IHIと富士通がCO2排出量を可視化 ブロックチェーン導入の最新事例とは?

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今回は、IHIと富士通のブロックチェーン基盤について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。

目次

  1. IHIとは
    1-1.IHIの概要と沿革
  2. 富士通とは
    2-1.富士通の概要と沿革<
  3. アンモニアCO2トレーサビリティプラットフォーム
    3-1.プラットフォームの概要
    3-2.プラットフォーム開発の背景
    3-3.プラットフォームの基盤技術
    3-4.プラットフォームの実証試験
    3-5.プラットフォームの今後の展開
  4. 今後のブロックチェーンの技術導入について
    4-1.CO2削減量のトークン化
    4-2.アンモニアCO2トレーサビリティのブロックチェーン基盤
  5. まとめ

22年10月31日、総合重工業グループの株式会社IHIが、同社の技術および富士通株式会社が手がける基盤技術を組み合わせて開発した「アンモニアCO2トレーサビリティプラットフォーム」の実証実験をスタートしたことを発表しました。このプラットフォームでは、アンモニアの製造から利用までのバリューチェーン全体におけるカーボンフットプリントの記録および可視化を行います。ブロックチェーン技術を使用するプロジェクトとして注目されています。

今回は、IHIと富士通が手がけるアンモニアCO2トレーサビリティプラットフォームの概要や基盤技術を紹介します。また、今後のブロックチェーン技術の導入がどのような形へ進んでいくのか考えていきたいと思います。

①IHIとは

1-1.IHIの概要と沿革

IHI
株式会社IHIは創業1853年12月5日、設立1889年1月17日という老舗の国内企業です。総合重工業グループであるIHIは主に、資源・エネルギー、社会インフラ、産業機械、航空・宇宙という四つの事業分野を中心として、新たな価値を提供しています。

1853年創設の日本初の近代的造船所である石川島造船所を起源とするIHIは、造船で培った技術をもとに陸上機械や橋梁、プラントや航空エンジンなどの領域に事業を拡大し、日本の近代化に大きな役割を果たしました。その後、石川島造船所の流れをくむ石川島重工業が1960年に播磨造船所と合併して石川島播磨重工業(Ishikawajima-Harima Heavy Industries)となった後、2007年にはグローバルブランドの強化を促進するため,社名を現在のIHIへと変更しました。

IHIは「技術をもって社会の発展に貢献する」という経営理念を掲げており、この理念のもと今後もものづくり技術を中核とするエンジニアリング力で世界的なエネルギー需要の増加や都市化と産業化、そして移動・輸送の効率化といったさまざまな社会課題の解決に貢献していくとしています。

②富士通とは

2-1.富士通の概要と沿革

Fujitsu
富士通株式会社は、1935年6月に設立された国内の総合エレクトロニクスメーカーおよび総合ITベンダーです。

ITサービスの提供企業としては国内2位、世界10位という圧倒的な売上高を誇っている富士通は、アメリカ・ニューヨークを拠点として発行されているビジネス雑誌FORTUNE(フォーチュン)にて「世界で最も賞賛される企業」に選出されるなど、世界的にも高い評価を得ています。

元々1935年に富士電機製造の話部所管業務を分離し、富士通信機製造として設立された富士通は、国産のコンピュータのメーカーとして、1954年に日本初となるリレー式自動計算機を発表、1958年にはパラメトロンを素子とする電子計算機の試作を行うなど、業界の先駆者として独自の開発を進めてきました。そしてその後の1967年に現在の社名へと変更を行い、1970年代以降、コンピュータの大手メーカーとしてその名を轟かせました。

22年11月現在では300を超える子会社を抱えており、コロンビアやハワイ、ニューヨークやワシントン、ロンドンなど、世界中に拠点を構える日本を代表する大企業となっています。

③アンモニアCO2トレーサビリティプラットフォーム

3-1.プラットフォームの概要

Co2
22年10月31日、総合重工業グループの株式会社IHIが、同社の技術および富士通株式会社が手がける基盤技術を組み合わせて開発したアンモニアCO2トレーサビリティプラットフォームの実証実験をスタートしたことを発表しました。このプラットフォームでは、アンモニアの製造から利用までのバリューチェーン全体におけるカーボンフットプリントの記録および可視化を実現するということです。

カーボンフットプリントとは、CFP(Carbon Footprint of Products)とも呼ばれ、「温室効果ガスの排出量」を表す仕組みのことを指します。我々が普段使用しているすべての商品やサービスは、つくられてから捨てられるまでの一生を通して多くのエネルギーを必要とし、そのエネルギーは主に石油や石炭、天然ガスといった化石燃料から得られ、地球温暖化の原因となる温室効果ガスを大気中に排出します。カーボンフットプリントは、これら商品またはサービスの原材料調達から廃棄、そしてリサイクルに至るまでのライフサイクルの各過程で排出された温室効果ガスの量を追跡し、全体の排出量を「CO2」に換算して、商品やサービスに表示する仕組みです。

