アクティブ運用のグローバルリーダーであるシュローダーは、6月19日、初の「ネイチャー・レポート」を発表した。本レポートは、2023年に公表されたTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿ったものだ。TNFDは2021年に発足後、G7やG20などから世界的な支持を得ており、シュローダーは金融サービス業界の先駆けとして、いち早くこの情報開示を行った。
レポートの分析には、同社が開発した独自ツール「NatCapEx」が活用されている。このツールは、同社の旗艦モデル「SustainEx」を基盤としており、9,000社以上の上場企業を対象に、自然に焦点を当てたTNFD準拠の分析を支援するものだ。
レポートによると、シュローダーの投資ポートフォリオは、二酸化炭素排出、水利用、陸上生態系利用を通じて自然に影響を与えており、特に水関連の生態系サービスへの依存度が最も高いことがわかった。また、マクロ経済の視点からは、自然環境の劣化がもたらすリスクの大きさを指摘。世界銀行の推計として、受粉、漁業、林業の3つの生態系サービスが部分的に崩壊するだけで、世界経済は毎年GDPの2.3%を失う可能性があると言及した。一方で、ネイチャーポジティブな慣行への転換は、毎年10兆1,000億米ドルのビジネス機会をもたらす可能性があるとしている。
投資先企業への働きかけも強化している。2024年にはエンゲージメント方針を更新し、環境負荷の高いコモディティを扱う企業の資産や事業、サプライヤーに関する所在地の開示などを求めている。また、同年に参加した投資家イニシアチブ「ネイチャー・アクション100」では、鉱業や化学など幅広い業種で6つの共同エンゲージメントを実施した。
シュローダー自身の事業活動においても、環境負荷削減を進めている。ロンドン本社の総廃棄物排出量を2019年比で36%削減し、リサイクル率は2024年に92%へと向上させた。さらに、生物多様性の影響を受けやすい地域に近いホーシャム・キャンパスでは、生物多様性調査を実施している。
今後の展開として、レポートでは、2025年にかけて「投資ポートフォリオからコモディティ由来の森林破壊をなくすための最善の努力」という公約の実現に注力する方針を示した。分析対象もソブリン債やプライベートアセットに拡大し、独自のフレームワークに基づいた投資戦略の探求を継続していく。
シュローダーのサステナブル投資グローバル・ヘッド、アンディ・ハワード氏は、「シュローダーは、自然関連のリスクと機会を積極的に開示し、自然関連データの不足を補う新たな独自ツールNatCapExを開発することで、アクティブ運用会社としての模範を示しています。TNFDに沿った自主的な情報開示が、企業や投資の情報開示を促進する一助となることを期待しています」と述べた。
【レポート】ネイチャー・レポート(PDF)

HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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