一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- ジャスミー株式会社とは
1-1. ジャスミー株式会社の概要
1-2. ジャスミー株式会社の事業内容 - 「NCCX」とは
2-1. 「NCCX」の概要
2-2. 「NCCX」立ち上げの背景 - 「NCCX」の特徴
3-1. ブロックチェーン技術の活用
3-2. Green Carbon株式会社が事務局運営を担当
3-3. NCCCクレジットへの対応
3-4. 一般消費者も参加可能
3-5. 2つのビジネスモデルの展開 - まとめ
2024年8月21日、IoT向けのプラットフォームやソリューションを提供する「ジャスミー株式会社」が、「一般社団法人ナチュラルキャピタルクレジットコンソーシアム(NCCC)」認証のボランタリークレジットおよびJ-クレジット、海外ボランタリークレジットなどに対応したカーボンクレジット取引所「NCCX」をオープンしたことを明らかにしました。
なお、今回のオープンは、9月下旬の正式公開に向けた先行リリースの「ベータ版」としての公開だということですが、正式公開時と同じ手続きで参加登録を受付けているということで、業界からはすでに大きな反響が寄せられています。
そこで今回は、カーボンクレジット取引所「NCCX」について、その概要や特徴、また実際の利用方法などを詳しく解説していきます
①ジャスミー株式会社とは
1-1.ジャスミー株式会社の概要
カーボンクレジット取引所「NCCX」について紹介する前に、まずはその運営を手がけている「ジャスミー株式会社」について解説していきます。
ジャスミー株式会社は、元ソニー社長兼CEOの安藤国威氏を中心としたメンバーによって2016年4月に設立された企業で、主に「IoT(Internet of Things:モノのインターネット」向けのプラットフォームおよびソリューションの提供を行っています。
ジャスミーは、あらゆるモノがネットにつながる時、人々の生活に密着する「衣・食・住・動」が大きく変わるとしており、誰もが簡単に安全にそして安心してモノを使うことができるプラットフォームをつくり、提供することを使命として掲げています。
また、我々の生活から生み出されているデータは、ごく一部の限られた企業に占有されがちという現状がありますが、ジャスミーIoTプラットフォームでは、本来の持ち主にデータの主権を取り戻し、個々のデータを安全かつ安心に利用できるような環境の構築を目指しています。
ジャスミーはIoTにブロックチェーン技術を融合させ、今までにない発想のもと、業界や業種の垣根を越えて幅広く利用できるプラットフォームの提供を行っていくとしています。
1-2.ジャスミー株式会社の事業内容
ジャスミーは主にブロックチェーン技術を活用したデータセキュリティとIoTソリューションの提供を行っており、個人や企業が安全にデータを管理・活用できるような環境づくりに尽力しています。
なお、ジャスミーの主な事業内容は、下記の通りです。
データセキュリティプラットフォーム
ジャスミーは、個人データのセキュリティを高めるための分散型プラットフォームを提供しており、ユーザーが自身のデータを管理し、第三者に共有する際に制御権を持てるようなシステムを確立しています。
IoTソリューション
ジャスミーは、IoTデバイスのセキュリティを確保するためのソリューションを開発しており、これによって、IoTデバイスが安全に接続され、データが保護された形でのやり取りを可能にしています。
ブロックチェーン技術の応用
ジャスミーは、ブロックチェーン技術を活用して、データの真正性を保証し、改ざんを防ぐ仕組みを提供しており、これによって、信頼性の高いデータ管理を実現しています。
プライバシー保護
総じて、ジャスミーはユーザーのプライバシーを最優先とし、データの収集、保存、共有において透明性とセキュリティを確保することを目指しています。
その中でも特に、個人データの保護に注力しており、その技術は金融、医療、エンターテインメントなど多岐にわたる分野において応用されています。
②「NCCX」とは
2-1.「NCCX」の概要
ジャスミーは2024年8月21日、新たなカーボンクレジット取引所「NCCX」のベータ版をオープンしたことを発表しました。
