一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- 「RGGI」とは
1-1.「RGGI」の概要
1-2.「RGGI」立ち上げの背景
1-3.「RGGI」の目的と活動内容 - 「RGGI」の特徴
2-1.50%以上の削減達成
2-2.主権はすべて州内に留保
2-3.モデルルールの策定
2-4.排出枠の取り置き
2-5.オフセットが可能 - RGGIにおけるオークション制度
3-1.オークション制度の概要
3-2.オークション制度の特徴
3-3.オークション収益の活用方法 - まとめ
「RGGI(Regional Greenhouse Gas Initiative)」は、アメリカの北東部に位置する州で構成されている、温室効果ガス排出抑制のための地域温室効果ガスイニシアチブのことを指します。
近年、世界中で脱炭素社会の実現に向けたムーブメントが繰り広げられている中、RGGIは温室効果ガスの排出大国と言われているアメリカで排出量削減への取り組みをリードする存在として、大きな期待が寄せられています。
そこで今回は、そんなRGGIについて、組織の概要や特徴、また取り組み内容などを詳しく解説していきます。
①「RGGI」とは
1-1.「RGGI」の概要
「RGGI」は「Regional Greenhouse Gas Initiative」の略で、日本語で「地域温室効果ガスイニシアチブ」と言います。2005年12月に米国北東部の7州によってスタートし、その後も続々と州が参加。2009年には排出総量規制を取り入れた「キャップ&トレード型」の制度が始まりました。これは、発電所からの二酸化炭素排出量に上限を設け、超過や未満分を取引する仕組みです。
RGGIの「MOU(Memorandum of Understanding)」覚書によれば、初の目標期間である2009年〜2014年では、特定の発電所の二酸化炭素排出量を現状維持が目指されました。次の2015年〜2018年の期間では、年間排出上限を2.5%ずつ削減し、合計10%の削減を目指しました。
2023年現在、RGGIには12の州が参加しています。
参加州はコネチカット州、デラウェア州、メイン州、メリーランド州、マサチューセッツ州、ニューハンプシャー州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ペンシルバニア州、ロードアイランド州、バーモント州、バージニア州です。
1-2.「RGGI」立ち上げの背景
2007年から2010年にかけて、アメリカ全体の排出量取引制度の議論が活発になりました。しかし、国レベルでの制度導入は難しく、各州での取り組みが進められるようになりました。具体的には、2003年からいくつかの州で発電所の二酸化炭素排出に対する「キャップ&トレードプログラム」の議論が始まり、それがRGGIの成立へとつながりました。
アメリカは工業化の進展とともに多くの二酸化炭素を排出しており、世界のランキングでも常に上位です。しかし、国全体での取り組みが困難であるため、州ごとの制度が注目を浴びるようになりました。実際、西海岸のカリフォルニア州でも2012年から排出量取引制度が導入されており、RGGIと同様に世界から注目されています。
1-3.「RGGI」の目的と活動内容
RGGIは、参加している各州の排出量取引プログラムをサポートするための技術や管理サービスの提供を目的としています。その実現のために、以下の主要な活動を行っています。
- RGGIの対象となる排出源からのデータを報告し、二酸化炭素の排出量を追跡するシステムの開発と維持
- 二酸化炭素排出権のオークションが実施可能なプラットフォームの導入
- 二酸化炭素排出権のオークションおよび取引に関連するマーケットの監視
- 参加国に対する排出オフセットプロジェクトの申請審査のための技術支援の提供
- 各州の排出量取引プログラムの変更案を評価するための技術支援の提供
②「RGGI」の特徴
2-1.50%以上の削減達成
RGGIはその立ち上げ以来、全体でおよそ50%を超える排出量の削減を達成しており、これは国全体と比較して2倍に相当するスピードとなっています。
さらに、クレジットから創出された資金については、これまでに地元コミュニティに対しておよそ60億ドル近くが調達されたということで、脱炭素社会の実現に向けて大きく貢献していると言えるでしょう。
2-2.主権はすべて州内に留保
RGGIには規制当局や執行当局などが存在しないため、主権はすべて州内に留保される仕組みとなっています。
また、取締役会は、RGGIに参加している各州のエネルギーおよび環境規制当局の責任者によって構成されているということで、その具体的なメンバーについてはRGGIの公式ウェブサイトにおいて確認することが可能です。
2-3.モデルルールの策定
