インパクトスタートアップの8割超、インパクト投資に前向き。SIIFとISAが初の共同調査結果を公表

インパクト投資の推進を担う一般財団法人社会変革推進財団(SIIF)と、インパクトスタートアップのエコシステム構築を目指す一般社団法人インパクトスタートアップ協会(ISA)は6月30日、事業者側からの実態を明らかにする初の共同アンケート調査「インパクトを志向するスタートアップのインパクトへの取り組み状況と資金調達における課題等に関するアンケート調査」の結果を公表した。調査からは、回答企業の8割超が今後のインパクト投資活用に前向きである一方、投資家との出会いや支援体制の不足が資金調達の大きな課題となっている実態が明らかになった。

本調査は、これまでSIIFが投資家向けに実施してきた調査に対し、初めて事業者側の視点から実態を明らかにし、インパクト投資市場のエコシステム発展に貢献することを目的としている。2025年2月から4月にかけ、ISAの正会員企業206社を対象に実施され、38社の経営層や経営企画部門から回答を得た(回答率18%)。

調査結果によると、回答企業の半数をアーリーステージ(営業利益を獲得できていない段階)の企業が占めており、多くが成長過程で資金調達の課題に直面していることがうかがえる。現状では、資金調達額に占めるインパクト投資の割合が20%以下の企業が68.4%に上り、インパクト投資は十分に活用されていない。しかし、「すでに調達しており、さらに増やしたい」(47.4%)、「新しい選択肢として検討したい」(34.2%)を合わせると8割を超える企業が今後の活用に意欲的であり、市場の拡大余地は大きいことが示された。

インパクト測定・マネジメント(IMM)の取り組みについては、「インパクトの指標と事業成長の指標を連動させ、事業改善に反映するため」(75.0%)との回答が最も多く、IMMを経営の主軸に据えようとする強い意識が見られた。情報開示においては、定量的なデータだけでなく「価値創造ストーリーを伝えている」(51.4%)企業が半数を超え、データとストーリーの両面から戦略的にアプローチする傾向が明らかになった。
一方で、資金調達における課題として、「インパクト投資の国内外の事例、データ、ノウハウの蓄積が乏しい」(48.6%)、「自社の状況にフィットするインパクト投資家との出会い方、探し方がわからない」(43.2%)といった回答が上位を占めた。これは、事業者と投資家をつなぐネットワークや支援体制の不足が、資金調達のボトルネックとなっている可能性を示唆している。

また、インパクト投資市場の発展を阻害する要因としては、「社会におけるインパクト投資の認知、関心が低いこと」(51.4%)や、「インパクト投資の呼び水となる、フィランソロピーや公的な資金が乏しいこと」(43.2%)が多く挙げられた。事業者側だけでなく、社会全体や政府、資金提供者といった供給側の準備不足が大きな障害として認識されていることがわかる。

行政に期待する支援としては、「インパクトを志向するスタートアップ型の企業の政策・制度的な後押し」(78.4%)が最多で、次いで「単年度で効果が出にくい取り組みに対する長期支援」(62.2%)が続いた。短期的な成長性だけでは測ることが難しい社会課題解決型ビジネスの特性を理解した、長期的視点からの制度的・財政的支援を求める声が強い。

両団体は今後、本調査結果をもとに政策立案や支援制度に関する議論を活性化させ、より多くのスタートアップが社会的課題の解決に挑戦できる環境整備を進める方針だ。事業者と投資家の間にある認識のギャップを埋めるための対話と相互理解の促進が、今後の日本におけるインパクト投資市場の健全な発展の鍵となるだろう。

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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