一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- 「TSVCM(ICVCM)」とは
1-1.「TSVCM(ICVCM)」の概要
1-2.「TSVCM(ICVCM)」立ち上げの背景
1-3.「TSVCM(ICVCM)」のメンバー - 巨大ボランタリーカーボンマーケットの創設
2-1.プロジェクトの概要
2-2.20のアクションプラン - 「コア炭素原則(Core Carbon Principles:CCP)」の策定
3-1.「コア炭素原則(CCP)」の概要
3-2.「コア炭素原則(CCP)」の内容詳細 - 「TSVCM(ICVCM)」の今後の展開
4-1.CCPラベル付きカーボンクレジットの発行 - まとめ
カーボンマーケットは現在、大きな注目を集めています。その中でも、自主的炭素市場を中心に活動する「TSVCM(Taskforce on Scaling Voluntary Carbon Market)」および「ICVCM(Integrity Council for the Voluntary Carbon Market)」は、特に関心を集めています。
これらの組織の主な目的は、カーボンクレジットの品質や評価の枠組みを明確にし、取引の透明性や流動性を高めること。その結果、ボランタリーカーボンマーケットのさらなる拡大が期待されます。この記事では、TSVCMとICVCMの詳細と役割について解説します。
1.「TSVCM(ICVCM)」とは
1-1.「TSVCM(ICVCM)」の概要
「TSVCM」は、「Taskforce on Scaling Voluntary Carbon Market」の略称で、日本語では「自主的炭素市場のためのタスクフォース」と訳されることが多いです。この組織は、英イングランド銀行前総裁や国連気候・金融特別大使を務めたマーク・カーニー氏がリーダーとして、2020年9月2日に設立されました。主に金融、産業、認証機関が連携して、ボランタリークレジットという独自のカーボンクレジットについてのイニシアティブを推進しています。
ボランタリークレジットは、法的な義務ではなく、企業やNGO、民間団体の自主的な取り組みから生まれるカーボンクレジットの一種です。これは「J-クレジット」という政府主導のクレジットとは異なり、温室効果ガスの排出量と吸収量のバランス、すなわち「カーボンニュートラル」の実現を目指すための手段として広く活用されています。
TSVCMは、ボランタリーカーボンマーケットの拡大を目指し、カーボンクレジットの品質や評価の枠組みを整備・管理することで、取引の透明性や流動性の向上に努めています。
021年7月、TSVCMの設立から約10ヶ月後、「コア炭素原則(Core Carbon Principles:CCP)」の策定が提案されました。この提案を受けて、「ICVCM(Integrity Council for the Voluntary Carbon Market)」が新たに設立されました。さらに、2022年7月にはICVCMからコア炭素原則のドラフトが公表され、クレジットの品質や評価に関する議論が続けられています。
添削を行いました。以下に修正後の文章を提示します。
1-2.「TSVCM(ICVCM)」立ち上げの背景
TSVCM(ICVCM)は、「パリ協定」の目標達成を目的に設立されました。
「パリ協定」は、2015年12月12日にフランス・パリで開催された「国連気候変動枠組条約締結国会議(COP)」で採択された国際的取り決めです。この協定は、地球温暖化の進行を緩和するため、温室効果ガスの排出量を大幅に削減することを目的としています。
具体的には、産業革命以前との比較で世界の平均気温上昇を2℃未満に、できれば1.5℃に抑えることを目指しています。さらに、21世紀後半には「カーボンニュートラル」を実現するという目標も掲げられています。
TSVCM(ICVCM)は、これらの目標達成のためのイニシアティブです。ボランタリーカーボンマーケットの健全性を維持するためのガイドラインや基準の策定を進めています。さらに、カーボンオフセットマーケットの信頼性と透明性の向上にも取り組んでいます。
カーボンオフセットとは、企業や組織が温室効果ガス排出量の相殺を目的とした仕組みのことを指します。これは、気候変動への取り組みの一つとして、国内外で注目を集めています。しかしながら、信頼性や透明性に課題が存在しています。TSVCM(ICVCM)は、これらの課題解消に努めています。
1-3.「TSVCM(ICVCM)」のメンバー
TSVCM(ICVCM)のメンバーは、各業界のエキスパートから成るチームとして知られています。
英イングランド銀行前総裁であり、国連気候・金融特別大使も務めたマーク・カーニー氏のもと、英銀行スタンダード・チャータードのCEO、ビル・ウィンターズ氏が委員長を担っています。実務面では、大手法律事務所「デービス・ポーク」のチームが中心的役割を果たしています。
アドバイザリー役としては、コンサルティング会社「マッキンゼー・アンド・カンパニー」がサポートを提供しています。また、デービス・ポークのアネット・ナザレス氏が運営責任者として、そして「国際金融協会」がスポンサーとして関わっています。
TSVCM(ICVCM)には、ヨーロッパ、アメリカ、中国、インドからの著名なメンバーが集まっています。しかし、日本からは「三菱商事」や「三井物産戦略研究所」が諮問グループとしてのみの参加で、正式なメンバー企業は存在しない点が注目されています。
次の項では、TSVCM(ICVCM)が進めている具体的な取り組みについて紹介します。
2.巨大ボランタリーカーボンマーケットの創設
2-1.プロジェクトの概要
TSVCM(ICVCM)は、カーボンニュートラルを実現する「ネットゼロ社会」のために、カーボンクレジットマーケットを大幅に拡大することが必要だと提唱しています。2021年1月27日に、大規模なボランタリーカーボンマーケットの創設計画を明らかにしました。
