世界持続可能な開発のための経済人会議(WBCSD)とEYは9月19日、企業のバリューチェーン全体での協働を通じた温室効果ガス(GHG)排出削減の加速化に関する新報告書を発表した。報告書では、企業が自社のバリューチェーン全体で協力することで排出削減を加速できる重要な役割を強調するとともに、AIを活用した排出ホットスポットの特定と対策の迅速化の必要性を指摘している。
報告書によると、世界の企業収益とGHG排出量の約25%を占めるWBCSD加盟企業を対象とした分析で、現在の2030年排出削減目標が気候変動に関する政府間パネル(IPCC)やパリ協定の要求水準に達していないことが明らかになった。特に注目すべきは、これら企業のGHG排出量の89%がスコープ3、つまり自社の直接排出ではなくバリューチェーン由来の排出であることだ。これは排出管理をより複雑にする要因となっている。
WBCSDは今回の報告書を踏まえ、COP30での「排出削減アクセラレーター(ERA)」の立ち上げを予定している。ERAは、企業のバリューチェーン全段階を対象とした「バリューチェーンアプローチ」を採用し、効果的な介入ポイントの特定、AI主導の洞察の活用、産業・政策・金融・イノベーション関係者間の協力促進を目指す。このプラットフォームは、排出削減を加速しながらビジネス価値を創出するソリューションへの企業ニーズに応えるものだ。
スコープ3排出量の管理は、世界的に企業が直面する共通の課題となっている。自社の直接排出(スコープ1・2)と異なり、サプライヤーや顧客など取引先の活動に由来するスコープ3排出量は、データ収集の困難さや管理の複雑さから、多くの企業にとって大きな挑戦となっている。WBCSDが提唱するバリューチェーン全体での協働アプローチは、この課題に対する有効な解決策として期待される。
気候変動対策の緊急性が高まる中、企業単独での取り組みから、バリューチェーン全体での協働へのシフトが不可欠となっている。WBCSDの250社以上の加盟企業による集団行動は、世界の排出削減目標達成に向けた重要な一歩となることが期待される。

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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