世界で急速に進むダイベストメント(投資撤退)、具体的な判断基準や投資除外企業は?

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さまざまな業界でESGをふまえた経営の実践が試みられている。投資の世界においても、いまやESG(環境・社会・ガバナンス)投資は世界の潮流となっている状況だ。今回はその分野のグローバルリーダーにして世界最大級の政府系ファンドである「ノルウェー政府年金基金(GPFG)」を中心に、近年急速に広がっているダイベストメント(#1)の動きを紹介したい。

ノルウェーは1969年に初めて北海で油田を発見した。そこで得られた収入はGPFGで運用・管理することにし、将来石油が枯渇しても基金を通じて十分な利益を得られるよう体制を構築した。

基金を保有するのはノルウェー財務省で、実際に運用を手掛けるのが中央銀行傘下のノルウェー中央銀行インベストメント・マネジメント(NBIM)だ。ノルウェー財務省の諮問委員会である倫理委員会が投資先企業に関する倫理的評価を行い、NBIMはその勧告にもとづいて投資方針を策定する。

ノルウェー財務省はGPFGが投資先を除外・監視対象とする際のガイドラインを公表している(2021年11月11日時点、*1)。具体的には生産ベースを基準として、①人道主義に違反する核兵器やクラスター爆弾などの武器の主要コンポーネントを開発・製造する企業、およびタバコや娯楽目的の大麻を生産する企業へ投資しない②収入の30%以上を一般炭から得ているもしくは一般炭が全事業の30%以上を占めている鉱業会社や電力業者、年間2,000万トン以上の一般炭を採掘する企業、1万メガワット以上の石炭火力による発電容量を持つ企業を監視もしくは除外対象としている。

また行為ベースを基準として、①深刻な人権侵害②深刻な環境被害③企業全体での許容できない温室効果ガス排出につながる作為・不作為④汚職もしくは重大な金融犯罪などを挙げている。これらすべての項目がESGの視点に関連しているといえる。

それでは、実際にNBIMの投資除外・監視企業リストを確認したい(2021年12月21日時点、*2)。たとえば、タバコを生産するブリティッシュ・アメリカン・タバコ(ティッカーシンボル:BTI)は2010年1月に投資除外とされた。「投資の神様」と評されるウォーレン・バフェット氏が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイ(BRK B)のエネルギー部門バークシャー・ハサウェイ・エナジーは2018年7月、石炭生産もしくは石炭火力発電を手掛けているとして監視対象とされている。

また、石炭火力発電所を運営する北海道電力(銘柄コード:9509)や沖縄電力(9511)など、日本企業も投資除外リストに加わっている。さらに、2021年3月にはキリンホールディングス(2503)を監視対象に指定した。クーデターが起きたミャンマーでの事業をめぐり、深刻な人権侵害のリスクがあると指摘している。

このように、GPFGは長期にわたり持続可能でない企業や倫理的に擁護できない企業から利益をえないという姿勢をもち、ESGの視点をふまえて投資を実践している。同基金の足元の運用残高は約12.2兆クローネ(158.6兆円、1クローネ=13円換算)で、世界最大級の政府系ファンドだ(*3)。圧倒的な資産規模を誇るGPFGは73か国9,100社以上に投資しており、ESGの分野で業界を主導するグローバルリーダーである。現時点でESG投資の評価手法が確立されていないなか、GPFG・NBIMのESGを重視した投資手法(およびダイベストメント)は、世界中の投資家・企業に一定の影響を与えているといえそうだ。

さらに、資産運用会社レベルでもダイベストメントの動きが広がっている。たとえば、英金融大手HSBC(ティッカーシンボル:HSBC)は12月14日、2040年までに石炭火力発電と石炭採掘への融資を段階的に廃止する詳細な方針を発表した。顧客のエネルギー移行計画が2050年までにネット・ゼロを目指すHSBCの目標と合致しない場合、新規の融資や借り換え、およびアドバイザリーサービスを提供しない意向である。

また、UBSアセットマネジメントは2021年12月20日、気候変動への対応が不十分な米石油大手エクソンモービル(ティッカーシンボル:XOM)や韓国電力公社(KEPCO、コード:015760)など5社を、気候変動対策を重視する一連のファンドから除外したことを発表した(*4)。これらのファンドには英年金基金ネストからの委託を受けたファンドも含まれているという。

ダイベストメントはたしかに運用リスクを軽減させる手法の一つではあるが、それを批判する声も少なくない。深刻な問題を抱えているとみなした企業から投資資金を引き上げることで、運用者は将来のリスクを免れるが、ダイベストメント先の企業が無くなるわけではなく、社会全体の改善にはつながらないという声だ。

これに対し、投資先の企業と対話を行って積極的に課題解決や改善を促していくのが「エンゲージメント」と呼ばれる動きだ。ダイベストメントをいきなり決断するのでなく、投資家としてエンゲージメントを十分に実施した上で、それでも一向に改善が見られない場合にダイベストメントを検討・実施するとなれば、企業側も改善に向かった舵取りがしやすいだろう。

いずれにせよ、巨額の資金を運用する世界のプロ投資家がESGの観点からいかにして投資を行っているかや、彼らから企業がどういう評価を受けているかを探ることは、個人投資家にとって投資意思決定の参考にできそうだ。

(#1)ダイベストメント(Divestment)…投資(Investment)の対義語で、投資撤退を意味する。

(#2)サステナブルファイナンス…環境や社会をとり巻く課題解決の促進を金融面から誘導する手法や活動。

【参照記事】*1 ノルウェー財務省「Guidelines for Observation and Exclusion of companies from the Government Pension Fund Global (GPFG)
【参照記事】*2 ノルウェー中央銀行インベストメント・マネジメント「Observation and exclusion of companies
【参照記事】*3 ノルウェー中央銀行インベストメント・マネジメント
【参照記事】*4 ロイター「UBS excludes Exxon Mobil from climate funds

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HEDGE GUIDE編集部 ESG・インパクト投資チーム

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