今回は、ヘッジファンドの投資戦略について、大手仮想通貨取引所トレーダーとしての勤務経験を持ち現在では仮想通貨コンテンツの提供事業を執り行う中島 翔 氏(Twitter : @sweetstrader3 / Instagram : @fukuokasho12)に解説していただきました。
目次
- ヘッジファンドに関する基礎知識
1-1.ヘッジファンドとは?
1-2.相場を動かすヘッジファンド - ヘッジファンドの投資戦略
2-1.グローバル・マクロ戦略
2-2.株式ロング・ショート戦略
2-3.ヘッジファンドが投資している仮想通貨は?
2-4.レラティブ・バリュー戦略
2-5.イベント・ドリブン戦略 - 代表的なヘッジファンドの投資戦略
3-1.Bridgewater Associates
3-2.Man Group
3-3.Renaissance Technologies - まとめ
前回はヘッジファンドの仮想通貨投資の現状についてお伝えしましたが、今回はヘッジファンドの投資戦略について解説したいと思います。1兆円を超える巨額の資金に、10~15倍のレバレッジをかけて運用するヘッジファンドは、様々な金融市場において見過ごすことのできない存在です。彼らの戦略を知ることは個人のトレーダーとしてもトレード戦略の参考になると思います。
①ヘッジファンドに関する基礎知識
まずはじめに、ヘッジファンドそのものに関する基礎的な事項について解説します。
1-1. ヘッジファンドとは?
「ヘッジファンド」とは、顧客の資産を預かって証券、通貨、商品等に対する積極的な投資・裁定取引を行って利益を返すことを生業とする私的な投資会社・パートナーシップの総称として使われている言葉です。実際は「ヘッジファンド」を正確に定義することは困難ですが、バーゼル銀行監督委員会の報告書によると、その定義の難解さを認識しつつ、ヘッジファンド等の「ハイレバレッジ機関」の特徴として、以下の3点を挙げています。
- 政府や監督機関から直接的な規制・監督をほとんど受けていないこと
- 規制対象金融機関や上場会社に比べ、ディスクロージャー義務が極めて限られていること
- 資金運用の際のレバレッジが高いこと
また、ヘッジファンドが利用するレバレッジは「10~15倍」と言われています。ほとんどのヘッジファンドは会社そのものをオフショアで設立し、実際の運用はニューヨークやロンドンで行っているケースが多いようです。アジアでは、香港とシンガポールを拠点とするヘッジファンドが多く、最近はドバイも増加傾向にあります。
ヘッジファンドの運用対象は多岐に渡り、株式はもちろん、債権、コモディティ、デリバティブなどのあらゆる金融商品が対象で、最近では仮想通貨もその投資対象とされています。
1-2. 相場を動かすヘッジファンド
次にヘッジファンドがどの程度の資産を運用しているのかという点ですが、世界の代表的なヘッジファンドの運用残高ランキングトップ5をペンション&インベストメンツのデータに基づきご紹介します。
1 | Bridgewater Associates | $105,700 |
2 | Man Group | $76,800 |
3 | Renaissance Technologies | $58,000 |
4 | Millennium Mgmt | $52,314 |
5 | TCI Fund Mgmt | $40,000 |
このランキングに出てくるヘッジファンドの多くはアメリカに存在します。特筆すべきはその運用資産額の規模で、数百億ドル(一兆円)以上の資産が運用されているということです。
②ヘッジファンドの投資戦略
ヘッジファンドの投資戦略は大きく5つに分類する事ができるため、それぞれ解説したいと思います。
2-1. グローバル・マクロ戦略
グローバルマクロ戦略とは経済指標を用いてマクロ経済の動向を予測して投資の方向性を決定する投資戦略です。投資の対象となるのは、株式に限らず、債券やコモディティなどグローバルのあらゆる市場や商品を対象に、ロングやショートどちらも組み合わせて投資する戦略です。
2-2. 株式ロング・ショート戦略
