はコインの二重支出を防ぐために開発されたもので、ブロックチェーンに新たなブロックを追加するために膨大な計算を行うことで(マイニングという)マイナーは報酬を得るという仕組みです。
しかし、PoWは、高度な計算をするためのマイニング機器が必要とされ、膨大なエネルギー量を消費することが大きな問題となっていました。こうした背景から、イーサリアムでは2020年12月より始まった「イーサリアム2.0」というアップデートに合わせて、PoWからProof-of-State(PoS)という別のコンセンサスアルゴリズムへの移行が進められています(現在は「イーサリアム2.0」という言葉は使わない慣習となっています)。
PoSとは、イーサリアムブロックチェーンのネイティブ暗号資産であるイーサ(ETH)を一定期間ステーク(保有)することで、ブロックチェーンのセキュリティに貢献し、ネットワークから報酬を得る仕組みのことです。イーサリアム財団は「新しいPoSシステムにより、検証プロセスで消費されるエネルギー量が99%以上削減される」と発表しています。
現在、最もメジャーなNFTマーケットプレイスであるOpenSeaやRaribleなどは、PoWのイーサリアムブロックチェーンに基づいているため、エネルギー効率が非常に悪いことが問題視されています。そんな中で、環境にやさしいPoSコンセンサスアルゴリズムに基づくブロックチェーンプラットフォームも増えています。しかし、OpenSeaなどのメジャーなNFTマーケットプレイスと比べ、新たなプラットフォームはハッキングリスクが高いことや、自分の作品が消えてしまったり悪用されてしまう事を恐れるユーザーが多いため、なかなか普及が進んでいないというのが現状です。
今後、より多くのアーティストが、よりエネルギー削減への意識を持つようになれば、PoSコンセンサスアルゴリズムに基づく環境にやさしいプラットフォームの利用が増加するかもしれません。PoSを利用したブロックチェーンは、Algorand、Tezos、Polkadot、Hedera Hashgraphなどが挙げられます。
まとめ
今回の記事では、NFTやビットコインが環境に与える影響について、電力消費量やCO2排出量に注目して解説しました。また、それらの問題に対処するNFTアーティストの取り組みや、ブロックチェーンプラットフォームのアップデートについても触れました。
今後さらに、暗号資産やブロックチェーン技術を利用した取り組みは増加していくことが予想されます。テクノロジーの進化は喜ばしいことですが、それと同時に環境への影響についても考えていくことが大切です。
監修者: 株式会社techtec リサーチチーム
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