アンモニアCO2トレーサビリティプラットフォームでは、データ追跡信頼性の高いブロックチェーン技術を用いることで、アンモニアを「つくる」、「はこぶ・ためる」、「つかう」というそれぞれの段階におけるCO₂排出量を算出し記録、可視化するなど、一つ一つのプロセスにおける「CO₂トレーサビリティ」を実現しています。

そして、このシステムによってバリューチェーン上の各プレーヤーやアンモニアの需要家が、脱炭素の取り組みについての情報を必要とする各ステークホルダーに対して、CO₂排出量や削減量を証明することが可能になるということです。

3-2.プラットフォーム開発の背景

近年、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」が度々取り上げられており、世界中が脱炭素化に向けての取り組みを進めています。

日本国内においては製造業のCO2排出量が特に多いというデータが出ており、製造業における脱炭素化の動きに注目が集まっています。実際に、環境省が22年4月に発表した20年度(令和2年度)の温室効果ガス排出量確報値によると、電気・熱配分前のCO₂排出量においては、エネルギー転換部門からの排出(40.4%)が最も大きく、次いで産業部門(24.3%)、運輸部門(17.0%)の順となっています。また、電気・熱配分後のCO₂排出量においては、産業部門(34.0%)からの排出が最も大きく、次いで運輸部門(17.7%)、業務その他部門(17.4%)の順となっています。前年度からのCO2排出量の変化を見ると、産業部門は8.1%(約3,100万トン)増加しているというデータが出ているなど、国内における脱炭素化を進めるためには製造業の取り組みが非常に重要となっていることが分かります。

このような現状を受けて、近年、製造業界では製造工程におけるCO₂排出を最低限まで抑え、燃焼時にCO₂を排出しない「クリーンアンモニア」が新たな資源として話題になっています。クリーンアンモニアとは、製造時のCO₂排出量を最低限まで抑えたアンモニアのことを指し、その主なものには「グリーンアンモニア」と「ブルーアンモニア」が存在します。

グリーンアンモニアは、再生可能エネルギーを利用して、CO2を排出しない方法で生成された「水素(=グリーン水素)」を原料とするアンモニアのことを言い、具体的には、太陽光や風力などといった再生可能エネルギーを用いて発電した電力を利用し、水を電気分解して水素を製造、その水素と窒素を合成させて作り出したアンモニアのことを指します。このグリーンアンモニアはその製造プロセスにおいてだけでなく、燃焼させて発電する際にも温室効果ガスを排出しないため、脱炭素に向けた次世代の「クリーンエネルギー資源」として大きな注目を集めています。ブルーアンモニアは化石資源を使用するものの、排出したCO₂を「CCU・CCUS(二酸化炭素回収・貯留)」技術によって回収して地下埋設することで、製造時のCO₂排出量を低く抑えたアンモニアのことを言います。

これらのクリーンアンモニアはカーボンニュートラルに向けた新たな燃料として期待されていますが、一方で、その普及および拡大にはいくつかの課題を抱えていることも事実です。具体的には、再生可能エネルギーによる電力を用いた水素やアンモニアの生成、輸送、貯蔵に至るバリューチェーン全体における複数のプレーヤーやプロセスをまたいだCO₂排出量の詳細な記録や管理、授受と、透明性および信頼性を兼ね備えたCO₂削減量の算出手法の確立などが課題として挙げられています。そんな中、IHIではこれらの課題を解決することを目的として、「アンモニアCO₂トレーサビリティプラットフォーム」の開発をスタートしたと説明しています。

3-3.プラットフォームの基盤技術

ILIPS
アンモニアCO₂トレーサビリティプラットフォームは、IHIのIoT基盤である「ILIPS(アイリップス)」と富士通が手がける基盤技術を組み合わせ開発したと発表されています。

ILIPSは14年にリリースされたプロジェクトで、設備および装置のデータをクラウドサーバに集め、ライフサイクルビジネスに活用することを目的としたIHIグループ製品共通のプラットフォームのことを指します。

ILIPSでは、IHI製品のユーザーに対する効率的な運用のサポートやメンテナンス時期を予測するサービスの提供を行うなど、製品納入後もユーザーに価値を提供し続けるため、IoT/ICT利活用の中核的な取り組みを進めており、現時点で約1,500台もの製品に適用されています。

3-4.プラットフォームの実証試験

前項でも少し触れましたが、IHIはプラットフォームの有効性を確認するために、いくつかの実証試験を実施することを明らかにしています。

具体的には、そうまIHIグリーンエネルギーセンターにおける再生可能エネルギー発電・水素製造設備および、IHI横浜事業所のアンモニアに関する各設備からなるバリューチェーンを構築したことを発表しています。IHIでは、今回の実証試験を通して、算出手法の検証およびプラットフォームとしての機能向上に取り組んでいく予定であるとしています。

