【サステナブル・ブランド国際会議 2024レポート】資源循環に向けたイノベーション、リサイクルにおけるパートナーシップ共創の推進

2024年2月21日・22日に「サステナブル・ブランド国際会議 2024」が開催されました。2024年で8回目を数える同会議は「REGENERATING LOCAL(リジェネレーティング・ローカル)」のテーマを下に、多様なセッション・ワークショップなどが開催されました。

本稿では、「資源循環に向けたイノベーション、リサイクルにおけるパートナーシップ共創の推進」についてレポートします。同セクションでは東レ株式会社・日揮ホールディングス株式会社の、日本を代表する大企業の資源循環の取り組み・考えなどが紹介されました。

※本記事は2024年3月28日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. 登壇メンバー
  2. 東レの資源循環コンセプトと取り組み
  3. 日揮が実践する、資源循環実現のための取り組み
  4. サステイナブルブランディング事業にも注力するYUIDEA
  5. 【パネルディスカッション】回収の仕組み作りのポイントは?
    5-1.イノベーションを生み出すための取り組み
    5-2.回収の取り組み
  6. 【パネルディスカッション】環境価値と経済価値の両立をどう成し遂げる?
    6-1.情報発信
    6-2.環境価値と経済価値の両立
  7. まとめ

1.登壇メンバー

ファシリテーター 株式会社YUIDEA 内藤 真未氏
パネリスト 東レ株式会社 勅使川原 ゆりこ氏
日揮ホールディングス株式会社 森田 光雄氏

2.東レの資源循環コンセプトと取り組み

最初に東レ株式会社 勅使川原 ゆりこ氏より、東レ株式会社(以下、東レ)が取り組むサーキュラーエコノミーについて説明がありました。
サーキュラーエコノミー
※以下、画像は全てパネルディスカッションより筆者作成

上記画像は、東レの資源循環コンセプトです。東レの製品サイクルには、原料→ペレット(プラスチックの小粒)→東レ製品→使用済みプラスチック→廃棄というサイクルがあります。

同サイクルにおいて、東レでは、使用済みプラスチックをペレットの状態に戻す「マテリアルリサイクル」や、同じく使用済みプラスチックを原料の状態に戻す「ケミカルリサイクル」などを実施し、資源を循環させています。
ケミカルリサイクル

東レの具体的なリサイクル事例として、「漁網to漁網」があります。廃棄された漁網や漁網を作る過程で出た工程屑を分別・前処理などのプロセスを経て、再び漁網に蘇らせる取り組みです。
リサイクル繊維ブランド「&+®」

「&+®」は、使用済みペットボトルを原料とするリサイクル繊維ブランドです。ネーミングには「リサイクル事業は個社では成し得ず、周りを巻き込んでこそ成り立つ。皆の未来への想い・アクションが繋がることで+の価値が生まれる」という東レの想いが込められています。
&+®回収への取り組み

「&+®」では、東京マラソン2021大会で回収したペットボトルを、2024年大会のボランティアウェアに生まれ変わらせるプロジェクトを実施しました。そのほか、サントリー社とタイアップし、東レ社内の自動販売機より回収したペットボトルを&+®の原糸にする取り組みも行われています。
資源循環社会の実現

セクションの終盤、勅使川原氏は、「繰り返しになりますが、資源循環(リサイクル)は個社ではなかなかできず、チェーンが繋がって初めて成し遂げられるものです。引き続き、資源循環を目指すパートナーと共に資源循環のチェーンを繋げていきたいですね」と述べました。

3.日揮が実践する、資源循環実現のための取り組み

日揮ホールディングス株式会社(以下、日揮)森田 光雄氏からは、日揮が資源循環を実現するための取り組みが紹介されました。
日揮ホールディングス株式会社サステナビリティオフィス

日揮のサステナビリティ協創オフィスは、サステナビリティ関連の新規事業を立ち上げる部門です。オフィス名にある協創は、サステナビリティは企業が個別で取り組むのは難しいため、外部のパートナーと共に課題解決を目指すという想いが込められています。

