今回は、ファッション業界のブロックチェーン導入事例について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- ファッション業界でブロックチェーンが注目される理由
- 「NFTファッション」とは
2-1. メリット①:コレクションと親和性が高い
2-2. メリット②:ファッションブランドの収益手段の多様化
2-3. メリット③:二次流通におけるロイヤリティが発生する
2-4. メリット④:偽造品の流通を防ぐことができる - ルイ・ヴィトンの活用事例
3-1. ブロックチェーンゲーム「LOUIS THE GAME」
3-2. ゲーム内で獲得できるNFTアイテム - ティファニーの活用事例
4-1. ブランド初参入となる「NFTiff」
4-2. 「NFTiff」の構想 - バーバリーの活用事例
5-1. ブランド初のNFTコレクション
5-2. NFTコレクション第二弾 - グッチの活用事例
6-1. NFTアート「GUCCI (EST. 1921)」
6-2. 「SUPERGUCCI」プロジェクト
6-3. 仮想通貨決済への対応 - まとめ
ブロックチェーン技術のユースケースが多様化する中で、NFT(非代替性トークン)や暗号資産(仮想通貨)を組み込んだサービスが出てきています。ブロックチェーン技術はその利便性の高い性質から、現在は環境や医療、物流などといったさまざまな分野で活用されています。
そんな中、一際大きな注目を集めているのが、ファッション業界への導入です。近年、ファッション分野でもデジタルファッションにNFTを組み合わせた「NFTファッション」と呼ばれるコンテンツが注目を集めており、若年性のブランドから世界的なハイブランドまで、次々と参入を表明しています。
そこで今回は、ファッション業界で進んでいるブロックチェーンの利用方法について、その概要や実際の事例などを詳しく解説していきます。
①ファッション業界でブロックチェーンが注目される理由
「ブロックチェーン(blockchain)」とは、ネットワーク上の取引データを「ブロック」と呼ばれる単位で束ね、取引記録を暗号技術を用いて「チェーン」のようにつないで複数のノードに分散的に記録するデータベースのことを指します。
ブロックチェーンでは、不特定多数のユーザー同士がオンライン上で取引履歴を記録し監視する仕組みなので、データの不正や改ざんが極めて難しいという特徴があります。また、ネットワークの参加者が対等に、且つ互いに監視し合った環境で取引が行われる仕組みとなっており、より高い透明性と正当性を維持できるとされています。
ブロックチェーンは元々、仮想通貨「ビットコイン(BTC)」の基盤技術として脚光を集めました。現在ではほかの仮想通貨のベースとして発展しているほか、契約の自動化を組み入れたスマートコントラクトを搭載することで、金融・物流管理をはじめとする様々な企業利用の領域においても活用が急速に進んでいます。
②「NFTファッション」とは
今回ご紹介するのは、オンライン空間で自分を表現する方法となる「NFTファッション」です。
まずイメージしやすいのは、メタバースではないかと思います。メタ社はメタバースについて「ソーシャルコネクション、人と人とのつながりの進化した形」と説明しました。メタバースの中が新たなソーシャルコネクションの場所となったときに、個々人のアイデンティティを主張するためのデジタルファッションが、現実社会と同じように価値を持ち出すことが見込まれています。
こうした考え方はメタバースに限りません。ソーシャルメディアや特定のコミュニティとかかわる場所で、自分の趣味趣向、過去のアクティブティを表現できる「NFTファッション」は最注目となっています。
NFTファッションはブロックチェーン技術に基づくため、唯一性を付加できることと、データの改ざんが不可能という特徴を引き継ぎます。NFTファッションはこの特徴により、デジタル上のファッションに所有権の証明、1点ものの価値を付与することが可能になります。これまでデジタルファッションは、主にAR技術を活用し、アバターや自身の写真を元にデジタル上での試着が行えるといった用途がメインでした。NFT技術が加えられたことにより、商品としての価値を生み出すことに成功しています。
最近ではNIKE、Dolce&Gabbana、Gucciといった有名ブランドが相次いでNFTファッション業界に進出したことで、大きな注目を集めています。今後も有名ブランドの参入が予想され、NFTファッションの市場のさらなる発展に期待が寄せられています。以下ではこれらの企業がNFTファッションを導入することによって、どのようなメリットがあるのかを解説していきます。
2-1.メリット①:コレクションと親和性が高い
ファッションアイテムはただ着用するだけでなく、コレクションするという楽しみ方もあります。コレクターの中には、スニーカーなどを何十足も収集し、一度も履くことなく箱にしまっておくという方も多いのではないでしょうか。しかし、このような行為は近年重視されている「SDGs(持続可能な開発目標)」の考え方に逆行するものであるとも言われています。
そんな中、NFTファッションはデジタルデータであり、実体がないため、リアルな素材を使用することがないという点から、無駄な廃棄物や有害物質を生むことがないサステナブルなアイテムとして注目されています。また、デジタルデータであることから、どれだけ多くのアイテムをコレクションしても保管場所をとらないため、コレクターは収集対象をリアルなアイテムからNFTファッションにシフトすることで、サステナブルなコレクションを実現できるというわけです。
