「空飛ぶクルマ」が実現するAAM(次世代航空モビリティ)とは? 欧州スタートアップも紹介

カーボンニュートラル社会への世界的移行が進む中、環境負担の軽減に役立つ新技術の研究・導入が航空産業における重要課題となっています。ソリューションの一つとして期待が高まっている「次世代航空モビリティ(Advanced Air Mobility:AAM)」は、各国都市部を中心に導入への取り組みや投資が活発化している領域です。

本稿では、航空産業の未来を担うAAMと既存の航空機やタクシーの代替手段として期待されている「空飛ぶクルマ」、そしてそれを支える革新的技術を開発する欧州スタートアップについてレポートします。

※本記事は2024年2月26日時点の情報です。最新の情報についてはご自身でもよくお調べください。
※本記事は投資家への情報提供を目的としており、特定商品・ファンドへの投資を勧誘するものではございません。投資に関する決定は、利用者ご自身のご判断において行われますようお願い致します。

目次

  1. AAMとは?
  2. AAM航空機のタイプ
    2-1.eVTOL(電動垂直離着陸機)
    2-2.eSTOL(電動短時間離着機)
    2-3.eCTOL(電動従来型律着陸機)
    2-4.sUAS(小型無人航空機システム)
  3. 使用エネルギーのタイプ
    3-1.太陽光発電
    3-2.水素
    3-3.ハイブリッド
  4. 大手航空会社・航空メーカーの取り組み
  5. 欧州の革新的スタートアップ3社
    5-1.Elektra Solar(ドイツ)
    5-2.Faradair Aerospace(英国)
    5-3.Odonata(ドイツ)
  6. 投資・市場動向
  7. 実用化に向けた課題
  8. まとめ

1.AAMとは?

日本語に直訳すると「高度航空移動性」という意味をもつAAMは、都市部や過疎地といった従来の交通手段が非効率的或いは困難な場所において、人や貨物の移動を効率化するための新しい航空輸送手段です。

人と環境に優しくコスト効率の高い次世代グリーン航空機と新たなインフラの開発は、SDGs(持続可能な開発目標)達成に向けた世界共通の重要課題の一つであり、交通手段の多様化や都市部渋滞の緩和、騒音の低減、緊急対応(災害・事故など)の効率化、過疎地の活性化などに役立つと期待されています。

2.AAM航空機のタイプ

AAM向け次世代航空機―所謂「空飛ぶクルマ」の多くは自動運転機能や遠隔操作機能を装備しており、サステナビリティ要素を配慮して設計されています。現在、市場に公開されているAAM航空機のデザインは以下の4つのタイプです。

2-1.eVTOL(電動垂直離着陸機)

電力を利用して垂直方向に離着する航空機。滑走路が不要で騒音が少なく、運航中に廃棄物を排出しないといったメリットがあります。

2-2.eSTOL(電動短時間離着機)

短時間運航用に設計された電動型固定翼航空機。30~50mの滑走路が必要ですが、eVTOLより離着陸時に必要なエネルギーが少なく、より多くの貨物を運搬できます。

2-3.eCTOL(電動従来型律着陸機)

短距離移動を目的とする従来の固定翼機の電動型で、一定の距離の滑走路を必要とします。

2-4.sUAS(小型無人航空機システム)

空撮や小型荷物の配達、医療品の輸送などに利用されるドローンや無人飛行機(UAV)です。

3.エネルギーのタイプ

AAM航空機には以下のような、環境負担の軽減を配慮したエネルギー技術が採用されています。

3-1.太陽光発電

太陽光をエネルギー源とする太陽光発電航空機は翼や尾翼などに太陽電池を設置し、電気モーター用のバッテリーを充電する仕組みになっています。無尽蔵でコストのかからないエネルギー源から電気を生成でき、環境に優しい点が大きなメリットです。

