今回は、トヨタが実験しているブロックチェーンの応用法について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- トヨタ自動車株式会社とは
1-1.トヨタ自動車株式会社の概要
1-2.トヨタ自動車株式会社の事業内容 - トヨタ・ブロックチェーン・ラボとは
2-1.トヨタ・ブロックチェーン・ラボの概要
2-2.トヨタ・ブロックチェーン・ラボ立ち上げの背景
2-3.トヨタ・ブロックチェーン・ラボのテーマ - 3つの領域での活用事例
3-1.サプライチェーンにおける応用法
3-2.ヴィークル(Vehicle)IDにおける応用法 - 知財DXプラットフォームへの応用
4-1.知財DXプラットフォーム「Proof Chain of Evidence(PCE)」とは
4-2.Proof Chain of Evidence(PCE)の仕組み - まとめ
日本を代表する自動車メーカーのトヨタ自動車株式会社は、2019年4月、グループの主要関連企業が横断的に連携し、「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ(TOYOTA BLOCKCHAIN LAB)」と呼ばれるバーチャル組織を立ち上げました。
トヨタ・ブロックチェーン・ラボでは、これまでに実証実験を通したブロックチェーン技術の有用性検証やグループ各社とのグローバルな連携などさまざまな取り組みが進められてきており、その実用性に大きな注目が集まっています。
そこで今回は、トヨタが実験しているブロックチェーンについて、その概要や特徴、実際の応用法などを詳しく解説していきます。
①トヨタ自動車株式会社とは
1-1.トヨタ自動車株式会社の概要
トヨタ自動車株式会社とは、1937年8月に創立され、愛知県豊田市に本社を構える日本最大手の自動車メーカーのことを指します。言わずと知れた大企業であるトヨタは、国内外を問わず世界中から高い評価を獲得しており、2022年における販売台数はグループ全体で1048万台を突破するなど、ドイツの「フォルクスワーゲン(Volkswagen)」グループを上回って三年連続となる世界トップに輝きました。
自動車業界は、新型コロナウイルスの感染拡大や半導体不足を原因として国内を中心に減産を強いられる状況となっていましたが、トヨタではおおむね販売台数を維持することに成功しており、その結果、826万2,800台だったフォルクスワーゲングループを上回ったというわけです。
このように、トヨタは日本国内のみならず世界においても高い影響力を持つ企業となっており、「笑顔のために。期待を超えて。」というグローバルビジョンのもと、さまざまなプロジェクトを推進しています。
1-2.トヨタ自動車株式会社の事業内容
前述の通り、トヨタは世界をまたにかける巨大自動車メーカーですが、自動車以外の分野についても積極的な事業展開を行っています。ここでは、トヨタが行っている事業内容について、簡単に紹介していきます。
・金融事業
トヨタファイナンシャルサービス株式会社(TFS)が、世界35カ国以上の国・地域で、自動車ローンやリースを中心に金融サービスを提供しています。
・住宅事業
トヨタホーム株式会社が戸建住宅を主力にマンション、リフォームなど住まいに関わるさまざまな事業を手がけています。
・マリン事業
「トヨタマリン」が企画から製造・販売まで一貫して取り組み、安全で快適且つ上質な自家用クルーザーを手がけています。
・アグリバイオ事業
自動車生産やバイオテクノロジー開発で培った経験とノウハウを活かした、農業支援の取り組みを紹介しています。
・ウェルウォーク事業
脳卒中などによる下肢麻痺者のリハビリテーション支援を目的としたロボット「ウェルウォーク(医療関係者向けサイト)」を事業展開しています。
・ブロックチェーン関連事業
19年4月にトヨタグループの主要関連企業が横断的に連携して立ち上げた「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」と呼ばれるバーチャル組織を中心として、ブロックチェーン技術を駆使した新しい価値創造を追求しています。
このように、トヨタでは自動車以外の分野においても幅広い事業展開を行っており、クライアントのニーズに合わせた利便性の高いサービスを提供しています。
そして、今回は中でも、ブロックチェーン関連事業である「トヨタ・ブロックチェーン・ラボ」が展開するプロジェクトについて詳しく解説していきます。
②トヨタ・ブロックチェーン・ラボとは
2-1.トヨタ・ブロックチェーン・ラボの概要
トヨタ・ブロックチェーン・ラボ(TOYOTA BLOCKCHAIN LAB)とは、2019年4月にトヨタグループの主要関連企業6社が横断的に連携して立ち上げられた、ブロックチェーン関連のバーチャル組織のことを指します。
トヨタ・ブロックチェーン・ラボはトヨタ自動車やトヨタグループの主要企業からそれぞれの担当者が集まるかたちで誕生し、さまざまな実証実験を通して、ブロックチェーン技術を駆使した新しい価値の創造を追求しています。
