一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / @fukuokasho12))に解説していただきました。
目次
- 地方銀行における取り組みの概況
1-1. 地方銀行における取り組みの重要性
1-2. 脱炭素化に向けたサポート状況 - 環境イニシアチブなどへの参加状況
2-1. GXリーグ基本構想
2-2. 経団連生物多様性宣言イニシアチブ
2-3. 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フォーラム
2-4. 金融向け炭素会計パートナーシップ(PCAF) - 連携体制の構築
3-1. MEJARサステナビリティソリューション連携
3-2. 岩手県洋野町、藻場の創出・保全活動に係る包括連携協定
3-3. Ryukyu net ZERO Energy Partnership - グリーンファイナンスへの取り組み
4-1. 風力発電所へのプロジェクトファイナンスの組成
4-2. 玄海バイオガス発電株式会社へのシンジケートローン - まとめ
気候変動は、現代社会において避けて通れない大きな課題となっています。2023年の世界平均気温は14.98度に達し、これまでの最高記録だった2016年を0.17度上回る結果となりました。さらに、気候変動が進む現状では、気温のさらなる上昇が予想されています。日本国内においても、気温は100年あたり1.30℃の割合で上昇しており、特に1990年代以降は高温になる年が増加しています。
このような背景から、脱炭素化は世界中で共通の目標となり、日本でも「2050年カーボンニュートラル」の目標に向けて、政府と民間が一体となった取り組みが進められています。この中で、地方銀行にも地域社会の持続可能性を高めるため、カーボンニュートラル実現への寄与が大いに期待されています。
そこで今回は、地方銀行のカーボンニュートラルの取り組みにフォーカスし、それぞれの概要や詳しい内容などについて、解説していきます。
1. 地方銀行における取り組みの概況
1-1. 地方銀行における取り組みの重要性
地方銀行は地域経済の活性化に不可欠な役割を担っています。これまで、地元企業への融資や地域経済の支援に力を注いできた地方銀行には、今、気候変動対策が新たな使命として求められています。その具体策として、再生可能エネルギー事業への投資拡大や環境配慮型ビジネスへの支援を通じ、持続可能な経済活動の促進が期待されています。
一方で、国内の大企業は気候変動に適応した経営戦略を推進し、脱炭素目標の設定やサプライチェーンを通じた環境対策に力を入れています。2021年6月には、「コーポレートガバナンス・コード(CGC)」の改訂が行われ、プライム市場上場企業に対し、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」などに基づく開示の質と量の充実が要求されました。
このような変化は、地域企業にも大きな影響を及ぼしています。取引先からの温室効果ガス排出量の情報提供要求が増え、消費者の環境意識の変化に直面するなど、地域の中小企業にも脱炭素化の波が広がっています。しかし、これらの取り組みを進める中で、企業は多くの課題に直面しています。
ここで重要な役割を果たすのが、地方銀行の支援です。地域企業は、政府や地方公共団体、金融機関などからの幅広いサポートを求めており、特に金融機関からは、資金提供だけでなく、人材紹介やビジネスパートナーの紹介など、その豊富な情報やネットワークを活用した支援が期待されています。
このようにして、地方銀行によるカーボンニュートラルへの取り組みは、今後さらにその重要性を増していくでしょう。地方銀行は、地域企業の環境対応を支援することで、持続可能な社会づくりに貢献し、地域経済のさらなる活性化を目指します。
1-2. 脱炭素化に向けたサポート状況
地域金融の担い手である地方銀行の健全な発展を支援するため、さまざまな取り組みを行っている「一般社団法人 全国地方銀行協会」は、2023年5月17日に「地方銀行における環境・気候変動問題への取り組み」という資料を公表しましたが、これによると、現在、およそ7割を超える地方銀行が「グリーンファイナンス(環境関連の投融資)」を実施しているということです。
また、多くの地方銀行が、非資金面のサポートにも取り組んでおり、太陽光設備、再生可能エネルギー電力を販売する企業などの紹介や、二酸化炭素排出量の見える化サービスの提供、二酸化炭素排出量の削減目標設定や削減策などにかかるコンサルティングの実施、省エネルギーや脱炭素化に関するセミナーの実施などを手がけています。
さらに、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの活用による二酸化炭素などの排出削減量や、適切な森林管理による二酸化炭素などの吸収量を、クレジットとして国が認証する「J-クレジット」の創出支援や取引仲介などに取り組む地⽅銀⾏もあるなど、カーボンニュートラルの実現に向けた具体的な取り組みを推進しています。