近年は太陽光発電航空機の進展に役立つ技術として、OPV(有機薄膜太陽光発電 ※有機半導体を利用した軽量で低コスト、凡用生の高い次世代太陽光発電)などが注目されています。

参照:AZO CleanTech「Recent Advancements in Solar-Powered Aircraft

3-2.水素

水素エンジンや水素燃料電池から電気を得る水素航空機は、軽量で燃料補給時間が短く、地球上に無尽蔵に存在する原料(水素原子)から生成できるゼロエミッション航空機として有望視されています。その一方で、複数の技術的課題も横たわっており、より効率的でクリーンな生成法や貯蔵法の研究が進められています。

3-3.ハイブリッド

ハイブリッド電気航空機は、従来の化石燃料エンジンやエネルギー貯蔵システム(バッテリーや燃料電池など)を使用する電気モーターを組み合わせた航空機技術です。通常、離着陸時には電気モーターから、飛行中は従来のエンジンから動力を得る仕組みになっています。

4.大手航空会社・航空メーカーの取り組み

AAMは航空産業の未来を形成する重要課題であることから、近年は多数の大手航空会社や航空メーカーがCO2排出の削減と次世代航空輸送技術への投資を加速させ、独自の開発やスタートアップとの提携関係を強化しています。

例えば、2010年に航空機の電動化への取り組みを開始したAirbus(エアバス)は、現在ハイブリッド航空機の開発を進める傍ら、2035年までに世界初の水素民間航空機を実用化するという目標を掲げています。

参照:Airbus「Hybrid and electric flight

日本航空やヴァージン・アトランティック航空などは、英eVTOLメーカーVertical Aerospace(ヴァーティカル・エアロスペース)と購入・リース契約を締結しているほか、ユナイテッド航空はスウェーデンの電気航空機スタートアップHeart Aerospace(ハート・エアロスペース)や米水素燃料航空機メーカーZeroAvia(ゼロアヴィア)に投資を行っています。

これらの事例は大手企業の取り組みのごく一部であり、今後より多くのプロジェクトが展開されることが予想されます。

5.欧米の革新的スタートアップ3社

大手企業間でAAM開発・確保競走が繰り広げられる中、スタートアップも存在感を増しています。ここでは、AAM分野に革命をもたらす可能性を秘めたスタートアップ3社を紹介します。

5-1.太陽光発電で飛行するソーラープレーン「Elektra Solar」(ドイツ)

低高度から成層圏まで飛行可能な有人・無人電気航空機及びシステムを開発するElektra Solar(エレクトラ・ソーラー)は、太陽光システムから動力を得ることで航続距離を延長できる3種類の太陽光電気航空機(「Elektra One」「Elektra Solar Two」「Elektra Eagle」)を商品化しています。

同社の太陽光システムはバッテリーと推進ユニットに接続されており、モーターに直接電力を供給し、バッテリーの充電に利用できる仕組みになっています。

同社は2020~2022年に渡り、総額190万ユーロ(約3億997万円)の公的開発支援金を獲得しました。

参照:Elektra Solar HP「Elektra Solar
参照:North Data「Elektra Solar

5-2.バイオ燃料で飛ぶハイブリッド電気航空機「Faradair Aerospace」(英国)

Faradair Aerospace (フェラデア・エアロスペース)はDunlop(ダンロップ)やスウォンジー大学を含む世界トップクラスの企業や組織と提携し、JETA1(※標準的なケロシン系のジェット燃料)と持続可能な航空燃料(SAF)を動力とするハイブリッド電気航空機(BEHA)の開発を手掛けています。

同社の目標は、世界各国の地方空港から運航可能な次世代多用途航空機を開発することです。現在最終設計の反復段階にあるeSTOL BEHAは完全自律型の無人飛行機能を備えており、既存のエアモビリティ・インフラを変更することなく、地域間の人や貨物の輸送を可能にします。

同社は2014年の設立以来、革新的な技術で数々のアワードを受賞した実績を誇ります。

5-3.長距離用ハイブリッド水素eVTOL「Odonata」(ドイツ)

