衛星データによるリモートセンシングで再生農業をサポートする「Agreena」とは?

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目次

  1. Agreenaとは?
  2. Agreenaのサポート内容
  3. Agreenaの展望

Agreenaとは?

「Agreena」は再生農業をサポートするプラットフォームです。再生農業の詳細は後述しますが、簡単にいえば、土壌再生やCO2削減に貢献する農業スタイルのことであり、再生農業を行うことでカーボンクレジットを生成でき、通常の農業での収益に加えて新しい収益源を確保することができます。

「Agreena」はこの再生農業のスタートからカーボンクレジットの生成及び販売までを一気通貫してサポートするプラットフォームです。2017年に設立されたデンマークコペンハーゲンを拠点とする企業です。2021年にシードラウンドで4.7Mドルを、2022年にシリーズAで22Mドルを、2023年にシリーズBで60Mドルを調達しています。

引用:Agreena

現在はヨーロッパの14か国の農家が利用しており、合計で50万ヘクタール以上の農地が管理されています。

では、まずは再生農業について解説します。

再生農業とは?

再生農業は、土壌の健康、生態系の多様性、炭素の固定、水の管理などの側面で持続可能性を高めるための農業的手法の総称です。具体的には以下のような手法や原則が再生農業に含まれます。

  1. 土壌の健康の維持・向上:再生農業の中心的な考え方の一つは、土壌を生きた有機的なシステムとして扱い、その健康と生産性を維持・向上させることです。
  2. 被覆作物の使用:土壌の侵食を防ぎ、土壌の有機物を増やすために被覆作物を植える。
  3. 多様性の増加:多様な作物の回転や多種多様な動植物を取り入れることで、生態系の回復と耐性を高める。
  4. 化学肥料や農薬の使用を最小限に:自然の力を活用し、化学的介入を極力減らす。
  5. 直接の土壌の耕作を避ける:土の扱いを最小限にし、土壌の生物の活動を擾乱しないようにする。
  6. 牧畜の統合:動物と土地の間の相互作用を利用して、生態系の健康を向上させる。
  7. 炭素の固定:土壌中の炭素量を増やすことで、気候変動への対策としての炭素固定を実現する。

再生農業の目的は、長期的に持続可能な農業生産を確保するとともに、地球の気候や生態系の健康を維持・向上させることです。これにより、食糧の安全保障、生態系サービスの確保、そして気候変動の緩和を目指しています。

環境に対して素晴らしい取り組みでありつつも、まだまだ一般的ではありません。その背景には経済的なインセンティブの不足が存在します。これはまさにReFiの根本的な思想に繋がる部分であり、再生資本主義を実現するために新しい経済的なインセンティブを発見する必要があります。「Agreena」は再生農業の分野において、カーボンクレジットの生成および販売を行うことで農家に新しい収益源を生み出し、再生農業の新しいインセンティブを生み出しています。

Agreenaのサポート内容

Agreenaは再生農業における最初から最後までを全てサポートします。最初というのは”そもそも自身の農地で再生農業を取り入れることでどれだけの収益が期待できるのか”という検討段階で、最後はカーボンクレジットの販売です。

より具体的には、以下の4つのステップにてサポートを行っています。

  1. データ入力と計画:
    Agreenaに現場のデータを入力すると、アドバイザーが戦略の計画を支援します。このプログラムはさまざまな栽培活動を記録し、潜在的な二酸化炭素の除去と削減、および予測される収入を計算します。
  2. 実際のデータ報告:
    収穫期が終わったら、実際のデータ (実際の収量、肥料と燃料の使用量など) を報告します。
  3. 検証:
    国際的に認定され、第三者によって検証された当社のプログラムにより、農場の炭素除去と削減が定量化され、当社のチームが検証済みのカーボンクレジットを発行します。
  4. 販売:
    自身で保有するか、自身で販売するか、Agreenaに販売を委託するかを選択できます。

もちろん実際の土壌改善や肥料変更等の実施は必要ですが、その実態の管理や証明、収益化等の裏側の作業は全てAgreenaが代行してくれます。農家はフォームへ入力し、収穫期の後にデータ入力を行うだけで再生農業に対するアプローチが終了します。

利用料はサービス利用料として月額100ドルが発生し、残りはカーボンクレジットの発行手数料として発行金額の15%が発生します。また、Agreenaにカーボンクレジットの販売代行を依頼する場合はさらに15%の手数料が発生します。

引用:Agreena

続いて、もう少し細かい特徴を見ていきます。

特徴

①カーボンクレジット創出分の前払いが可能

通常は収穫期を終えてデータ入力、検証を経て、実際のカーボンクレジットの生成と販売が行われた後に収益が発生します。しかし、Agreenaは農家が提供したデータを検証し、認証後に受け取る証明書と現在の市場状況と価格の最良の見積りに基づいて、カーボンクレジットを購入するための購入前価格を提示します。