2. 環境イニシアチブなどへの参加状況
地方銀行は、国内外におけるさまざまな環境イニシアチブなどへの参加を表明しています。
ここでは、その参加状況を詳しく紹介していきます。
2-1. GXリーグ基本構想
経済産業省が2022年4月に「GXリーグ基本構想」を公表しましたが、これには北海道銀行、北都銀行、めぶきFG(常陽銀行、足利銀行)、千葉銀行など、計20行が賛同していることが報告されています。
なお、GXリーグ基本構想とは、「GX(グリーントランスフォーメーション)」に積極的に取り組む「企業群」が、官・学・金でGXに向けた挑戦を行うプレイヤーとともに、一体となって経済社会システム全体の変革のための議論と新たな市場の創造のための実践を行う場である「GXリーグ」について、どのような世界観を目指し、どのような企業群とともに、どのような取り組みを、どのようなスケジュールで進めていくべきか、といった点についての基本的な指針を示したものとなっています。
2-2. 経団連生物多様性宣言イニシアチブ
生物多様性の重要性を認識した企業経営を推進することを目的として、「経団連自然保護協議会」および「経団連」が策定した「経団連生物多様性宣言・行動指針(改定版)」に賛同し、「経団連生物多様性宣言イニシアチブ」へ参加している地方銀行も存在します。
経団連生物多様性宣言イニシアチブとは、賛同企業や団体のロゴマーク、また将来に向けた活動方針・活動事例を、特設ウェブサイト上で内外に向けて発信および紹介するもので、滋賀銀行、山陰合同銀行をはじめとする計6行が参加しているということです。
2-3. 自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)フォーラム
森林破壊や海洋汚染などが事業や財務に与える影響について、企業の情報開示の枠組みを構築する国際イニシアチブである「自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)」の取り組みに賛同し、TNFDの議論をサポートするステークホルダー組織である「TNFDフォーラム」に参画している地方銀行も存在します。
TNFDフォーラムは、主に枠組み構築のサポートを行うために参画した企業、金融機関、研究機関などから構成されており、地方銀行としては、千葉銀行や九州FG(肥後銀行、鹿児島銀行)が参画していることが報告されています。
2-4. 金融向け炭素会計パートナーシップ(PCAF)
金融機関が融資・投資を通じて資金提供した先の温室効果ガスの排出を整合的に算定するための枠組みである「金融向け炭素会計パートナーシップ(PCAF)」に加盟し、PCAFが保有する知見やデータベースを用いて、投融資先の温室効果ガス排出量の測定や開示に向けた取り組みを進めている地方銀行も存在します。
具体的には、千葉銀行、コンコルディアFG(横浜銀行)、八十二銀行などの計8行が加盟しているということです。
3. 連携体制の構築
地方銀行は、脱炭素化への取り組みを進める中で、地元自治体や企業、さらには他の地方銀行とも積極的に連携しています。ここでは、そうした連携体制の具体的な事例を通じて、地方銀行がどのようにサステナビリティへの貢献を拡大しているかを詳しく見ていきます。
3-1. MEJARサステナビリティソリューション連携
広島銀行は、2030年度を目標に、メインフレームからクラウドへのシステム移行を計画しています。この過程で、横浜銀行、北陸銀行、北海道銀行、七十七銀行、東日本銀行、そしてNTTデータと共に、2010年1月より稼働している共同利用システム「MEJAR」への参加を基本合意しました。この合意は、システムの共同利用に向けた詳細な検討を行うためのものです。
「MEJARサステナビリティソリューション連携」は、これら6行が締結している、サステナビリティに関する商品やサービスの協力協定を指します。この連携を通じ、各行はクライアントのサステナビリティ経営支援や、地域経済の発展に貢献することを目指しています。
具体的な連携内容には以下のものがあります。
〇サステナブルファイナンス:
サステナビリティ・リンク・ローンなど、サステナブルファイナンスに関連する事例や情報の共有、製品導入に向けた連携、評価機関の共同利用などが含まれます。
〇行内外での啓発活動:
行員向けの研修や教育コンテンツの共有、外部セミナーの共同開催、外部コンサルティングの共同発注などが行われます。
〇脱炭素関連ソリューション:
温室効果ガス排出量の可視化や削減を支援するソリューション、脱炭素に関する専門業者の情報共有などが行われます。
3-2. 岩手県洋野町、藻場の創出・保全活動に係る包括連携協定
2023年2月28日、岩手銀行および住友商事東北は、洋野町と「岩手県洋野町における増殖溝を活用した藻場の創出・保全活動に係る包括連携協定」を締結したことを明らかにしました。