Odonata(オドナタ)が開発中の「Odonata eVTOL」)は、水素燃料電池と水素ガスタービンエンジンを使用したハイブリッドシステム搭載の長距離用水素ハイブリッドeVTOLで、全システムに電力を供給するよう設計されています。空力を重視した9人乗りの機体は、広々としたキャビンと貨物用スペース、航続距離1,000km、巡航速度289km/h、最大800㎏の積搭量を誇ります。

既存のeVTOLが主に都市と空港間の移動用を目的としているのに対し、同eVTOLは1,000km以内の目的地へ直接飛行できる多目的小型航空機(旅客輸送や物流、医療運搬など)です。

同社は欧州最大のインキュベーター・ネットワークである欧州宇宙機関ビジネス・インキュベーター・センター(ESA BIC)バイエルン州から、資金提供を受けています。

参照:Odonata HP「Odonata

6.投資・市場動向

次世代航空機及び持続可能な燃料開発の急加速と共に、各国都市部でAAMをサポートするためのインフラ開発が進められるなど、多方面で公的・民間投資が増加しています。

公的投資の例を挙げると、米国では2022年、AAM及びeVTOL用のバーティポート(※垂直離着航用の飛行場)・インフラ計画・建設に総額2500万ドル(約37億6.236万円)の助成金を提供する法案が可決されました。2023年には欧州交通安全機構(EASA)がEU圏内のエアタクシーとドローンに関する情報交換プラットフォーム「Innovative Air Mobility (IAM)」を立ち上げたほか、英国政府は水素及び電気を動力とする航空技術に1億1,300万ポンド(約215億4,145万円)を投資する計画を発表しました。

参照:Vertical「US House passes bill that provides funding for AAM infrastructure
参照:EU委員会HP「EASA launches the Innovative Air Mobility Hub: A platform for sustainable drone and air mobility in Europe
参照:Future Transport News「UK Government Invests £113 Million in Hydrogen and All-Electric Flight Technologies

カナダ/インドの市場調査企業Precedence Research(プレセデンス・リサーチ)によると、世界のAAM市場は2022年の時点で89億3,000万ドル(約1兆3,430億円)と推定されており、2023~2030年の期間は年平均成長率(CAGR)22.45%のペースで成長し、451億ドル(約6兆7,873億円)を超える見込みです。

参照:Precedence Research「Advanced Aerial Mobility Market – Global Industry Analysis, Size, Share, Growth, Trends, Regional Outlook, and Forecast 2022-2030

7.実用化に向けた課題

AAMの社会実装に向けた動きが加速している一方で、「空港インフラや規制の整備」「安全性の確保」「燃料であるクリーンエネルギーの確保」など、多数の課題が横たわります。また、開発や導入を進める上でさらなる投資の誘致も必須となるでしょう。導入当初は運航数が少なく、利用料金が高くなることも予想されます。

しかし、AAM分野をリードする中国のXpeng(シャオペン)を含む一部のメーカーが、今後数年以内の量産開始を計画しているなど、空飛ぶクルマが上空を飛び交う光景が急速に現実味を増していることは間違いありません。実用化が進むと共に開発・導入における様々な課題が解決され、新たな社会的・経済的価値が創出される可能性が考えられるでしょう。

8.まとめ

「未来の交通手段」として期待が高まっているAAMは、私たちの生活の利便性向上に貢献するだけではなく、サステナビリティという観点でも重要な役割を担っています。今後、さらに投資が活発化することが予想されていることから、引き続き注目していきたい領域です。

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アレン琴子

英メディアや国際コンサル企業などの翻訳業務を経て、マネーライターに転身。英国を基盤に、複数の金融メディアにて執筆活動中。国際経済・金融、FinTech、オルタナティブ投資、ビジネス、行動経済学、ESG/サステナビリティなど、多様な分野において情報のアンテナを張っている。