2-2.メリット②:ファッションブランドの収益手段の多様化
デジタルファッションアイテムは、リアルのファッションアイテムと比べても製造コストが抑えられるほか、在庫を持つことなく販売できるというメリットがあります。また、NFT技術を付加することによって、完全オリジナルの唯一無二の価値を持つ商品として販売できるようになるため、新たな収益源としても期待されています。
多くのNFTファッションは「メタバース」と呼ばれる仮想空間において自身のアバターを介して着用できるようになっています。このメタバースの市場規模はグローバルで8,000億ドル(約112兆円)、また国内では30年までに約24兆円規模まで成長することが期待されており、新たなビジネスチャンスとして多くの企業が注目しています。このように、NFTファッションは今後、ファッションブランド業界における新たな収益手段になるとして期待されています。
2-3.メリット③:二次流通におけるロイヤリティが発生する
商品の流通において、消費者が一度購入した商品がリサイクルショップやフリマアプリなどで再び販売されることを「二次流通」と呼びます。
リアルなファッションの世界では、消費者が購入したアイテムにプレミアがつき、高額で売買されるといったケースがよくあります。中でも、ハイブランドの時計やバッグ、スニーカーなどは特に、販売価格の何倍もの値段で取引されるという事例が多く見られています。しかし、リアルのファッションアイテムの場合、一部を除き二次流通のロイヤリティが発生しない仕組みになっています。つまり、二次流通において高値で取引されたとしても、メーカーやブランド側には収益が生じないというわけです。
一方で、NFTファッションの場合は流通時にブランドのロイヤリティを付加することができるため、クリエイター側にも収益が入る仕組みを構築することが可能です。これは、ブロックチェーン上においてNFTの取引履歴がすべて公開され、照会できるという特性から実現されたシステムで、転売が繰り返されるとその都度クリエイターにロイヤリティが還元されるプログラムを組むことで、クリエイターも継続して収益を獲得できる仕組みを構築できるというわけです。
2-4.メリット④:偽造品の流通を防ぐことができる
ファッションをNFTとして販売する「NFTファッション」は、ブロックチェーンが持つデータの不正や改ざんが極めて難しいという特徴から、ブランド商品の偽造品が流通するのを防ぐことができます。
これまで、偽造品や粗悪品はファッション業界において解決すべき課題の一つとなっていましたが、ブロックチェーン技術によって唯一性を担保することが可能となるため、NFTファッションアイテムに関してはコピー商品が市場に出回り、ブランド側が利益侵害されることを防げるというわけです。
③ルイ・ヴィトンの活用事例
3-1.ブロックチェーンゲーム「LOUIS THE GAME」
フランスが誇る高級ブランド「ルイ・ヴィトン(Louis Vuitton)」はブロックチェーン技術を積極的に導入しており、21年8月4日にはブロックチェーンゲームアプリである「LOUIS THE GAME」のリリースを果たしています。このLOUIS THE GAMEは、ルイ・ヴィトンの創業者であるルイ氏の生誕200年を記念したプロジェクト「LOUIS 200」の一環として、ルイ氏の誕生日にリリースされました。
作品内容としては、何世紀にもわたるメゾンの伝統と高度なアニメーションを融合させたものとなっており、時を超えて存在する6つの架空の世界を舞台として、アクション満載の冒険が繰り広げられるというストーリー構成が採られています。
LOUIS THE GAMEは公開初週で50万ダウンロードという驚異的な記録を樹立し、22年4月時点で200万ダウンロードを突破したことが報じられるなど、その注目の高さを窺わせました。
3-2.ゲーム内で獲得できるNFTアイテム
LOUIS THE GAMEでは、ゲーム内において抽選でプレイヤーにNFTポストカードが当たるキャンペーンが実施されました。このキャンペーンでは、3種類のNFTポストカードがそれぞれ10枚ずつ、合計30枚発行され、そのうちの10枚は、デジタルアート界にセンセーションを巻き起こすアーティスト「BEEPLE」が制作したとして、大きな話題となりました。また、22年4月には新たに2つのチャプターが追加され、ゲームを最後までクリアしたプレイヤーにはゲーム内のNFTを獲得できる抽選券が配布されるなど、盛り上がりを見せました。
このように、ルイ・ヴィトンはファッションとブロックチェーンゲームを掛け合わせることによって、プレイヤーに新たな価値を提供しています。
④ティファニーの活用事例
4-1.ブランド初参入となる「NFTiff」
アメリカ発の世界的なジュエリーブランド「ティファニー(Tiffany & Co.)」は22年8月、ブランド初のNFT参入となる「NFTiff」を発表しました。
このNTFiffは、ティファニーがブロックチェーン技術のイノベーターである「Chain(チェーン)社」とパートナーシップを結び、世界的な人気を誇っているNFTアートシリーズ「クリプトパンクス(CryptoPunks)」の所有者に向けて考案されました。そして、実際にChain社が手がける限定の「NFTiffパス」がニューヨーク現地時間8月5日に250個限定、30ETH(当時の価値で約680万円)という価格で発売され、販売開始のおよそ20分後に完売するという人気ぶりを見せました。