RGGIは各州の協力のもとモデルルールを開発しています。このルールは各州のカーボンクレジット作成のテンプレートとして働き、排出量削減の活動はこのルールに従って進められます。
具体的には、モデルルールに基づき発電所の二酸化炭素排出量を制限し、それに基づいたカーボンクレジットの発行や地域のオークションへの参加が行われています。
2-4.排出枠の取り置き
RGGIのシステムの特徴として、初期配分時にクレジットの取り置きがあります。これは新規参入者への配慮から来ており、既存の排出源に比べて新規参入者には不公平が生じるため、このシステムを導入しています。
RGGIでは、少なくとも25%のクレジットが取り置きされることが定められています。
2-5.オフセットが可能
RGGIでは、排出量のオフセットを認めることで排出量の柔軟な管理を可能にしています。オフセットは、温室効果ガスの排出を他の活動で相殺する仕組みです。
このオフセットを通じて、許容排出量が増加しますが、これは規制者の参加を促すための措置として設けられています。RGGIでは、オフセットの利用上限を設定しており、それぞれの排出源で3.3%までと定められています。
また、オフセットが認められる地域はアメリカ国内に限られ、RGGI非参加州でのプロジェクトは、2t-CO2の排出削減で1クレジットが得られる仕組みとなっています。
③RGGIにおけるオークション制度
3-1.オークション制度の概要
RGGIに参加している各州が発行するカーボンクレジットは、四半期ごとに行われるクレジットオークションを通じて主に分配されます。
RGGIの各州は、オンラインのオークションプラットフォームでカーボンクレジットの提供と販売を行い、関連するデータやレポートはRGGIの公式ウェブサイトで公開されています。オークションでの購入上限は売却されるクレジットの25%、最低落札価格は1.86ドル/t-CO2と定められています。RGGIはクレジットの割り当て方法を各州に任せており、大半の州がクレジットのほぼ全量をオークションで分配する方針を採用しています。また、オークションの収益は各参加州に返され、エネルギー効率の向上や再生可能エネルギー、光熱費補助、温室効果ガス削減のためのプログラムへの投資に活用されています。
3-2.オークション制度の特徴
① 誰もが参加可能
オークションは各州の法定や規制当局により開催され、事前に登録を完了した参加者なら、企業、個人、NPO、環境団体を問わず参加が可能です。また、アメリカ外の企業も国内企業と同様の条件でオークションに参加できます。
② 信頼性の高い取引環境
「ワールド・エナジー・ソリューションズ」がオークションの運営を、そして「ポトマック・エコノミックス」が市場のモニタリングを担当し、参加者は安全な取引を期待できます。
③ マーケットモニターレポートの公開
オークションの透明性と信頼性を保つため、RGGIは各オークション後にマーケットモニターレポートを公開しています。このレポートはポトマック・エコノミックスにより作成され、RGGIの公式ウェブサイトでアクセスできます。レポートには、市場参加者の行動評価、市場操作や共謀の可能性の調査、オークションの効率性や適切な運営状況の評価などが含まれています。
3-3.オークション収益の活用方法
RGGIのオークション収益は、各参加州に返還され、さまざまなプロジェクトに再投資されています。主な活用先は以下の通りです。
- エネルギー効率の向上と省エネ対策の推進
- 再生可能エネルギーの導入・推進
- 電力料金の緩和
- 革新的な炭素排出削減技術の開発支援
- ETS運用に伴う行政コストの補助
- 温室効果ガスの削減を目的としたその他のプログラム
これらの再投資により、地域の企業、低所得層、産業、家庭などが大きな恩恵を受けています。また、2023年6月の「2021年のRGGI収益への投資1」レポートによると、RGGIの取り組みにより以下の成果が得られています。
- 約12億ドルのエネルギー料金節約
- CO2排出の削減(440万トン)
この収益の活用は、地域全体の脱炭素化を支えており、今後の進展が期待されます。
④まとめ
RGGIは、アメリカ北東部の州を中心とした、温室効果ガス削減イニシアチブです。このイニシアチブは、各州の排出量取引プログラムのサポートを目的として、カーボンクレジットのオークションなどの取り組みを進めています。
実績として、RGGIの設立から現在までの成果は目覚ましく、国平均の2倍の速さで排出量を削減しています。具体的には、設立時と比較して50%以上の温室効果ガスの削減を達成しています。
次回のオークションは、2023年の9月6日と12月6日に予定されています。この機会に、RGGIの取り組みをより深く知ることができるでしょう。
中島 翔
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