また、ブロックチェーン技術について、あらゆるモノやサービスが情報でつながっていく時代において、生活する人々や事業者を安全で安心、且つオープンにつなぐことを支える有用な技術基盤であると考えており、さまざまな角度からその応用法を探っています。
2-2.トヨタ・ブロックチェーン・ラボ立ち上げの背景
IoT(モノのインターネット)の進展などによって、さまざまなモノやサービスが情報でつながり、高い利便性や効率性を実現している一方で、情報の漏えいや改ざん、不正利用などといったセキュリティ面における対応の重要性もますます高まっています。
そんな中、トヨタはモノづくりを中心として、モビリティに関連するあらゆるサービスの提供を行う「モビリティカンパニー」を目指しています。そして、これを実現するためにグループ内外の仲間づくりを進めるにあたって、商品やサービスを利用する顧客やそれらを提供するさまざまな事業者が、安全で安心な環境のもとより一層オープンにつながることが重要になると考えています。
ブロックチェーン技術は、改ざんに対する耐性が高いことや、システムダウンを起こしにくいといった特性を持っており、情報について高い信頼性を保つことによって、多種多様な関係者間における安全なデータ共有を実現することが可能であると言われています。
トヨタでは、このブロックチェーン技術がグループ内外における仲間づくりを支え、その結果、顧客にとってもより利便性が高く、且つ最適化されたサービスの提供が可能になると考えています。また、事業の効率化や高度化を図れるほか、既存の概念にとらわれない全く新しい価値創造をもたらすことができるとしており、こうしたブロックチェーン技術の持つ可能性が議論された結果、トヨタ・ブロックチェーン・ラボが立ち上げられたということです。
2-3.トヨタ・ブロックチェーン・ラボのテーマ
トヨタ・ブロックチェーン・ラボでは、ブロックチェーン技術の活用に関して、下記4つのテーマを掲げています。
- トヨタグループの顧客を軸として、グループ内外におけるサービスをワンストップで利用可能な共通のデジタルIDを発行し、契約のデジタル化や顧客自身による情報管理の実現、またポイントサービスなどにフル活用することで、利便性を大幅に向上する。
- 車1台1台に固有のデジタルIDを付与することで、車両のライフサイクルに紐づいたあらゆる情報を蓄積および活用し、データを使った各種サービスの高度化や新しいサービスの開発を進めていく。
- トヨタグループの巨大なサプライチェーンをデジタル化し、部品製造や発送などに関連するデータを記録および共有することで、トヨタの業務プロセスのさらなる効率化を図るとともに、サプライチェーン内においてあらゆる部品の「トレーサビリティ(追跡可能性)」の向上を実現する。
- 車両などの資産や権利といったあらゆる価値あるものをデジタル化し、新たな資金調達手段を開発および流通させることにより、顧客や投資家との中長期的な関係の構築を進めていく。
③3つの領域での活用事例
トヨタ・ブロックチェーン・ラボでは、前項で紹介したテーマに則した「サプライチェーン」、「ヴィークル(Vehicle)ID」、「パーソナル(Personal)ID」という3つの領域においてブロックチェーン技術の導入を進めており、実際の活用事例が報告されています。
ここでは、それぞれの領域に分けて、実際の具体的な応用法を紹介していきます。
3-1.サプライチェーンにおける応用法
自動車産業全体では莫大な「ヒト、モノ、おカネ」が常に動いており、トヨタはここにブロックチェーン技術を活用できないかと考えました。
具体的には、製造過程における部品データのトレーサビリティのさらなる向上や、工場内の製造設備についての複数事業者間におけるデータの共有、また品質管理における部品の組成情報についてのトレーサビリティや、それらを金融サービスと一体化させる構想が報告されており、実際に2021年2月からは電子契約サービスの商用利用がスタートされました。
この電子契約サービスは「TBLOCK SIGN」と名付けられており、契約締結のさらなる効率化を目的として、トヨタグループのサプライチェーンを構成する企業が電子的に契約締結できるサービスとなっています。TBLOCK SIGNを支えるブロックチェーンベースとしては、アメリカの「R3社」が手がける「Corda(コルダ)」が採用されています。
Cordaは標準開発言語が「kotolin」であり、「JAVA」を使うことができて且つ分散システムのノウハウさえ持っている方であれば誰でも開発が可能だと言われているため、その他のブロックチェーンと比較しても開発者の確保がより容易であると考えられています。
このような理由から、トヨタはCordaチェーンをベースとした電子契約システムを構築しており、契約内容の真正性を担保することができるだけでなく、契約締結以外の見積や受発注、請求などといった業務においても利用可能なサービスを提供しています。また、TBLOCK SIGNシステムの導入によって、グループ内における事務の合理化のみならず、サプライチェーンのトレーサビリティの可視化も可能となるため、取引の透明性をより高めることができるということです。このほか、データ規制国のように、データを国内に保存しておく義務のある国との取引についても対応を進めていくとしており、よりグローバルなサービス展開が期待されています。