NFTiffパスの購入者は、自身が所有する「クリプトパンクス」にインスパイアされたカスタムペンダントをオーダーすることが可能なほか、ペンダントのデジタル版と鑑定書を手に入れることもできるということで、リアルとデジタル資産を融合させたキャンペーンとして、大きな話題となりました。
4-2.「NFTiff」の構想
「NFTiff」の構想は、ハイブランドを束ねるLVMHグループのベルナール・アルノー会長の次男であるアレクサンドル・アルノー氏が、カスタムジュエリー「CryptoPunk #3167」の写真をSNS上に投稿したことをきっかけとして生まれたと報告されています。
このジュエリーは、ティファニーの職人がアレクサンドル氏のNFTからインスピレーションを受けて制作したものとなっており、この作品を見たChain社のCEOがティファニーに呼びかけ、共同で「NFTiffパス」とゲートウェイ、nft.tiffany.comを作成するに至ったということです。
ティファニーは今回のNFTiffをきっかけとして、今後NFT業界に本格的に参入していくのではと期待されており、その動向に注目が集まっています。
⑤バーバリーの活用事例
5-1.ブランド初のNFTコレクション
21年8月、ロンドン発の高級ファッションブランド「バーバリー(Burberry)」は、アメリカの次世代ゲームテクノロジーカンパニー「ミシカル・ゲームズ(Mythical Games)」と提携し、NFTコレクションを発表しました。
このコレクションは「Bシリーズ」と呼ばれ、ミシカル・ゲームズの代表作である、ブロックチェーン上に存在するデジタルトイ「Blankos」を用いたブロックチェーンゲーム「Blankos Block Party」において、限定商品の販売が行われました。NFTは「Sharky B(シャーキー・ビー)」と名付けられ、サメをモチーフとしたデザインで、全体にバーバリーのモノグラムをまとった仕様となっています。
Blankos Block Partyの公式Twitterによると、NFTはたったの30秒ほどで完売したということで、業界では大きな話題となりました。
5-2.NFTコレクション第二弾
バーバリーは22年6月、21年に引き続き再びミシカル・ゲームズと提携し、同じくBlankos Block Party上において新しいNFTコレクションをローンチしました。
第二弾となる今回のNFTは「Minny B(ミニー・ビー)」と名付けられ、ユニコーンをモチーフとしたデザインで、バーバリーのモノグラムを身にまとった作品となっています。また、このコラボレーションの一環として、バーバリーはゲーム上にオリジナルのソーシャルスペースである「The Oasis」を構築し、プレイヤー同士が集ってバーチャル体験を楽しむことができる新たな場を提供しました。
バーバリーは今後もメタバース空間において新たな試みを続けていきたいとしており、その動向に注目が集まっています。
⑥グッチの活用事例
6-1.NFTアート「GUCCI (EST. 1921)」
イタリア発祥の高級ファッションブランド「グッチ(Gucci)」は、NFTに特に力を入れているブランドの一つとして知られています。21年6月、創業100周年を祝う最新コレクション「ARIA」を発表したグッチは、コレクションに関連した「GUCCI(EST. 1921)」と呼ばれる上記のNFTアートを世界3大オークションハウス「Christie’s(クリスティーズ)」で販売しました。
ブランドとして初のNFT業界参入となったこのNFTアートは、25,000ドル(約250万円)という価格で落札され、大きな話題となりました。
6-2.「SUPERGUCCI」プロジェクト
グッチは22年2月1日、アメリカのアート・トイメイカー「Superplastic」と提携し、「SUPERGUCCI」と呼ばれる全1,000個のNFTコレクションをリリースしました。
このNFTはグッチのクリエイティブ・ディレクターを務めるAlessandro Michele氏とSuperplasticの二人のアーティストJanky氏およびGuggimon氏によってデザインが施され、グッチのシグネチャーコードおよび実物のセラミックフィギュアが付いているということです。セラミックフィギュアはイタリアで手作りされており、250体に限定されると発表されています。このSUPERGUCCIは発売後に即完売となり、23年2月現在のNFTマーケットプレイス「OpenSea(オープンシー)」におけるフロア価格は0.709ETH(約16万円)となっています。
6-3.仮想通貨決済への対応
NFTコレクション以外にも、グッチでは店舗決済で仮想通貨への対応を進めています。22年5月にはアメリカの一部の店舗にて「ビットコイン(BTC)」や「イーサリアム(ETH)」など10銘柄以上の仮想通貨決済を導入し、その後の8月には「APEコイン」での決済も可能となりました。
このように、グッチではブロックチェーン技術を活用することで、Web3領域への積極的な参入を図っています。
⑥まとめ
現在、さまざまな領域でブロックチェーン技術が活用されている中、ファッション業界においてもその導入が進んでいます。特に、ハイブランドは積極的にブロックチェーンを活用しており、NFTファッションを展開することによってデジタルファッションの新たな可能性を追求しています。
実際に、メタバース上での展開やバーチャルとリアルを掛け合わせたキャンペーンなど、さまざまな方法で活用が行われており、今後もそのかたちはますます多様化していくと見られているため、引き続きその動向に注目していきたいと思います。
中島 翔
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