株式ロングショート戦略は割安な株を買い割高な株を空売りすることで市場のリスクをヘッジしながら投資を行う戦略です。個人投資家のトレード戦略に最も近いものがこの戦略と言えるでしょう。実際にヘッジファンドの代表的な手法として用いられ、運用残高の34.1%はこの戦略で運用されていると言わていれます。
2-3. CTA(マネージド・フューチャーズ)戦略
CTA(Commodity Trading Advisor)とは商品投資顧問業者のことですが、これは主に先物市場でコンピューターを利用して、割高割安などの投資判断を行い高速取引のことをいいます。イメージとしては自動売買に近いものと考えることができます。ヘッジファンドの運用残高のうち9.8%がこの戦略をとられていると言われています。
2-4. レラティブ・バリュー戦略
レラティブバリュー戦略とは、平均回帰の考え方を用いた投資戦略で、価格の歪みを利用して、投資を行う戦略です。また、数学的に求めた適正な理論価格と実際の価格差を利用するアービトラージ戦略と呼ばれるものもここに含まれます。運用残高の8.4%でこの投資戦略が利用されています。
2-5. イベント・ドリブン戦略
イベントドリブン戦略とは企業のM&Aや株式公開、リストラなどのコーポレートイベントに乗じて利益を上げる戦略です。この手法もヘッジファンドでは多く使われており、運用残高の10.2%がこの戦略で投資されています。
③代表的なヘッジファンドの投資戦略
最後に代表的なヘッジファンドがどのような投資戦略をとっているのかという点について解説します。
3-1. Bridgewater Associates
約12兆もの資金を運用するアメリカコネチカット州ウェストポートを拠点とするブリッジウォーター・アソシエイツは、1975年にレイ・ダリオ氏によって設立されました。
ブリッジウォーター・アソシエイツの投資対象は、株式、債券、通貨、デリバティブ、コモディティなどで、アメリカを始めとする国などを顧客に抱え、年金基金、基金、財団、中央銀行のためのポートフォリオを管理しています。
ブリッジウォーター・アソシエイツの投資戦略は、「システマチックグローバルマクロ戦略」と呼ばれるもので、市場リスクを中和し、αに特化したピュアアルファ戦略と、市場リスクに特化したオールウェザー戦略の二つを組み合わせたものとなります。
運用成績は特別に高いリターンではなく、12%ほどの平均リターンを目指しています。
2-2. Man Group
マングループはヨーロッパ最大のヘッジファンドで、約10兆円近い資産を運用しています。株式、債権、先物に強い同社の投資戦略は、クオンツ(定量分析)運用でトレンドフォロー型のモメンタム戦略と平均回帰戦略などの非モメンタム戦略の2つの投資戦略を合わせたものを用いています。また、最近では、他のヘッジファンドを買収し、それらのヘッジファンドが使用している様々な戦略を取り入れたマルチストラテジー戦略をとっています。
2-3. Renaissance Technologies
ルネッサンステクノロジーズは、元MITとハーバード大学教授であったジム・シモンズ氏により1982年から運用を開始しています。同社の特徴として、金融業界の出身者は採用せずに数学者やコンピューターサイエンティストなどを採用し、設立当初からコンピューターモデルを使用する投資戦略をとっています。
一般的な投資家の資金は、ロングバイアスの投資戦略をとっていますが、「メダリオンファンド」と呼ばれる関係者向けの投資戦略は、別の投資戦略を採用し、現代において最も長期で、最も高いリターンを上げているといわれています。
④まとめ
運用額や組織体制に圧倒的な差があるためヘッジファンドの戦略をそのまま個人に取り入れることは難しいですが、ヘッジファンドが多くの戦略を分散して利用し、投資対象も多岐にわたっている点などは個人でもそのまま参考に出来ると思います。トレードに聖杯はないという言葉がありますが、少しずつ使える投資戦略を増やしていくことが投資家としての成長に繋がることになると思います。
中島 翔
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