同オフィスでは「CO2マネジメント」「バイオ」「資源循環」の3つの領域に注力しています。森田氏からは「資源循環」領域で力を入れているプラスチックのケミカルリサイクルについての話がありました。
適材適所のリサイクル技術

日揮では不純物の多寡に応じた、プラスチックの適材適所のリサイクル技術を持っています。例えば、不純物の比較的少ないポリエステルはモノマー化※し、その次に不純物の少ないポリプロピレンやポリエチレンなどは油化します。一方、不純物の比較的多いプラスチックについてはガス化して、水素やメタノールなどに生まれ変わらせています。

※プラスチックの分子を最小単位であるモノマーにして、原料として使用できる状態にすること。

繊維回収
日揮が資源循環について結んでいる、パートナーシップ事例を紹介します。

まず一つ目として、2024年3月末までは衣類回収サービス「するーぷ」が実証実験中です。同実験は神戸市が地域課題・社会課題の解決に向けて公募した「令和5年度 CO+CREATION KOBE Project」の事業として採択され、実施されています。するーぷは、消費者が不要な衣服を回収ボックスに入れると、寄付やクーポンと交換できるポイントが付与される仕組みです。

同実験について森田氏は「するーぷが成功すれば、繊維リサイクルが達成できるのではないか」と期待を寄せていました。

Fry to Fly Project
「Fry to Fly Project」は、家庭や店舗で発生した食用油(廃食用油)から航空燃料「SAF(サフ)」をつくり飛行機が空を飛ぶ、空の脱炭素プロジェクトです。同プロジェクトの参加メンバーは84組織に上り、異業種連携が進んでいます。

循環社会の実現
最後に森田氏は「資源循環を実現するためには、今こそ協創が必要です。異業種連携や技術協業などを加速させていきたい」と決意を述べていました。

4.サステイナブルブランディング事業にも注力するYUIDEA

YUIDEA

ファシリテーターである株式会社YUIDEA(以下、YUIDEA) 内藤 真未氏からは、同社の企業紹介が行われました。
サステイナブルブランディング事業にも注力するYUIDEA

1995年9月に設立されたYUIDEAは、約30年に渡り、コーポレートコミュニケーションの支援および生協事業支援を通じて、企業価値の創出および生活者のウェルビーイングに寄り添い、サステイナブルな社会の実現に貢献してきました。

また、YUIDEAでは2021年よりサステイナブルブランディング事業にも注力をしています。
サステイナブルブランディング事業

YUIDEAのサステイナブルブランディング事業では、企業のパーパスを起点に、インターナル・エクスターナル双方を繋ぎ、各ステークホルダーへ向けた最適な情報発信・コミュニケーション設計を行っています。

オウンドメディア
YUIDEAの制作実績として、セクションにも参加している東レの特設サイト「GO CIRCULAR」があります。YUIDEAは、コンセプト作りからサイトデザイン・コンテンツ制作などに携わっています。

YUIDEAの仕事
YUIDEAが運営するオウンドメディア「サステナブル・ブランド・ジャーニー」では、サステナビリティの実践に役立つ情報を発信しています。

5.【パネルディスカッション】回収の仕組み作りのポイントは?

セッションの後半はパネルディスカッションが行われました。

5-1.イノベーションを生み出すための取り組み

最初に内藤氏から投げかけられたのが「東レ様・日揮様、ともにイノベーションは重要な企業テーマであると想います。イノベーションを生み出しやすくするために何をされていますか」という質問です。勅使川原氏は「資源循環に寄与するイノベーションは、異なるバックグラウンドを持つメンバーが集まり、意見をぶつけ合うことで生まれるものだと思います。私が室長を務める環境ソリューション室も、様々な部署をまたがり、多様なメンバーで構成されるようにしています」と回答しました。