農家はそのオファーを受け入れることで事前に収益化が可能であると同時に、将来の価格の不確実性をなくすことができます。

②十分に審査された購入者

クレジットの購入者側にもバイヤーポリシーを設定し、以下の条件を提示しています。

  • 伝達された排出削減目標
  • 今後どのように排出量を削減するかについての計画
  • すでに実証済みの排出削減声明
  • ネットゼロ目標年を公表
  • 独自の排出量の計算

要するに購入側もアリバイだけのクレジット購入ではなく、本気でカーボンニュートラルを目指す企業であることを義務付けています。

カーボンクレジットの売買は盛り上がっている業界でありながら、まだ業界として未成熟であるため、世論によって規制が変更されたり、ルールは全て守り環境に良い取り組みをしているのにブランディンングが傷つくこともあります。

その1つが”グリーンウォッシュ”と呼ばれる見せかけだけの環境貢献です。SDGsやカーボンニュートラルに配慮していることを表面上は謳うことで、消費者からの信用を得ようとする行為です。なので、カーボンクレジットを購入してくれる企業であればどこでも良いというスタンスは、グリーンウォッシュに加担しているとして、発行する企業側(この場合は農家)にまで悪影響を与える可能性もあります。

これはあくまで可能性の話ですが、それらの懸念ができる限り取り除かれることで、農家が安心して再生農業に取り組むことができます。よって、Agreenaは購入者にもポリシーを設定しています。

③独自のMRVシステム

ここがAgreena最大の特徴であり、大きな競合優位性となっています。

Agreenaのカーボンクレジット認証の仕組みは、ISO認定を受けており、これは世界中の数十万の組織で使用されており、Verra VCS および Gold Standard で使用されているのと同じ規格です。また、独立した監査機関であるDNVから監査を受けています。

そして、MRVシステムを保有しています。MRVは「Monitoring,Reporting and Verification」の略で、気候変動対策や持続可能な開発の分野で使われる用語です。特に、国や企業が炭素排出削減や持続可能な開発に関連する取り組みの効果や結果を正確に評価、報告、確認するためのフレームワークやシステムを指します。
それぞれの意味です。

  • Monitoring (監視):特定のデータや情報(例:温室効果ガスの排出量、再生可能エネルギーの導入状況など)を継続的に収集・監視するプロセス。
  • Reporting (報告):収集されたデータや情報を体系的にまとめ、関連する当局や組織に報告するプロセス。
  • Verification (確認):報告されたデータや情報が正確で信頼性があるかを第三者が確認するプロセス。

国際的な気候変動対策の協定、例えばパリ協定の下では、各国が自らの温室効果ガス削減目標の達成状況を透明にし、その情報に信頼性を持たせるためにMRVが不可欠とされています。また、カーボンマーケットや炭素オフセットの仕組みでも、正確で信頼性の高いMRVは必要とされます。

AgreenaはこのMRVシステムにおいて世界をリードするリモートセンシングデータを提供しています。これは2022年7月に「Hummingbird Technologies」を買収し、自社のプラットフォームに組み込むことで実現しました。リモートセンシングデータとは、衛星からのリアルタイムデータのことです。Agreenaは衛星によって、実際の農地企画の正確な把握、それぞれの土地に向いている農作物の提案、再生農業のための活動(カバークロップや耕運など)が行われているのかの把握をリアルタイムで把握します。

農地の把握


耕運状況の把握


輪作の把握

このシステムは大規模な農地へ対応できるスケーラビリティを確保できると同時に、ブルーエコノミー等の他の分野にも応用が可能です。実際にAgreenaではこのMRVシステムだけの利用も受け付けており、再生農業分野以外にも対応しています。

Agreenaの展望

ここまでAgreenaの概要を見てきました。カーボンクレジットの生成はどうしても人力に頼る部分も多く、透明性やスケーラビリティに欠ける部分がありましたが、Agreenaは最も大変な検証システムを衛星データを用いることで解決しています。この仕組みの採用もあり、利用農家は急激に増加しており、2022年のシリーズAの調達以降、2023年3月のシリーズBの調達までに10倍以上拡大しているとコメントしています。

筆者もこれまで数々のカーボンクレジットの生成プロジェクトを見てくる中でこの検証プロセスのシステム化が課題であると感じてきました。システム化をしなければスケーラビリティを実現することはもちろん、透明性の高いクレジット生成や即時性の高いクレジット生成が不可能です。将来的には、衛星データをリアルタイムで検知して、そのデータをオラクルでオンチェーンに移行し、そのデータが刻まれたクレジットの生成が自動で行われるという一連のプロセスが実現されるように思います。まだまだカーボンクレジット市場自体が発展途上ですが、その中でもAgreenaのソリューションは非常に興味深い内容でした。

【参照記事】グリーンウォッシュとは・意味