ReFi(再生可能金融)は、持続可能な未来を実現するために設計された金融システムで、経済活動と環境保護を両立させることを目的としています。その仕組みにはブロックチェーンが活用されており、企業や人々の環境への意識の高まりに伴いReFiエコシステムも急激に成長してきています。
さまざまなReFiプロジェクトが立ち上がる中、今回は環境に配慮した行動で報酬を付与するアプリを提供するEAAS GLOBALのグレゴリー・クジェシュコフスキ氏にインタビューを実施させていただきました。人を中心とした同社の思想や理念は、ReFiという概念を見つめ直すよい機会となるものでした。ぜひご覧になってみてください。
※本記事は、2024年7月10日取材時点の状況でお送りしています。
話し手: Eaasglobal PLC グレゴリー・クジェシュコフスキ(Gregory Krzeszowski) 氏
インタビュー概要
EAAS GLOBALについて
プロジェクトの設立背景についてお聞かせください。
EAAS GLOBALは2021年に設立された人々中心のデータ会社です。人間中心というのは、ユーザーがただ単にどこかの企業の利益のためにデータを提供してほしいということではありません。私たちは、ユーザーがデータを使って自然と共存する、ということを望んでいます。私たちは確かにビジネスとして利益を生み出すことも求めていますが、完全に資本主義というわけではなく、お金はより高い目的を実現するための道具だと、そのように考えています。
環境と持続可能性に関して言えば、人々は通常、例えば炭素クレジット市場やAIなど、革新的なツールのような「技術的」なものに重きを置くかもしれません。
私の意見では、 そう、経済学とテクノロジーは確かに重要です。しかし、私は人間的な側面がさらに大切だと思っています。結局、社会の進歩というのは、みんなが夢や願望を実現するために集まった結果ということでしょう。機械はより良い未来を実現する助けにはなりますが、それを実際に描けるのは私たち生身の人間だけです。つまり、私たちはただ座っているだけで、テクノロジーが世界を救うと信じてはいけないということです。世界を救うとはどういうことか、それを定義するのは私たち自身だと信じています。
言い換えれば、テクノロジーはかなり心強い助っ人にはなり得ますが、私たちはそれを主人にしてはならないということです。幸せでより良い人生を送るためには、必ずしも最新で最高のデジタルツールが必要なわけではないはずです。私たちが信じることを実行する自由を持つことが大切なのです。
御社の目標と計画は何ですか?
今現在、これまで以上に多くの人々が、気候変動と闘うために立ち上がるべきであると考えているのは確かです。私たちの大きな目標とは、そのためのデジタル・ソリューションを提供することです。
私たちは8月末までに東京に日本事務所を設ける予定です。日本人スタッフを2名担当につけ、日本の都市や企業とのパートナーシップも発表する予定です。
日本人はどちらかというと変化を嫌う傾向があると思いますが、幸せについては深く考えている人たちです。私たちは、環境にやさしいライフスタイルを目指すための、より良い、やりがいのある方法を提案したいと考えています。私たちは、2024年末までに日本のアプリユーザー10万人を目指しています。また、中国と韓国への進出も計画しています。
提供するサービスについて
サービスの特徴、想定するターゲット、利用されるシーンについて教えてください。
私たちのサービスは、企業と個人の両方をターゲットとしています。企業は、従業員が回避している二酸化炭素排出量を把握することができます。この情報は、サステナビリティ報告書作成にかなり役立つものです。世界中のより多くの企業がグリーン・イニシアチブを取る(取っていることを証明する)ことを求められるようになり、その重要性はますます高まっています。また、個人は、自分がどれだけ環境保護に貢献しているかという具体的なデータを得ることができます。
また、企業も個人も金銭的な面での報酬を得ることができます。例えば、企業はこの報酬を炭素税の支払いに充てることができます。この報酬を寄付したり、ウォレットに保管したりと、誰もが好きなように使うことができます。
人々は、自転車通勤や日中のスマートフォン充電など、環境に配慮した行動を追跡することで、私たちのアプリにデータを作成します。そうすることで、トークン化された報酬がもらえます。
さらに私たちは、ユーザーが作成したデータを実際にコントロールすることはありません。その代わり、量子行動予測モデルを使って、ユーザーが持つべきデータを予測し、プライバシーを保護するゼロ知識証明によって、ユーザーが実際にデータを持っていることを検証します。ブロックチェーン上に保存された検証データは、炭素クレジットを請求するために使用されます。このプロセスは、私たちのモデルにとって最初の大きなユースケースです。私たちはこの炭素クレジットをカーボンフットプリントを削減したい組織に販売し、ユーザーが報酬として受け取ったトークンを私たちが買い戻すことでユーザーと利益を共有するという仕組みです。
この行動予測の重要な面は、ユーザーがどのような行動をとれば自分自身と環境に一番の利益をもたらすかを理解するためにデータを使用することです。そして、その行動をとるようにユーザーをナビゲートします。もちろんこのアプローチは完全に推奨ベースです。すべては自発的であるべきであり、自らやりたいからやるべきだ、というふうに信じています。
貴社と他社との違いについて教えて下さい
私たちはデータの匿名性と分散化を重視しています。ブロックチェーンを使用していますが、エネルギーや炭素クレジットそのものをトークン化しているわけではありません。その代わりに、私たちは何百万人もの人々がより環境に優しい生活を送ることを奨励することで、二酸化炭素排出量を削減しようとしています。
私たちは、人々のデータを使用するというより、人々のためにデータを使用していると考えています。今日の機械学習モデルの多くは、良いことも悪いことも含めて、人々の様々な行動データを収集しています。私たちは、人々のためにできること、またすべきことを、効果的に奨励するためにデータを利用しているということです。
再生ファイナンス(ReFi)の概念を一般的に広めるためには何が必要だと思いますか?