一方、森田氏は「私が所属するサステナビリティ協創オフィスは、ホールディングス傘下の事業会社とは別の組織として動いており、既存事業の動向に左右されないという特徴があります。この特徴は、よくある『既存事業が忙しくなったため、人が抜かれる』という心配もなく、イノベーションを起こす上で大切なポイントだと思います」と答えていました。

この森田氏の回答について、内藤氏は「既存事業からある種独立している組織の在り方は、すごく斬新だと思いました」と感想を述べていました。

5-2.回収の取り組み

続いて内藤氏から投げかけられたのは「回収の取り組みについて、どうしていますか?」という質問です。

勅使川原氏は「回収は本当に悩んでいます」と切り出しました。「回収プロセスにおいては多様な企業・組織と協力関係を築くことが大切ですね。また消費者にリサイクルを自分ごとと捉えてもらい回収にご協力いただけるような、消費者の行動変容を促す取り組みも大事だと思います」と続けました。

それを受け、内藤氏は「東レ様が実施した、東京マラソンで回収したペットボトルをボランティアウェアにするプロジェクトは消費者の行動変容に寄与しますよね」とコメントします。勅使川原氏も「おっしゃる通りですね」と返答していました。

一方の森田氏も「勅使川原さんと同意見で、回収の仕組み作りは非常に難しい」と前置きをしつつ、「Fry to Fly Projectでは、小学校に出向いて食用油で飛行機が飛べることを授業しました。回収をした後どうなるかを消費者に啓蒙することが大事かと思います」と付け加えていました。

6.【パネルディスカッション】環境価値と経済価値の両立をどう成し遂げる?

6-1.情報発信

内藤氏は「自社の資源循環に関する技術や取り組みなどについて、情報発信はどのようにされているのでしょうか」と質問しました。勅使川原氏は「『&+®』では動画で取り組みを発信しています。またYUIDEAさんと運営している『GO CIRCULAR』でも情報発信をして、一緒に資源循環に取り組むパートナーを探しています」と回答します。森田氏は「当社もオウンドメディア『サステナビリティ ハブ』を立ち上げ、当社の取り組みや技術を発信しています」と答えていました。

6-2.環境価値と経済価値の両立

最後に内藤氏から「環境価値と経済価値をどのように両立していきたいと考えていますか?」という質問がなされました。勅使川原氏は「リサイクルされた製品というだけでは、なかなか価値を訴求するのが難しいのが現実です。そのため、なるべく高品質なリサイクル製品に仕上げていくことでリサイクル+αの価値を作り上げていくことが大切ですね。また、資源循環に取り組む組織のサーキュラーエコノミーの輪をたくさん作ることも重要です」

森田氏は「一番簡単なのは政府が制度設計を整えることかと思います。ただ政府の動きを待っていてもしょうがないため、様々なイベントを通じて、資源循環に取り組むと『良いことをやっている感』が味わえることを皆さんに知ってもらい、少しずつ資源循環の機運を高めることが重要ではないでしょうか」とコメントしました。

このようなパネルディスカッションを経て内藤氏は「今日のこのセッションが資源循環のパートナーシップが広がっていくきっかけになれば嬉しく思います」と締めくくっていました。

7.まとめ

本セクションでは東レ・日揮の資源循環の取り組みや技術などについて詳しく紹介されていました。

両社ともに「資源循環は個社ではできない。多様なパートナーと共創しなければいけない」という主旨の話をしていたのが印象的でした。資源循環は、自社だけでは成り立たないダイナミックかつ挑戦的な取り組みであるとも言えるでしょう。

東レ・日揮含め、企業の資源循環に関する情報発信を参考にして「当社でも何か連携できることがあるかも」と思うことがあれば、ぜひ連絡をしてみてはいかがでしょうか。

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庄子 鮎

証券会社および求人広告会社を経て、2019年よりフリーライターに。証券会社時代では営業職に従事し、主に株式や投資信託、債券の販売を経験。また現在、投資家でもあり、FX・日本株・米国株などへ投資をしている。"どういう表現でどこまで説明すれば、より分かりやすくなるか"を意識し、解説していきます。