NCCXは「一般社団法人ナチュラルキャピタルクレジットコンソーシアム(NCCC)」認証のボランタリークレジットのほか、環境省、経済産業省、農林水産省が運営するベースライン&クレジット制度「J-クレジット」、また、海外ボランタリークレジットなどを取り扱っているということで、幅広いニーズに対応した取引所として期待を集めています。
「一般社団法人ナチュラルキャピタルクレジットコンソーシアム(NCCC)」は、カーボンクレジット市場の活性化を通じた脱炭素社会の実現を目的として活動している団体で、森林や農地、海洋資源などの自然資本による二酸化炭素の吸収量を、技術の利活用を通じて、測定・評価、クレジット化しており、世界初の手法を採用した独自のカーボンクレジット認証を達成しています。
NCCXでは、カーボンクレジットを取引するにあたって、ブロックチェーン技術を活用することで取引の透明性と信頼性を確保し、データの改ざんや重複カウントの防止などに役立てています。
また、企業間の取引だけでなく、一般消費者にもカーボンクレジットを提供し、環境保護への参加を促進することを目指しています。
2-2.「NCCX」立ち上げの背景
ジャスミーが新たにカーボンクレジット取引所「NCCX」を立ち上げた背景には、世界的な気候変動対策の必要性と、日本国内外におけるカーボンクレジット市場の発展が強く関係していると言えます。
近年、地球温暖化や気候変動の影響が深刻化する中、各国はカーボンニュートラルの目標達成に向けて、企業や個人の温室効果ガス排出削減を推進しています。
また、日本も例外ではなく、政府や民間セクターが連携してカーボンクレジットの利用を拡大し、サスティナブルな社会を構築するための取り組みを強化しています。
このような背景の中で、ジャスミーは、データセキュリティとブロックチェーンの専門知識を活かし、信頼性の高いカーボンクレジット取引のプラットフォームを提供することで、環境保護と経済的利益を両立させるねらいです。
さらに、NCCXの設立には、日本国内における地域活性化や持続可能な開発への貢献という目標も含まれています。
地域ごとの特性を生かした「わがまちカーボンクレジット」のような取り組みによって、地方自治体との協力が進められ、地域レベルでの環境保護活動が促進されることが期待されています。
このように、NCCXの立ち上げは、気候変動対策の一環として、日本国内外の持続可能な開発と環境保護を推進するための重要なステップとして位置づけられています。
③「NCCX」の特徴
3-1.ブロックチェーン技術の活用
NCCXでは、ブロックチェーン技術が重要な役割を果たしています。ブロックチェーンは、取引の透明性と信頼性を大幅に向上させる技術であり、特にカーボンクレジット市場においては、その利点が顕著に現れています。
具体的には、ブロックチェーン技術を活用することによって、取引データの不正改ざんを防止することが可能だという点が挙げられるでしょう。従来のカーボンクレジット取引においては、取引データの信頼性を確保するための仕組みが不十分であり、クレジットの二重計上や偽造といったリスクが存在しました。
しかし、ブロックチェーンによって、取引が分散型台帳に記録され、すべての取引が不可逆的かつ改ざん不可能な形で保存されることから、取引データの信頼性が保証され、市場参加者全員が安心して取引を行うことが可能になります。
さらに、ブロックチェーンは取引の透明性を向上させます。NCCXでは、企業や個人がカーボンクレジットを購入する際、そのクレジットがどのように生成され、どのように取引されたかを確認できるため、信用性の高い取引が実現します。
また、ブロックチェーン技術によってカーボンクレジットの流通が効率化されるという点も忘れてはいけません。ブロックチェーン技術を取り入れることによって、取引プロセスが自動化され、取引時間が大幅に短縮されるため、クレジットの取引がよりスムーズに行われるようになり、市場の流動性が向上することが期待されているのです。
3-2.Green Carbon株式会社が事務局運営を担当
NCCXにおいては、カーボンクレジットの創出および販売事業を手がける「Green Carbon株式会社」が事務局運営を行うことが発表されています。Green Carbonは、「生命の力で、地球を救う」をビジョンとして掲げ、二酸化炭素削減、農業関連、環境関連、その他関連する事業およびコンサルティングを展開しています。