3-5.プラットフォームの今後の展開

IHIはアンモニアCO₂トレーサビリティプラットフォームについて、今後世界中のアンモニアバリューチェーンに携わる誰もが参加できるプラットフォームとして整備を進めていくと説明しています。また、社外とコンソーシアムを形成した実証試験も予定しているということで、これら一連のプロジェクト活動を通じて、燃料アンモニアを含めたカーボンニュートラル燃料をより早く社会に実装すること、また質の高いインフラを提供することによって、グローバルな環境負荷低減の実現に貢献することを目指していくとしています。

④今後のブロックチェーンの技術導入について

4-1.CO2削減量のトークン化

IHIと富士通は今回のプロジェクト以外にも、ブロックチェーン技術を活用し、CO2削減量を環境価値としてトークン化して市場流通させる共同事業を22年4月1日からスタートしています。これは、カーボンニュートラルの実現に向けた貢献および「環境価値取引エコシステム」のマーケットを活性化することを目指した共同事業プロジェクトで、両社が有するブロックチェーン技術やカーボンニュートラル関連技術を活用した、環境価値流通プラットフォームの市場適用と活性化に向けて取り組むものであると説明されています。

このプロジェクトでは、IHIが持つ、ブロックチェーン技術を活用した「環境価値管理プラットフォーム」と、異なるブロックチェーン同士を安全に相互接続する富士通の「ConnectionChain」を活用します。環境価値管理プラットフォームにはエンタープライズ向けブロックチェーン基盤である「クオーラム(‎Quorum)」が利用されており、ConnectionChainには、いくつかのブロックチェーンプロジェクト間での、安全且つ信頼性の高い統合を実現するための「オープンソースソフトウェア(OSS)」である「Hyperledger Cactus」が利用されています。

4-2.アンモニアCO2トレーサビリティのブロックチェーン基盤

Web3.0領域の専門メディア「あたらしい経済」によると、今回発表された「アンモニアCO2トレーサビリティプラットフォーム」には、エンタープライズ向けブロックチェーン基盤の「ハイパーレジャーファブリック(Hyperledger Fabric)」が採用されているということです。

ハイパーレジャーファブリッは企業向けブロックチェーン・プラットフォームの事実上の標準となっており、アプリケーションやソリューションの開発基盤として、さまざまなユースケースに対応しています。

4-3.環境分野への技術導入

近年ブロックチェーン技術の環境分野への導入が急速に進んでいます。これまで、ブロックチェーン技術はNFTやブロックチェーンゲーム、メタバースなどといったエンターテイメント分野への導入が顕著でしたが、最近ではブロックチェーン技術を用いることで地球が直面している環境問題を解決しようという動きが活発化しています。

例えば、世界最大の民間気象会社「ウェザーニューズ」が手がける海運業界のCO2排出削減量を記録および可視化し、客観的に評価する「MCB(マリン・カーボンブロッキング)」サービス、環境保護活動家や起業家、Web3.0のデベロッパーのグループが集結して結成された「KlimaDAO(クリマダオ)」などが挙げられます。

最近では日本の環境省を含む各国政府や国際的な非営利組織などが環境保全にブロックチェーン技術を導入する動きが盛んになっており、今後さらに多くの環境保護プロジェクトへの導入が見込まれています。

⑤まとめ

近年、環境問題がますます取り沙汰されていますが、IHIが富士通の基盤技術を利用して開発を進めている「アンモニアCO₂トレーサビリティプラットフォーム」は、カーボンニュートラルに向けた新たな燃料として期待されている「クリーンアンモニア」の普及および拡大を促進するプロジェクトとして業界から大きな期待を集めています。

今回の事例からも分かるように、ブロックチェーン技術はエンターテイメント分野から環境分野へとその活用領域を拡大しており、今後は環境問題の解決のためにさまざまなソリューションへ導入されることが予想されるため、引き続きその動向に注目していきたいと思います。

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中島 翔

一般社団法人カーボンニュートラル機構理事。学生時代にFX、先物、オプショントレーディングを経験し、FXをメインに4年間投資に没頭。その後は金融業界のマーケット部門業務を目指し、2年間で証券アナリスト資格を取得。あおぞら銀行では、MBS(Morgage Backed Securites)投資業務及び外貨のマネーマネジメント業務に従事。さらに、三菱UFJモルガンスタンレー証券へ転職し、外国為替のスポット、フォワードトレーディング及び、クレジットトレーディングに従事。金融業界に精通して幅広い知識を持つ。また一般社団法人カーボンニュートラル機構理事を務め、カーボンニュートラル関連のコンサルティングを行う。証券アナリスト資格保有 。Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12