TSVCM(ICVCM)の目標は、パリ条約の目標達成を支援することです。このマーケットを通じて、企業の削減テクノロジーへの投資を促進し、削減策の実施を後押しする考えです。
多くの国や地域がカーボンクレジット取引制度を導入していますが、現状では一部の地域の活動が中心となっており、全体的な削減効果の最大化が求められます。TSVCM(ICVCM)の取り組みは、ボランタリーカーボンマーケットを通じて、世界中の国々、特に発展途上国の経済成長をサポートすることを目指しています。
2-2.20のアクションプラン
TSVCM(ICVCM)が提示する「20のアクションプラン」は、ボランタリーカーボンマーケットの成功のための具体的な推奨事項となっています。
- 「コア炭素原則(CCP)」と属性分類法の確立
- 「コア炭素原則(CCP)」遵守に関する評価
- 高い信頼性が担保された供給の拡大
- カーボンクレジットのスポット取引および先物取引の導入
- 流動性の高いマーケットの創設
- 店頭取引(OTC取引)の標準化と透明性の向上
- 大規模取引に対応可能なインフラストラクチャーの構築と活用
- ポストトレード(取引後の業務全般)に関するインフラストラクチャーの構築と活用
- 高度なデータインフラストラクチャーの実装
- 金融の仕組み化の促進
- カーボンオフセットの利用についての原則の確立
- 企業向け債権でのカーボンオフセットに関するガイダンスの調整
- 効率的かつスピーディな検証の実施
- マネーロンダリング対策(Anti-Money Laundering:AML)や本人確認手続き(Know Your Customer:KYC)についてのグローバルなガイドラインの作成
- 法的および会計的な枠組みの確立
- マーケット参加者および市場機能についての管理機関の設立
- カーボンオフセットについての一環した投資家向けガイダンスの提供
- POSシステムの導入などによる信頼性と認知度の向上
- 業界における協業の促進やコミットメントの増加
- 「デマンドシグナル(要求信号)」のメカニズムの構築
3.「コア炭素原則(Core Carbon Principles:CCP)」の策定
3-1.「コア炭素原則(CCP)」の概要
2022年7月、ICVCMは高品質なカーボンクレジット認証のための「コア炭素原則(CCP)」のドラフトを公表し、2023年3月にはその最終版を発表しました。
この原則は、ボランタリーカーボンマーケットに関与する多くの組織や団体の意見を基に策定されました。最新の技術と知見が取り入れられており、カーボンクレジットの品質評価フレームワークとして機能します。このフレームワークを通じて、プログラムがCCPの基準を満たしているか、そして「CCPラベル」の使用資格があるかどうかが確認されます。
ICVCMのこの取り組みにより、カーボンクレジットプロジェクトの品質が保証され、透明性と信頼性の高いマーケットの形成が期待されます。
3-2.「コア炭素原則(CCP)」の内容詳細
「コア炭素原則(CCP)」はカーボンクレジットの信頼性を確保するための10の基本原則を取り決めています。
ガバナンスに関する原則
- 効果的なガバナンス: 透明性、説明責任、継続的改善の観点からカーボンクレジットの品質を保障するためのガバナンスが求められます。
- トラッキング(追跡): クレジットの明確な識別のためのレジストリの運用または使用が必須です。
- 透明性: 発行クレジットの活動情報を透明に提供し、公にアクセス可能な形式で公開することが求められます。
- 独立した検証: カーボンクレジットプログラムは、第三者による検証を経る必要があります。
排出への影響に関する原則
- 追加性: 温室効果ガスの削減・除去の取り組みは追加的なものとして行われるべきです。
- 永続性: 温室効果ガスの削減・除去は長期にわたるものとし、逆転リスクには適切に対処することが求められます。
- 定量化: 温室効果ガスの削減・除去は科学的方法に基づいて正確に計測されるべきです。
- 二重カウント禁止: 同じ削減・除去が二度数えられないようにすることが求められます。
サスティナブルな開発に関する原則
- サスティナブル性と安全対策: カーボンプロジェクトは持続可能な開発を促進するものとし、社会的・環境的保護対策の実施が必須です。
- ネットゼロ移行への貢献: プロジェクトはネットゼロ社会実現への目標達成に貢献することが期待されます。
4.「TSVCM(ICVCM)」の今後の展開
4-1.CCPラベル付きカーボンクレジットの発行
コア炭素原則をラベルとして採用することで、カーボンクレジットの品質と信頼性を保証するシステムの確立が進むと期待されます。これにより、企業や個人がカーボンクレジットを購入する際の判断材料として、「CCPラベル」の存在が重要な指標となるでしょう。このラベルは、そのクレジットが環境、社会、および経済の持続可能性の観点から高い基準を満たしていることを示す証明となります。
2023年の第3四半期に初めてのCCPラベル付きカーボンクレジットが発行されるとの発表は、ボランタリーカーボンマーケットにとって大きな一歩となるでしょう。
5.まとめ
近年、環境問題対策の観点から、ボランタリーカーボンマーケットの重要性はますます高まっており、市場の整備が急がれています。
そんな中、TSVCM(ICVCM)ではクレジットに適切な世界的評価基準を設けることによって、乱立しているプロジェクトを整理し、各クレジットの品質を担保する仕組みを構築しています。
また、今後は評価基準を満たしたクレジットに対してCCPラベルを付与するシステムを実装することも発表されているため、カーボンマーケットへの参加を考えている方は一度TSVCM(ICVCM)の評価基準について理解を深めてみてはいかがでしょうか。
中島 翔
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