ReFiについては、ナビゲートするのが難しいかもしれません。環境・社会・ガバナンス(ESG)政策に対する国のアプローチはそれぞれ異なります。EU理事会など、多くのハイレベルな政策目標が設定されていますが、その実行方法は事実上無限にあります。
ReFiを推進する最善の方法は、人々が本当に望んでいることに取り組むことだと思います。最終的に、みんなが欲しいのはお金だけではないはずです。誰でも自由な時間と良い生活を求めています。お金はそのようなものを手に入れるのに役立ちはしますが、一番肝心なのは行動の変化です。私たちは、長期的な行動変容をもたらす意味のある理由をどう与えるかを考える必要があります。確かに、お金を払えば短期的には行動を変えられるかもしれません。しかし、お金を払うのをやめれば、みんなおそらく以前のやり方に戻ってしまうでしょう。
今日、ESG的なイニシアチブの多くは、お金とビジネスに焦点を当てていると思います。本当に成功するカギとは、人々に焦点を当てることだと私は思います。
環境および社会的影響について
プロジェクトの環境的・社会的インパクトは何ですか?
私たちはまず、人々が環境についてどのように考えるか、そして環境をより良くするために簡単にできることを変えていくことで、社会に影響を与えると思います。それによる環境への良い影響は当然の結果でしょう。
人々は生活の質を向上させたいと願っていますが、通常はライフスタイルをそんなに急激に変えようとはしません。私たちは、そのような変化をできるだけ簡単に起こせるようにしたいのです。人間中心のアプローチは、技術中心や研究開発型のアプローチよりももっと効果的です。
パートナーシップについて
現在のパートナーや協力企業・団体について教えてください。
日本のパートナーとは7つのプロジェクトを計画しています。でもこれらはまだはっきり始動していませんので、詳しいことは申し上げられません。概要としては、環境行動調査に関するデータの交換、B2Bカーボンクレジットの販売、ESGデータの報告などを目的としています。
これらのパートナーシップがプロジェクトにどのような影響を与えますか?
私たちにとって、こうしたパートナーシップのキーポイントは、気候変動との闘いに対する私たちのアプローチについて、人々を教育し、情報を提供する迅速な方法を与えてくれることです。
こうしたアプローチは、クリアで分かりやすいものであるべきです。明確なインセンティブ、明確な情報は何より大切です。私たちは、ライフスタイルを変えるための情報と理由をみなさんにお伝えし、自ら快く変えてもらうことを信じています。誰もが望まないライフスタイルを強制されたくはないはずです。このパートナーシップで重要なのは、環境変化とは人間の問題であり、テクノロジーで解決するべきものではないということです。
個人的には、どのような技術的解決策であれ、環境を解決する「特効薬」として売り出されるのは好きではありません。たとえば電気自動車。誰もが電気自動車について話していますが、(私には)電気自動車が普通の車よりも環境に良いとは思えません。バッテリーのリサイクルは難しいし、生産には大量のCO2排出が伴います。このようなことを知ることができれば、最終的にどうするかは自分で判断することができます。
HEDGE GUIDE読者へ一言
日本人の環境意識の高さをとてもうれしく感じます。これは、法的処罰の回避や企業の評判の向上など、二酸化炭素排出量のデータがますます重要になっている今のグローバル経済において、日本人の最大の競争力のひとつかもしれません。
CO2排出の環境コストが生産コスト全体に織り込まれていれば、日本のメーカーは中国やインド、あるいはその他の高公害国のメーカーと競争する上で、かなり有利な立場に立つことができるでしょう。
環境規制に対するヨーロッパと日本のアプローチはかなり似ています。今炭素クレジットの品質が重視されています。一番厳格とされている欧州の基準に従って、私たちは日本市場に競争に打ち勝つための新しいツールを提供するつもりです!
編集後記
ReFiはその成り立ちから、どのようにして新しいお金の流れを作るか、またはテクノロジーをどのようにサステナビリティと融合させるかという側面で語られることが多いと思いますが、今回のインタビューは「テクノロジーが世界を救うわけではない」「みんなが欲しいのはお金だけではない」という内容で非常に印象的なものとなりました。金銭的な報酬だけでは人は変えらない、自発的に環境にやさしいライフスタイルを目指す必要があるというのは、Web3に深く関わる人間として大切な気づきをいただけたと感じています。
本取材はReFiやWeb3、ブロックチェーンといったテクノロジーに関する話は少なく、これらの領域に明るくない方でも比較的読みやすい内容になっていると思います。気候変動対策という世界規模の課題に対するひとつの解答として参考になる内容であったと思いますので、ぜひ読者のみなさんにもそうした目線でご覧いただければ幸いです。
HEDGE GUIDE 編集部 Web3・ブロックチェーンチーム
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