シンガポール貿易産業省(MTI)と国家気候変動事務局(NCCS)は9月17日、同国の気候目標達成に向けて、ガーナ、ペルー、パラグアイの4つのプロジェクトから200万トン以上の自然由来カーボンクレジットを調達する契約を締結したと発表した。ESG投資メディアのESG Todayが報じた。
シンガポールは2050年までのネットゼロ達成と、2030年までに温室効果ガス排出量を約6,000万トン(CO2換算)に削減する国別削減目標(NDC)を掲げている。NDCはパリ協定の下で各国が提出する気候行動計画で、5年ごとに野心度を高めて更新することが求められている。今回の調達は、2024年11月のCOP29で合意されたパリ協定第6条に基づく高品質な炭素市場の枠組みを活用したもので、国家間の炭素クレジット取引を可能にする仕組みを利用している。
MTIとNCCSによると、シンガポールは炭素税の導入、太陽光発電の展開、再生可能エネルギーの輸入、炭素回収・貯留への投資など様々な取り組みを進めているが、「小規模で人口密度が高く、天然資源に乏しい島嶼都市国家」という地理的制約から完全な脱炭素化には限界がある。パリ協定第6条の枠組みは、こうした制約を抱える国が気候目標を達成するための補完的な手段となっている。日本も同様に地理的制約から再生可能エネルギーの大規模導入に限界があるため、シンガポールの取り組みは参考になる可能性がある。
今回選定された4つのプロジェクトは、2024年9月に発行された提案依頼書(RFP)を通じて選ばれた。調達するカーボンクレジットは2026年から2030年までの期間で217万5,000トンの排出削減に相当し、調達額は約7,600万シンガポールドル(約6,000万米ドル)となる。選定されたプロジェクトには、ペルーの2つの森林保護プロジェクト(Kowen Antami REDD+とTogether for Forests REDD+)、パラグアイの草原回復プロジェクト(Boomitra Grassland Restoration Project)、ガーナの造林・再植林プロジェクト(Kwahu Landscape Restoration Project)が含まれる。これらのプロジェクトは森林破壊による炭素排出の削減、草原での炭素貯留の増加、劣化した牧草地の再植林による炭素除去を目指している。
シンガポール政府は、カーボンクレジットが環境面での高い品質を持つことを重視しており、追加性の確保、漏出リスクの低減、永続性、周辺コミュニティへの共同便益などを選定基準としている。MTIとNCCSは年内に第2回目のRFPを開始する予定で、パリ協定第6条に準拠したカーボンクレジットのさらなる調達を計画している。自然由来のカーボンクレジット市場は、森林保護や生物多様性の保全、地域コミュニティの持続可能な土地利用による収入確保、水質改善などの生態系サービスの提供といった多面的な便益をもたらすことが期待されている。
【参照記事】
Singapore Signs Deals for More than 2 Million Tonnes of Nature Based Carbon Credits

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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