3-3.NCCCクレジットへの対応
NCCXは、特に「NCCC(Natural Capital Credit Consortium)」クレジットの取引に注力しており、これによって日本国内でのカーボンクレジット市場に新たな価値を提供しています。
NCCCクレジットは、NCCCが認証するもので、自然資本を活用したプロジェクトを通じて生成されたカーボンクレジットのことを指します。
これらのクレジットは、例えば森林の保護や再生、土壌の改良、土地の緑化といった環境保護活動によって得られた二酸化炭素の削減効果を反映したものとなっており、高品質なカーボンクレジットとして知られています。
NCCCは、2024年7月に岡山県赤磐市で初めての認証を行いましたが、このプロジェクトでは「ユニティグリーン工法」と呼ばれる特許技術を活用して、土地の開発に伴う侵食を防止しつつ、炭素吸収量を増加させる取り組みが行われました。
こうしたプロジェクトは、環境保護の観点から非常に重要であり、NCCCが提供するクレジットは、その信頼性と環境への貢献度から高い評価を受けています。
そして、NCCXでは、このNCCCクレジットを取り扱うことによって、企業や個人が高品質なクレジットを取引できるプラットフォームを提供しています。
3-4.一般消費者も参加可能
これまでのカーボンクレジット取引は、その大部分が企業間の取引に限られていましたが、NCCXは、カーボンクレジットの流通性の高さとブロックチェーン技術による透明性の高い管理環境を活用し、これまで比較的難しいとされていた消費者へのカーボンクレジット流通やオフセット商品(商品の温室効果ガス排出量をカーボンクレジット等によって相殺した状態で販売される商品)の消費者単位での管理を実現しています。
そのため、商品を受け取った消費者は、個人としてカーボンクレジットをオフセット利用したり、
企業や地域と連携した取り組みにカーボンクレジットを介して参画することが可能になるということです。
3-5.2つのビジネスモデルの展開
NCCXは、2つの異なるビジネスモデルを展開しています。
一つ目は、一般的な取引所形式となる「NCCX」、そして二つ目は地域特化型の「わがまちカーボンクレジット」です。
この2つのモデルは、それぞれ異なるニーズに応じて設計されており、さまざまな消費者層や地域社会に対して環境保護のためのクレジット取引の機会を提供しています。
まず、NCCXは、前述した通り、企業や個人が参加できる一般的なカーボンクレジット取引所として設計されており、国内外のカーボンクレジットの取引をサポートし、特に日本国内でのクレジット取引を促進することを目的としています。
一方、「わがまちカーボンクレジット」は、地域社会の特性に特化したクレジット取引のモデルとなっており、地域の自治体やコミュニティと協力して、地域ごとの環境保護活動をサポートするために設計されています。
例えば、地域の森林保護や再生プロジェクトを通じて生成されたカーボンクレジットを、その地域の住民や企業が購入することができるといったサービスであり、こうした地域特化型の取り組みによって、地域社会全体でのカーボンオフセットが促進され、地域のサスティナブルな発展と経済活性化に寄与することが期待されています。
また、このモデルは地域の住民が積極的に環境保護活動に参加し、地域コミュニティの一体感を高める効果も期待されており、今後の展開に注目が集まっています。
④まとめ
NCCXは、ジャスミーによって新たに開設されたカーボンクレジット取引所で、NCCCクレジットやJ-クレジット、海外ボランタリークレジットなど、さまざまなクレジットの取引が可能です。
また、ブロックチェーン技術を活用することによって、取引の透明性と信頼性を高め、参加者が安心して取引を行える環境を提供しており、大規模な企業から中小企業、さらには個人に至るまで、幅広い参加者をターゲットにしています。
なお、今回はベータ版のリリースでしたが、9月下旬には正式公開が行われる予定で、現在すでに参加登録を受付けていることが明らかにされているため、脱炭素経営を目指す企業は正式公開に向けて参加登録を済ませておいてはいかがでしょうか。
中島 翔
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