3-2.ヴィークル(Vehicle)IDにおける応用法
ヴィークル(Vehicle)IDにおける応用法については、車両の整備や検査情報、また車両の状態についての情報などをブロックチェーン上で共有することによって、データ信頼性のさらなる向上および可視化を実現することができると説明しています。また、ブロックチェーン上に記録されたデータを利用し、カーシェアリングや中古車売買、保険などといった関連ビジネスに広げていくことで、新たな価値創造が可能になるということです。
トヨタでは20年3月時点において、ヴィークルIDおよび次に解説する「パーソナル(Personal)ID」の基盤構築およびID間連携についての実証実験を完了しており、ヴィークルIDでは車両情報の登録や整備情報の記録のほか、情報閲覧権限の管理や所有権の移転などができる基盤が構築がされました。また、ヴィークルIDに紐付けられている車両情報に関しては、パーソナルIDに紐付けられた所有権や閲覧権限をもとにして制御されるなど、相互の基盤は連携して動作する仕様になっているということです。
さらに、スケーラビリティを必要とする処理についてレイヤー2ソリューションを使用するほか、秘匿化が必要なヴィークルIDについてはコンソーシアムで管理するなど、目的に応じてシームレスに作用するような設計がなされています
3-3.パーソナル(Personal)IDにおける応用法
パーソナル(Personal)IDにおける応用法については、将来的にトヨタグループ内のサービスのみならず、その外に広がるユーザーの暮らしにまで紐付くような価値提供をしていきたいと語っています。
具体的には、あらゆる場所で利用することが可能な共通IDとして、消費者が自分自身で情報を管理できる「自己主権型ID」をコンセプトとして開発が行われたということです。パーソナルIDには、発行や証明書を利用した認証や、パーソナルIDに紐付けられた契約締結のほか、ポイント支払いといった処理を実装しているということです。
④知財DXプラットフォームへの応用
4-1.知財DXプラットフォーム「Proof Chain of Evidence(PCE)」とは
2022年3月31日、トヨタ自動車はマイクロソフト社が手がけるクラウドサービスMicrosoft Azure(アジュール)をベースとする知財DXプラットフォーム「Proof Chain of Evidence(PCE)」を構築したことを明らかにしました。このPCEは世界基準の証拠採用ルールに則った電子データの証拠保全を行うプラットフォームとなっており、技術情報についての証拠力向上を図るとともに、知財係争訴訟に対する対応力のさらなる強化を目指しています。
また、国内発のスタートアップ企業Scalar(スカラー)が手がけるブロックチェーン基盤「Scalar DLT」に実装されている「改ざん検知機能」を利用することで、電子データの証拠保全を実現するということです。
なお、2022年3月31日時点では社内における検証を完了した段階だと伝えられており、現在は本番システムの構築や社内への本格展開が進められているということです。
4-2.Proof Chain of Evidence(PCE)の仕組み
PCEはクラウド上のファイルストレージサービスにおいて保管されている電子データをScalar DLTに記録し、記録が行われた順序および内容の改ざんを検知する仕組みとなっています。また、Scalar DLT内にファイルストレージ上の電子データのハッシュ値を記録することによって、電子データの登録および改定の順序を維持した状態での証拠保全が可能となります。
このほか、Scalar DLTの証拠に対し、各国の裁判所が承認しているタイムスタンプ局を用いて定期的に複数のタイムスタンプを付与、さらには「タイムスタンプ・トークン」を生成し、これをScalar DLTに記録することで、Scalar DLT自体が改ざんされていないことを証明しています。
PCEでは、このような仕組みを採用することで、10年を超える電子データの保全を実現しているということです。
⑤まとめ
トヨタは日本国内を代表する自動車メーカーとして世界でも高い評価を獲得しており、2022年の販売台数はグループ全体で1048万台を突破、三年連続となる世界トップに輝くなど、圧倒的な存在感を誇っています。
そんなトヨタでは比較的早い段階からブロックチェーン技術の可能性について議論がなされており、実際すでに当該技術を駆使した利便性の高いシステムが複数導入されています。これらのシステムは今後、トヨタグループ内のサービスのみならず、その外に広がるユーザーの暮らしにまで紐付くような画期的なものへと成長していくことが期待されているため、引き続きその動向が注目されるでしょう。
中島 翔
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