これまでに、洋野町は、住友商事東北、住友商事および洋野町内の3漁業協同組合と「洋野町ブルーカーボン増殖協議会」を設立しており、2022年11月には「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合」から、過去最大量の「Jブルークレジット」3,106.5tCO₂の認証を獲得しています。
これを受けて、岩手銀行は、本協定に基づいて、Jブルークレジットの一部数量について、地場企業への販売仲介業務に取り組んでいくということです。
なお、ボランタリークレジットであるJブルークレジットの販売仲介は、金融機関では全国初の事例となっており、業界からは大きな注目を集めています。
3-3. Ryukyu net ZERO Energy Partnership
2022年9月1日、琉球銀行は、沖縄県の脱炭素社会実現を目指して、「Ryukyu net ZERO Energy Partnership」を締結したことを明らかにしました。
Ryukyu net ZERO Energy Partnershipは、沖縄県内での「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」や省エネルギー住宅の普及を目的としたZEH・省エネ住宅建築に携わる企業の連携体制であり、国内でも珍しい取り組みとして知られています。
なお、ZEHとは、日本語で「エネルギー収支をゼロ以下にする家」という意味を持ち、家庭で使用するエネルギーと、太陽光発電などで創るエネルギーをバランスして、1年間で消費するエネルギーの量を実質的にゼロ以下にする家のことを言います。
この連携体制では、ZEH・省エネ住宅建築にかかるノウハウの向上や、省エネルギー計算にかかる事業者の紹介など、ZEH・省エネ住宅建築に関連するサポートを行っています。
また、施主であるエンドユーザー向けにZEH・省エネ住宅に特化した住宅ローンの取り扱いもスタートしているということで、琉球銀行はこの取り組みを通して、ZEH・省エネ住宅普及のための啓蒙活動を行っていくとしています。
4. グリーンファイナンスへの取り組み
地方銀行は、再生可能エネルギーなどに向けたグリーンファイナンスに積極的に取り組んでいます。
ここでは、その一例を紹介していきます。
4-1. 風力発電所へのプロジェクトファイナンスの組成
2022年4月1日、みずほ銀行および東邦銀行は、「福島復興風力合同会社」に対して、総額567億円のプロジェクトファイナンスを組成し、建設工事をスタートしたことを発表しました。
福島復興風力は、2017年に福島県による公募において事業者として選定され、同県より事業費補助金の交付を受けて、本発電所の開発を推進してきました。
また、本発電所の総発電容量は約14万7千キロワットとなり、年間想定発電量は約12万世帯分の消費電力量に相当するということで、売電収入の一部は地域の復興支援に活用される計画となっています。
そして、みずほ銀行および東邦銀行は、こうした福島復興風力による復興支援および再生可能エネルギーの安定供給の取り組みを資金面からサポートすべく、2021年7月16日、建設資金などについて、アレンジャーとして計23金融機関が参加したシンジケートローンを組成しています。
4-2. 玄海バイオガス発電株式会社へのシンジケートローン
2023年1月31日、佐賀銀行は「玄海バイオガス発電株式会社」に対して、佐賀銀行がアレンジャーを務め、「佐賀県信用農業協同組合連合会」と「唐津農業協同組合」参加のもと、総額14億5千万円のシンジケートローンを組成したことを発表しました。
本事業は、佐賀県東松浦郡玄海町に家畜排せつ物を燃料とするバイオガス発電所を建設し、固定価格買取制度に基づいて売電を行うプロジェクトだということで、本施設の稼働によって、温室効果ガスの削減とともに、同地区における畜産農家の家畜排せつ物処理にかかる労力削減、臭気軽減などの社会課題の解決を見込んでいるとしています。
なお、シンジケートローンとは、いくつかの金融機関がシンジケート団を結成し同一の契約書と条件で融資を行う貸付手法のことを指し、本事業は地域が抱える社会・環境問題の解決に寄与する事業として、賛同する複数の金融機関によって資金支援を行うものだということです。
5. まとめ
日本政府が掲げる野心的な脱炭素目標を達成するためには、大企業だけでなく、中小企業や地域企業を含めた社会全体での取り組みが必要不可欠となっています。
しかしその一方で、地域企業の多くは、気候変動や脱炭素について十分に理解できていないほか、資金面のハードルなどから、取り組みを思うように進められていないという現状があります。
そんな中、今回紹介したような地方銀行のカーボンニュートラルへの動きがますます多様化することによって、地域企業の取り組みを多角的にサポートすることができるようになり、大企業だけでないサプライチェーン全体での脱炭素が可能になると言えるでしょう。
社会全体の脱炭素を実現することは、日本の産業競争力の向上や実物経済の発展にも寄与すると考えられるため、地方銀行の取り組みがさらに広がっていくことを期待したいと思います。
中島 翔
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